5月に新会社法が施行され、2008年春には日本版SOX法が適用される予定だ。このため、最近内部統制の議論が活発である。しかしながら、筆者には制度や形のハードの議論に終始していて、肝心のソフトの問題が看過されているように思える(注)。 もとより筆者は「形から入る」、「制度をつくる」ことには大賛成である。形から入るには、「形」を見せなければいけないのである。制度や文書化、フォーマット化などの形がなければ、効率的に内部統制を行うことは出来ないことは自明である。しかしながら、内部統制の形ができても、それはスタート地点に立っただけで、それで終わりではない。 例えば、先月の提言でも触れた通り、企業がいくら法令遵守を唱えて行動規範やマニュアルなどのハードを作ったとしても、必ずしも違法行為が無くなるわけではない。重要なのは、各企業に浸み込んだ倫理観、企業文化なのである。経営トップから社員まで、不正行為、法律違反行為をしないという価値観の共有化と相俟って法令遵守のハードが機能するといえる。 ところで、日本版SOX(ソックス)法、通称「企業改革法」は米国のSOX法とは思想が異なる点に注意したい。米SOX法はエンロン等の不祥事を踏まえて、経営トップの不正行為を防止する目的で制定された。そのため経営トップを信用して任せるというよりも、外部を含めた詳細な監査を求めたものだ。日本の場合は、経営トップによる内部統制の実践を前提にして、トップが重点的な内部統制を機能させればよい。 一部で内部統制には膨大な費用がかかるとみる向きがあるが、上述した点を理解すればそれは誤解であることが分かる(もっとも米国版SOXに対応しようとすれば、K社のように文書化だけで10億円以上のコストはかかる)。日米のSOX法は別物であることを認識して、日本企業にあった内部統制システムの構築が求められる。 そして、企業文化や哲学などのソフトが中長期的な業績や収益を左右することは分かっているのだから、ハードとともにソフトに注力すべきである。それには経営トップが、CSR(企業の社会的責任)という上位概念のもとに、コーポレート・ガバナンスと内部統制を最優先する価値観を定着させ、企業風土として醸成させることが肝要である。 内部統制のハードの確立は1〜2年で完成するかもしれないが、ソフトの定着には5年あるいは10年のスパンが必要である。経営トップのリーダーシップに基づく、持続的なマネジメントに期待したい。 注: 組織構造、システム、戦略などを「ハード」、企業文化、組織の哲学・価値観、行動様式などを「ソフト」という。例えば、下記を参照。 V・オブライエン著、奥村昭博監訳『MBAの経営』(日本経済新聞社)p. 28. |
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