今月の提言


8月の提言:『会社とは何か、新戦略とは何かを学ぶ』



昨年を除き「8月の提言」は夏季休暇に向けた推薦図書の紹介が恒例であった。 今年は恒例に従い、筆者のお薦めの書籍を紹介したい。今年は、企業とは何か、 どうあるべきかを考え、マネジメントの基本を再確認する上でヒントとなる書物 を選択した。更に、今世界で注目の新戦略を解説した書物を加えた。具体的には 次の4冊である。

  • 松下幸之助『企業の社会的責任とは何か?』(PHP、1974年初版、復刻版05年5月)
  • 岩井克人『会社はこれからどうなるのか』(平凡社、03年2月)
  • 岩井克人『会社はだれのものか』(平凡社、05年6月)
  • W・チャン・キム+レネ・モボルニョ(有賀裕子訳)『ブルー・オーシャン戦略』(ランダムハウス講談社、05年6月)
いまや人口に膾炙している「企業は社会の公器」という松下幸之助翁の言葉は、 最初の本の中で「基本として考えなくてはならない」こととして述べられている。 70年代の第1次CSR(企業の社会的責任)ブームの真っ只中で、筆者には幸之助翁 が付け焼刃的な議論に警鐘を鳴らしたものと思われる。

同書の中で、翁は企業の社会的責任の根本は「事業というか本業を通じて社会に 貢献」することで、他の社会的責任は「すべてこの基本の責任から派生」すると 喝破している。そして、経営者は「自分の企業が正しく社会的責任を果たしているかどうかは、 すべて経営者である自分一人の責任」であることを自覚すべきだと述べている。 無論「企業に働くすべての人が、それぞれの立場に応じて、企業の社会的責任を分担」 すべきだと指摘することを忘れない。巷に溢れるCSR関連書を読むよりも、この本一冊 を熟読した方が値千金である。

岩井克人東大教授は優れた理論経済学者だったが、最近これからの企業や会社のあり方を 問う書物を出版している。教授は米国のエンロン事件などの一連の不祥事が起きる以前から 「株主主権は論理的誤謬の産物であり、米国型の株主主権重視は破綻する」と予言していた。 『会社はこれからどうなるのか』はこうした考え方を背景にした21世紀の会社論である。 続編の『会社はだれのものか』は、株主重視かステークホルダー重視かの論争に一石を投じるものだ。 結論からいえば、同氏は「会社は社会のもの」だという。

筆者にとって『会社はだれのものか』第二部の対談「次世代産業は日本がリードする」も興味深い。 「失われた10年」とデフレ経済が続いたせいか、トップも消費者も守りにまわった感がある。近未来の ユビキタス社会において、日本企業が通信技術や通信インフラを活用して飛躍する可能性を分かりやすく 解説しているので、元気を出すには最適である。

最後の『ブルー・オーシャン戦略』は、フランスのビジネススクールINSEAD のW・チャン・キム教授らが15年にわたる研究成果をまとめたものだ。調査 対象は、過去120年間の30を超える業界に及ぶものである。ブルー・オーシャン戦略 とは、競争の激しい血みどろの戦いが続く既存市場(レッド・オーシャン)から離れて、未開拓の新たな市場 「ブルー・オーシャン」を創造することを意味する。つまり、「超競争の戦略」が ブルー・オーシャン戦略というわけだ。

著者達は優れたブルー・オーシャン戦略には次の3つの特徴があるという。

  1. メリハリがある
  2. 高い独自性がある
  3. 訴求力のあるキャッチフレーズ
最初の二つは一見するとポーター教授の集中(フォーカス)、差別化に似たイメージ がある。だが、ブルー・オーシャンの場合「業界の常識を破る」ことが前提である点 が大きく異なる。同書ではブルー・オーシャン戦略を構築するための方法論を詳しく 述べている。現状を打破し、ビジネスを革新したいと願う経営トップや幹部の方々には 必読の書物といえる。

21世紀の最初の10年も半分が終わろうとしている。市場環境もリーディング産業も 大きく変化する中で、会社とは何かを問い直し社会の中での自社のポジションを 再確認すべきである。また、事業を革新し、社会に対して新たな価値を創造する ことも企業の重要な使命だ。21世紀型企業への変身を望む企業の方々は、是非推薦 図書を熟読していただきたい。




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