カネボウやダイエーが産業再生機構の支援のもとで再生を図ることになったが、時代の流れを感じるのは筆者だけではないだろう。特に、筆者はこの二社をみると、企業文化の重みとそれを変革することの難しさを痛感する。 もちろん企業文化は大事である。明文化されておらず、トップや社員の心の中にある企業文化が、実は企業の行動に大きく影響を及ぼしているケースが多いからである。カネボウの場合は、「家族主義的運命共同体」と「温情主義」といった文化が変化の芽を摘む一因になったといわれている。ダイエーはトップの指示でしか動けない「指示待ち」文化、トップの言う通りにしか動かない「いいなり」文化が、現場が考え行動する創発的動きを阻害してきた。もっとも後者の場合は、そうしなければ首が飛ぶし、かつて一世を風靡した流通王国も似たような傾向にあった。 しかしながら、カネボウもダイエーも、上述した企業文化ゆえにわが世の春を謳歌した時代があった。カネボウの企業文化は、中興の祖といわれた武藤山治氏に由来する。同氏の温情主義経営は、当時女工の労働環境の改善に熱心な会社として、日本的経営の嚆矢ともいわれた。家族主義的な経営がその時代の旺盛な需要と相俟って、安定的な成長軌道に乗ったのである。 一方、ダイエーは中内功氏の「安売り哲学」が流通革命を促し、量販店(総合スーパー)を日本に定着させた。ダイエーは大量出店によって、高度成長期を経た70年代以降の消費行動を変えた。そして、こうした積極的な店舗展開には、トップの果断な意思決定が不可欠であった。 企業文化は、創業者やトップの哲学に根ざしているだけに変えることは難しい。だが、ここは老舗企業の知恵ともいうべき「不易流行」から学ぶべきである。つまり、「不易」とは永久に変わらぬ不変の原則をいい、「流行」とは時代に応じて変化する可変の原則をいう。時代に合わなくなった哲学や文化は変えていくべきなのである。 そこで、自社に企業文化を変える力が備わっているかどうかは、次の点をチェックするとよい。
次に、自らを客観的に診断することは難しい。そうなると、外部の人にチェックしてもらうことになるが、問題は「聞く耳」を持つかどうかである。単に「聞き置く」だけでなく、実行しなければ「聞く耳」を持つとはいい難い。 最後に、リーダー(経営トップ)とマネジャー(ミドル)とは本質的に異なる。リーダーとはビジョンをもち、今後の企業の進むべき道を方向づけ、人心の統一、動機づけを行う人をいう。直感的だが真の問題点を突き詰めようとする人でもある。他方、マネジャーは、問題解決能力に優れ、計画づくりや予算管理に能力を発揮する。問題は、こうしたマネジャー能力が優れた人が、リーダーとしての能力を発揮できるかどうかである。日本に「経営のプロ」がいないとよくいわれるが、筆者はこれはマネジャーが必ずしもリーダーになりえない証左だと思う。企業文化を変えて、企業を変革するには真のリーダーが求められるのである。コーポレート・ガバナンスが機能していれば、必要であればそのようなリーダーがトップの座に着くはずである。 読者の会社の企業文化は、「不易流行」の観点からみて変える必要があるかどうかを自問してほしい。もしその必要があれば、上記の点をチェックして変革に着手することをお薦めしたい。 【ご案内】5月末に拙著『ブランディング・カンパニー』が上梓されました。詳しくはこちらをご覧下さい! |
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