今月の提言


3月の提言:『三角合併解禁にどう備えるか』



ライブドアとニッポン放送の一件で、世間で外国人株主の増加や敵対的買収に関する関心が高まってきた。当事者の方々には申し訳ないが、筆者は来年にも実施が予定される新会社法による三角合併の解禁に向けた格好の思考訓練だと考えている。今後の日本企業のガバナンスのあり方が問われているからだ。

三角合併とはM&Aを実施する場合、親会社の株式を買収資金として使う手法で、欧米の大型買収はこのやり方が多い。このため新会社法の施行に伴い、海外企業による日本企業の買収の動きがさらに増加するとみる向きが多い(注1)。

外国人持ち株比率が高い会社 ところで、日本企業の株主の推移をみると、ここ数年外国人の株式保有比率の増加が目に付く。95年には10%だったが、03年には約22%に達した。業種別にみると、保険業と医薬品の外国人持株比率は3割を超え、証券、電気機器、輸送機器、精密機器などが4分の1以上となっている(データに興味がある方はこちらを参照)。

外国人持株比率が高い会社のトップ10は右の表の通りである。キヤノンやローム、HOYAなどのメーカーとともにヤマダ電機やドン・キホーテなどの小売業も外国人に人気が高い。日本企業の時価総額は米国企業などに比べると低く相対的に割安感があることから、ここ数年で外国人の保有比率が高まった。商法の規定を額面どおりに受け取れば、「会社は外国人のもの」になりつつあるというのが現実なのだ(注2)。

さて、こうした現状を踏まえて、今回のライブドアとニッポン放送の買収劇をどうみるか。日本企業が買収に対してあまりにもナイーブで、かつ取締役会があまり機能していないと思われた方は多いだろう。このような状況では、キャピタルゲイン課税が繰延になるなどの条件が整った場合、外国企業の買収攻勢に耐えられるのか。

こうした観点から、日本の上場企業及び上場を検討している企業は、今後次の3点を再検討すべきだと思う。

  1. 企業統治の理念を基本から再検討する
  2. 社外取締役を含め取締役会の機能を適正にする
  3. ブランド価値を高める
先ず、企業統治の理念については、2003年4月の提言『コーポレート・ガバナンス再考』(こちら)をもう一度ご覧いただきたい。会社の目的、使命は何か、会社は誰のものかといった基本を再考し、自社の文化にあった企業統治の理念を再構築すべきである。

次に、企業経営は株主総会で選出される取締役によって監督される。つまり、企業統治を実践するのが取締役会である以上、当たり前のことだが取締役会の役割は極めて重要である。日本の場合、よくいわれるように欧米企業に比べて社長の権限は強大である。それゆえ、変革ができるかどうかは社長次第ということにもなる。業績が上がらなくても、何も変革しなくても、社長が任命した取締役は、社長を辞めさせることはできない。この点が日本企業の弱点でもあり、トップが卓越している場合は強みにもなる。問題はトップが時代を先取りする経営ができなくなった時、あるいは企業価値を高めることができなくなった時、その企業に社長を退任させる仕組みがあるかどうかである。また、会社の業績、株主をはじめステークホルダーの利益を優先して、トップに行動を促すことのできる社内外の取締役がいるかどうかである。取締役会の機能の「適正化」とはこうした意味をもつ。

最後に、企業ブランド、ブランド価値に関する議論も一頃に比べると熱が冷めたように見受ける。しかしながら、真にブランド価値が問われるのはこれからである。前述したように、日本企業の株式の時価総額は欧米企業に比べて低い。例えば、PBR(純資産株価倍率)を比較すると、その差は歴然としている。無形資産が創出する価値、つまりブランド価値を高めて時価総額を上げなければ、トヨタ、松下、ソニーなどの日本を代表する企業といえども買収される恐れがある。

日本も本格的なM&A時代が始まろうとしている。先ずは、企業統治のあり方を再検討するとともに、ブランド価値を高める経営を推進すべきである(3月11日付け追記:ライブドアのニッポン放送買収に端を発して、来年から解禁される予定だった株式交換によるいわゆる三角合併が一年繰り延べになりそうだ。一年の準備期間が本提言の実行に大いに寄与すること期待します)。



(注1)
三角合併は次のステップで行われる。外国企業が日本子会社を設立し、親会社の株式を子会社に計上する。更に、子会社が買収先の日本企業の株主と、親会社である外国会社の株式を交換。買収後に日本子会社が日本企業を吸収する。

現状では買収の対価が株式で支払われる場合、親会社の株式を受領した時点でキャピタルゲインに課税される。このため同時に課税繰り延べ制度を認めなければ、新会社法で三角合併が解禁されても実効性に乏しいだろう。従って、三角合併はキャピタルゲイン課税の繰延と同時に法改正されるべきだ。

(注2)
表はYomiuri-On-Line・マネー教室「大手町博士のゼミナール」『存在感増す外国人投資家』(04年4月27日付け)より引用した(下記URLを参照)。

http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/dr/20040427md01.htm


(先月の提言はこちらへ!これまでの提言はこちらをご覧ください)



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