☆ 最近のイスラエル社会について ☆

作成日: 2008年04月18日  

 わたくし樋口範子は、寡作ながらイスラエルの児童文学をヘブライ語から直接翻訳する仕事をはじめて、早13年になります。ヘブライ大学の心理学フィールドノートの邦訳「キブツ・その素顔」にさかのぼれば、すでに16年間この仕事の末席にしがみついていることになります。

 出口なきパレスチナ紛争で、影になって見えないところのイスラエルの日常や、人々のこころのうちを、文学という切り口で伝えていきたい、というのが自分の一貫した姿勢です。イスラエルと出会ってからの40年間, かの地は自分にとって、かけがえのない故郷、くらしの原点にちがいありません。

 今まで、あえて政治的な立場を曖昧にしてきましたが、イスラエルの入植地拡大や右派の横暴、イスラエル国防軍の目にあまる占領、弾圧、攻撃に対し、はっきりと反対を表明することにしました。

 現在のイスラエル社会は、周辺諸国との紛争と同時に、国内の社会問題も山積みで、日本と同様、人心が荒廃しているのもたしかです。残念ながら、口では民族に差別はないとか、対話を重視すると言っておきながら、じっさいは選民意識をあおり、異質なものを平気で抑圧、排除する傾向が増えました。

その中で、占領に反対し、異なる民族や宗教がどのように共存すればいいか真剣に考え、無視、排除される者たちに手をさしのべ、行動するユダヤ人がいるのも事実です。教育や医療のちいさな現場や作家のダニエラ・カルミさん、面識はありませんが、ジャーナリストのアミラ・ハスさんの真摯な仕事ぶりに、たいへん励まされます。彼らはけっして大多数ではありませんが、間違っているものにはノウと言い、弾圧や抵抗にも屈せず、地道な活動にとりくんできました。

遠い極東の国にあって、そういう勇気ある人々のいるかぎり、わたしもこの仕事をつづけていきたい。イスラエルの良識ある作品を掘り起こし、できるかぎり出版なりネット上での発表ができるよう、一層の努力をしていくつもりです。    

                      2008年4月2日   樋口範子