哀愁のヨーロッパ オーストリア・ドイツ篇 第1話

ウィーンは雨

寒雨の出迎え

ウィーンに着いた時には雨だった。9月中旬の東京から飛んできた私にはすごく寒く感じられた。その時は「雨のせいだ」と軽く考えていた。そして後悔することになる。

こじんまりした空港からリムジンバスで約20分、シティ・エア・ターミナルに到着。このターミナルの上はヒルトンホテルになっているが、もちろんそんな贅沢ができるはずもなく、中央駅周辺でホテル探しを始めた。ところが、目当てのペンション・シュタットパークは満室だった。今までの経験では、大きな駅の回りにはホテルが(それも安いホテルが)集まっているはずなのに、いつまでたっても「ホテル」も「ペンション」も見つからない。雨は降り続く。肩にだんだん荷物の重さが食い込んでくる。ついには東京でいえば丸の内のようなオフィス街に迷い込んでしまった。まもなく夕方の5時。早く宿を見つけないと日が暮れてしまう。

道に迷った末に

その時、馬ふんの匂いがした。匂いの元を訪ねていくと、観光馬車が数十台、列をなしていた。見上げればそこには、シュテファン大聖堂と近代的なガラス張りのハースハウスがあった。

シュテファン大聖堂

偶然、市内の中心部のさらに中心にたどり着いていたのだ。心の底からほっとした。

ハースハウス

これで現在地はわかった。磁石で方位を確認。ケルントナー通りという目抜き通りを南へと向かう。右手に「i」のマークがあるはずだ。まだツーリスト・インフォメーションが開いていますようにと念じる。あった! ひときわ大きな「i」のマークがぐるぐる回転している。そこで、4泊、できるだけ安く、宿を紹介してもらう。1泊470シリング(約5450円)、シャワー・トイレ付きのペンション。

安ペンションに停泊

地下鉄を乗り継いで西駅で降り、観光案内所でもらった地図を頼りに延々歩く。ようやく目的地に着いた時には6時を回っていた。ペンションの部屋はツイン仕様でとにかく広い。広すぎて寒い。空調はほとんど利いていない。電話もテレビもミニバーもなく、小さな机と椅子、大きなワードローブがあるだけ。ヨーロッパの安ホテルの常でスリッパがないので、持参のサンダルをはく。寝る時にはあまりに寒いので、隣のベッドの毛布まで動員してしのいだ。これから、ここを起点にしてウィーンを見て回るのだ。しかし、寒さはこたえた。翌朝早く、庭を通り抜けて朝食に向かうと、吐く息が白かった。あとでわかったのだが、このとき最低気温は0度を下回っていたらしい。持ってきたベストを着込むぐらいではどうしようもなかった。仕方なく、翌日あまりぱっとしないデパートのバーゲンで黒革のジャケットを買った。もっと小さいサイズはないのかと聞いたが、もうこれしかないという。私が着ると、ジャケットというよりは半コートに近い。2,998シリングは約34,800円の出費。これからは、この格好で寒さに対抗することになる。

哀愁のヨーロッパ オーストリア・ドイツ篇 第1話 【ウィーンは雨】 完

text & photography by Takashi Kaneyama 1997

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