日本の911は自民党の大勝利に終わった。これは小泉首相の選挙
戦略の勝利というよりも、小泉氏のトップとしての資質によるところ
が大きい。 先ず、小泉首相が2001年4月に自民党総裁に選ばれた際の状況を 整理してみよう。当時は「失われた10年」の突破口が見い出せない 状況下で、財政再建、金融経済の構造改革が急務であった。つまり、 日本を変えなければいけない状況の中で、「自民党をぶっこわす」 「郵政民営化」といった改革を訴えた小泉氏が、自民党員とその背後 にいる国民の支持を得たのである。 こうした環境下で日本の政治のリーダーとなった小泉氏のトップとし ての優れた点を列挙すると、次の5点に要約されよう。
この中で筆者が特に重要だと思うのは1と2である。混迷の時代に 信念をもって方向を示し、断固として実行する熱意がなければ、 改革は前進しないからだ。そして、トップにはビジョンを、例え 「ワンフレーズ」と揶揄されようとも、分かりやすく人々に伝える 能力が求められる。 松下幸之助氏は晩年こそ言語不明瞭であったと聞くが、その主張は 極めて明解であった。例えば、「水道哲学」や「会社は社会の公器」 という言葉は極めて分かりやすい。特に後者は、企業の社会的責任 (CSR)の本質を突いた言葉で、筆者には30年前の言葉だとは思え ない。また、ソニーの盛田氏と出井氏を比べてみると、盛田氏の分 かりやすさがよく理解できる。トップにビジョンがあっても、分か りやすく伝える能力がなければ決して人には理解されず、まして 実行されることはないのである。 ところで、ビジョンという言葉には注意が必要だ。かつて日本では、 荒唐無稽な目標や大言壮語が「ビジョン」としてまかり通った時代が あった。それゆえ、今でもビジョンを毛嫌いするトップも少なからず 存在する。だが、ここでいうビジョンは従来のものではない。 欧米や日本企業の多くはミッション(使命)を掲げてマネジメント を行っている。通常ミッションは企業の目標や存在理由、目標達成 手段の骨格等が明示されており、戦略体系の基本である。従って、 戦略をもつ企業であれば概ねミッションを定めている。こうしたミッ ションが行動レベルにつながるまで社内に浸透して、はじめてビジョ ンといえるのである。従って、「信念と情熱をもってビジョンを示し、 実行する」とは、マネジメントの言葉に言い換えると、「行動に結び つくミッション」を示すということになる(注)。 日本経済は成熟化し、かつグローバルな競争環境の中で、勝ち組と 負け組みの差が顕著になりつつある。今後の勝ち組として生き残る ことが出来るかどうかは、従来の発想あるいは段階的改良発想を超 えて、大きな変革に向けて舵取りが出来るかどうかにかかっている。 今こそ、日本企業には小泉型リーダーシップをもつトップが必要で はないか。100年とはいわず、10年の大計を持ってこのような 経営トップを選任できる企業こそ、明日の企業価値の向上を真剣に 考えており、優れたコーポレート・ガバナンスの仕組みをもつとい える。後継者を選ぶ現在のトップあるいは指名委員会(委員会等設 置会社)の責任が、今ほど重い時期はないことを肝に銘じてほしい。 (注) こうしたビジョンを実現している企業を、「ビジョナリ・カンパニー」という。 |
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