さ迷い歩き 「電磁波の海」 (4)-5 = ファインマン物理学W 電磁波と物性 = |
内 容 (W巻:電磁波と物性) | 内 容 | |||||
01 | AC回路 4th page | 11 | 密な物質の屈折率 | 14.01.27 | ||
02 | 空洞共振器 | 12 | 表面反射 | 14.01.28 | ||
03 | 導波管 | 13 | 物質の磁性 | 14.01.31 | ||
04 | 電磁気学の相対論的記述 | 14 | 常磁性と磁気共鳴 | 14.02.02 | ||
05 | 場のローレンツ変換 | 15 | 強磁性 | 14.02.19 | ||
06 | 場のエネルギーと運動量 | 16 | 磁性体 | 14.02.20 | ||
07 | 電磁気的質量 | 17 | 弾性 | ----- | ||
08 | 電磁場内の電荷の運動 | 18 | 弾性体 | ----- | ||
09 | 結晶の幾何学的構造 5th page | 14.01.22 | 19 | 粘性のない流れ | ----- | |
10 | テンソル | 14.01.22 | 20 | 粘性のある流れ | ----- | |
21 | 曲がった空間 | ----- |
これまでで電磁波の基礎的部分は終わりです。もちろん、終わりといっても、内容を理解したというわけではありません。へたへたになって何とか読んで、メモをしたといったレベルにすぎません。ここからは、いわゆる物性物理学の範疇になります。したがって、ここで「電磁波の海」を終わらせることも考えられるのですが、私としては大学で少し物性物理に携わったこともあり、また物性物理は、電磁波や量子力学とも密接に関連するので、少し勉強してみようかという気持ちが湧いてきました。というわけで、あまり深入りせず(深入りしたくてもできませんが)、Feynmanがどんなことを語っているのか概観したいと思います。
09.結晶の幾何学的構造 2014年01月22日
まずはFeynmanの冒頭の言葉です。 「電気と磁気に関する基礎的な法則の勉強は終わったので、これからは物質の電気的性質を考えることにする。」 というわけで、本章では、固体、すなわち結晶構造がとり上げられます。
最初に結晶の幾何学的基本構造と結晶の化学結合の話があります。そして、結晶格子の種類と対称性の話が続きます。結晶格子には次の7つの結晶系があります。この名前の付け方がよくわからず、いつも悩んでしまいます。
等軸(立方)晶系、 正方晶系、 斜方晶系、 六方晶系、 単斜晶系、 三方晶系、 三斜晶系
続いて、結晶の成長や、ずれ、転移などの定性的な話があり、最後はブラッグ・ナイの結晶構造に関する論文と結晶構造の写真が転載されています。ここでは紹介はやめておきます。
2014年01月22日
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10.テンソル 2014年01月22日
本章は、分極率や慣性、応力、電磁運動量に関係して数学のテンソルを論じています。テンソルは大学でも(確か)学んでいないのでま、私にはややわかりづらいです。したがって、ここでの議論はすべて省略しますが、Feynmanの面白い文章があるので、そこだけ抜粋してみます。
「物理学者は、現象の最も簡単な例をとって、これを”物理”とよび、より複雑な例を他の分野−たとえば、応用数学、電気工学、化学、結晶学といった−の対象と考える習慣がある。固体物理でさえも、あまりにも特別な物質にこだわっているので、ほとんど半物理にすぎない。したがって、この講義では、いろいろの面白い事がらを省くことになる。」 「テンソルの数学は、それが役立つのはほんの一例にすぎないとしても、向きによってちがう物質の性質を記述するのに特に役立つ。諸君の多くは物理学者にはならず、向きによって事がらが大いに異なるような実際の世界へ入っていくのだから、おそかれ早かれ、テンソルを使わないわけにはいかないだろう。すべてのことを省いてしまったりしないために、あまりくわしくではないが、テンソルについて述べようと思う。我々は物理は完全にやっておきたい。たとえば、我々の電気力学は、どんな電気あるいは磁気の課程、また大学院の課程と比べても、完全である。諸君は数学の高い洗練を受けないときに力学を勉強したので、我々の数学は不完全であり、力学をより優雅に記述する最小作用の原理、ラグランジュ、あるいはハミルトンの原理などというような事項を論じることはできなかった。しかし、一般相対論を除けば、我々は力学の完全な法則をもっている。われわれの電気も磁気も完全だし、多くのものが充分完全である。もちろん量子力学はまだであるし、これからもやらなければならないこともある。しかし、諸君は少なくともテンソルが何であるかを知らなければならない。」
2014年01月22日
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11.密な物質の屈折率 2014年01月22日
まずは、Feynmanの冒頭の言葉です。 「これから、密な物質における光の屈折現象や光の吸収について議論しようと思う。第U巻第6章において、屈折率の理論を論じたが、その頃は数学的準備が足りなかったので、気体のように密度の低い物資つぃに制限しなければならなかった。しかし、それでも屈折率が生じる物理的な原理は明らかにされた。光波の電場は気体分子を分極させ、振動する双極子モーメントを生じる。振動電荷の加速度は場に新しい波を輻射する。この新しい場は元の場と干渉して場を変化させるが、その結果は、元の波の位相を変化させたことと同じことになる。この位相変化は物質の厚さに比例するから、効果は物質内で位相速度がちがうということと同等である。さきの議論では、新しい波が振動する双極子のところにおける場を変化させるというような複雑な効果は無視した。そして、原子内の電荷に働く力は入射する波によるものであると仮定したが、実際には、振動子は入射波だけによって動かされるばかりでなく、他の原子の輻射する波によっても動かされるわけである。この効果をとり入れるのは困難であったので、このような効果が重要でない希薄な気体だけを考察したのであった。」 ふーん、第U章は簡単に流しただけなので、ほとんど記憶にありません(一生懸命勉強しても、同じとは思いますが)。
もう少し続けます。 「しかし、微分方程式を用いると、この問題は大変やさしく取り扱うことができる。この方法は(再び輻射された波が元の波と干渉するためであるという)屈折率の物理的な原因を不明瞭にするが、密な物質の理論をずっと簡単にする。この章ではこれまで学んだことをいろいろと利用する。実際に必要なことは学んできているので、新たに導入しなければならない新しい考えは比較的に少ないのである。必要なことを記憶からよび起こすために、これから用いる方程式と、それらを見出すことができる場所とを表11-1に掲げておく。多くの場合において、物理的な議論に再び時間を費やすことはしないで、ただ、方程式を利用することにする。」 へー、そうなのか。どうなるかわかりませんが、とにかく表11-1の方程式を掲げておきます。
表11-1 | ||
事項 | 前出の章 | 方 程 式 |
減衰振子 | 第T巻23章 | m(d2x/dt2 + γdx/dt + ω02乗x) = F |
気体の屈折率 | 第U巻6章 | n = 1 + (1/2m){Nqe2乗/ε0(ω02乗 - ω2乗)} n =n' - i n'' |
易動度 | 第U巻16章 | md2x/dt2 + μdx/dt = F |
電気伝導度 | 第U巻18章 | μ - τ/m; σ = Nqe2乗/m |
分極率 | 第V巻10章 | ρ分極 = -∇・B |
誘電体内部 | 第V巻11章 | E局所 = E + (1/3ε0)P |
さて、しばらく、できるだけFeynmanの議論をなぞっていくように努めたいと思います。気体の屈折率における議論にならって、単位体積内にN個の粒子があり、各粒子は調和振動子として振舞うものとします。そして、原子あるいは分子の模型として、電子が変位に比例する力によって束縛されているものとします。 Feynmanはこのような前提について次のように述べています。 「すでに強調したように、これは原子の古典的模型としては合理的なものではないが、後に示すように、量子力学の理論は(簡単な場合)これと同等の結果を与える。前の扱いでは原子の振動子に減衰力があり得ることを無視したが、ここでは、これを考慮しよう。」 ということで、次のような電子の方程式が提示されます。
電子の運動方程式: F = qeE = m(d2x/dt2 + γdx/dt + ω02乗x) (11.1) ここで、 E = E0exp(iωt) (11.2) x = x0exp(iωt) |
ここから計算によって、単位体積当たりの分極が求められます。
単位体積当たりの分極: P = ε0Nα(ω)E (11.8) ここで、 α(ω) = (qe2乗/ε0m)婆 { fk /(-ω2乗 + iγkω+ ω0k2乗 } (11.7) α = (qe2乗/mε0){(1/(-ω2乗 + iγω + ω02乗) } (11.6) |
ここで注意しなければならないことは、物質に正弦的な電場が作用するとき、単位体積あたりに誘起される双極子モーメントは電場に比例し、その比例定数αは振動数に関係するということです。非常に高い振動数ではαは小さく、応答はあまり大きくないが、低い周波数では強い応答があることになるそうです。また、比例定数は複素数となっていますが、これは分極が電場に完全について行かず、いくらか位相のずれがあることを意味しているそうです。
続けます。物質内に分極があるということは、物質内に分極電荷とそれによる分極電流があるということで、次のようになるそうです。
分極電荷: ρ分極 = -∇・P (11.9) 分極電流: j 分極 = dP/dt (11.10) |
ここで、Feynmanは、解EとBを求める前に、歴史的な事項ということで、電磁気学において使われる磁場Hと電束密度Dにコメントしています。実は、私は電磁気学を大学で習ったとき、電場(電界)E、電束密度D、磁場(磁界)Hそれに磁束密度Bの意味がよくわからず、頭の中が大混乱したものです。それは今でも続いていますが、Feynmanの解説で少し納得できたような気持ちになりました。ということで、ちょっと脇にそれるような感じですが、私にとってはとても意味があったのでFeynmanの解説を記します。
「マクスウェルが彼の方程式を書いたときは、我々のとはちがった形で与えた。このちがった形が何年も用いられ、現在でも多くの人がその形に書いているので、その相違を説明しておきたい。初期の頃には誘電率の機構は充分に、そして明白には評価されていなかった。原子の性質も理解されていなかったし、物質内に分極が存在することもわかっていなかった。そのため、原子に束縛されていない電荷(導線の中を流れる電荷や表面からこすり取られる電荷など)についてだけ考えた。」
「現在では原子に束縛された電荷を含めて全電荷密度をρで表わすことが多い。束縛された部分をρ分極と書くと
ρ = ρ分極 + ρその他
となる。ここでρその他はマクスウェルによって考慮されたもので、各原子に束縛されていない電荷を意味する。次に、
∇・E = (ρ分極 + ρその他)/ε0
と書こう。式(11.9)からρ分極を代入すると
∇・E = ρその他/ε0 - (1/ε0)∇・P
あるいは
∇・(ε0E + P)= ρその他 (11.11)
となる。」
「∇xBに対するマクスウェル方程式における電流密度も、一般には電子に束縛された電流による寄与がある。したがって、
j = j 分極 + j その他
と書け、マクスウェル方程式は
c2乗∇xB = j その他/ε0 - j 分極/ε0 + ∂E/∂t (11.12)
となる。式(11.10)を使うと
ε0c2乗∇xB = jその他 + ∂/∂t(ε0E + P) (11.13)
を得る。そこで、もし新しいベクトルDを
D = ε0E + P (11.14)
によって定義すれば、これら二つの場の方程式は
∇・D = ρその他 (11.15)
ε0c2乗∇xB = jその他 + ∂D/∂t (11.16)
となるであろう。これらが実際にマクスウェルが誘電体に対して用いた方程式である。彼の方程式の残りのものは
∇xE = -∂B/∂t
∇・B = 0
であり、これらは我々の用いているものと同じである。」
「マクスウェルやその他の初期の研究者たちは磁気的な物質(間もなく取り上げる)に対しても問題があった。彼らは原子の磁気を生じる環状電流について知らなかったので、一部分が欠如した電流密度を用いた。実際は式(11.16)のかわりに、彼らは
∇xH = j’ + ∂D/∂t (11.17)
と書いている。ここでHは、原子の電流の影響を含む点でε0c2乗Bとは異なっている(j’はその残りの電流を意味する)。したがってマクスウェルは4個の場のベクトルE、D、BおよびHを用いた−DとHとは、物質の中で起こっていることを考慮しないですます方法であった。このような方法で書かれた方程式を見出すことも多いであろう。」
「方程式を解くためにはDおよびHを他の場と関係づける必要があり、これは
D = εE 、 B = μH (11.18)
と書くのが習慣である。しかし、これらの関係式はある物質について近似的に正しいにすぎず、その場合でも、場が時間的に急激に変化しないときに限られている(正弦的に変化する場に対してはεとμとを周波数の関数で複素数であるとして、方程式をこのように書くことができる場合が多いが、任意の時間的変化の場についてはこうはかけない)。正しい方法は現在知られている基本的な量を用いて方程式を記すことであり、これは我々が行ってきたことである。」 いやー感嘆しますね。私がずっと悩んでいたことについて、納得の道筋が見えました(よく理解できたというわけではありません)。こういうことは日本の物理学会や電気工学会でもみんな認識されているのでしょうか??
だいぶ横道にそれてしまいましたが、本論に戻ります。まずは、原子に束縛された電荷以外には余分な電荷がない誘電体の物質内では、電磁波はどのように存在するのかを考えていきます。この場合、マクスウェル方程式他は次のようになります。
ρ = -∇・P 、 j = ∂P/∂t
(a) ∇・E = -∇・P/ε0 (11.19)
(b) c2乗∇xB = ∂/∂t(P/ε0 + E)
(c) ∇xE = -∂B/∂t、 (d) ∇・B = 0
途中の議論は省略しますが、等方的な誘電体を考えると、電場の波(z方向に進み、x方向に偏っている)は次のように表わされるそうです。
Ex = E0exp{ i(ωt - kz)} (11.21)
結論として、屈折率は次のようになるそうです。
屈折率: n2乗 = 1 + Nα (11.25) あるいは n2乗 = 1 + (Nqe2乗/mε0){(1/(-ω2乗 + iγω + ω02乗) } (11.27) |
この(11.27)式の分母には複素数の項iγωが含まれていますが、これは振動子を減衰させる効果をおよぼすものだそうです。この式は密度の高い物質には適用できないそうで、さらに高密度の物質の屈折率や複素屈折率、混合物の屈折率が議論されますが省略します。
続いて金属内の波が議論されますが、Feynmanの話を少し聞きましょう。 「固体物質についてこの章で展開した理論は、金属のような良導体に対しても、ほとんど修正なしに適用することができる。金属においては、電子のあるものは特定の原子に束縛するような力を受けていない。このような”自由”電子が伝導現象にあずかるのである。束縛された電子もあり、これに対しては上記の理論がそのまま適用される。しかし、その影響は、ふつうは伝導電子の効果によっておおわれてしまう。」 ということで、金属における屈折率が議論されますが、結果だけを以下に掲げておきます。
金属の屈折率: n2乗 = 1 + (Nqe2乗/mε0){(1/(-ω2乗 + iγω} (11.38) 自由電子の平均衝突時間をτとすると n2乗 = 1 + (σ/ε0)/{ iω(1 + iωτ)} (11.42) ここで、τ = 1/γ = mσ/Nqe2乗 (11.43) |
この金属の屈折率について、低周波の場合と高周波の場合の振る舞いの違いとプラズマ振動数が議論されます。しかし、詳細になりすぎるので省略します。次は表面反射の話になります。
2014年01月27日
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12.表面反射 2014年01月28日
光の反射と屈折については、第U巻で光学の問題としてすでに議論されていますが、本章では新たな角度から議論することになります。Feynmanは次のように述べています。 「さきの議論はこの主題に関して誰でも考えなければならない範囲の事がらであったが、ここでは別の面からこれを再びとり上げる。その理由の一つは、さきには屈折率は実数である(物質の吸収はない)としたことである。しかし他の一つの理由はマクスウェル方程式からみて、表面の波がどのようになるかを扱う方法を知らなければならないことである。我々は前と同じ答えを得るであろうが、しかし、ここではさきにやったようなうまい議論を使うよりも、むしろ波動の問題をそのまま解くのである。」
「表面反射の振幅は、屈折率とちがって、物質の性質ではないことを強調したいと思う。それは”表面の性質”であり、表面がどのように作られているかによって正確に定まる。屈折率n1およびn2の二つの物質の境界面に薄い別の層をつけると反射は一般に変化する(このような境界面ではいろいろな可能性−たとえば油膜の色−がある。適当な厚さは反射光の振幅をゼロにすることもあり、レンズのコーティングはこうして作られている)。ここで導く式は屈折率が(1波長に比べて非常に小さい距離の間で)急激に変化するときにのみ正しい。光では波長は5000Å程度であり、したがって”なめらかな”表面というとき、たかだか数原子の距離(あるいは数オングストローム)で条件が変化するようなものをいうわけである。我々の式は光に対し、みがいた表面に対して成立するだろう。もしも数波長の間で屈折率が次第に変わるならば、一般に反射波ほとんどなくなってしまう。」
第U巻の光学で学んだ光に関する公式をまとめておきます。
”光学”で学んだ公式: 1)反射角は入射角に等しい。 θr = θi (12.1) 2)積n・sinθは入射光と透過光とについて相等しい。(スネルの法則) n1・sinθ1 = n2・sinθ2 (12.2) 3)反射光の強さは入射光に依存し、また偏りの方向に依存する。入射面に垂直なE のときは、反射率R⊥は、次のとおりである。 R⊥ = Ir/Ii = sin2乗(θi - θt)/sin2乗(θi + θt) (12.3) 4)垂直に入射するときは(もちろん偏りによらず) Ir/Ii = 〔(n2 - n1)/(n2 + n1)〕2乗 (12.5) |
まず、正弦平面波を次のように記述します。
E = E0exp i(ωt - k・r) (12.6)
ここで、kは波数ベクトルで、k = 2π/λです。波の位相速度は次のようになります。
vph = ω/k = c/n
したがって、
k = ωn/c (12.7)
平面波の入射波、反射波、透過波について、次のように表わすことができるそうです(境界面はyz面で、xy面は入射波の波面に垂直になるようにします)。
入射波: Ei = E0exp i(ωt - k・r) (12.11) 反射波: Er = E0'exp i(ω't - k'・r) (12.13) 透過波: Et = E0''exp i(ω''t - k''・r) (12.14) 各波について Bi = kxEi/ω、 Br = k'xEr/ω'、 Bt = k''xEt/ω'' (12.15) k2乗 = ω2乗n12乗/c2乗 (12.16) k'2乗 = ω'2乗n12乗/c2乗 (12.17) k''2乗 = ω''2乗n22乗/c2乗 (12.18) |
この後、誘電体における境界条件について、詳細な考察が行われますが、ここでは境界条件の式を掲げておきます。
表12−1 誘電体の表面における境界条件: (ε0E1 + P1)x = (ε0E2 + P2)x (E1)y = (E2)y (E1)z = (E2)z B1 = B2 |
境界条件を適用した波は次のようになるそうです。
入射波: Ei = E0exp i(ωt - kxx - kyy) (12.32) Bi = kxEi/ω (12.35) 反射波: Er = E'0exp i(ω't - k'xx - k'yy) (12.33) Br = k'xEr/ω' (12.36) 透過波: Et = E''0exp i(ω''t - k''xx - k''yy) (12.34) Bt = k''xEt/ω'' (12.37) *各波について、Eは進行ベクトルkに垂直である |
この解析は、入射波のEベクトル(”偏り”)の方向で分けてするのがよいそうです。すなわち、Eベクトルが”入射面”(xy面)に平行な場合とEベクトルが”入射面”に垂直な場合とにわけて解析すべきということです。解析については省略して、いかにその結果のみを掲げます。
スネルの法則: n2sinθt = n1sinθi (12.47) |
入射波のEベクトルが”入射面”に垂直に偏っている場合: E0' = {(kx - k''x)/(kx + k''x)}E0 (12.51) E0'' = {2kx/(kx + k''x)}E0 (12.52) |
入射波のEベクトルが”入射面”に平行に偏っている場合: |E0'| = {(n22乗kx - n12乗k''x)/(n22乗kx + n12乗k''x)}|E0| (12.53) |E0''| = {2n1n2kx/(n22乗kx + n12乗k''x)}|E0| (12.54) |
最後に金属からの反射(金属光沢)と全反射の話がありますが省略します。
2014年01月28日
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13.物質の磁性 2014年01月31日
いよいよ、最後の4章です。物性物理学の磁性体について議論されます。磁性の議論では、第V巻の10章、11章で議論された誘電体の考え方や公式があちこちで援用されます。したがって、時々うろ覚えな誘電体の理論を確認するために、第V巻を引っ張り出さざるをえません。もう少しですので、頑張ってみます。
まず最初に、冒頭のFeynmanの言葉を掲げます。 「この章では物質の磁気的な性質について述べることにする。最も顕著な磁気的な性質を示す物質はいうまでもなく鉄である。同じような磁気的性質はニッケルやコバルト、それから−充分に低い温度(16℃以下)では−ガドリニウムといった元素やその他多くの特異な合金も持っている。このような磁性は強磁性と呼ばれるものであるが、非常に顕著でかつ複雑なものなので別に章を設けて論じることにする。しかし、すべての物質は非常に弱い−強磁性体の示す効果の千分の一から百万分の一というような−ものであるがいくばくかの磁気的な効果を示すのである。ここでは通常の磁性、すなわち強磁性体以外の物質の磁性について述べることにする。」 ということで、反磁性体と常磁性体について定性的な説明があります。
ところが、Feynmanは、これらの定性的な議論はまったくインチキなものであると喝破します。 「さて、ともかく反磁性と常磁性の定性的な説明を諸君にしようと試みたのではあるが、このへんで、古典的な物理学という観点からではどうやってもまともに物質の磁気的な効果を理解することができないというように訂正しておかなければならない。このような磁気的な効果は全く量子力学的現象なのである。しかしながら、少々インチキな古典的な理論をでっちあげて、要するにどういうことになっているのかということの感じを掴むことはできる。このことは次のようにいった方がよいかも知れない。すなわち、何か古典的な理論を作りあげて物質の振舞に関する推測をすることは可能かも知れないが、しかしこれらの磁気に関する現象にはどれをとってみてもすべて量子力学が本質的に関係しているので、これらの理論はどう考えてみても”正当なもの”ではあり得ない。」
「一方、場合によっては、プラズマや沢山の自由電子が存在する空間内のある領域とかのように電子が古典的な磁気理論に基いた諸定理の一部のものは使えるのである。また古典的な理論には歴史的な価値もある。磁性体の意味と振舞についての初期のニ三の推論においては古典的な理論が用いられた。最後に、すでに述べたように、古典力学はどのようなことが起こりそうだということに関して、見当をつけるのに好都合である−もちろんこの種の問題についての真正直な勉強のしかたはまず量子力学を学んでそれから量子力学をもとにして磁性を理解することであるのはいうまでもない。」
「しかしながら、反磁性のような簡単なことを理解するのに量子力学を徹底的に勉強するまで待ちたくはない。となると、我々はどんなことが起こるのかわかりさえすればよいのだというような態度で半ば古典力学に基づいて学ばざるを得ない。ただしこの場合、その論理は本当は正しくないのだということは承知の上である。したがって以下に古典的磁気論に関する一連の定理を示しはするが、これらはそれぞれ異なったことを証明するようなことになるので当然諸君を困惑させることになると思う。最後の一つの定理を除けばどれも皆間違っているのである。その上、物理学的な世界を記述すると言う意味では、量子力学を除外して考えているので全部間違っているともいえる。」
こういう話を大学で学んでいるときに聞かせてもらえたらよかったのにと思います。私は電子工学系から物性物理(磁性体)の分野に入り込んだので、とうぜん量子力学などはこれっぽちも学んでいませんでした。ところが物性物理の本を読めば、当たり前のように量子力学が前提のような話があちこちに出てきて、理解が進まなくなったという経験をしました。そのために、量子力学を自習したのですが、量子力学は自習程度で理解できるような代物ではありませんでした。その結果は無残な敗北!!こんなこともあって、60を過ぎてから量子力学に再挑戦し、その報告が「量子の森」です。少しは理解が進みましたが、いまさらもうだめですね。
とつまらないことを言ってないで、議論を進めていきます。まず、電子が原子核のまわりを円軌道を描いて動いているとすると、電子の角運動量と磁気モーメントは次のように表わされます。
角運動量: J = mvr (13.1) 磁気モーメント: μ = I x S = qvr/2 (13.2) 電子軌道運動の角運動量と磁気モーメントの関係: μ = -(qe/2m)J(電子軌道) (13.4) |
ここで再び、Feynmanの古典論に関する論述です。大変重要と思われるので、少し長いですが掲げます。 「これが古典論から期待される結果なのであるが、何とも不思議なことには、これは量子力学からみても正しいことなのである。そのような定理も幾つかあるのである。しかし、古典物理を続けてゆくとほかのところで間違った答えを与えるようなことに出会ったりするのであるが、それだからといってどれが正しくてどれが正しくないかということをいちいち記憶するのはたいへんなことである。そこでこういうことが量子力学的にいって一般に正しいことなのであるということをいまここで述べておいた方がよいと思う。まず、式(13.4)は軌道運動については正しい。しかし、それが世の中に存在する磁性のすべてではない。電子は(地球がその軸を中心にして回転しているように)、それ自身の軸のまわりにもスピン回転を持っている、そしてそのスピンのために電子は角運動量と磁気モーメントの両方を持っている。しかし、ある全く量子力学的な理由から−これの古典的説明はできない−電子のスピンについてのμとJの比はその電子の軌道運動についてのこれらの量の比の2倍である。
電子のスピンの角運動量と磁気モーメントの関係: μ = -(qe/m)J(電子のスピン) (13.5) |
ということで、一般的にいくつかの電子をもつ原子については、それらの電子のスピンと軌道運動のある種の結合によって作り出される全角運動量と全磁気モーメントがあることになります。この磁気モーメントは(孤立した原子の場合には)角運動量の向きに対してちょうど反対方向に向くということです。これは量子力学からしか得られないものだそうです。また、これらの二つの量の比は必ずしも-qe/mか-qe/2mかのどちらかである必要はなく、その中間の値でもよいのだそうです。それは、軌道運動からとスピンからとの影響が混ざり合っているからということです。このことは、次のように表わされます。
電子の角運動量と磁気モーメントの関係: μ = -g(qe/m)J (13.6) g:ランデのg因子 |
この後、原子核の中の量子と中性子の軌道角運動量と磁気モーメントの話がありますが、ここでは省略します。続いて、磁場の中に置かれた”原子磁石”の歳差運動が議論されます。結果として得られた歳差運動の角速度は次のようになります。
原子磁石の歳差運動の角速度: ωp = g(qeB/2m) (13.11) |
再度、Feynmanの注意を掲げます。 「このようなわけで、古典論によれば電子の軌道−とスピン−は磁場の中で歳差運動をしなければならない。このことは量子力学的にも正しいだろうか?それは正しいことは正しいのであるが”歳差”の意味がちがうのである。量子力学においては古典力学と同じような意味での角運動量の方向については語ることができないのであるが、それにもかかわらずたいへん密接な類似性がある−あまりにも密接なので引き続きそれを”歳差”と呼ぶことにする。このことについては後で量子力学的観点について述べるときに論じる。」 そうだったのか。私のわびしい頭が混乱するわけがわかりました。磁性においては古典論と量子力学とで、理論が全くちがうにもかかわらず、同じ言葉や公式が使われており、学ぶ人は暗黙裡にそれらの違いを理解して学ばなければならないというわけですね。それは知りませんでしたし、またわかっても私には無理な話でした。古典論での角運動量やモ-メントをきちっと理解していない私にとっては、今も大混乱しています。
次に反磁性がとり上げられ、磁場Bによって誘導される原子の磁気モーメントが次のように得られます。これが物質の反磁性ということです。
反磁性の磁気モーメント: 刄ハ = -(qe2乗/6m)<r2乗>平均B (13.17) |
そして、またまた古典論の問題が言及されます。 「ところで、まだ問題が残っている:平均2乗半径<r2乗>平均とは何か?古典力学からは答えは得られない。われわれはもとにもどって量子力学からやりなおさなければならない。電子が原子の中のどこにあるかについてはわれわれは本当はいうことができず、電子がある場所にあるであろう確率しかわからないのである。そこでいま<r2乗>平均を、その確率分布における中心からの距離の2乗の平均であると解釈すると、量子力学によって与えられる反磁性モーメントは式(13.17)と同じになる。この式はもちろん1個の電子についてのモーメントであり、全モーメントは原子の中のすべての電子についての和で与えられる。このように古典理論と量子力学とから同じ答えが得られるということは驚くべきことである。とはいうものの、あとでわかるように式(13.17)を与える古典理論は古典力学的にいっても本当は正しくないのである。」 よーく心に留めておかなければなりません。
次に、以下のようなラーモアの定理が論じられますが、私にはよく理解できません。
ラーモアの定理: 磁場がない場合のすべての運動についてそれぞれに対応する 磁場の中での運動があり、それらはもとの運動にある一定の回転 運動を加えたものである。 ラーモアの周波数(つけ加えられる回転の角速度): ωL = qeB/2m |
ここで、またまたまた古典力学について語られます。 「さて、ここで古典力学によれば反磁性も常磁性も全くあり得ないのだということを示したいと思う。常磁性、反磁性、歳差運動をする軌道などがあるということを証明しておきながら、いままたそれらはみなまちがいであるということを証明しようというのだから、はじめはちょっと気違いじみていると思うかもしれない。しかしまさにそうしようとしているのである!われわれは、もし古典力学を更につきつめてゆくならば、そのような磁気的な効果はあり得ない−それらはみな打ち消し合ってしまうのだ−ということを証明しようというのである。古典理論をどこか適当なところからはじめて、最後まで追及せずに途中で止めてしまうならば、どんな答えでも諸君の望み通りのものが得られる。しかし、もっとも厳密でかつ正しい証明によれば、それがどんな形のものであろうと磁気的な効果は存在し得ないということになるのである。」
その証明は熱力学的平衡などの話が出てきて、私にはほとんど理解できません。とほほほ・・・ ということで、そこは省略して、Feynmanaの話を続けます。 「不幸にして諸君が量子力学に通暁していると仮定することはできないので、ここでそのことについて論じることはとても無理である。ではあるが、われわれがものを習おうとするときにはいつも厳密な法則などをまず学んで、それから、それらがいろいろな事柄に如何にして応用されるかを学ぶという学習方法をとらねばならないというきまりはないのである。この講義でとりあげたほとんどすべての題目はそれぞれ別な方法で取り扱ってきた。電気の場合には、マクスウェル方程式を”第1頁”に書いてそこから得られるすべての結果を演繹した。これも一つの方法ではある。しかし、われわれはいまここで新たに”第1頁”に量子力学の方程式を書いて、そこから何もかも演繹するということから始めることはしない。それが何故そうなるかということを教える前に、量子力学で得られる幾つかの結果を諸君に単に鵜呑みにしてもらうことにする。ということで早速はじめよう。」 うわー、どっちの方法でもよく理解できないはずだから、どうでもよい!ただ前進!前進!のみ。
ということで、ここからは量子力学における角運動量が議論されます。ここは最重要な概念なので、長くなりますが、Feynmanの議論についていくことにしたいと思います。 「磁気モーメントと角運動量との関係についてはすでに述べておいた。それはそれでよいのであるが、しかし、磁気モーメントや角運動量は量子力学においては何を意味するのであろうか?量子力学において、それが何を意味するかを本当に知るためには磁気モーメントのようなものを、エネルギーといったような他の概念に基づいて定義するのが最良の方法であるということになっている。さてそこで磁気モーメントをエネルギーで表現することはわけない。磁場の中でのモーメントのエネルギーは、古典力学によれば、μ・Bだからである。したがって、量子力学においても次のような定義がなされている:もし磁場の中におかれた系のエネルギーを計算したときにそれが(弱い磁場に対して)磁場の強さに比例するならば、その比例係数を磁気モーメントの磁場の方向のz成分と呼ぶ。(本当はいまのところはそれほど気取る必要はないのであって、まだ磁気モーメントを通常の、どちらかというと古典的な、意味に考えてよい)。」
「さて次に量子力学における角運動量の考え方−というよりはむしろ、量子力学において角運動量と呼ばれているものの性質について論じようと思う。諸君も知ってのとおり、新しい種類の法則について論じようというときにはそれぞれの単語が前と全く同じ意味を持つものであると単純に仮定するわけにはゆかない。諸君はたとえば”ああ、角運動量なら知ってるよ。あのトルクで変るやつだろ”と思うかも知れない。しかし、トルクとは一体何だろう?量子力学においては古い量についての新しい定義がなければならないのであるが、それは量子力学で定義された量なのであるから、”量子角運動量(quantangular
momentum)”とか何とかいうような名前で呼ぶのが最も筋の通った話なのかも知れない。しかし、量子力学の量で、その考えている系が充分に大きなものになったときには昔からの角運動量の考え方と同じものになるような量をみつけることができるならば、そのために余計な言葉を作り出すのは意味がない。むしろ単に角運動量と呼んだほうがよい。というわけで、これから述べようとするその妙なものは角運動量なのである。それは大きな系の場合には古典力学における角運動量と同じものになるのである。」 なーるほど、だからなぜ私の頭は混乱していたのかがよくわかってきました。でも、まだ混乱中で、頭の中が整理されていません。
ここで、空虚な空間にぽつんと置かれた原子のように、角運動量が保存される系を考えます。そのような原子は好きな軸のまわりに通常の意味での自転(スピン)をすることが可能なのだそうです。そして、ある与えられたスピンについて、エネルギーはすべて同じでありながら、それが角運動量の軸の特定の方向に対応しているような多くの異なった”状態”があると考えるということです(ここで出てきた”状態”とは量子力学特有の概念で、それを理解するには量子力学を学ばなければなりません)。したがって、古典理論においては、ある与えられた角運動量に対してとり得る状態の数は無限にあり、それらのエネルギーはみな等しくなるといえます。
ところが量子力学ではそのようには考えません。Feynmanの説明を聞きましょう。 「しかし、量子力学では奇妙なことが幾つか起こるのである。まず、このような系がとり得る状態の数は限られている−有限個しかない。系が小さければこの有限個数は非常に小さくなり、また系が大きくなればその数は非常に大きくなる。次に”状態”はその角運動量の方向を与えることによって記述することはできなくて、角運動量のある方向−たとえばz方向−に沿った成分によってのみあらわすことができる。古典理論によれば、ある与えられた全角運動量Jを持つ物体は、そのz方向成分として+Jから−Jまでのあらゆる値をとり得る。しかし量子力学によれば、角運動量のz成分はあるはっきりと区別された値しかとることができないのである。」 古典論と量子力学では、この”状態”が連続的か不連続的かが違うのですね。少しわかりました。すごいなー!!
ということで、量子力学からは角運動量について次のようなことがいえるのだそうです。
ある与えられた系は(原子、原子核、そのほか何であっても)ある与え られたエネルギーのもとでは、ある特有の数 j があって、その角運動 量Jのz成分Jzは以下のような1組の値のうちのどれか一つでしかあ り得ない。 Jz : jh、(j-1)h、(j-2)h、・・・、-(j-2)h、-(j-1)h、-jh、 (13.23) j :系のスピンまたは全角運動量量子数 |
ここでまた不思議な量子力学の話があります。 「諸君は、いまここで述べていることはある”特別な”z軸についてのみあてはまることなのではないかと心配するかも知れないが、そうではない。スピンがjであるような系においては、角運動量のどの軸に沿った成分であっても式(13.23)に示した値のうちの一つしかとることができないのである。これは全く不思議なことなのではあるが、いまのところはそのままう呑みにしておいてほしい。この点についてはまた後でとりあげて論じることにする。とにかく、z成分がある数から同じ数数の負の値までの間にあるので、どっちがz軸の正の向きなのかを決める必要がないということだけでも少なくとも有難いと思わなければならない。(もちろん、もし+j
から負のちがう値までにわたるなどといったら、他の向きを向いたz軸を定義することができなくなるので、それこそとんでもない不思議なことになってしまう。」
その他に論じられている点をいくつか述べてみます。一つは、j の2倍は整数でなければなりません。すなわち、j
は整数か半整数でしかありえないということです。二つ目は、与えられたj に対してとり得る状態の数は(2j
+ 1)個であるということです。もしエネルギーとスピンがきまれば、そのエネルギーに対応するちょうど2(j
+ 1)個の状態があって、それぞれの状態は角運動量のz成分のとり得る幾つかの値の一つ一つに対応しているということだそうです。難しいですね。
次に三つ目があります。いま既知の j を持った原子をどれか1個とり出して、その角運動量のz成分を測定してみるならば、取り得る値のうちのどれでもが得られる可能性があり、かつそれぞれの値にはとくにこれになりそうだというものはなくて、みな同じ可能性を持っているのだそうです。 Feynmanは次のように説明しています。 「すべての状態は実際のところそれぞれ単一の状態であって、どれがよいとか本当だとかいうようなものではない。いずれのものもこの世界においては同じ”重み”を持っているのである。ところで、偶然にも、このことは古典論と簡単な相似性を持っている。諸君が古典論について同じ質問をしたとする:全角運動量が同じであるような系の集まりの中から任意に1個のサンプルとなる系を取り出したとすると、角運動量のz成分がある特定の値になる見込みはどのくらいか?−最大値から最小値まですべてみな同じだという答えになる。この古典論の結果は量子力学において(2j + 1)個の可能性が等しい確率を持つということに対応している。」
最後のもう一つです。古典論での計算においては、最終的な結果として角運動量の大きさの2乗J・Jが出てきますが、量子力学的な公式とJ2乗 = J・J = j (j + 1)h2乗とするとうまくいくことが多いそうです。このルールはよく使われ、通常は正しい結果が得られるが、常にというわけにはいかないのだそうです。なぜなのかということが議論されていますが、ここでは議論の詳細は省略し、その結論だけ述べます。すなわち、古典論的に考えれば、Jのz成分の最大値はJの大きさ√J・J = √j(j + 1)・h となるが、量子力学的にはjh であり、常に √j(j + 1)・h より小さくなります。したがって、角運動量が”完全にz軸方向に向く”ことは決してないといえるのだそうです。へー、またまたすごいことが出てきました。驚きの連続で、仰天です。
最後は、原子的な粒子の磁気エネルギーについて議論が進められます。ここで得られた結論をまとめておきます。
磁気モーメント: μ = -g(qe/2m)J (13.27) 磁場内の磁気モーメントのエネルギー: Umag = -μ・B = g(qe/2m)JzB (13.29) ここで、Jzの値は(13.23)にしたがった特定な値 |
Umagの最大値はg(qe/2m)h j Bとなり、qeh/2mは通常ボーア磁子といわれています。
μB = qeh/2m
以上から、次のような結論が導かれます。すなわち、原子的な粒子の系のエネルギーはそれが磁場の中に置かれると、その磁場の強さに比例し、かつJzに比例した分だけ変ることになります。このことは原子的な粒子の系のエネルギーが、磁場によって2j
+ 1個の準位に分割されたともいいます。1個の電子を考えると、電子のスピンは1/2で、2個の可能な状態があることになります。Jzはh/2と-h/2です。静止している(軌道運動をしていない)電子については、スピン磁気モーメントのg値は2であるので、したがって磁気エネルギーは+-μBBのうちのいずれかとなります。磁場のなかでは、電子のスピンは”上向き”(磁場と同じ向き)であるか、”下向き”(磁場と反対の向き)であるかのいずれかとなるということです。
ようやく磁性の導入部分が終わりということです。この章はとても重要なので、長くなることは気にしないで少していねいに書いてみましたが、少々疲れました。
2014年01月31日
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14.常磁性と磁気共鳴 2014年02月02日
最初に、前章で議論した”量子化された磁気的状態”について、Feynmanが述べています。 「量子力学においては角運動量は任意の向きを持つことはなく、その角運動量のある与えられた向きに向いた成分は等間隔のはっきりと区別される値しかとらないということを前章で述べた。これはショッキングかつ奇妙なことである。このようなことには、諸君の心理状態がもっと進んで、このような考え方を受入れるための心の準備ができるまでは、こんなことにたちいるべきではないと思うかも知れない。しかし、実際のところ諸君の心理状態はこのようなことを容易に受入れられるようになるという意味においては、これ以上決して進まないのである。その形自体は今までのことに比べて特にそれほどこみいったものでも進んだものでもないものを、何とか人にわからせるよううまい説明のしかたはないのである。微小な世界でのものの振舞いは−すでに繰返し述べたようにに−諸君が日ごろ馴れ親しんでいるものとはすべてちがうのであり、全く奇妙なものなのである。古典物理学を続けてゆく合間に、微小な世界でのものの振舞いについて、はじめから深く理解するなどということは考えずにむしろ一種の経験として、だんだんと馴れてゆくことを心掛けるのがいいと思う。」
「こういうことを理解するということは、たとえそれができたとしても、非常にゆっくりとしかできないのである。もちろん、量子力学の立場からみたときにどのようなことが起こるかを知るということと−もしそうすることが理解するということの意味であるならば−についてはうまくなることができるだろう。しかし、これらの量子力学的な法則が”自然なものである”という安心感を持つようには決してならない。もちろんそれらは自然なものなのである。がしかし、われわれ自身の日常の経験という程度のレベルの話からすれば自然ではないのである。角運動量に関してのこの法則についてここでとろうとしている態度は、今までにこの講義で述べてきた多くの事柄に対する態度とは全く異なったものであるということをことわっておかなければならない。我々はそれを”説明する”ことはしないが、少なくとも何が起こるかを知らせることだけはしておこうというのである;物質の磁気的な性質について論じる際に、磁性についての−あるいは角運動量と磁気モーメントについての−古典論の考え方は正しくないということをいわずにいるのは不正直というものであろう。」
「量子力学についてもっともショッキングでかつ戸惑う点の一つは、どの方向を向いた軸に沿った角運動量をとりあげてみても常に整数か半整数掛けるhになるということである。これはどんな軸をえらんでもそうなるのである。ほかにどんな軸をとってみてもその方向の成分もやっぱりまた同じ組合わせのものになるという−この奇妙な事実についてのもっと高級で微妙な点については後章にゆずるが、その時には、このどうみても矛盾している問題が、如何にしてときほぐされてゆくかを知る喜びを味わうことができよう。」 でも私にはそんな時が来るとはとても思えません。それでも、その雰囲気を少しでも味わいたいと考えて、もう少し頑張りたいと思います。
それでは、議論に戻ります。まず、前章の復習になりますが、単に原子的な粒子の系には、常にその系のスピンと呼ばれる j という数(整数か半整数でなければならない)があって、角運動量Jある任意の方向を向いた軸に沿ったそれらの成分Jzは常に+jh と−jh の間の次のような値のうちの一つの値をとります(これはそういうものであるとことにしてとりあえず受入れなければならないということです)。
Jz : jh、(j-1)h、(j-2)h、・・・、-(j-2)h、-(j-1)h、-jh、 (14.1)
j :系のスピンまたは全角運動量量子数
また、前章で、すべての単純な原子的な粒子の系は角運動量と同じ方向を向いた磁気モーメントμを持っているということも学んでいます。そしてこのことは原子や原子核ばかりではなく、もっと基本的な素粒子についてもいえるのだそうです。 ここでいう磁気モーメントとは、”磁場の中に置かれた系のエネルギーは、その磁場が弱いときには、たとえばその磁場がz方向を向いているとすると、-μzBと書ける”ということを意味しているそうです。充分に磁場が弱いときは、エネルギーは磁場によって次のように変るそうです。
凾t = -μzB (14.2)
ここで、μz = g(q/2m)Jz (14.3)
複数のJzをもつ系に対して磁場Bをかけると、磁気モーメントとの相互作用が生じ、Jzに対応したエネルギー準位に分かれるそうです。そのエネルギー準位の間隔は次のようになるそうです。
hωp =g(q/2m)hB
すなわち、次のようになります。
ωp =g(q/2m)B
ここで、=g(q/2m)は磁気モーメントと角運動量の比となっています。
続いて、角運動量が量子化されていることをはじめて発見したシュテルン・ゲルラッハの実験について述べられています。この摩訶不思議な角運動量の量子化は実験的事実として受入れなければならないということです。更に、ラビとその協力者たちが開発した改良された磁気モーメント測定装置について述べています。このラビの分子線の実験は共鳴振動数ωpをたいへん精密に測定できるのだそうです。
次に、物質の常磁性が論じられます。永久磁気モーメントを持っている原子を考えます。どんな原子が永久磁気モーメントを持っているかについて説明がありますが、省略します。単位体積当たりの磁気モーメント、すなわち単位体積内の原子的な粒子の磁気モーメントのベクトル和を磁化Mとすると、次のように表わせます(このあたりの議論は誘電体での議論がそのまま利用できます)。
M = N<μ>平均 (14.8)
磁場Bのなかでの磁気エネルギーは-μ・B = -μBcosθとなり、弱い磁場ではMはBに平行で、次のような大きさになるそうです。
M = Nμ2乗B/3kT (14.9)
この磁場に比例して誘導される磁化が常磁性の現象を示すことになるのだそうです。MのBに対する比率を帯磁率といいます。
そして、この常磁性について量子力学の観点から議論します。途中の計算は長くなるので、結論だけ記します。スピンが1/2である原子については、その単位体積当たりの磁気モーメントMは次のようになるそうです。
単位体積当たりの磁気モーメント: M = Nμ0 tanh(μ0B/kT) (14.21) |
これをグラフに表わすと、極限値がNμ0の飽和曲線になります。すなわち、Bが非常に大きくなると、モーメントはみな同じ方向を向いて並ぶからとのことです。一方常温のときは、M = Nμ02乗B/kTと表わすことができ、古典論と同じようにMはBに比例するということです。
常磁性に関するこの量子理論はあらゆるスピンを持った原子に適用できるように容易に拡張できて、弱い磁場における磁化は次のように導かれるということです。
M = Ng2乗 {j(j + 1)/3}(μB2乗B/kT) (14.24) ただし、μB = (qeh/2m) (14.25) |
この後は、常磁性の応用として、断熱消磁による冷却の驚くべき話がありますが、省略します。最後は核磁気共鳴の定性的な説明があります。学生時代、核磁気共鳴を勉強しようとしたのですが、量子力学を何も知らない者にとっては絶壁を見上げるようで、すぐにあきらめたものでした。ということで、Feynmanの丁寧な説明にもかかわらず、今回も核磁気共鳴はよく理解できませんでした。
2014年02月02日
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15.強磁性 2014年02月16日
磁性の最終コーナーに入ってきました。物性物理では定性的な説明の部分があるのですが、どうしてそうなのかよく分からないところが多々あります。この章の概要について、Feynmanの話を聞きましょう。 「この章では物質中の磁気モーメントの全体としての効果が常磁性や反磁性の場合にくらべてはるかに大きいような物質について論じる。この現象は強磁性と呼ばれる。常磁性体と反磁性体の場合には誘起された磁気モーメントは莫大なものなので磁場自体に大きな影響を持つのである。実際のところ誘起されたモーメントが非常に強くて、観測される磁場の主要な成分となっていることもしばしばである。したがって、大きな誘導磁気モーメントに関する数学的理論は、われわれが気を配らなければならないものの一つとなるわけである。もちろんそれは単なる技術的な問題にすぎなくて、本当の問題は何故磁気モーメントはそんなに強いのか−どういうふうにしてそうなるのか−というところにあるのであるが、この問題については少し後で論じる。」
強磁性体の磁場を求める方法は、誘電体の電場を求める方法と極めて類似しています。そのため、最初に誘電体の関連式を次に掲げておきます。
誘電体理論: ρ分極 = -∇・P (15.1) ∇・E = -∇・P/ε0 + ρその他/ε0 ∇・(ε0E + P) = ρその他 (15.2) |
ところで、誘導電気双極子と電場とを関連づける理論は比較的面倒で、実際のところある種の簡単な場合にしか適用できなく、それも近似的にしか成り立たないものであるということです。その近似的な方法では、原子に働いている電場は(周囲の原子の双極子モーメントはそのままであるとして)その原子を抜き取ってしまったとしたらその後に残るであろう小さな空孔の中心にあるはずの電場に等しいとしたとのことです(第V巻第11章11−4)。そして、分極された誘電体の空孔の中の電場は空孔の形に依存することを求めました。その式を掲げます。
誘電体の空孔の電場: a.分極に垂直な薄い円盤型の空孔 E空孔 = E誘電体 + P/ε0 b.分極に平行な針状の切り込み E空孔 = E誘電体 c.球形の空孔 E空孔 = E誘電体 + (1/3)P/ε0 |
ここで、Feynmanは次のように述べています。 「さてここでは磁性についてこれと同じようなことを論じなければならない。それをするための簡単でてっとりばやい方法は単位体積当りの磁気モーメントMはちょうど単位体積当りの電気双極子Pのようなものであって、Mのdivに負の符号をつけたものは”磁荷密度”ρm−それが何を意味するかは別問題として−に等しいとすることである。しかし、それだからといって人為的に類似性をでっちあげて、
∇・M = -ρm (15.4)
と書くのをやめねばならぬということにはならない。」
「ただしここでρmは純然たる数学的な量である。このようにすると、静電気の場合と完全な類似が成り立ち、静電気で馴れ親しんだ式をそのまま全部使うことができるのである。これに似たことは皆よくやったのであって、実際のところ、むかしはこの類似は本当にそうなのだと信じた人さえあったのである。彼らはρmという量は”磁極”の密度をあらわすものと信じたのである。しかし現代では我々は物質の磁性は原子内を環状に流れる電流−電子の自転あるいは原子のなかでの電子の移動による−に起因するということを知っている。したがって”磁極”などというような神秘的なものの密度によって論じるよりは、原子的な電流によって論じる方がより現実的で物理的な観点からは望ましい。」
ここでは、単位体積当りの平均双極子モーメントMによって物質の磁気的な状態を論じることができるような巨視的な問題のみ扱うことにするそうです。まず、磁場の真のみなもとになっている電流密度を次のように考えるとのことです。
j = j分極+ j磁荷 + j伝導 (15.5)
そうすると、この全電流密度j がマクスウェル方程式のBのcurlに対応するとのことです。
c2乗∇xB = j /ε0 + ∂E/∂t (15.6)
途中の議論を省略しますが、j磁荷は次式で与えられます。
j磁荷 = ∇xM (15.7)
また、その物質が誘電体であるならば、j分極 = ∂P/∂tとなります。その結果、電流密度j は次式のように表わされます。
電流密度: j = j伝導 + ∇xM + ∂P/∂t (15.10) |
この式をマクスウェル方程式に代入すると、次の結果が得られます。
マクスウェル方程式: c2乗∇x(B - M/ε0c2乗) = j伝導 /ε0 + ∂/∂t(E + P/ε0) (15.11) |
ここで、次のような新しいベクトル場D(学校では”電束密度”と教わった)とH(学校では”磁場”と教わった)とを導入します。
D/ε0 = E + P/ε0
H = B - M/ε0c2乗 (15.12)
そうすると、式(15.11)は次のようになります。
マクスウェル方程式: ε0c2乗∇xH = j伝導 + ∂D/∂t (15.13) |
私は学校時代、いや今でもこのベクトル場DとHの扱いに不慣れで、いつまでたってもEとBとの物理的違いが理解できなく困惑されています(頭が悪いからだと言われればそれまでですが)。当時の電気系の電磁気学では(現在も恐らくそうと思われますが)、このDとHを用いて式が表現されています。ところで、この式について、Feynmanは次のようなコメントをしています。 「この式は単純なようにみえるが、それはすべての複雑な部分がDとHという文字の中に隠されているからにすぎない。さてここで諸君に注意しておかねばならないことがある。mks単位を使う人の大半はHの別の定義を使うことにしているということである。彼らの場をH'とすれば(もちろん彼らはこれをプライムのないHとよぶ)、これは次のように定義されている。
H' = ε0c2乗B - M (15.14)
(そのほかε0c2乗を通常1/μ0という新しい数であらわすが、その代わりそのときの話のつじつまをあわせるためにもう一つの別の定数を使う!)このように定義すると式(15.13)はもっと簡単になって
∇xH' = j伝導 + ∂D/∂t (15.15)
となる。」
「しかしこのようにH'を定義することの難点は、まずmks単位を使わない人たちの定義と一致しないということと、次にはH'とBが別の単位を持つということである。我々の考えではHとMの単位を持つよりは−H'はMの単位を持っているのであるが−Bの単位と同じ単位を持つほうが都合がよい。ただし諸君が技術者になって変圧器とか磁石とかいうものを設計するような仕事をしようというのなら気をつけなければならない。というのは、Hの定義として、我々の用いた式(15.12)ではなく式(15.14)の定義を使っている本が多く、またその一方では−特に磁性体のハンドブックなどでは−我々が用いたのと同じ方法でBとHを関連づけている本も沢山あるからである。諸君はどちらの習慣が使われているのかを常に判断するように注意しなければならない。」
私が混乱している理由はよくわかりました。でも未だに頭はすっきりしません。というのも、この後磁気に関する単位の説明があり、そこで”ウェーバー”や”ガウス”、”エルステッド”などが出てきて、益々頭が混乱してきます。Feynmanが単位について表にまとめているので、それを掲げておきます。
磁気的な量の単位: 〔B〕 = ウェーバー/メートル2乗 = 10の4乗ガウス 〔H〕 = ウェーバー/メートル2乗 = 10の4乗ガウス、 あるいは 10の4乗エルステッド 〔M〕 = アンペア/メートル 〔H'〕 = アンペア/メートル 便利な換算法: B(ガウス) = 10の4乗B(ウェーバー/メートル) H(ガウス) = H(エルステッド) = 0.0126H'(アンペア/メートル |
この単位について、もう一つFeynmanが注意を与えています。 「ところでもう一つまずいことがある。我々のHの定義を使う人たちの多くがHとBの単位を別々の名前で呼ぶことにしてしまったことである!次元は同じなのに、Bの単位を1ガウスと呼びHの単位を1エルステッドと呼ぶのである。というわけでBのグラフはガウス単位で書かれ、Hのグラフはエルステッド単位で書かれている本が沢山ある。これらは本当は同じ単位−mks単位の10の-4乗倍−なのである。」 うわー!!これじゃー私にはわかりませーん!!
次は磁荷曲線の話になります。ここでは、磁場が一定の場合、あるいはj伝導にくらべて∂D/∂tを無視してもよいほどゆっくりと磁場が変わっている場合のような単純な状況について考えます。そのような状況では、磁場は次のような方程式に従うことになるそうです。
∇・B = 0 (15.16)
∇xH = j伝導 /ε0c2乗 (15.17)
H = B - M/ε0c2乗 (15.18)
鉄のまわりに銅線のコイルを巻いた円環(あるいはドーナッツ)を考えます。すると、次の式が求まることになります。
H = (1/ε0c2乗)(N I/l ) (15.20)
Hがときどき”磁場の強さ”と呼ばれるのは、この式が示すようにHが磁化電流I に直接比例するからだそうです。ここで、Feynmanは次のように述べています。 「さて要するに我々が欲しいのはHにBを関係づける方程式である。しかしそのような方程式は無い。もちろん式(5.18)はあるが鉄のような強磁性体ではMとBとの間に直接の関係がないので役に立たないのである。磁化Mは鉄のそれまでの歴史に関係しているのであって、単にそのときのBの値によって決まるのではないのである。」 ということで、鉄の磁化曲線とヒステリシスループが定性的に説明されますが、ここではグラフを書くこともできないので説明は省略します。
次に、鉄芯を持ったインダクタンスと電磁石が議論されます。これは電気回路に関するもので、磁性体のもっとも重要な応用の一つといえます。しかし、ここでは説明を省略します。
最後に、自発磁化の話があります。鉄とかニッケルとかいう強磁性体の磁化は原子の内部電子殻の磁気モーメントによりますが、各電子の磁気モーメントμのz方向の成分は次のようになるということです。
μz = qh/2m (15.28)
話を簡単にするために、内部殻電子が1個だけのニッケルを取り上げます(鉄は内部殻電子が2個である)。前章で原子磁石考えたとき、単位体積当りの平均磁気モーメントとして次の結果を得ました。
M = Nμ tanh(μBa/kT) (15.29)
ただし、Baは原子に働きかけている磁場です。
ここで、Feynmanは次のように論じています。 「常磁性の理論の場合にはすべての原子のところでの磁場を考えるときに周囲の原子の効果を無視してBaとしてはBそのものを用いた。強磁性の場合は話は複雑になる。個々の原子に働きかけている磁場Baとして鉄のなかでの平均磁場を用いてはいけないのである。代わりに誘電体のところでしたのと同じようなことをここでする必要がある−1個の原子に働いている局所的な磁場を求めなければならないのである。厳密に計算をするならばいま問題にしている原子のところにおける結晶中のすべての原子による磁場の寄与を加え合わせなければならない。しかし誘電体のところでしたのと同じように、1個の原子のところにおける磁場はその物質中の小さな球形の空孔の中での磁場と同じである−周囲の原子のモーメントはその空孔があることによって代わることはないという仮定のもとに−という近似をする。」
そして、次のような強磁性の方程式が導かれます。
強磁性の方程式: ∇・(H + M/ε0c2乗) = 0 (15.32) ∇x H = 0 |
この式は、静電気の方程式とくらべて、EをHに、そしてPをM/c2乗に対応していることがわかります。ここで、再びFeynmanはHについて注意を促しています。 「この純代数学的な対応は過去において幾つかの混乱を招くもとになったことがある。Hこそが”磁場そのもの”であると考えるような傾向があったのである。しかし、すでに述べたようにBとEが物理的に基本となる場なのであってHはそこから導かれた概念なのである。というわけで、方程式は似ているが、物理は似ていないのである。しかし、だからといって同じ方程式は同じ解を持つという原理を使うのを止めねばならぬということにはならない。」
ということで、誘電体での議論と類似した議論で、自発磁化の議論が進められますが、グラフなどが使われているので、ここでは説明が困難です(実はくわしくは理解できないということです)。これで、とにかく強磁性は終わりです。これで本当によいのかな??
2014年02月19日
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16.磁性体 2014年02月19日
冒頭で、Feynmanが前章で学んだ磁石に関する一般理論を手短に?まとめてくれていますので、そのまま掲げます。 「まず、我々は磁性のもととなるものとして物質中の原子的な電流を想定し、そして磁性を体積電流密度 j磁化 = ∇xMの関数として表わしたが、これが実際の電流をあらわすのではないことはここで強調しておかなければならない。磁場が一様なときに電流は本当は完全に打ち消しあうのではないのである;すなわちある1個の原子の中でぐるぐるまわっている電子による電流と他の原子の中でぐるぐる回っている電子による電流とはその合計がちょうどゼロになるように重なり合っているのではないのである。1個の原子の中においてさえ磁化の分布は一様ではない。たとえば1個の鉄の原子のなかでは磁化は原子核から近からず遠からずというところにあるどちらかというと球形に近い殻の中に分布している。」
「このような物質中の磁性はその詳細をみると非常に複雑なものである;非常に不規則なものなのである。しかしここではこの微細な複雑さは無視してもっと大きな平均的な観点に立っての現象を論じよう。そうすると、内部の領域で原子に比べて大きいある有限な面について考えた平均電流はM = 0のときにゼロになるということは正しい。したがって、我々が今ここで考えているレベルの話での単位体積当りの磁化とかj磁化とかいうようなものは1個の原子の占める体積にくらべて大きい領域についての平均値を意味する。」 そういうことだったのですね。頭が悪いから、ミクロな話が進んでいるのか、あるいはマクロな話に変っているのか、途中でわからなくなってしまいます。よく文章を読んで、現在の立ち居地を確認しながら読む必要があるということですね。当たり前のことですが・・・
さらに続けます。 「前章ではまた強磁性体は次のような面白い性質を持つということも発見した。ある温度より上では強い磁性を示さないが、一方その温度以下では磁性を持つ。以下略」 「我々が用いている強磁性の一般理論では電子のスピンが磁化の原因となると仮定している。電子は1/2のスピンを持ちまたその磁気モーメントは1ボーア磁子すなわちμ = μB = qeh/2mである。電子のスピンは”上向き”と”下向き”の両方の場合があり得る。電子は負の電荷を持っているからスピンが”上向き”のときには負のモーメントを持ちスピンが”下向き”のときには正のモーメントを持っている。我々の通常の表現法によれば電子のモーメントμはそのスピンと反対の符号を持つのである。」
「与えられた磁場Bの中での磁気双極子の向きについてのエネルギーは -μ・Bであることはすでに述べたが、スピンしている電子のエネルギーは周囲のスピンの向きに関係する。鉄の場合には、近くの原子のモーメントが”上向き”であればその隣りの原子のモーメントもまた”上向き”である傾向が非常に強い。これが鉄、コバルトおよびニッケルの磁性を非常に強くしている原因である−モーメントは皆平行に並びたがるのである。」
ということで、これから鉄のモーメントが何故みんな平行になろうとするのかを議論していきます。最初に、量子力学における禁制原理、すなわち2個の電子は全く同じ状態を占めることはできない、あるいは2個の電子は位置とスピンに関して全く同じ状態にはあり得ないという原理について説明があります(第X巻:量子力学を参照)。大半の物質が磁性を持たないのは、原子の外にある自由電子のスピンが互いに反対の向きを向いて平衡を保とうとする傾向が非常に強いためであると説明しています。そこで、問題は鉄のような物質が何故通常の物質と違ってスピンが同じ方向を向くのかということになります。
ここで、物性論で取り上げられている説明について、Feynmanの記述を掲げてみます。 「ところで内部殻にあって磁性を持たせるもとになっている1個の電子の上向きのスピンが外側を飛びまわっている伝導電子に反対の向きを持たせるように働きかける傾向があると考えられている。伝導電子は”磁気”電子と同じ領域内にはいってくるのだからこのようなことが当然起こるであろうことは予想される。これらの電子は動きまわるのであるから、そのひっくり返しになっているというかたよった性質を持ったまま隣の原子のところへ行く;すなわち、”磁気”電子は伝導電子を逆向きにしようとし、その伝導電子は今度は次の”磁気”電子の向きを揃えさせようとする相互作用と同じである。いいかえれば、平行なスピンにしようとする傾向はその両者とあるていど反対の向きを向く傾向を持つ中間媒体の働きによるものなのである。」
「このしくみでは伝導電子が完全に”逆さま”になることは要求されていない。”磁気的な”差引き勘定が反対向きになるのに足りるだけのほんのわずかの偏りがあればよいのである。これが、最近このようなことを計算した人たちが強磁性の原因であろうと考えているしくみである。しかし、ともかく今日まで単にその物質が周期表の第26番目のものであるということだけからλの値を計算した人は誰もいないのだということを強調しておかなければならない。要するにまだよくわかっていないのである。」
さらに議論が進められ、物質中の平均内部エネルギーの式と強磁性体の自発磁化(H
= 0)の式が次のように求められます。
平均内部エネルギー: <U>平均 = -Nμ(H + λM/2ε0c2乗)tanh x (16.3) ここで、x = μ(H + λM/ε0c2乗)/kt |
自発磁化: M/M飽和 = tanh〔(Tc/T)(M/M飽和)〕 (16.4) ここで、M飽和 = Nμ、 Tc = μλM飽和/ε0c2乗 |
この自発磁化の式をグラフで表わすと、実験値と比較的よく一致するとのことです。他方、原子磁石は空間内ではすべての方向を向き得るという古典理論からの計算値は実験とは一致しないということです。ここで、Feynmanは次のような考察を行っています。 「量子理論といえども高温のときと低温のときとには実験的に観測される振舞いからずれてしまう。このようにずれるわけは理論の中で少々雑な近似をしたからである;すなわちある原子のエネルギーは周囲の原子の平均磁化に依存すると仮定したことである。いいかえればある原子の周囲にある”上向き”の原子にはみな量子力学的な整列効果のエネルギーの影響があるのである。しかし”上向き”のものはいくつぐらいあるのだろうか?平均的には、それは磁化Mから知ることができる−ただし平均的に飲みの話である。ある場所にある原子にとっては上向きやら下向きやらのものがまわりにあって平均的にはゼロになってしまい、それに関連した項からのエネルギーはないなどという具合になる。」
「というようにして違った場所にある原子は違った環境にあって上向きと下向きの数はそれぞれ原子によって違うのであるから、我々はもう少し複雑な平均を使う必要がある。平均的な影響力の中に置かれたただ1個だけの原始について論じるのではなく、それぞれの原子が実際に置かれている状態を考えてエネルギーを計算し、それから平均エネルギーを求めるようにしなければならない。しかし周囲のもののうち何個が”上向き”で何個が”下向き”かはどうやったらわかるのだろうか。もちろんこれ−”上向き”と”下向き”の数−は我々が計算しようとしているものそのものであり、したがってこれは非常に複雑に入り組んだ相関関係の問題になるのであって、いまだかつて解かれたことのない問題となっているのである。これは過去何年にもわたって取り組まれてきた如何にも興味をそそられ興奮させられる問題であり、これまでにも物理学史上に名を残すような偉大な人々が何人か論文を発表したが、彼らといえども完全には解くことができなかったのである。」 うわー、すごい問題なのですね。私がよく理解できないのも、なるほどとうなずける話ですね。
次に、強磁性体の熱力学的性質(キュリー点近傍の比熱)と磁気モーメントの強制的反転による角運動量の変化に関する実験と考察が述べられていますが、ここでは省略します。
その次は、磁区や磁壁、磁歪、磁化方向、バルクハウゼン効果など、強磁性の定性的説明がありますが、これらも省略します。
最後は、技術的分野に用いられているいろいろな特殊な磁性体についての話があります。学生時代に聞いたことのある、フェライトやアルコニV、パーマロイなどが取り上げられています。ここで、Feynmanは物性物理(磁性体)の研究について面白い話しをしていますので、そのまま掲載します。 「我々がいまここで扱い得る程度のものよりも、もっと進んだレベルでの話ではあるが、物質の磁気的な性質に関する問題はいろいろな分野の物理学者を魅惑して来た。まず、物事をよくする方法を考えることを好む実際的な人達がいる−彼らはより良くそしてより面白い性質を持った磁性体を作り出すことに興味を持っている。フェライトのようなものやその利用方法の発見は、物事をするのに何か新しいうまい方法はないかと考えている人たちを非常に喜こばせるものである。そのほか、少しばかりの基本的な法則から自然が作り出すひどく複雑な事象に魅せられる人もいる。1個の同じ普遍的な考え方から出発して、自然は鉄の強磁性や磁区からクロムの反強磁性へ、あるいはフェライトや柘榴石の磁性、希土類元素のらせん構造等々へと発展する。このような特殊な物質の中でおこっている不思議な現象を実験的に発見して行くことは実に楽しいことである。」
「理論物理学者に対しては、強磁性の問題は、非常に面白く、未解決で、美しい朝鮮を数多くしている。一つの挑戦は、要するに何故磁性が存在するのかを説明する問題である。理論的な格子におけるスピンの相互作用の統計的振る舞いを予言するという挑戦もある。複雑な余計な条件をすべて無視するとしても、この問題はいままでのところ充分に理解されることを拒んでいるのだが、この問題が非常に興味深いという理由は、それが非常に簡単な形をした問題だからである;通常の格子の中に、これこれの法則に従う相互作用を持つ沢山の電子のスピンがあるとき、それらはどのような振舞いをするか、これは非常に単純に表現される問題ではあるが、多年にわたって完全な解析には失敗している。キュリー点にあまり近くない温度のところについては比較的細かく解析されているのであるが、キュリー点のところでの突然の転移に関する理論はこれから完成されねばならない。」
「最後に、−強磁性体あるいは常磁性体および核磁性における−スピンをしている原子的な磁石の系そのものに関する問題もすべて物理の高級課程にある学生にとってはまた興味のある問題である。スピンの系は外からの磁場によって系として押されたり引っ張られたりするので共鳴とか、緩和効果とか、スピンエコーとかを用いるといろいろなことがやれるのである。この問題は、多くの複雑な熱力学的な系を解析する上での原型としてもまた使えるものであるが、常磁性体については比較的単純な問題になることが多いので実験をしたり、その現象を理論的に説明したりして悦にいっている人たちもいる。」 私が学生時代に関わった物性物理学(磁性体)は、こんな大局的な見方があったのですね。私は一兵卒のごとく、大局的観点もわからぬまま、昼夜にわたって実験を繰返し、まとめているだけでした。まあ、そのような経験を経ないと、本質的な問題も見抜けないということも事実です(ただし、最後まで本質的な部分が見えない人もいますよね)。でも、磁性の問題は奥が深いですね!!
本当に最後です。Feynmanは電磁気に関する講義を終えるに当たっての感想を以下のように述べています。 「これで電磁気に関する勉強を終わろうと思う。第V巻第1章でギリシャ人が琥珀や天然磁石の不思議な振る舞いについて観察して以来続けられてきたたいへんな努力について述べたが、我々のこの長くそして立ち入った議論のすべてを通じて、何故琥珀のかけらを擦ると電荷が生じるのかについては何も説明しなかったし、また何故自然磁石は磁化されているのかについても説明しなかった!”ああ、符号がちょっとまずかっただけじゃないか”というかも知れないが、実情はもっと深刻なのである。たとえ正しい符号が得られたとしてもまだ問題はのこるのである。;何故地中の天然磁石は磁化されたのだろうか。もちろん地球の磁場があるのだが、その地球の磁場はどうしてあるのだろうか。幾つかのうまい推理があるだけで−本当のことは誰も知らないのである。というわけで、我々のやっていることの物理学というものはごまかしに満ちているのである−天然磁石と琥珀の現象の話から始まって、結局はどちらもよくわからずに終わってしまった。しかし、我々はその課程においてたいへんな量の非常に面白くてかつ非常に実用的な情報を得たのである!」
意味合いやレベルは違いますが、私も同感です。学生時代に学んだ電磁気学(電磁波)を復習し、理解を深めようと、Feynmanの物理学第VおよびW巻を購入し勉強し始めましたが、とても理解したとは言えず、わけのわからないことやFeynmanのお言葉(解説)を単に書きなぐっただけという結果に終わってしまいました。しかし、この課程の努力は、目的には程遠いにもかかわらず、私にとっては得ることも多かったと考えています。何を得たのか説明しろと言われてもすぐには出てきませんが、この”電磁波の海”を終えるに当たって挫折感とともに充実感も感じています。変なやつと思われるかもしれませんが、これをベースにわずかに残された時間内ですが電磁気学(電磁波)と量子力学にチャレンジして以降と思っています。それでは、読者の皆様、お付き合いありがとうございました。
2014年02月20日
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