今月の提言


11月の提言:『M&Aの時代を考える』



今、M&Aの話題が盛んである。楽天やライブドアなどの派手な動きが目につくことも背景にある。だが、M&A(合併&買収)が人口に膾炙したおかげで、かつてのようにM&Aを単に「会社乗っ取り」と考える経営トップは少なくなっている。そこで、そもそも実業の世界で企業がM&Aを行う意味は何か。今月はこの点を基本を踏まえて整理してみたい。

米国の標準的な教科書を見ると、企業戦略、つまり全社戦略は次の4つからなる(注1)。

  1. 戦略的提携
  2. 多角化
  3. M&A
  4. グローバル展開
上記から会社全体を考える企業戦略が、最適な事業ポートフォリオ、つまり事業領域の構築並びに展開に関わっていることが分かる。ここで、M&Aは多角化と並列的に示されているが、多角化を有効に進めるための手段でもある。なお、M&Aは次の5つのパターンに分けることが出来る(注2)。

  1. 垂直的M&A
  2. 水平的MA&
  3. 製品拡大型M&A
  4. 市場拡大型M&A
  5. コングロマリット型M&A
つまり、MA&にはバリューチェーンを強化するための川上・川下型(垂直型)、競合企業のM&A(水平型)、製品・サービスミックスの拡充や海外を含む地理的展開のためのM&A、そして現業と関わりのないコングロマリット型がある。

このように整理すると、楽天やライブドアのM&Aも販路を拡大するための垂直的M&Aであったり、現業と関連した製品・サービスの品揃えを強化するためのM&Aがほとんどであることが分かる。なお、両社ともテレビという電波媒体に食指を伸ばしているのは、テレビのコンテンツを自社のチャネルに活用しようとする垂直的M&Aの動きとみることができる。

ところで、米国のM&Aの歴史をみると、70年代は現業と関係のない分野でのコングロマリット型M&Aが盛んであった。80年代に入ると資本市場が整備され、成長する異分野への進出で内部資金を稼ぐ必要ななくなり、コングロマリット型M&Aは減少した。また本業と関連のない事業は90年代初頭までに多くは整理された。90年代以降は、戦略的なM&Aが大勢を占めている。

また、米国において最近では敵対的M&Aが著しく減少してる点も留意すべきだ。2004年のM&A件数をみても約23,000件のうち100件(0.4%)に満たないのが現状である。詳しい説明は他の機会に譲るが、コングロマリット型M&Aも敵対的M&Aもペイしないのである(注3)。

M&Aは企業の最適な事業ポートフォリオを構築するための戦略として有効である。製品・サービスや事業にライフサイクルがある以上、企業が永続的な発展を目指そうとすれば、関連分野などへの多角化は不可避である。多角化の経済学的根拠としては、範囲の経済や未利用資源の活用などがある。だが、筆者は実務的には、M&Aによる多角化はむしろ外部の経営資源を買うことによる新分野参入の時間短縮効果の方が大きいと思う。

M&Aが日本でも普通の経営手法として定着することは、企業の戦略オプションを広げるという意味で好ましいことである。しかしながら、通常米国でM&A戦略を実行している企業は、ゲーム理論、オークション、ビッディング・ストラテジー、契約理論、エージェンシー理論などのM&Aの基本となる理論に通暁している。米国企業のM&Aが日本企業のそれに比べてロジカルにみえるのは、このせいである。

筆者は国内の成熟市場下で、あるいは海外への進出にあたって、日本企業が一層M&Aを活用することは必至だと思う。その際留意すべきは、理論武装してロジカルなM&A戦略を実行すべきだという点である。現在の経験や勘頼りの情緒的なM&Aから、多くの日本企業が戦略的でロジカルなM&Aを実行できるようになってはじめて、真に日本にM&A時代が到来するといえよう。M&Aの時代はもう目の前に迫っているである。


(注1)
ジェイ. B. バーニー(岡田正大訳)『企業戦略論(下)』(ダイヤモンド社)

(注2)
買収者はフィナンシャル・バイヤーとストラテジック・バイヤーに大別される。前者は買収対象企業の解散価値を狙って買収を行い、後者は経営指導効果や事業のシナジー効果等によってもたらされる投資価値の拡大を目指してM&Aを行う。ここでは、ストラテジック・バイヤーのみを想定して述べている。

(注3)
在日米国商工会議所の報道資料(こちら)に基づく。



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