歴史を永い目でみると、国も企業も拡大と停滞、興隆と退廃を繰り返している。企業の戦略やポリシーの面からみると、「本業(製品)回帰」と「脱本業」とが循環的動きを見せるのであろうか。 周知のとおり、日本企業にも米国企業にも「多角化」の時代があった。しかし、多角化の収益率の低さとストックオプションをはじめとする業績直結型のトップの報酬制度が相俟って、米国企業を中心に「選択と集中」経営が台頭したのである。米国企業のトップにとって、収益性の高い事業に絞り込むことによって報酬が一層高まるわけだから、集中(フォーカス)は必然の流れであった。 手元にマサチューセッツ大学のフランコ教授の有名な「多角化は死んだか?」という論文がある。この論文によると、日米欧の企業を比較すると、米国企業が最も多角化離れをしており集中が進んでいるのである。次いで、欧州企業の集中が進展しており、日本企業の「選択と集中」は欧米に比べて遅れていると指摘されている(注1)。 ROIや利益率を見ると、確かに選択と集中で先行している米国企業と日欧との差は顕著である。この意味で米国企業に関して、フォーカス戦略が勝利し「多角化は死んだ」といえるかもしれない。しかしながら、注意すべきは米国企業は事業領域を絞りつつ、地理的な多角化、つまりグローバル化を図っている点である。いくら事業を絞り収益性や生産性を高めても、早晩マーケットの限界が訪れるであろう。それゆえ、集中すれば海外にマーケットを広げざるをえないのである(注2)。 ところで、日本企業のグローバル化の現状を見るとどうだろうか。例えば、海外売上高1,000億円以上の企業の海外売上高比率のトップ10は次の通りである(注3)。 1位 商船三井 90.46% 2位 船井電機 89.76% 3位 ヤマハ発動機 88.44% 4位 シマノ 84.70% 5位 川崎汽船 82.83% 6位 日本郵船 82.54% 7位 アルパイン 81.17% 8位 三菱自動車 80.55% 9位 ホンダ 80.36% 10位 マキタ 79.78% 以下、主な企業は、12位キヤノン(75.50%)、18位日産(73.85%)、23位ソニー(70.66%)、30位トヨタ(67.95%)、40位コマツ(63.68%)などである。 さて、上記の企業の顔ぶれを見て、皆さんの会社は本業回帰、フォーカス戦略によってグローバル市場に展開し、中長期的な成長力を維持できるかどうかを自問自答すべきである。 多くの成熟したドメスティック企業にとって、グローバル化を進めるには様々な障壁が存在する。ここは海外市場での市場機会に注力するか、それとも脱本業回帰で成長機会を模索するのかを慎重に検討すべきである。 巷ではプロダクト・カンパニー(製品企業)の時代は終わったと見る向きもある。廉価品で勝負する中国企業などの台頭で商品のコモディティ化、価格の下落が進み、モノづくりではなかなか利益が出なくなっているからだ。スローン経営大学院(MIT)のクスマノ教授によると、トヨタとマイクロソフトはこのような製品限界説とは無縁だという。両社は最強の製品企業で、他社が真似できるものではないと指摘する。多くのメーカーにとって現実的な戦略は、本業回帰という製品事業への回帰ではなく、自社製品をプラットフォームとした金融やメンテナンスなどサービス事業への展開である、と同教授はいう。そういえば、筆者の某生保カードがトヨタファイナンスに買収された。先を見据えてトヨタでさえ金融事業を強化しているのである(注4)。 上述した超本業回帰か、集中と海外市場強化か。自社にとって両者のリスクとリターンを検討し、未来に向けてどちらに舵を取るかを一日でも早く決断すべきである。 注1: Franko教授の定義によると、多角化企業とは本業以外で20%以上の売上を計上している企業をいう。一方、本業の売上が95%以上を集中企業という。同教授は主要業種に関して世界での売上高上位12位以上の企業を上記の基準で分類し、1980年、1990年、2000年の10年単位での経年変化を調べた。詳しくは、下記の論文を参照。 Lawrence G. Franko, "The death of diversification? The focusing of the world's industrial firms, 1080-2000," Business Horizons 47/4, July-August 2004: pp.41-50. 注2: 80年代後半以降の米国の活発な市場開放の働きかけは、こうした文脈で考えるとよく理解できる。米国企業の集中戦略を成功させるには、グローバル化が不可欠であった。 注3: 日経ビジネス(2005年12月26日号)特集、「超国家カンパニー」による。 注4: Annabelle Gawer and Michael A. Cusumano, Platform Leadership: How Intel, Microsoft, and Cisco Drive Industry Innovation, Harvard Business School Press, 2002. (邦訳『ソフトウエア企業の競争戦略』、ダイヤモンド社) |
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