さ迷い歩き 「生物界の深淵」 (3)
= 第3巻 分子生物学 =
                               
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 「大学生物学の教科書」は、いよいよ第3巻”分子生物学”に入ります。最初の”第12章”は、細胞における情報の伝達(シグナルの受容から細胞の変化(応答))です。

    目  次

第12章: 細胞の情報伝達
  
                2018年3月06日、3月11日
第13章: 組換えDNA技術とバイオテクノロジー   
 2018年3月26日
第14章: 分子生物学、ゲノムプロジェクト、医学   
2018年4月15日、4月23日、4月27日
第15章: 免疫:遺伝子と生体防御システム       2018年5月13日、5月20日、6月04日
第16章: 発生における特異的遺伝子発現       2018年6月25日、7月02日
第17章: 発生と進化による変化              2018年7月17日


第12章: 細胞の情報伝達      2018年3月6日、3月11日                                     

 第10章、第11章で、分子遺伝の仕組みと遺伝子発現を学びましたが、本章では、細胞に対する情報シグナルとそのシグナルの受容と伝達経路および細胞の変化(応答)が述べられます。

 細胞に影響を及ぼすシグナルには、他の細胞によるもの、外界からくるもの、また光のような物理的環境因子などがあります。細胞がそのようなシグナルに応答するためには、細胞はそれに応答できる受容体タンパク質が必要となります。そして、その応答は細胞機能に何らかの影響を及ぼすことになります(応答ができないときは、なんらかの障害が発生する可能性がでてきます)。シグナル分子が受容体に結合し、細胞質にメッセージが伝播され、そして」細胞の最終的応答が出現する過程を”シグナル伝達経路”と言い、シグナルと応答細胞ごとにとても複雑で巧妙なな手順をとります。ここでそれを述べることはとても不可能です。

 シグナル伝達経路の全体説明が難しいと言っておきながら、ここの機能を述べるのはいかがかと思うのですが、キーワードとして認識していもらうしかありません。先ずは”シグナル受容体”です。化学シグナルに結合する受容体タンパク質は、非常に高い特異性を持っています。この結合特異性のために、ある特異的な受容体を備えている細胞のみが、その化学シグナルに応答することになります。受容体は、イオンチャネル受容体、プロテインキナーゼ受容体、Gタンパク質共益受容体および細胞質受容体の4つにブンルイサレ、それぞれ化学シグナルに対して複雑巧妙な結合、反応をします。

 次に、化学シグナルを受け取った受容体は、そのシグナルをトランスデューサー(伝達因子)を介して、細胞応答機能に伝えます。このシグナル伝達は厳密に制御されているのだそうです。もちろん、ここでその仕組みを述べることはできませんが、伝達因子としてカルシウムイオンCa2+の話があり、ちょっと気をひかれました。というのは、私の母親が体調を崩し、病院に運ばれたとき、医者がカリウムイオンK+やカルシウムイオンCa2+の濃度が異常であったと私に説明してくれたことを思い出したからです。説明を受けたときは、なぜ病気と金属イオンが関係しているのかわからず、ああそうですかと聞き流すしかなかったのですが、今考えると生体内では金属イオンが重要な働きをしていて、生体系に何らかの狂いが生じていたということが納得できました。ただし、医者はイオン濃度がなぜ異常な値になったのかは不明であると言っていました・・・。

 シグナル伝達によって最終的に細胞が応答するわけですが、その変化は、イオンチャネルの開口、酵素活性の変化および遺伝子転写の変化の3種類があるそうです。例として幹細胞にアドレナリンが作用するケースが挙げられていました。アドレナリンが幹細胞に作用すると、結果としてグルコース(ブドウ糖)をグリコーゲンに返還して肝臓に貯蔵することが抑制され、過去に肝臓に貯蔵されたグリコーゲンをグルコース(ブドウ糖)として放出する細胞応答があるとのことです。この結果、遊離したブドウ糖が血中に放出され、いろいろな体の反応のエネルギーになるのだそうです。これで一つ分かりました。私の血糖値が高い理由の一つは、血液中に放出されたブドウ糖をエネルギー源として利用する能力が少ないということです。勉強になりました。

 これじゃあますます難しくなってきて、よくわからなくなってきましたね!!


***第12章:細胞の情報伝達(続き)***
 今回の大学生物学教科書の説明は、第12章の序文を紹介します。それは、脳を覚醒するコーヒーの話です。(一部省略しています)。

 活気をみなぎらせるコーヒーの作用は、1000年ほど昔、現在のエチオピアあたりで最初に注目されたという伝説がある。カルジという羊飼いが、植物の実(ベリー:コーヒー豆)を羊が食べると、はしゃぎ始めることに気がついた。好奇心がわき上がり、カルジは自分自身でその実を食べて、大いにその効果を楽しんだ。この発見の噂は瞬く間に広がっていった。そばの修道院の僧は、好みが夜を徹しての祈りの際に眠りこけるのを防いでくれることを見いだした。修道僧たちは輸送と貯蔵のために身を乾燥させるように工夫していった。そして、乾燥した実を砕き、その粉を煮出すとすばらしい飲み物が得られた。やがてコーヒーショップが誕生することになった。

 北米では平均的に少なくとも90%の人々が毎日何らかの形でカフェインを摂取している。紅茶は一杯あたり90mg程度、コーラは50mg、コーヒーは180mg、ブラックの板チョコは1枚あたり20mgのカフェイン摂取となる。カフェインは大衆薬にも含まれる代表的な薬効成分であり、他の多くの薬物と同じようにシグナル分子である。カフェインの作用を理解するためには、環境からの情報(シグナル)に細胞が応答する経路をまず理解する必要がある。

 シグナル分子に対する細胞の応答には3つの段階が存在する。(1)シグナル分子が細胞受容体に結合する。多くの受容体は細胞膜の外側に存在する。(2)受容体にシグナル分子が結合すると、そ情報は増幅されながら細胞内へ伝達されていく。(3)シグナルに応じて細胞はその活動を変化させる。

 カフェインの作用は組織によって異なる。疲労した脳はアデノシンを産生し、それが特異的な受容体タンパク質に結合すると、脳の活動が低下し、眠気をもよおす。カフェインの分子構造はアデノシンと類似しており、競合性酵素阻害薬と同じようにアデノシン受容体に結合してアデノシンの作用を抑える(拮抗する)。その結果アデノシンの抑制効果が軽減され、脳の細胞機能が活性化されて眠気を覚ます。また、アデノシンは脳の供給血管を弛緩(血管内径の拡大)して頭痛をもたらす。そのため、その作用を阻害するカフェインは頭痛薬の多くに含まれている。

 心臓や肝臓の細胞では、カフェインは「闘争・逃走」ホルモンであるアドレナリン系シグナル伝達経路を間接的に活性化する。脈拍は増加し、筋肉収縮は増強され、肝臓はグリコーゲンを分解してブドウ糖(グルコース)として血中に放出する。このように下界の1種類の分子がどうして多彩な生物学的作用を発揮しうるのだろうか?

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第13章: 組換えDNA技術とバイオテクノロジー        2018年3月26日

 巨大なDNA(デオキシリボ核酸)分子を解析するために、DNA分子を切断したり修復する操作技術が必須でした。DNAを断片に切断するには”制限酵素”という酵素が使われます。この酵素は細菌(原核生物)に備わっており、ウィルスが細菌細胞に入り込んできたとき、入ってきた2本鎖DNAを切断して、その感染性を失わせるのだそうです。機能的には、ヒトの免疫機能のようなものなのでしょうか。この制限酵素はむやみにDNAを切断するのではなく、ある特定の4〜6塩基の配列部位を認識して、特異的に切断するのだそうです。制限酵素は多くの種類があるそうです。驚きですね。大腸菌などの細菌がどうやってこのような仕組みを獲得したのでしょうか???

 制限酵素で切断された”制限断片”は、”ゲル電気泳動法”によって断片の長さごとに分類されます。続いて、そのDNA断片に存在するだろうと思われる塩基配列に相補的な1本鎖DNAプローブ(探査用DNA配列)を用いて、目的のDNA塩基配列を探し出します。この技術が、警察の犯人特定などに使われる”DNAフィンガープリンティング(指紋)”に応用されています。まいったなーです。一昔前までは想像のつかなかった技術ですね。具体的な例として、1918年のロシア革命で倒されたロマノフ王朝のニコライ二世の家族の埋葬遺体から、遺体を同定することができたことを記しています。また、アメリカで珍重され、非常に高価なシロチョウザメキャビア缶詰をDNA分析で調査したところ、シロチョウザメキャビアのラベルが貼られた缶詰の25%は偽物だったことがわかったそうです。

 生物学者にとってDNAテクノロジーの劇的な応用のひとつが、生物の種の網羅的同定だそうです。このプロジェクトは、”チトクロームオキシダーゼ”という遺伝子を比較して、あらゆる生物の種を特定し、”DNAバーコード”でカタログ化するとのことで、現実に進んでいるとのことです。

 生物学者にとって、DNAテクノロジーの醍醐味は、DNA断片を組み合わせて、自然界に存在しないような新しい遺伝子を作り出すことができる”組換えDNA技術”だといいます。すなわち、制限酵素で切断されたDNA断片を、制限酵素とは異なった種類の酵素”DNAリガーゼ”を用いて連結することができることがわかったのだそうです。1973年、アメリカのスタンレー・コーエンとハーバート・ボイヤーが2つの異なった大腸菌プラスミドを切断し、その断片を連結して、別のプラスミドを作るのに成功しました。これが、”組換えDNA時代”の夜明けとなりました。すなわち、制限酵素とDNAリガーゼという2つの酵素ツール(道具)によって、どの生物由来のDNAであっても切断し再連結して、ヒトの手でDNA(組換え遺伝子)を作製することが可能になったということです。

 しかし、組換えDNAは生きた細胞に導入されなければ、生物学的機能を発揮することができません。遺伝子操作(組換えDNAを宿主細胞内に導入)によって変化した宿主(細胞)のことをトランスジェニック(遺伝子導入)生物というそうです。組換えDNAテクノロジーは原核細菌(大腸菌)を宿主として始まり、輝かしい成功のスタートを切りました。しかし、細菌では、真核細胞の遺伝子転写や翻訳過程に大きな違いがあります(詳細はここでは説明できません)。研究のターゲットは、マウス、小麦、公募、そしてヒト(細胞)へと進展していきました。宿主にどれを選ぼうとも、DNA(遺伝子)を宿主の細胞に運び込む”運搬体(ベクター)”の開発がいつ様です。この遺伝子導入の仕組みはとても巧妙で、ヒトが生物をこんなにも物理的に捜査しても問題ないのかと疑問を生じさせるほどです。しかし、生物と言えども、生体分子による精緻な生化学反応の組み合わせでしかないようにも思えてしまいます。

 ところで、組換えDNAは、実際はどのようにして得るのか?それは、染色体DNAを適当な制限酵素でばらばらにし、それを”遺伝子ライブラリ”に整理保管し、必要に応じて取り出して使えるようになっているのだそうです。まあ、我々ヒトの23対の染色体全体もライブラリに保管されているということです。すごい図書館がありますね。したがって、研究対象のタンパク質のアミノ酸配列がわかっていれば、各アミノ酸の遺伝子コード(暗号)に基づいて、そのタンパク質をコードしているDNAの塩基配列を予想して人工的にDNAを合成することができるのだそうです。また、特異的な変異(塩基の変化)をもったDNA(遺伝子)を作製することができるので、その遺伝子変異の結果を観察し、病気の原因研究や薬の開発に役立てることもできるのだそうです。すばらしい???

 そのほかのDNA組換え技術として、”ノックアウト技術”、”ジーンサイレンシング”、”DNAチップ”などが挙げられ説明されていますが、ここでは省略します。

 最後に、バイオテクノロジーです。バイオテクノロジーとは、生体を利用して食物、薬物、生物材料など、我々が必要とするものを生産することです。バイオテクノロジーが化学として発展したきっかけは、100年ほど前に、ルイ・パスツールの研究によって、特別な種類の細菌、公募、その他の微生物がある種の産物を得るために「生物変換器」として利用できることが明らかになったことだそうです。アレキサンダー・フレミングがカビが抗生物質ペニシリンを産生することを発見し、抗生物質やその他の有用な化合物を生産するための微生物の興行的大規模培養へと発展したそうです。しかし、ホルモンや酵素などタンパク質の生産は、自然の生態からの抽出では非常に限定的であり、産生量は低く、純化するには困難で、費用が掛かります。しかし、”遺伝子クローニング”の登場によって革命がおこったのです。大腸菌や公募にさまざまな遺伝子を導入することが可能になり、その遺伝子を効率よく機能させて目的の産物を大量に産生させること、そして細胞から効率よく精製することも可能になり、微生物は必要な物質を生産する正に工場、多品目に対応できる設備になったと言えるそうです。

 この「遺伝子世代」バイオテクノロジーの成功の鍵は、遺伝子を効率よく細胞内に導入し、そして効率よく細胞に目的の物質を産生させることができる”ベクター”の開発にかかっているとのことです。この詳細な仕組みは巧妙かつ複雑で、ここでは記すことができません。バイオテクノロジーによって多くの医薬品も作られました。その例が掲げられています。
   コロニー刺激因子・・がんやエイズ(白血球の増加)、         エリスロポエチン・・透析やがん(貧血の改善)
   第[因子・・血友病A(欠損している血液病個因子の増加)、     成長ホルモン・・小人症(身長増加)
   インスリン・・糖尿病(血糖降下)、                     血小板由来増殖因子・・外傷(治療促進)
   組織プラスミノーゲンアクチベータ(tPA)・・心筋梗塞や脳梗塞(血栓溶解)
   ワクチン(抗原タンパク質)・・B型肝炎、ヘルペス、インフルエンザ、ライム病、髄膜炎、百日咳など(感染症の予防と治療)

 また、組換えDNAテクノロジーは、農業においても革命をもたらしたといえます。その例が掲げられています。
   作物の気候への帝王・・干ばつや塩害への耐性遺伝子、       栄養要素の工場・・高リシン種子
   収穫後の品質向上・・果実の熟成遅延、より糖度の高い野菜
   バイオリアクターとしての植物・・植物を利用したプラスチック、油、薬物の生産
   作物の病虫害のコントロール・・女装薬耐性、ウイルス、細菌、カビ、害虫への耐性

 最後に、一般の人々にも関心のある”バイオテクノロジーに関する大衆の不安と関心”について述べていますので、少し長くなりますが、全文を掲げます。

 「遺伝子改変作物の安全性と知識について大衆の不安と関心が増してきている。その不安は以下の3つにまとめられる。
   ・遺伝子操作は自然に対する不自然な干渉である。 ・遺伝子改変作物の摂取は危険である。 ・遺伝子改変作物は環境に危険である。
 バイオテクノロジー支持者も第1番目の危惧はおおかた認めている。しかし、本来、作物というものは農場という”操作”された環境で栽培され人為的に交配された植物であるということからすれば、すべての作物は不自然ということが指摘される。組換えDNA技術はこれらの従来の技術を少し洗練したに過ぎないのである。」

 「バイオテクノロジー支持者は、遺伝子改変作物の安全性については、単一の遺伝子を、しかも、植物にしか関係なく動物では機能しない遺伝子を導入したので、ヒトが摂食しても問題ないと主張する。例えば、トランスジェニック作物が産生するバチルス・チューリンゲンシス(昆虫病原細菌)の毒性タンパク質はヒトにはまったく作用しないはずであると言う。しかし、植物バイオテクノロジーが収穫向上のために遺伝子を単に加える段階から、ヒトの栄養摂取に影響を及ぼすようなさまざまな遺伝子操作を行う段階に至り、このような不安は日増しに強くなっている。」

 「環境への影響に関する3番目の危惧はトランスジーンが作物から別の種に”遺漏”する危険に関するものである。除草剤耐性遺伝子が作物から傍の雑草に意図せずして渡された場合は、その雑草も除草剤に耐性になってしまう。あるいは、バチルス・チューリンゲンシスの毒性タンパク質を発現する作物を益虫が食べて死滅することがあるかもしれない。遺伝子改変作物が市販を許可されるまでには十分な検証が現場で行われるが、生態系は著しく複雑なために、トランスジェニック生物がもたらし得るあらゆる環境への影響を予測することは不可能である。農業バイオテクノロジーには当然ながら有益性が認められるために、細心の注意を払いながら慎重に進めていくことが合理的かつ科学的判断で有ろう。」

 以上が、標準的?な生物学者のバイオテクノロジーについての一般的見解のようですね。でも我々は科学を単純に信じてはいけないと思います。原子力発電の安全性神話を忘れてはいけません。純粋で中立なな科学などはありません。背後には必ず”資本”が動いています。”資本”.の増大を求める人間は、何をするかわからないのです。一般の人が科学を判断する知識は持ち合わせていません。したがって、科学の名を借りて一般の人々をだますのは容易なことです。そして、何かが起こっても、だれも責任を取ろうとはしません。我々は東電の”原子力爆発”の件でよく思い知らされたはずですが、そろそろ記憶が遠ざかりつつあるようです。

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第14章: 分子生物学、ゲノムプロジェクト、医学        2018年4月15日、4月23日、4月27日
                                       

 大学生物学教科書は、第14章に入ります。遺伝子異常、異常タンパク質による疾患や癌に関する分子生物学的医学の話で、我々にとっても大変関心のある話です。

 今回は14章の本論に入る前に、序文を紹介します。皆さんも多分知らないと思いますが、カナダケベック州の開拓者のゲノムの話です。

 1535年、フランス人探検家ジャック・カルティエがカナダのセント・ローレンス川を遡り、先住民のイコロイ族のスタダコナ町(現ケベック・シティ)に到着した。それから70年後に、サミュエル・ド・シャンプランは28人の農夫とともに、先住民のアルゴンキン族が「川が狭まるところ」という意味でケベックと呼んでいた地に到着した。

 それから150年のあいだに、1万5000人の人々が初期開拓者に合流していった。その半分は厳しい生活に耐えられずに帰国し、さらに何千もの人々はより肥沃な南部や西部の農地を求めて離れていった。結局、2600人ほどが残り、子供が生まれ、現在のカナダのケベック州という輝かしいフランス系カナダ社会の源になった。文化的および宗教的伝統が強く残り、フランス系カナダ人は自分たちの社会内で結婚する傾向が保たれた。今日でも600万人におよぶケベック系住民の約3分の2は先の2600人の初期開拓者まで祖先を遡ることができる。例えば、1657年に結婚したピエール・トランブレー、アン・トランブレー夫妻には12人の子供が誕生したが、その子孫28万人がケベック州に住んでいる。

 フランス系カナダ人は遺伝学の金鉱山と言える。巨大な集団のほとんどが限定的な祖先に由来することがはっきりしているため、創始者(一番初めのカップル)の父親と母親に存在していた遺伝子座は、創始者が多数存在する集団よりも、はるかに多く共有されている。さらに、ケベックには社会医療保険が確立しており、医療情報が集約化されているため、個人の医療情報を容易に得ることができる。

 母方および父方の祖父母ともフランス系である何千人ものフランス系カナダ人のゲノム・マッピングが行われた。このゲノム”金鉱探査”ではSNP(一塩基多型)の探索も行われた。創始者(祖先)から遺伝した可能性のある患者とSNP(一塩基多型)との関連づけが試みられた。そのような疾患には特定のSNPが高頻度で見られるだろう。遺伝子型と表現型(SNPと疾患)の連鎖は、その遺伝子が疾患の原因かあるいは発症促進と関係していることを示唆している。腸管の重篤な炎症性疾患であるクローン病や皮膚疾患の乾癬(かんせん)などと連鎖する遺伝子がいくつか特定されている。ある疾患に関連している遺伝子が特定されれば、次はその遺伝子の機能を明らかにし、治療法を探っていくことになる。

 現在までのところ(そして、これからも多くの場合)、疾患の治療は”トップダウン”である。疾患の症状をなくすことが最終的なゴールとなる。感染症の一部は、病原微生物についての知識や有効な抗生物質の開発により、比較的容易に治癒させることが可能になった。しかし、多くの複雑な疾患が人々を苦しめている。癌や心臓疾患の治療は未だ確立していない。分子医学は遺伝子、タンパク質、そして環境間の相互作用についての理解を深めることによって、疾患の原因を明らかにすることを目的としている。ケベックで行われた”ボトムアップ”アプローチは、まず遺伝子を特定して、それから病因を明らかにしようとするものであり、疾患の解明、予防、治療についての新しい時代を象徴している。 

***第14章:分子生物学、ゲノムプロジェクト、医学 (その2)***

 疾患について、異常タンパク質が原因の疾患とDNA異常による疾患とが述べられています。遺伝子変異は、しばしば正常(”野生型”ともいう)とは異なるタンパク質を産生し、生物にいろいろな影響を与えます。原則として、タンパク質をコードしている遺伝子の変異は、遺伝性疾患の原因となる可能性があることになります。タンパク質には、酵素、受容体タンパク質、輸送タンパク質、構造タンパク質、その他あらゆる種類のタンパク質が含まれます。詳細の記述は省略しますが、例として6つの遺伝子の変異が原因であるタンパク質異常とその疾患を記します。
 a.機能不全酵素:       フェニルケトン尿症(PKU) ・・・   フェニルアラニンヒドロキシラーゼというたった一つの酵素異常が原因
 b.異常ヘモグロビン:     鎌状摂家級貧血症 ・・・       βグロビンの146個のアミノ酸の6番目のグルタミン酸がバリンに置換されている
 c.膜タンパク質の変異:   家族性高コレステロール血症(FH) ・・・ 肝細胞の表面幕にある受容体タンパク質の840個のアミノ酸のうち
                                        1個のみが異常である
                   嚢胞(のうほう)性線維症    ・・・ 1アミノ酸置換のために膜タンパク質である塩化物イオンチャネルが欠損している
 d.構造タンパク質の異常: デュシェンヌ型筋ジストロフィー ・・・ 機能するジストロフィン遺伝子が存在しないため、骨格筋の正常構造が保てなくなる
                   血友病 ・・・               血液凝固タンパク質のいずれかが欠損している

 タンパク質の異常は遺伝子の変異だけが原因ではなく、その立体構造(コンフォメーション)が原因である場合があります。タンパク質が遺伝子をもとに産生されるときは、長いペプチドの鎖(ポリペプチド鎖)ですが、そのポリペプチドは複雑に折りたたまれ、正しい立体構造をとることによって、機能を発揮することになります。ところが、ポリペプチド鎖が正しく折りたたまれず、不正な立体構造をとると、それは正しく機能せず、疾患の原因になりえます。皆さんもよく知っている脳に穴が開いてすかすかになり、スポンジ状になる伝達性海綿状脳症(TSE)はタンパク質のコンフォメーション病の例です。1980年代、イギリスでTSEを発症したウシは、スクレイピー(ヒツジやヤギのTSE)のヒツジから作られた資料を食べたのが原因だと判明しました。牛海綿状脳症(BSE)の肉を接触したヒトも同様な疾患を発症し、”狂牛病”と恐れられたのは、皆さんの記憶にあると思います。その他に、クールーというTSE様疾患があり、これはニューギニアのフォア族がヒトの脳を食する習慣(弔いの儀式の一環)によって異常タンパク質を摂食したのが原因だったそうです。この異常タンパク質は、タンパク質性感染性粒子(プリオン)と命名されています。

 病因を単一タンパク質の異常、すなわち単一遺伝子の変異と特定されるヒト疾患は数千に及ぶと考えられているそうです。しかし、多くの疾患は、多数の遺伝子、数多くのタンパク質、そして環境との相互作用が原因と考えられるそうです(”多因子性”)。各個人を遺伝的に正常、あるいは異常(変異)と識別することがよくありますが、実は遺伝子の総合的な影響は、高脂食を続けて食べていても心筋梗塞にならない、逆に一生懸命節約してもたやすく心筋梗塞になってしまう、あるいは病原菌が感染すると重篤になる、軽症で済むというように、環境に対する応答性が個体によって大きく影響しているといえるそうです(私の糖尿病もそのとおりであると思います!!賛成!!)。

 ヒトの遺伝性疾患の遺伝様式は多様だそうです。遺伝性疾患をもたらす遺伝子座も、他の遺伝子座と同様に、常染色体か性染色体に存在し、優性遺伝または劣性遺伝の形式が考えられるそうです。詳細は記述できませんが、遺伝様式と疾病例を以下に記します。
 a.常染色体劣性遺伝: フェニルケトン尿証(PKU)、鎌状摂家級貧血症、嚢胞(のうほう)製線維症
 b.常染色体優性遺伝: 家族性高コレステロール血症
 c.X染色体劣性遺伝:  血友病
 d。染色体異常:      脆弱X症候群

 続いて、分子医学の重要な目標の一つである疾患の原因となる遺伝子変異を見いだす方法が述べられています。詳細を述べるのは無理なので、概要だけを列挙します。
 a.異常なタンパク質から遺伝子を特定する ・・・ 鎌状赤血球貧血症(βグロビン)
 b.染色体欠失から病因遺伝子とタンパク質を探す ・・・ デュシェンヌ型筋ジストロフィー症
 c.遺伝子マーカーにより病因遺伝子を探索する(ポジショナルクローニング) ・・・

 男性と女性ではDNA変異の影響が異なるそうです。哺乳類卵は、受精の直後、卵の核と精子の核が融合する前には、1つの細胞内に、それぞれ半数体の前核、すなわち卵由来の核と精子由来の核が存在します。この2種類の前核を識別することが可能なのだそうです。そして、マイクロピペットで前核を除去したり、別の卵に移植したりすることが可能になっているのだそうです。恐ろしい技術ですね!!研究室で2つの精子由来の前核、あるいは卵子由来の前核しか持たないマウス接合子(二倍体細胞)を実験的に作成することが可能ですが、この場合はその接合子は生体に達することはないそうです。雄と雌は基本的には必須ですが、雄と雌のゲノムは基本的に同等ではないということだそうです。その遺伝子が雄由来なのか、雌由来なのかによって、その表現型への影響が異なる場合があるそうです。この現象をゲノムプリンティング(刷り込み)というのだそうです。その典型例として、ヒト15番染色体の小欠失の遺伝による表現型が述べられています。
 a.母親由来の15番染色体の欠失 ・・・ エンジェルマン症候群(やせ、大きな句碑、下顎の突出などの特徴的な容貌と精神遅滞)
 b.父親由来の15番染色体の欠失 ・・・ プラーダー・ヴィリ症候群(背が低く肥満、手足が小さい)

 第14章は長いのですが、我々の関心のある医療に関することが多いので、まだ続けたいと思います。残りは次回に回します。

***第14章:分子生物学、ゲノムプロジェクト、医学 (その3)***

 先週の続きです。最初は、最近話題になっている”遺伝子スクリーニング”です。さまざまなヒトの遺伝性疾患の分子表現型と遺伝子型がわかるようになったため、これらの遺伝性疾患が症状を出現する前でも診断することが可能になったそうです。この遺伝子スクリーニングにより、遺伝性疾患にかかっている人、かかる可能性が高い人、あるいはキャリアーを見いだすことができるということです。遺伝子スクリーニングは、@タンパク質発現の利用と ADNAテストの2つの方法があるそうです。タンパク質発現スクリーニングの代表例が、フェニルケトン尿症テストであり、これは簡便で安価な方法で、新生児スクリーニングに使われているとのことです。DNAテストは異常遺伝子を最も正確に、そして直接的に検出できる方法だそうです。いろいろの例が述べられていますが、ここでは省略します。

 次は、一般の人にも関心の大きい”がん”の話です。ここでは、体細胞の遺伝子変異が原因であるがんについてです。冒頭に次のような序文があります。「癌ほど先進国の人々の恐怖となっている疾患はほかにはないだろう。アメリカ人の3人に1人が、一生涯に何らかの癌を発症しており、現在、4人に1人がそのために死亡する。合衆国では、年間に100万人が新たに癌と診断され、50万人が死亡し、死亡原因は心疾患についで、3位を大きく引き離して2位を占めている。癌は1世紀ほど前にはそれほど一般的ではなかった。当時は、現在でも発展途上国ではそうであるように、感染症が主な死亡原因であり、癌になるほど長生きできなかったのである。癌はおおむね高齢者の疾患である。若年者では癌は比較的少ない。」 「合衆国政府は”癌との闘い”を1970年に宣言し、以来、癌細胞に関する膨大な情報(その増殖、浸潤、そして分子生物学的変化など)が得られてきた。最も重要な発見は、これらの変化の多くは細胞分裂の際の体細胞のDNA変異である。」

 がん細胞は、それが由来する正常細胞とは大きく次の2点で異なるということです。
 @がん細胞は細胞分裂の制御を失っている: 体内の細胞のほとんどは細胞外からの情報(例えば増殖因子やホルモンなど)に応じて細胞分裂を行いますが、がん細胞はこれ等の制御系に応答しなくなり、多かれ少なかれ持続的に分裂を繰り返し、腫瘍(細胞の巨大な塊)を形成する。
 Aがん細胞は別の組織に拡散する: 最も恐ろしいがん細胞の特徴で、周囲の組織や別の場所へと広がっていくことです(”転移”という)。さまざまな段階があり、まずは、がん細胞は周囲の組織に浸潤し、分解酵素を分泌して細胞や組織外マトリックス(スペース)を分断します。次に、一部のがん細胞は血流やリンパ流に侵入していきます。ところが、この脈管系の”旅”はがん細胞にとって命がけなのだそうで、生き延びるのは難しく、がん細胞1万個に1個程度であるそうです。しかし、運よくがん細胞にとって住みやすい(増殖しやすい)新たな組織にたどり着くと、新たな細胞表面の接着タンパク質を発現して、そこに定着し、新たなすみかに浸潤を開始します。やがて、新天地のがん細胞はホルモンを分泌して、周囲に血管を新たに張り巡らせて(”血管新生”)、酸素と栄養素を十分に得られるようにするのだそうです。ウイルスもすごいですが、がん細胞も、自立心?を持ったとっても立派な細胞なのですね!!

 がんには様々な種類がありますが、ヒトの腫瘍の約85%は狭義のがん(悪性上皮性腫瘍)であり、皮膚や器官(胃や大腸など)を覆っている上皮細胞に発生するのだそうです。肺がん、乳がん、大腸がん、肝臓がんはみな悪性上皮性腫瘍のことです。”肉腫”は、骨、血管、筋肉といった組織由来のがんで、白血病やリンパ腫は血液を造る造血系細胞由来のがんということになるそうです。

 一部のがんはウイルスが原因だそうです。以下に例を掲げます。
 @肝臓がん: B型肝炎ウイルス Aリンパ腫、上咽頭がん: エプスタイン-バーウィルス BT細胞白血病: ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1) C性器肛門周囲がん: パピローマウイルス Dカポジ肉腫: カポジ肉腫ヘルペスウイルス

 ウイルスが原因のがん以外では、がんの85%は遺伝子変異によるものだそうです。がんが発症するためには、加齢に伴って一連の遺伝子変異が蓄積することが必要と考えるのが妥当だそうです。遺伝子の自発的な変異は、ヌクレオチド(DNA)の化学的変化です。さらに、発がん物質といわれる化合物がDNA変異を起こし、発がんします。発がん物質には、化学物質や放射性物質がありますが、あまり知られていないのが、我々が普段口にする食物にも何千という天然発がん物質が含まれているということです。ある推計では、このよな天然発がん物質が、ヒトが晒される発がん物質の80%以上を占めているといっているそうです。

 がんの核心と言えるのは、細胞分裂の制御機構の変異ということになるそうです。ヒトのゲノムには、細胞分裂を促進する”がん遺伝子”と細胞分裂を抑制する”がん抑制遺伝子”が存在し、この遺伝子機能のアンバランスががん細胞分裂を発現するのだそうです。ここでは、その仕組みに触れるのは、とても複雑巧妙な仕組みのでやめておきます。


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第15章: 免疫:遺伝子と生体防御システム    2018年5月13日、5月20日、6月4日

 第14章:”分子生物学、ゲノムプロジェクト、医学”に続いて、第15章も分子医学の話です。内容はアレルギーを含む生体防御(免疫)の話です。私は、近年、花粉症の症状は和らいできたのですが、代わりに?糖尿病等の薬によるアレルギー(薬の副作用)に悩まされ、QOL(生活の質)が多いに下がってきています。例えば、2年ほど前には、糖尿病の薬を切り替えた所、激しい口内炎?が発症し、口内が激痛で食事をとるのが困難な状態がありました。これは明らかに薬に対する過剰なアレルギー反応です。その後再び薬は切り替えたのですが、今度は足首から腰まで、皮膚に強い発疹(アレルギー反応)が出て、かゆみに悩まされています。さらに、腹痛や便が軟らかくなるなどの症状(過剰免疫反応)も発症し、現在はやむを得ず当該薬の投与を少し抑えています。また薬の副作用とは違いますが、私はここ数年でスズメバチ等に3回ほど刺されました。そして、2回目、3回目はアナファルキシー・ショックに見舞われました。これも、生体防御(免疫)の過剰反応によるものです。

 ということで、私にとっては、本章の生体防御システムは重要な生活向上対策の対象となっています。実際本章を読むことによって、生体防御とアレルギーについて多くの知識を得ることができました。もちろん、生体は複雑怪奇で、現在でもよくわかっていないことがたくさんあるようですが、これからも私の生活向上にとって大きく関わっていく課題であると認識しています。

 まずは、ワクチンの話が序章に述べられているので、掲載します(一部省略)

 「1777年1月6日、若き合衆国の革命軍司令官のジョージ・ワシントンは主治医に以下の手紙を書いた。”天然痘が蔓延し、細心の注意を払っても軍隊での伝染を防ぐことができないという恐怖から、軍隊で予防注射をすることを決定しました。このような脅威が続くのであれば、それは敵の剣よりも恐ろしいことです。”」

 「ワシントンは経験に基づいて語っていた。彼自身、10代だった1751年に天然痘に罹患して生還していた。1776年、戦死者1000人に対して、天然痘で1万人が死亡している。兵士に予防注射が行われると、革命軍の天然痘による死亡率は激減した。ワシントンの軍隊の予防注射は、新しい患者の天然痘膿疱からの分泌液を健常人に少量摂取するものであった(訳注:しかし、一部はこの注射により天然痘を発症してしまう)。当時はその理由はわかっていなかったが、天然痘から回復したワシントン自身が免疫を得たように、このような予防注射を受けた人々は重篤な天然痘の免疫を得た。」

 「20年後、イギリスの片田舎の医師エドワード・ジェンナーは、乳しぼりの女性は牛痘という軽度の感染症にしばしば罹患するが、当時のイギリスで猛威をふるっていた天然痘にはほとんどかからないことに気づいた。この2つの感染症に交叉耐性があると考えて、ジェンナーはある実験を試みた(それは現代では非倫理的として到底容認されない臨床試験であった。・・・現代医学の発展の陰には、このような非人道的なことが多く存在しています。関東軍741石井部隊による中国での人体実験もその一例です。」

 「ジェンナーは牛痘の痂皮(乾いた膿疱(かさぶた))をこすり落として、ジェームズ・フィップスという少年の上腕のひっかき傷に振りかけた。当然ながら、ジェームズは軽度の牛痘にかかった。6週間後、ジェンナーは今度は天然痘の痂皮でジェームズを感染させた。ジェンナーが予測していたように(おそらく、祈っていただろう)、この少年は天然痘にはならなかった。このジェンナーの予防法は”ワクチン接種(種痘)”t呼ばれるようになった。天然痘をそのまま感染させるよりもはるかに安全な予防法として、種痘は急速に広まっていった。やがて、より強力なワクチンが開発され、世界の人々のほとんどに予防接種するという大規模な計画が実施された。1980年までには、この地球上から天然痘は文字通り撲滅された。」

 「ジョージ・ワシントンはどうして天然痘に免疫があったのであろうか。どうして天然痘の予防接種は兵士を救うことができたのだろうか。天然痘ワクチン計画でどうして天然痘は消滅したのだろうか。その答えは我々の免疫系細胞とその分子にある。 以下省略」

 本章も、前章に続いて長くなりそうです。お付き合いをよろしく。

***第15章:免疫:遺伝子と生体防御システム(その2)***

 動物はさまざまな病原体(疾患の原因となる生物(細菌)やウイルス)によって攻撃されますが、それに対する精巧な”生体防御システム”によって病原体を撃退し、自身の生体を防御します。この生体防御システムの基本は、”自己”(自分自身の分子)と”非自己”(外部からの分子)を識別し、”非自己”に対して攻撃するのが基本です。すなわち、生体防御システムは、原則”自己”を攻撃することはありません。

 生体防御システムは大きく2つに分かれるそうです。 (* ”非特異的”とは汎用的対応といった意味で、”特異的”とは個別的対応といった意味です。)
1)非特異的防御(自然防御): さまざまな種類の病原体から生体を防御する生まれつき備わったシステムで、病原体に対して迅速に反応します。侵入者を非特異的に障害する分子や、侵入者を非特異的に取り込む”貪食細胞”(マクロファージ、好中球、樹状細胞等)などがあります。ほとんどの動物や植物にこの防御システムが存在します。

2)特異的防御(適応防御): 特異的な病原体のみを標的として攻撃しますが、そのシステムの構築にはやや時間がかかります。しかし、いったん出来上がれば、長期に維持され、当該特異的な病原体に対し速やかに攻撃します。このシステムでは、例えば血中に侵入したウイルスを特定し、それに結合し、”抗体”を用いて攻撃します。

 脊椎動物には、非特異的および特異的な防御システムが両方備わっており、それらは協調して機能するそうです。特異的防御システムは強力ですが、威力を発揮するまでに数日から数週間を必要とすることがしばしばであり、そのため初動対応としては非特異的防御システムが対応するのだそうです。「1個の細菌が1日で2000万個にも増えることを考えれば、感染を水際で食い止める非特異的防御システムの役割は大きい。」ということです。

 哺乳類の防御システムの構成要素は体中に分布しており、ほとんどすべての組織や器官と相互作用をしているそうです。そのうち、リンパ組織(胸腺、脾臓、リンパ節等)は特に重要な構成要素ということです。これらの活動の中心は血液とリンパ液なります。私は今まで”胸腺”のことを全く知りませんでした。胸の真ん中あたりにある組織で、リンパ組織にとってとても重要な組織だそうです。また、リンパのことも名前を知っていただけで、その組織や働きについては、白血球が病原菌と戦っているといったこと以外、ほとんど知りませんでした。生体についてはほとんど”無知”といったところですね。

 リンパ(液)は、血液やその他の組織由来の液体で、体中の細胞と細胞の間の空間(細胞間隙)に蓄積しており、この空間からゆっくりとリンパ系脈管へt流れていき、最終的には太い1本のリンパ管である胸腺へと集合するのだそうです。教官は静脈(左鎖骨下静脈)に繋がっており、この脈管系によって組織からしみ出たリンパ(液)は再び血液循環系に戻ることになるそうです。なお、リンパ組織は、血液のような閉鎖循環系ではなく、開放循環系であり、中心組織から末端へリンパ(液)が流れることはありません。リンパ管のところどころには、小さな球状のリンパ節という組織が付随し、そこにはさまざまな種類の白血球細胞が待機しており、リンパ(液)がリンパ節を通過するときにろ過が行われ、生態系防御系細胞によって非自己物質が監視されるとのことです。

 多くの人が名前を知っている”白血球”は、実は生体防御システムにおいて多彩な役割を担う複数の細胞の集合体の名前です。1μlのヒト血液には、通常500万個の赤血球と7000個の白血球が存在するそうで、これらの細胞は骨髄の多能性幹細胞から産生されるのだそうです。そして、骨髄幹細胞は常に分裂し、様々な血液細胞を供給するのだそうです。その血液細胞の系図を以下に記してみます。

 骨髄=> 多能性幹細胞 |=> 骨髄系前駆細胞 |=> 赤血球、血小板
                |              |
                |              |=> 顆粒球 (好塩基球、 好酸球、 好中球、
                |                        肥満細胞、 単球、 マクロファージ、 樹状細胞)
                |
                |=> リンパ系前駆細胞  => リンパ球 (B細胞、 T細胞、 ナチュラルキラー細胞)
                                   * 顆粒球とリンパ球を合わせて白血球という!!

 白血球は、哺乳類の赤血球とは異なって細胞核を持っており、無色だそうです。白血球は血管中にも存在しますが、閉鎖循環系(毛細血管)から滲出(しんしゅつ)して細胞間隙を遊走します。白血球は非自己細胞や物質を監視します。血中やリンパ(液)中の白血球数は病原体が侵入してくると急激に上昇するのだそうです。そのため、病院で血液検査をすると白血球数が出てくるのですね。今後はこの数値も注視しなくてはいけないようです。

 個体を防御する細胞群は、細胞同士、あるいは侵入してきた病原体と相互作用をしますが、細胞間の相互作用には、さまざまな鍵となるタンパク質が必要となります。ちょっと難しいですが、代表的なものを掲げ、概略を説明します。
1)抗体(免疫グロブリン): 免疫システムによって非自己(あるいは変質した自己)と認識された物質に特異的に結合して、それを障害するタンパク質です。これは、B細胞から分泌され、防御武器とも言えます。

2)T細胞受容体: T細胞表面の膜たんぱく質で、他の細胞表面に提示されている非自己物質を認識して、結合します。
3)主要組織適合抗原遺伝子複合体(MHC)タンパク質: 哺乳類のほとんどの細胞の表面に突き出ているタンパク質で、自己を同定するための重要な標識となります。
4)サイトカイン: T細胞やマクロファージなどから分泌されるシグナル伝達タンパク質で、標的細胞に結合してその活動を制御(活性化と抑制)します。

 とりあえず、今回は生体防御システムの詳細に入るにあたっての全般的知識のお話で止めておきます。次回からは、非特異的および特異的生体防御システムの詳しい話に移りたいと思います(難しすぎて端折るかもしれません)。

***第15章:免疫:遺伝子と生体防御システム(その3)***

 最初に脊椎動物の非特異的生体防御システムの話となります。非特異的防御システムとは、病原体の種類を問わずに、それらが体内に侵入するのを防ぐシステムです。時間的にも部位的にも、生体防御システムの第一線ということになります。脊椎動物の特異的生体防御システムは5億年前に進化したと言われているそうですが、非特異的生体防御システムはそれよりもはるか前に進化したと考えられているそうです。ヒトの代表的な防御を列挙します。

 1)物理的な体表バリア: 病原体や異物の体内への侵入を防ぐ。皮膚、表面粘膜(気道、消化管、泌尿器、生殖器など)、
                 粘液細胞による粘液排出、鼻毛、絨毛など
、2)正常微生物叢:     病原体と生存競争して抑制する。皮膚に住みつく細菌やカビ、大腸に住む細菌類など
 3)化学性防御:       唾液、涙、胃液、胆汁塩(小腸)
 4)非特異的防御(防御タンパク質、防御細胞):
  @補体システム:      血液中の30種類程度の抗微生物タンパク質から構成される。微生物を破壊する
  Aインターフェロン類:   ウイルスに感染した細胞から分泌される抗微生物タンパク質。未感染細胞の感染を防ぐ
  B貪食細胞:         体内に侵入した病原体を貪食して破壊する。マクロファージ、好中球、樹状細胞
  Cナチュラルキラー細胞: ウイルス感染細胞や癌細胞を攻撃して破壊する

 体表面あるいは体内の組織損傷をもたらす感染などの事態に、生体は小分子や酵素を放出して炎症応答(発赤、発熱、、腫張、疼痛)を行います。隣接細胞への病原体の拡散を抑え、防御反応を高めるとともに、病原体や破壊された組織を消化して除去します。生体防御システムは、”細胞シグナル伝達”システムによって発動されるのだそうです。この仕組みはとても巧妙に出来ています。

 以上のような非特異的防御システムを病原体がかいくぐると、生体は病原体に特異的な防御システム(免疫システム)で対応することになるそうです。特異的免疫システムの4つの特徴が述べられています。

 1)特異性:     ”T細胞受容体”とB細胞が産生する”抗体”は、正確に非自己もしくは変性した自己物質(”抗原”という)を認識して結合することにより、特異的生体防御システムが稼働する。抗原には特異的な局所部位(”抗原決定基”)があり、T細胞や抗体はその抗原決定基に特異的に結合するのだそうです。
 2)自己と非自己: ヒトの体内のどの細胞も多くの抗原決定基をもっており、免疫システムは抗原が自己のものか非自己のもの(異物)かを正確に識別し、自己を攻撃しないようになっています。
 3)多様性:     病原体や異物、細菌などはほぼ無限に存在するが、このような多様な抗原決定基を認識して、それにのみに特異的に対応します。
 4)免疫記憶:    ある新しい病原体に応答すると、免疫システムはその病原体(抗原決定基)を”記憶”し、再度その病原体が侵入してきたときは初回よりも迅速にかつ強力に応答します。予防接種のワクチンはこの免疫記憶を利用したものです。

 特異的免疫システムには、2種類の反応、”液性免疫応答”と”細胞性免疫応答”があるそうです。益々難しくなってきました。2つの応答は、時間的にも機構的にも協調して機能するそうです。

 1)液性免疫応答:  血液、リンパ(液)、組織液中で、抗体が病原体の抗原決定基に結合します。動物はその生涯にわたって遭遇しうるほとんどすべての抗原に対して結合可能な多種の抗体を産生します。ある抗原が体内に最初に侵入してくると、その抗原と結合しうる抗体を細胞表面に備えたB細胞がその抗体を認識して結合します。するとB細胞は活性化され、その細胞膜抗体と同じ特異性を持った水溶性抗体を大量に分泌し始めるそうです。

 2)細胞性免疫応答: 動物自身の細胞に出現した抗原を標的とし、ウイルス感染細胞、変異細胞、移植細胞などを認識して破壊するそうです。この応答は、リンパ節、血中、細胞間隙のT細胞(T細胞表面のT細胞受容体)が担うとのことです。T細胞受容体に抗原が結合すると、免疫応答が開始され、多くの場合非自己細胞や変異した自己細胞は完全に破壊されてしまうそうです。

 免疫応答に関係する”ワクチン”は、我々にとってとっても身近なものです。先ほど述べた”免疫記憶”を利用して、ワクチン(弱毒化した病原体)を事前に接種することによって、その病原体に対する免疫(メモリー細胞)を人為的に獲得し、危険な疾患に対しての生体防御を事前に用意するシステムです。すなわち、ワクチン接種によって一次免疫応答が誘導され、疾患を発症することなくメモリー細胞が形成され、その後、同じ抗原(病原体)が体内に侵入してくると、既に準備されている特異的メモリー細胞はその抗原を正確に認識して、実働部隊のリンパ球や抗体を大量に生産し、侵入者を直ちに撃退するというわけです。呆れるようなすごい仕組みですね。

 ワクチンが有効なヒト疾患の例を少し掲げておきます(カッコ内は病原体)。
 1)細菌による疾患:    破傷風(破傷風菌)、ジフテリア(ジフテリア菌)、髄膜炎(インフルエンザ菌)、結核(結核菌)、腸チフス(チフス菌)、
                 コレラ(コレラ菌)・・・
 2)ウイルスによる疾患: B型肝炎(B型肝炎ウイルス)、はしか(麻疹ウィルス)、インフルエンザ(インフルエンザウイルス)、
                 流行性小児まひ(ポリオウイルス)、三日はしか(風疹ウイルス)、天然痘(天然痘ウイルス)・・・

 続いて教科書では、液性免疫応答と細胞性免疫応答および多様な抗体の生成メカニズム(分子レベル)について詳細に述べていますが、あっと驚くような驚異的システムが生体内で働いていることがわかります。内容はとても面白いのですが、図などを用いないと説明することができません。我々の体が、この精巧で巧妙な免疫システムによって病原体や異物から守られているのを知って、感動すら覚えてしまいました。

 最後に、免疫系が正常に機能しないとき何が起きるのかが述べられています。免疫システムは非常に複雑で様々な細胞間相互作用が関係しているため、いろいろな段階で破たんをきたすことも多いとのことです。免疫システムは軍隊と同じで、安全のためには必要であるが、それが弱すぎても強すぎても、そして狂った場合には大問題になると言ってます(戦前の日本軍のことを言ってるようですね?)。過剰反応が”アレルギー”であり、異常反応が自分自身を攻撃してしまう”自己免疫疾患”、機能低下や消失が”免疫不全”ということになるそうです。私はハチによるアナファルキシーショックを経験し、また現在糖尿病の薬アレルギーに悩まされており、その仕組みがようやく少し理解できました。少し説明します。

 1)アレルギー反応:    免疫システムがある抗原に対して過剰(過敏)に反応することです。食物、花粉、虫毒に含まれる抗原(アレルゲン)に個体が初回に接触した場合に、大量の抗体(免疫グロブリン IgE)が産生され、組織の肥満細胞や血中の好塩基球に結合します。その個体がアレルゲンに再度接触すると、先ほどの肥満細胞や好塩基球がアレルゲンに結合し、急速に大量の”ヒスタミン”が分泌され、その結果血管の拡張(発赤)、血管の透過性上昇(浮腫、蕁麻疹)、気道閉塞(呼吸困難)などの症状が出現するのだそうです。まだ理由がわかっていない部分もたくさんあるようですが。

 2)免疫不全疾患AIDS: 免疫不全には先天性のものと後天性のものがあります。免疫不全の患者は、免疫応答を開始することができず、病原体に対する主要な防御システムを働かせることが出来なくなるそうです。”ヘルパーT細胞”は免疫システムのかなめですが、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、このヘルパーT細胞を標的としてAIDS(後天性免疫不全症候群)発祥の原因となるそうです。HIVの感染経路には、血液感染、損傷表皮感染そして母子感染があります。AIDSについては世界中で研究されており、その分子的メカニズムがだんだんとわかってきているようですが、まだ不明のことが多いようです。ここでは詳細を省略します。

 長かったですね。でも”分子医学”は我々の疾病に直接関係しているので、ある程度の知識は身に着けていた方がよいのではと思っています。私は益々老いによる疾病が多発してくるので、私の疾病に対してより深く洞察するのに非常に役立つと思っています。これからも勉強してみようと思っています


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第16章: 発生における特異的遺伝子発現     2018年6月25日、7月2日
                                       

 第16章と第17章は、生物の”発生”に関する話です。最初に”幹細胞”の発見に関する序章を紹介します。

 「マーク・ヘドリック博士は脂肪に関心があった。自分の脂肪ではなく他人の脂肪に。ロサンゼルスの形成外科医として、彼の仕事の一部は、不必要な脂肪を取り除く脂肪吸収を行うことであった。博士はこの余った脂肪が何かの役に立たないかと考えた。手袋に付いた脂肪を顕微鏡で見て、博士はその細胞が骨細胞に似ていることに気づいて驚いた。どうして取り除いた脂肪組織の中に骨細胞があるのだろうか。ヘドリック博士は脂肪の中には幹細胞があるのではないかと考えた。幹細胞とは分裂能力のある、分化していない細胞で、必要に応じて多くの異なる種類の細胞を産み出すことができる細胞である。この場合、幹細胞が産み出すことができるのは発生学上脂肪に関する細胞、例えば骨細胞、」軟骨細胞、血管細胞、筋細胞に限られるだろう。」

 「しかしこの脂肪由来の生体幹細胞は、動物の体の中でも文化可能だろうか?ラットとマウスを使った実験で、これらの幹細胞が臓器に移植可能であること、移植された組織に応じた細胞に分化することが明らかになった。すなわちこれらの細胞は損傷を受けた心臓、骨、血管などの治療に応用可能であることが明らかになったのである。脂肪由来の幹細胞を用いることの利点は、患者自身の細胞を用いることができるということである。第15章で見たように、免疫系は非自己組織を認識し拒絶する。自分自身の脂肪由来幹細胞を用いれば、移植組織の拒絶は起こらないだろう。ヘドリック博士は、患者が損傷を受けた心臓などの治療のために待機しているあいだに、手術室で素早く脂肪から幹細胞を分離できる機器を開発した。治療のためには2億個の幹細胞があれば十分で、これは450グラムの脂肪から調整可能である。最近、日本で3人の女性が自分の脂肪から調整した幹細胞を、乳房切除術施行後の乳房の再建のために移植した。テーラーメード医療の時代が始まったのである。」

 「この素晴らしい医学技術の基礎には、発生遺伝学の大いなる進歩がある。生体内での幹細胞分化の基盤となる現象は、発生期に胎児で起こる幹細胞分化の基盤となる現象と同じである。我々の発生遺伝学の知識の多くは、モデル生物、例えばショウジョウバエ、線虫、カエル、ウニ、シロイヌナズナなどの研究から得られた。11.1節で見たように、すべての真核生物のゲノムは驚くほど似ていて、発生の基盤となる細胞原理・分子原理もまた似ているのである。このように、1つの生物での発見は、我々人間を含む他の生物を理解するのにも大いに役立つ。」

 そうですね、我々人間も、生物学的には線虫やハエ、ナズナなどとたいして変わらないのですよね。

***第16章:発生における特異的遺伝子発現(続き)***

 生物学の”発生”という言葉は一般の人には聞きなれない言葉ですが、多細胞生物が、”胚”といわれる受精直後の初期細胞群から、生活環を特徴づける形態を次々と取りながら成体になるまでの過程を言うとのことです。個体が胚から成体になるまでの過程は、4つのプロセスからなるそうです。
1)決定: 細胞の発生運命を決めるプロセス。すなわち、どのような種類の細胞になるかを、特徴が現れる前に決まる。
2)分化: 決定に従って異なる種類の細胞が現れるプロセス。すなわち、ある決定された運命をもつ細胞がその特異的な構造と機能を発揮する。
3)形態形成: 分化した細胞が寄り集まって多細胞個体とその器官を形成するプロセス。
4)成長: 細胞分裂、細胞拡大によって、個体と器官の大きさが増大するプロセス。

 有糸分裂は染色体や遺伝子が母細胞と同一の娘細胞を産み出しますが、種類が異なる細胞では異なる遺伝子が発現し、結果として種類の異なった細胞になるということです。このことを”特異的遺伝子発現”というそうです。すなわち、数個の細胞から成り立っている初期胚では、それぞれの細胞は多くの異なる細胞に分化する能力を持っているが、発生が進むにつれて、遺伝子発現が制御され、異なるタンパク質が合成されるようになり、最終的に異なる特徴と機能をもつ細胞群ができるようになるということです。

 接合子(受精卵)は生体のすべての種類の細胞を産み出すことができます。接合子は”万能”と言えます。言い換えると、そのゲノムは、個体の生活環を通して出現するすべての構造と機能に対する指令を含んでいるとも言えます。発生の後期ではs、接合子の子孫細胞は万能性を失って決定された細胞になってしまい、その決定された細胞は特定の特殊化した細胞に分化してしまうことになります。そして、その細胞は生涯にわたってその分化した形と機能を維持することになります。動物の初期胚の万能性は、カエルの初期胚由来の核を他の脱核卵に注入して、オタマジャクシ、カエルへと成長させることによって、証明されたそうです。成長した生物は”クローン”生物と呼ばれます。

 皆さんも、仔ヒツジドリーの誕生を記憶していませんか。ドリーはクローンヒツジで、生体になった後、交配で普通の出産で子孫を産み出したそうです。すなわち、ドリーは完全にまともな哺乳類生体動物であることが証明されました。著者はクローンに対する社会的不安について、次のように述べています。 「クローン動物の到来は、論争と倫理的不安を巻き起こしている。しかし、クローン作製は新しい科学的概念ではない。差相棒が万能性を有することは、ドリーが生まれるずっと前から認められていた。それにもかかわらず、クローン動物を作製することで万能性を証明することは、人々に強烈な印象を与える技術成果なのである。」 本当にそれだけで済まされるのでしょうか?”原子核分裂”や”原子核融合”も単に”技術成果”であるといって済む問題ではありません。タコつぼに入った科学者の頭は大変危険なものと考えます。

 哺乳類では、皮膚や腸管上皮、血球系などの細胞補充を頻繁に必要とする生体組織中において”幹細胞”見いだされます。幹細胞は娘細胞を産み出し、娘細胞は分化して死細胞にとって代わり、組織を維持するとのことです。これらの生態幹細胞は万能ではないが、複数の種類の細胞に分化する能力を持っており、多能性幹細胞とよばれています。他方、初期胚に由来する細胞は万能の幹細胞であり、”胚性幹細胞(ES細胞)”と言われます。胚性幹細胞は初期胚(胚盤胞)から採取して、ほとんど無限に培養可能であるということです。山中伸弥博士の”iPS細胞”は、患者の皮膚の線維芽細胞を培養、これに外来遺伝子を3〜4個導入することにより、多能性幹細胞を作製するものです。こちらは卵が不要であり、したがって自己の細胞から作るので免疫拒絶反応もないため、世界中から注目を集めて期待されているのだそうです。

 細胞分化においては、遺伝子発現を制御する仕組みがあります。遺伝子発現には、第11章で、”tン社調節”、”翻訳調節”、”翻訳後調節”などがあること説明されていましたが、細胞分化にかかわる主要な調節は”転写調節”とのことです。説明は詳細になりますので省略します。

 次に、細胞の運命はどのようにして決定されるのかということが述べられています。細胞分化につながる転写調節の複雑なネットワークは、またも化学的シグナルによって制御されるのだそうです。これには2つのメカニズムが存在するということです。
1)細胞質分離: 卵、接合し、前駆細胞の中の因子が細胞質内で不均一に分布する。
2)誘導: ある種の細胞が他の細胞の分化を誘導する因子を活発に産生、分泌する。
ウニの発生やカエル、線虫、ショウジョウバエなどの研究によって明らかになってきているそうですが、説明は詳細で多岐にわたるため、、ここでは省略せざるを得ません。でも、どうして頭が体の上位に発現し、腕が方から発現し、腹部が真ん中にあり、下肢が体の下方に発生するのか、不思議ですよね??物理学でもそうですが、仕組みが少し解明されても、何故そうなるのという質問にはほとんど答えられないのが現状です。生物もすごいものですね!!


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第17章: 発生と進化による変化     2018年7月17日

 この章では、生物のパターン形成を制御する遺伝子が、多様な生物種によって共有されていることを見ます。すなわち、どうやってある個体のある部分に、他の部分に望ましくない変化を起こすことなく変化を起こすのか、またどうやって共通の遺伝子セットがそんなにも多様な体の形を作るのか、を見ていきます。

 発生を制御する”発生遺伝子”は、ショウジョウバエの発生変異体が発見によって明らかになってきたそうです。すなわち、”正常”な昆虫の発生に関わる遺伝子と遺伝子産物を同定することができるようになったということです。そして、比較遺伝学の手法を用いて、ショウジョウバエと同様の遺伝子セットが脊椎動物にも存在することを見いだしました。すごいですね。ショウジョウバエとマウスのように進化上遠く離れた生物に共通の発生遺伝子セットが存在することが発見されたわけです。これは、生物の驚異的な多様性は、比較的少数の”調節遺伝子”によってもたらされるということを意味するそうです。体の形の違いは、これらの遺伝子がいつどこでスイッチをオンにされたりオフにされたりするかによって生じるということです。うーん!うなってしまいます。

 ショウジョウバエの胚が成体と道央に”モジュール”(身体構造を包括する機能単位のこと)構成されていることがわかりました。ある生物の個々のモジュールの形は、他のモジュールとは独立しているそうです。シタガッテ、多くの発生遺伝子は1つのモジュールにしか効果を及ぼさないという意味です。もしそうでないと、発生遺伝子の一つの変異によって多数の非常に異なる変形を持つ生体ができてしまうことになります。実際にはそのような奇形は発生していないそうです。

 1つの生物内で共通な遺伝情報を用いているにもかかわらず、異なる構造が発生するのは、」”遺伝子スイッチ”というDNAコンポーネントによって制御されているからだそうです。遺伝子スイッチは八世紀の胚の位置情報を統合し、モジュールの発生制御を行っています。すなわち、あるモジュールの発生を制御する遺伝子は、他のモジュールの発生を制御する遺伝子と比較したときに、異なる種では異なる時間に発現することもあるそうです。とても複雑な話で、具体例がないと理解できないかもしれませんね。でも紙面の関係上具体例を述べるのは無理です。そして、遺伝子スイッチによって制御される遺伝子の作用が、個体かが(受精)卵から生体へと変容する現象と種間の総意の進化の両社の基盤になっていると考えてよさそうです。

 生体の形は遺伝子によって完全に決定されるということがわかりましたが、生体の形は八世紀の環境条件の影響も受けるそうです。個体が環境条件に応じてその発生を修正する能力をもち、それを”発生可塑性”というそうです。生物は未来を正確に予告する環境シグナルに対しては、適応すべく反応するそうです。また、生物は未来と関係ない環境シグナルに対しては応答しないとのことです。賢いですね。それじゃー、ヒト種は適切に未来に対応しながら生きているのでしょうか?知恵を取得したはずのヒトはとてもそのようには思えないのですが・・・本書ではこの件について次のように述べています。

 「生物は、進化の歴史の中で頻繁に起きた環境シグナルに対して環境順応的に応答することが可能であるが、以前に出会わなかった環境シグナルに対しては環境順応的に応答することができない。新しく出会った環境事象に適切に発生応答できないことは、」今日において重要な問題となっている。人類社会が環境を多くの点で変化させてしまったからである。

 例えば、今日人類は何千という化学物質を環境に放出しており、その中には正常な発生を妨害するものもある。1962年に、レーチェル・カールソンの古典的な本”沈黙の春”が出版されて、広く用いられていた化学的殺虫剤のDDTが(卵殻形成を阻害することにより)鳥類の数を激減させていることに注目が集まった。数年にわたる研究により、多くの鳥類や哺乳類の生殖系や発生に対するDDTの悪影響が実証された。

 1962年に新聞の見出しを飾ったもう1つの出来事が、環境因子に予測できない降下(しかも人類に対する効果)を明白にした。サリドマイドという薬物を摂取した母親から、7000人以上の四肢が欠損したり未発達の赤ちゃんが生まれた。遺漏従事者のなかで、安全で穏やかな鎮静薬と信じられていたサリドマイドが、胎児の四肢発生遺伝子発現に影響を及ぼすことを予測したものはいなかった。」

 最後です。携帯の進化は革新的な新しい遺伝子の出現によって支配されてきたのではなく、既存の遺伝子がやってきたことの修飾(変更)によって進んできたと言えるのだそうです。発生遺伝子とその発言が臣下を制約する原則は2つあるそうです。
1)ほとんどすべての進化上の核心は、既存の構造の修飾である。
2)発生を制御する遺伝子は高度に保存されている。すなわち、制御遺伝子自身は進化の過程では大きくは変化しない。
具体例が述べられていますが、省略します。

 以上で、「大学生物学の教科書 第3巻分子生物学」が終わりました。第3巻の分子生物学は、私にとってはメインの勉強課題でしたので、一応終えたということでほっとしています。とはいえ、分子生物学の理解度は全く不足で、とても分子生物学を概ねわかったとは言えません。これからも人生の最後まで、「大学生物学の教科書」第1〜3巻を繰り返し読み、少しでも理解を深めたいなと思っています。

 「大学生物学の教科書」は、第3巻に続いて第4巻進化生物学、第5巻生態学があります。私は一応読みましたが、あまり興味がわきませんでした。ということで、これらについては紹介するのはやめます。お付き合いしてくださった読者はいるのかどうかわかりませんが、ご愛読ありがとうございました。



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