今月の提言


12月の提言:『続・M&Aの時代を考える』



先月の提言は『M&Aの時代を考える』であったが、ビジネスパースンの 関心が高いせいか予想以上の多くの方々からメールをいただいた。 大方は「M&Aは大上段の話ではなく、もっと日常的だ」というものだ。 そこで、今月は続編として違う視点からM&Aを考えてみたい。

先ず、M&Aのデータをみると2000年以降M&Aは急増し年間1500件 を突破し、2004年は2000件を超えている。すでに今年は11月 末までに2449件に達し、データを取り始めた1985年以降、最高 の件数を記録している(レコフのデータによる)。

ところで、最近のM&Aは次の7つのパターンに大別できる。

  1. 事業拡大のための戦略的M&A
  2. MBOによるM&A
  3. 投資会社によるM&A
  4. 事業承継に関連したM&A
  5. 分社化した子会社、事業部門等のM&A
  6. 物販、飲食、ホテルなどのチェーンのM&A
  7. 自治体など官がらみの事業のM&A
M&Aの主流は、既存事業の市場シェア拡大や新規事業参入など事業拡大を 狙ったものだ。最近ではゲームソフト業界で最大手のスクウェア・エニッ クスによるタイトーの買収、NTTドコモがクレジット業界参入を狙った 三井住友カードへの出資などがある。

MBO (Management Buy Out)は経営者や会社幹部等が個人で自社の事業部門 を買収することをいう。一般に、子会社の幹部が親会社から株式を買収し たり、社内の事業部門長などが会社からその事業部門を買収する手法で ある。

日本のMBOは今年に入って急増し、今年の4-9月の件数は35件と前年同期に 比べ倍増、2004年度の年間43件に迫る勢いだ。ワールド、ポッカコーポ レーション(アドバンテッジパートナーズと協同)、学研クレジットなど の上場企業が非公開化するためにMBOを実施するケースが目立つ。建前は、 経営の意思決定を円滑化し、経営のスピードを上げるのが狙いだが、村上 ファンドなど外部からの経営への干渉を避けたいというのが本音だろう。

投資会社によるM&Aも昨年から急増している。昨年は前年比約2倍の約300 件に達し、今年も10月末時点で昨年実績を上回った。派手な動きを見せる 国内の村上ファンドをはじめ、海外の投資会社の動きも活発だ。

事業承継に関しては、後継者がいない場合他社に売却するというケースだ。 昨年の秋、駅中スーパーの成城石井が60数億円で焼肉チェーンの牛角 を展開する企業に買収されたケースが代表例である。身近なケースとして 数億から10億レベルの事業承継案件が数多くある。

次に、5〜7は業績が悪化した企業や子会社・部門などの買収に絡んだ ものだ。一時分社化や多角化が進行したが、本業回帰、「選択と集中」の 流れの中で、上場・未上場を問わず不採算部門・子会社の売却、統合が 進んだ。

その他、スーパーや専門店、外食、ホテル・旅館などチェーン展開する 企業が、不振チェーンの買収で更に規模を拡大している。また、一頃 三セクとか自治体の保養施設などの事業が盛んだったが、ほとんどが 赤字で、売却したり運営を民間に移管するケースが相次いでいる。

このように2005年のM&Aは活況を呈した。最近の特徴は、以前の 不採算事業の処理といった後ろ向きのM&Aよりも、積極的な事業拡大を 狙ったものが多くなっている点にある。

企業防衛策の最善の策は、現経営陣が日々企業価値を高める手を打つ ことだ。そしてその結果現経営陣が、余人をもって変えがたいと社会 から評価されることが重要である。そのためには内部留保や市場から 調達可能な資金を、将来に向けて戦略的に投資することが肝要である。

筆者はコーポレート・ガバナンスの本質は、取締役会が「経営者・ 執行役員が企業価値を高める責務を果たしているかどうかを監視」 する点にあると考えている。こうした観点からみると、筆者にはM&A市場 の活況と変質は、それが一連の内外の投資ファンド等の動きに遠因があ るとしても、ボードのガバナンスが機能し、経営トップが真に企業価値 を高める経営へと舵を切ったと評価したい。

日本企業を取り巻くM&A環境は大きく変化していることは間違いなく、 先月の提言で述べた理論武装とともに実行が求められている。



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