今月の提言


5月の提言:『エグゼクティブ・プログラム参加のすすめ』



世界は政治、経済ともに新たな局面に入った。いずれも今後の21世紀の行方に大きな影響を及ぼすことになりそうだ。政治の話はともかく、経済に関していえば従来の経済発展プロセスに変化がみられることである。

これまで先進諸国は、労働集約的な産業から資本集約的な産業へ徐々にシフトし、付加価値の低い産業は後進諸国に譲り、更に付加価値の高い分野に移行するプロセスを描いてきた。故赤松要教授の名とともに有名な雁行形態理論で、産業の推移を描いたグラフが雁の飛行する姿に似ていることに由来する。ところが、中国の台頭とIT革命によって、一頃雁行形態的発展論の崩壊説が叫ばれた。

経済産業研究所上席研究員の関志雄氏によると、実際は中国の対米IT製品の輸出動向をみると、低付加価値分野で日本よりも競争力があるのみで、高付加価値製品群ではまだ日本や他のASEAN諸国よりも劣っているという。この意味でまだ雁行形態理論は生きているのである(注1)。

しかしながら、筆者には最近様相が変わってきたようにみえる。昨年(04年)12月8日の午前(米国時間12月7日夜)、米国IBMは全パソコン事業を中国パソコン最大手のLenovo(レノボ・グループ、聯想集団)に売却すると発表して世界を驚かせた。売却金額は12億5000万USドル(約1300億円)であった。レノボはこの買収により、世界8位からデル、ヒューレット・パッカードに次いで3位のパソコンメーカーに躍進する。このように2004年に入り、中国企業のM&Aを含む「走出去」(中国企業の海外進出)が目立っている点は、ジェトロ北京センター長の江原氏も指摘している(注2)。

このペースで行くと中国企業は本当に雁行形態的発展を超えるかもしれない。だが、こうした動きはすでに数年前から活発であった。もう二、三年前になるが、東大の本郷キャンパスにある山上会館で行われた会議後のパーティで、東大の工学博士号を持つ中国人と歓談する機会があった。その人は10億から30億円程度でブランド力のある企業があれば、モノづくりの力は中国にあるのですぐにでも買いたいというのだ。筆者はその程度の金額ではブランド力のあるメーカーは買えない、と答えてその場は受け流した。実はこうした動きが、2ケタほどスケールを拡大して更に進展しているのである。

今、世界で競争するには、単に現場改善型のマネジメントでは戦えない。M&Aや提携を含めて競争の枠組みを変えたり、グローバル市場や潜在的成長市場へ重点投資するなど、戦略的視点がなければ超雁行形態的発展パターンの様相を示す世界経済の中で生き残りは難しい。

こうした観点からみると、日本企業に欠けているのはトップの適正なリーダーシップと戦略眼である。筆者は中国企業の多くはトップダウン型のマネジメントを実行し(韓国、台湾などの他のアジア諸国の企業もトップダウン型だが)、加えてハーバードなどのビジネス・スクールでMBAコースやエグゼクティブ・プログラムで学ぶ中国人(韓国人や他のアジア人も増加、日本人のみが減少?)が増えている点を危惧している。まだ危うい資本主義化ではあるが、中国人経営者が更にマネジメントの知識を習得し「勝てる戦略」の立案能力を進化させた場合、日本企業は太刀打ちできるかどうかを懸念するのである(注3)。

筆者は10年ほど前から、企業のトップや経営企画担当役員の方々に、役員候補や取締役を海外のビジネススクールのエグゼクティブ・プログラムに参加させるように勧めている。そして、当社のホームページ上で情報を提供してきた(「リンク集」の該当箇所を参照)。すでに提言を受けて役員候補や執行役員などをプログラムに派遣している企業もあるが、まだ「知は力なり」という認識が不足しているように思う。今後の戦略的ゲームを戦うために、この機会に是非エグゼクティブ・プログラムなどへの派遣を検討し、実行してほしい。


(注1)
関志雄「中国の台頭とIT革命で雁行形態が崩れたか」(RIETI経済産業研究所のHP内「中国経済新論」より)

http://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/020502newkeizai.htm

(注2) 江原規由「加速化する中国企業の海外展開」(21世紀中国総研のHP内「北京NOW(B)」より)

http://www.21ccs.jp/china_watching/BeijingNowB_EBARA/Beijing_nowB_05.html

(注3)
ハーバードビジネス・スクール(HBS)は上海に拠点を設置し、ファーラムを開催するなど中国市場攻略を積極化し始めた。最近中国人のHBS入学者が増加し延べ200人を超えた。特に、過去5年間でMBA修了者は99人、年間平均20人であった。ちなみに、日本人は年間10名前後で約半分である。




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