Road to FRANCE PART1 【ワールドカップ・アジア最終予選篇】
日本対ウズベキスタン

1997年9月7日 東京・国立競技場

ホーム・アンド・アウェイというどんでん返し

その知らせは突然もたらされた。アジア地区最終予選を中立国で集中開催する予定だったFIFAが、東アジア勢と中東との対立に業を煮やし、「そんなにもめるのなら、ホーム・アンド・アウェイで2か月かけてやってしまえ」と断を下した。

この変更によって、私たちは、国立競技場でフランスへの道程を自分の眼で確かめることが、にわかに可能になった。遠く、カタールやマレーシアに行かなくとも、である。「オー フランス、みんなで 行こう、フランス」の歌声が千駄ヶ谷のスタジアムに響く。考えただけで、胸がしめつけられる。

ドーハで見た夢

かつて、一緒にアメリカへの夢を見た。それは、つかのまの幻に終わってしまったけれど、いまでも私の心の中には、あのときのイレブンが棲んでいる。松永、井原、柱谷、勝矢、堀池、森保、吉田、ラモス、福田、カズ、中山。長谷川、武田、澤登、北澤、高木もいた。都並も、そしてオフト。あのとき一緒に夢を見た感動は、一生忘れないだろう。でも、あのときは私はカタールには行けなかった。会社をやめる勇気はさすがになかった。

人の波が揺れる国立

あれから4年がめぐった。私は今、国立にいる。8月17日、店頭発売の列に並ぶも、目の前でチケットがなくなった。やっと再発売で確保できたチケットはS指定席。19時のキックオフなのに、1時間半も早く来てしまった。緊張して胸が高鳴る。すでにスタジアムの熱気は高まっていた。電光掲示板側のホームのゴール裏も、アウェイ側のゴール裏も、ぎっしりサポーターで埋まっている。私は鳥肌が立ってきて、涙がこみあげてくるのが、抑えられなかった。まだ、指定席はガラガラなのに、何周もウェーヴが回っていく。「ニッポン、チャチャチャ」のコールと太鼓で、大きな声の波がこだまする。巨大なフラッグが客席に広げられる。それも、ひとつではない。ウルトラスの顔の旗を中心に、フランス国旗が。ドラえもんの旗も。日の丸も。ついに、日本のサポーターもここまで来た。

青い波がスタジアムをめぐる。私は、オフト・ジャパンのユニフォームレプリカを着てここに臨んだ。応援がヒートアップし、ついに選手入場の時間を迎えた時、国立に紙吹雪が舞い、ニッポン・コールが割れんばかりに響きわたった。

スタンドも選手も一体となって

すでに観客は、観客でなく、すべてがサポーターと化していた。ゴール裏だけではない。バックスタンドもメインスタンドも、すべてが一体となって日本代表を後押ししている。国歌斉唱、キックオフ。声援におされるように、カズのドリブルで早くもコーナーキックのチャンス。最初はキーパーチャージで跳ね返されるも、再びコーナーキックのチャンス。キーパーがパンチングしたボールを井原が拾ってディフェンダーを切り返して抜いたその瞬間、たまらずウズベキスタンが足をひっかけ、PKのコール。

コール自体も見えも聞こえもしなかった。スタジアムが総立ちになり、回りから「PKだ、PKだ!」という声があがって、ようやく事態が飲み込めた。蹴るのはカズ。静まり返るスタンド。助走。キーパーが左に飛ぶ。カズは冷静に逆方向へ。決まった! ウォーという地鳴りのような歓声。1-0。

ゴールラッシュの幕開け

これはまだ序奏に過ぎなかった。左サイドで名波がキープした時、ウズベキスタンのオフサイドトラップでカズがオフサイドポジションに置き去りにされた。しかし、名波が左足のアウトサイドで出したパスはオーバーラップした相馬に渡った。ディフェンダーの裏をゴールエリアまで相馬が疾走する。キーパーがたまらず出てきたところで、中央のカズにマイナスの丁寧なパス。ボールはきれいにゴールネットを揺らした。2-0。

つづいて中田のミドルシュートが、ディフェンダーに当たってゴールの左上隅に美しい回転で吸い込まれていった。3-0。

打つんだ! ジョー!

そして城。キーパーとの1対1をはずした時、サポーターたちは溜息の代わりに「ジョー・ショージ!」コールを送った。もう一度立ち上がって、打つんだ、ジョー! チャンスはまためぐってきた。今度は城は決めた。4-0。前半終了。

日本には、カズがいる

後半、日本はバテた。中盤の運動量が目に見えて落ち、ウズベキスタンにフリーでラストパスをさせてしまった上に、ストッパーがマークを見ずにボールを見てしまう失策を犯し、失点。4-1。

しかし、カズがさらに1点を加えてハットトリックを達成。不可解なPKとシャツキフのヘッドで2点差に追い上げられても、日本にはカズがいる。名良橋に代わった中西が、センタリングを一度はクリアされながら、再度カズへ。胸のトラップが大きい。ディフェンダーにとられそうになるところを、右足をこじいれて取り返し、左足でシュート! 決まった!

熱狂のなかの勝利

もう、のどがガラガラだ。明日は確実にのどがつぶれているだろう。こんなに大声で叫んだのは久しぶりだ。

最終スコアは6-3。大事な緒戦を勝利で飾り、勝ち点3をもぎ取った。これで、後半出場した西澤が、1点でいいから取ってくれていたら。惜しいダイヴィングヘッドがあったし、もう1回チャンスがあった。あとは小村が抜かれないことだ。常にマークを視界に入れておけば、怖いことはない。

何よりも収穫はサポーターの素晴らしさだろう。日本スポーツ界の歴史にとって記念すべき日にしたのは、スタジアムを埋めた5万5千の観衆が生み出した一体感だった。私は、サポーターの一員である誇りを胸に、国立を後にした。

text by Takashi Kaneyama 1997

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