今月の提言


12月の提言:『遠近法経営で未来をマネジメントする!』



かれこれ四半世紀以上、企業のトップあるいは経営幹部の関心事を身近にみてきたが、これには循環的な傾向があると思う。戦略 の重点が循環的な動きを示しているということでもある。こうした動きは主に次の二つに大別される。

第一に、時代や環境に応じた動きである。平たくいうと、「内向き」か「外向き」か、あるいは「守り」か「攻め」かなどといった動き だ。「失われた10年」は実に「内向き」「守り」の時代であった。

第二に、海外で話題の経営手法や他企業で成功している手法を導入する動きだ。経営トップや幹部の関心が流行に左右されるされるの も、「横並び」意識の強かった時代の副産物であった。

手元に経営トップに対して現在と将来(3年後)の経営課題を尋ねたアンケート結果がある(注)。この結果を見ると、下表の通り トップの関心事の循環的な動きが分かる。


現在(04年)と将来(07年頃)の経営課題(複数回答)
順位
現在の経営課題(n=1098)
将来の経営課題(n=1098)
1位
財務体質(収益性)向上(33.2%)
新事業・新商品・新サービスの開発(35.2%)
2位
新事業・新商品・新サービスの開発(28.0%)
企業の社会的責任(コンプライアンス等を含む)(25.2%)
3位
既存事業の強化・改善(27.0%)
財務体質(収益性)向上(22.3%)
4位
CS(顧客満足)経営(24.7%)
CS(顧客満足)経営(20.5%)
5位
ローコスト経営(23.6%)
事業化戦略・差別化戦略立案(19.1%)
6位
売上高(あるいはシェア)向上(23.1%)
売上高(あるいはシェア)向上(16.6%)
7位
事業化戦略・差別化戦略立案(14.8%))
能力開発(リーダー発掘・育成など)(16.2%)
8位
現場の見直し(品質など)(12.8%)
グローバル化(13.3%)
9位
企業文化・風土の刷新、強化(12.7%)
コーポレート・ガバナンス(12.7%)
10位
企業の社会的責任(コンプライアンス等を含む)(11.3%)
既存事業の強化・改善(12.5%)

上記の表を要約すると、次の3点となる。

  1. 「新事業・新製品・新サービスの開発」が将来の経営課題のトップ。
  2. 「既存事業の強化・改革」や「ローコスト経営」が後退し、「財務体質強化」もやや関心が薄れる。
  3. 「企業の社会的責任(CSR)」「能力開発」「コーポレートガバナンス」が急浮上。

この結果から、日本企業が攻めの経営に転じようとしていることが読み取れる。新分野への進出をはじめ、企業ブランドの維持・向上に 不可欠なリスクマネジメントの一環としてのCSRや企業統治、リーダー育成などの能力開発が今後注力される。

このように経営課題やトップの関心事には循環的な動きがある。だが、筆者は環境に関わらず一貫した方針を貫くべきだと思う。つまり、筆者 の言葉で言うと遠近法経営、現在と将来を同時に見据えたマネジメントが不可欠なのである。無論、将来を考えない経営トップは存在しないだろう。しかし、 考えてはいるが、現在の課題に忙殺されすぎている点は否めない。

京セラは、このような遠近法経営を実践している企業の代表例だ。同社は有名な稲盛イズム12ヵ条(こちら)を ベースに、企業(経営)理念を求心力として「選択と拡大」を続けている。京セラの例は、コスト削減、利益率向上、規模の拡大、多角化などが同時並行 して実現可能であることを物語っている。

それから、今、既存事業の深耕と新規事業開発あるいは画期的な新製品開発を両立させるThe Ambidextrous Organization(両手使い型組織)が米国のビジネススクールで話題になっている。 この組織も現在と将来のビジネスを同時に成功させるという意味で、遠近法経営の一種である。日本にもこのタイプの企業は存在する。ビジョンや理念を共有化することで、既存事業と同じ組織に属しながら異なる事業目的 と行動パターンをもつ新規事業を巧みにマネジメントしているのである。

遠近法経営を実践するには、理念とトップの意志及び現場の力が両立していることが肝要だ。理念とトップの強力な戦略的意図が将来に向けたマネジメントを実現し、市場や環境の変化に戦略眼をもって対応できる現場の力が現在の課題を解決するからである。未来のために、自社に合った遠近法経営の実践法について考えてほしい。


(注)
日本能率協会が毎年実施している「当面する企業経営課題に関する調査」。調査対象は全国の上場企業(3,608社)および非上場企業(従 業員300人以上、1,807社)の経営者。調査は2004何7月中旬から8月末まで調査票郵送法で行われ、有効回答数は1098であった。



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