今月の提言


4月の提言:『あなたはどのタイプのリーダーになりたいか?』



4月は人事異動の時期である。経営トップも4月か株主総会の時期に就任することが多い。そこで、今月は経営トップのリーダーシップについて述べてみたい。

企業の盛衰はトップ次第だといわれる。何百年も続く老舗も、戦後間もなく創業してグローバル企業に変身した企業群も、また最近のIT企業も卓越したトップがいなければ、今日の地位を築くことはできなかったであろう。

もちろん経営トップだけでは会社を経営することはできない。参謀や右腕といわれる人々をはじめ、現場を支える従業員の日々の努力なくして業務を遂行できないことはいうまでもない。しかしながら、「企業はトップで決まる」という現実があるのだ。だからこそ、企業統治を確立して、一層企業価値を高めることができる経営陣を選択可能な仕組みを構築することが重要なのである。

日本企業の場合、これまで外圧によってトップのすげ替えが行われたのは銀行管理となった企業が大半だ。この意味で、これまで銀行が日本企業のコーポレート・ガバナンスに果した役割が大きいとする説にも一理ある。これ以外は、大抵はたとえ業績が悪化しても順送りの内部昇格人事が行われ、傷口を広げたケースも多いのである。

では経営トップとしてのリーダーシップとは具体的に何を意味するのか。最近の研究によると、卓越したリーダーは次の8つの属性を備えているという(注1)。

  • 強固な企業文化を構築する
  • 真実を述べる
  • 手付かずの市場をドメインにする
  • 見えざるものを見る
  • 競争優位のために巧みな価格付けを行う
  • ブランドを構築し、上手に管理する
  • 素早く学習する
  • リスクを管理する
確かに、上記の属性はリーダーとして重要だ。個々に説明するまでもないと思うが、一点だけ注意が必要である。それは企業文化とブランディングとの関係である。企業の価値観、哲学と企業文化は表裏一体であり、これが「企業らしさ」を生むという点である。そして、この「らしさ」がブランディングの決め手となるのである(注2)。

ところで、すべての経営者が強力なリーダーシップを発揮しているわけではない。松下幸之助、本田宗一郎、井深大などの創業型リーダー、最近の稲盛和夫氏、ゴーン氏などは比類なきリーダーシップを発揮して企業を拡大ないしは再生してきた。だが、全ての経営者がこうした方々と同様なリーダーシップをもって事業を展開できるわけではない。ドラッカー氏も指摘している通り、各人各様のリーダーシップがありうるのである。

この意味で、卓越したリーダーとして上記の8つの属性を全てクリアする必要はない。「真実を述べる」説明責任、「見えざるものを見る」洞察力、「素早く学習する」学習能力、そしてリスク管理能力などのファンダメンタルズは、リーダーとして不可欠な要因だが、他は優先順位をつければよい。つまり、次の3つのタイプのどれを選択するかである。

  1. 企業文化・ブランド構築型リーダー
  2. 市場創造型リーダー
  3. 価格破壊型リーダー
さて、読者が経営トップであれば(あるいはトップになるとすれば)、どのタイプのリーダーになりたいかを自問自答すべきである。そして、人は自分の意思で自分が望む人間に変身できる唯一の生き物であることを想起してほしい。この意味で、全ての人に優れたリーダーへと変身できる道は開かれている。だが、実際に変身できるかどうかは、目的に向けて自分の行動を変容できるかどうかにかかっているのである。一人でも多くの卓越したリーダーの誕生を期待したい。



(注1)
Mukul Pandaya and Robbie Shell, Lasting Leadership: What you can learn from the top 25 business people of our times (Wharton School Publishing, 2005).

(注2)
拙著『ブランディング・カンパニー』を参照。



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