ショパン ワルツ CD聴きくらべ

ジャン=マルク・ルイサダ(DG/1990) <決定盤>
全17曲が収録されています。Valses brillanteは実に華やかで軽妙洒脱。Valses lyriquesにおける微妙な心情表現と三拍子リズムのバランスもよい名盤です。全体としては濃厚で華やかな表現にまとめられています。盛り上げるときの輝かしい音質や、生き生きとしたリズム感など、ルイサダの魅力が存分に表れていると思います。この録音は積極的にアゴーギク(テンポ変化)をつけているのがポイントです。ふつうここまでアゴーギクをつけると不自然に聞こえてしまうものですが、曲調を把握しきった上での変化になっているので全く無理がありません。単にテンポが変化するのではなく、フレージングや音量音質と一体となった表現として変化しているからこそ、説得力のある演奏になったのだと思います。また、左手のバスを他のピアニストより豊かに響かせているのが特徴的です。バスを抑えてリズムの軽さを演出する人が多いのですが、ルイサダは弾力あるタッチでしっかりとバスを打鍵することをきっかけに推進力あるリズムを生んでいるように思います。なお、装飾音の弾き方が非常に上手いので、装飾音で悩んでいる人は参考にすると良いと思います。
サンソン・フランソワ(EMI/1963) <決定盤その2>
全14曲が収録されています。抑制された表現でまとめられた、大人の演奏です。派手な表現はほとんど見られませんし、とても自然でさりげなく弾いているように見えますが、主旋律はよく歌いますし、なにげない対旋律や重音がかもし出すポリフォニーまで丁寧に聞かせてくれるのです。この演奏を聞くと、ショパンのワルツが歌に満ちていることが伝わってくると思います。フランソワは個性的な演奏解釈で有名になったようなところがありますが、実際にはかなり制御の行き届いたピアニズムだったようで、その美点がよく表れた録音だと思います。収録年は古いですが音質はかなり良いです。ルイサダではちょっと元気が良すぎて…と思う人はフランソワ盤をおすすめします。
ディヌ・リパッティ(EMI/1950)
全13曲が収録されています(14曲目となる第2番を弾くことができなかった)。亡くなる直前に出演したブザンソン音楽祭におけるライヴ録音で、このときはもう一人では歩けないほど体調が悪かったようですが、「私は約束しました。だから弾かなければならないのです。」と言って舞台に立ったというエピソードがあります。しかし演奏からはそのような弱弱しさはほとんど感じられません。軽いタッチ、小気味よくはずむリズムなど、リパッティの特質がよく出ていると思います。時代が古いこともあって音質は良くないですが、演奏内容は十分に伝わってきます。表現が淡白で物足りなく思う人もいるかもしれません。しかし、このくらいの方が自然でよいという人も多いでしょう。
シプリアン・カツァリス(TELDEC/1981)
全14曲が収録されています。フランソワやリパッティでは渋すぎるけど、ルイサダでは濃すぎる、と感じる人にお勧めなのがこのカツァリス盤です。カツァリスならもっと個性的にまとめることもできたはずなのですが、それを抑えて自然な曲想表現に注力しているところが偉いです。もっともValses brillantesではヴィルトゥオジティの片鱗を見せる高速で麗しいフレーズ回しなどを披露してくれますし、絶妙な内声えぐり出し技もありますのでファンの期待を裏切ることはありません。一方、Valses lyriquesの切ない歌いまわしと控えめなペダリングは、素朴な表現ながら曲に対する深い共感を伝えてくれます。初中級のピアノレスナーがショパンのワルツを弾く際に参考にするなら、このCDが良いと思われます。
レーヌ・ジャノリ(ACCORD/1974)
全19曲が収録されている珍しいCDです。どちらかというとBrillantesな方が得意なようで、溌剌と華やかに演奏しています。叙情的なワルツは過度に感傷的にはなりませんが濃厚に歌う場面も多く、シリアスに音楽を捉えているようです。フランス系ピアニストですが相当しっかりしたタッチで弾き込んでいますので、軽いタッチを多用するフランソワなどとは一線を画しています。またリズムの扱いがおもしろく、マズルカ調になるところは微妙に溜めや弾み方を変えています。ワルツのリズムの中にときおりフッとエキゾチックな雰囲気がもたらされる感じで、抜群にうまい表現だと思いました。このピアニストの魅力はこういったリズムの扱いの巧さにあります。なおこの録音は版権が転々としたようで、2005年にACCORDから再発売されました。マスターテープの状態が悪かったのか、ところどころ歪んだりピッチが怪しくなるのが惜しいです。
マリア・ジョアン・ピリス(Erato/1984)
全14曲が収録されています。曲順がリパッティと似ています(第1番から順番に並べていない)。全体として非常に思慮深く、繊細に演奏された録音で、特に弱音系の美しさは絶品です。ただ、曲に入れ込むあまり、しばしばワルツらしいリズムが消えてしまうのが難点だと思います。Brillanteなワルツはそれなりの弾みを持って弾けていますが溜めは少ないですし、叙情的なワルツは総じてテンポが遅く、ワルツらしいリズム表現がほとんど見られません。そのため単に三拍子のアダージョのような雰囲気になってしまっています。ワルツらしくない曲があるという欠点を除けばとても素晴らしい演奏だと思いますし、ピリスがお好きな方は必携だと思います。
アルトゥール・ルービンシュタイン(RCA/1963)
ショパン全集プロジェクトの一環ということで録音した模様です。ルービンシュタインはあまりワルツを弾いていなかったようで、この録音も不慣れな感じが伝わってきます。Brillantesでの生き生きしたリズム表現などはほとんど見られず、平板な三拍子が続くのでちょっと飽きてしまいます。ただ旋律の歌い方はさすがに上手いです。例えば、重音やポリフォニックな場面では声部ごとの音質が明確に違っていて、それぞれが別の歌を歌っています。Lyriquesな曲もそっけない弾き方ですが、これは過度に感傷的になるのを避けた結果のようです。そっけない中でも微妙な陰影などが表現されていて、これもルービンシュタインの魅力かと思います。
ダン・タイ・ソン(Victor/1987)
まろやかで温かみのある音色がいかにもダン・タイ・ソンらしい録音です。Brillantesはもっと華やかでも良いと思いますが、この人の魅力はやはりlyriquesにおける陰影の表現です。微妙に揺れ動く旋律など、心情的にシンクロして弾いていることがよくわかります。メランコリックな情感の表現は抜群で、哀愁ある旋律をとことん甘く歌ってくれます。ショパンの感傷的な面に焦点をあてているので、ともすると女々しい雰囲気になってしまいそうですが、しっかりしたタッチで歌うことで表現が弱弱しくならないようにしていると思います。ダン・タイ・ソンのショパンは華麗でピアニスティックな表現は少ないですが、いつも憂いと翳りがあり、ワルツ集もショパンの心情表現を重視した個性的な演奏といえます。
ブルーノ・リグット(Denon/1991)
全18曲を収録しています。全体的にペダルの多い奏法で、ワルツらしいリズム表現が曖昧になってしまっているのが惜しいと思いました。1拍目と3拍目でペダルを踏むのですが(普通は1拍目で踏んで、2拍目と3拍目の間で離す)、このために三拍子で旋回するリズム表現が希薄になっています。少なくとも舞踏としてのワルツ表現はできていません。各曲の表情付けは濃厚で、Brillantesは非常に華やかに派手に演奏しています。Lyriquesは節度をもって弾かれていますがやはり拍子表現が弱く、うまく回っていかない感じです。フランソワのお弟子さんなのですが、師匠の正反対ではないかと思います。
タマーシュ・ヴァーシャリー(DG/1965)
生き生きとしたリズム表現が苦手そうな演奏です。そのためBrillantesな曲での明るさや快活さは今一歩。ただし旋律の歌いまわしはさすがで、速すぎず丁寧に弾かれる小犬のワルツなどはとても素敵だと思いました。Lyriquesな曲では持ち前の繊細なニュアンス表現が生かされています。微妙に移ろい変わる陰影感や、物憂げな旋律の表情が過度に感傷的にならず節度をもったバランスで表現されています。DGでの録音が安価に再発されているのでお勧めです。
アビー・サイモン(VOXBOX/1974)
全19曲を収録しています。Boldwinピアノで録音していて、独特の太い低音がポイントになっています。Brillantesな曲はかなり派手に、ゴージャスな雰囲気でまとめています。Liriquesな曲はあまり深刻な表現はとらず、しみじみとした雰囲気に仕上げており重すぎないように配慮しています。この人は基本的なワルツの三拍子表現にちょっと癖があって、あまりスムーズに回っていきません。そのため、初期のストレートな構成のワルツは流れが悪くなってしまいました。しかし4番〜8番あたりは絶品です。旋律の歌い方やリズムの扱い、音色の使い分けなど、さまざまな要素において絶妙な粋を感じさせます。表現のバリエーションも豊かで、曲想の移り変わりにしたがって、雰囲気がくるくる変わり、それぞれが実に魅力的な色合いです。とても洒落た、エスプリに富んだ演奏といえるでしょう。
アグスティン・アニエヴァス(EMI Classics/1969)
全19曲を収録しています。中庸というか、無理の無い演奏解釈でまとめています。ただ、この人はアゴーギクが弱く、特に3拍子の扱いには難のあるピアニストです。そのため、どうしても単純に均等割りした3拍子になってしまいます。したがって、リズム面では全くワルツになっていないと言わざるを得ないCDです。旋律の歌や音色表現はとても上手いのですが、土台になるリズムがきちんと鳴っていないため、乗り切れないまま曲が進行していきます。特に快活な曲は全く理解不能です。しかし憂鬱な表情の曲になるとリズムの弱さが気にならなくなり、複雑な心情表現などがよく伝わってきます。リズム表現はセンスや感性だけでなく、知識と鍛錬で習得できる部分もあると思うので、ワルツ集を録音するのならそのあたりの努力が欲しかったと思います。左手の1拍目をほんのすこし弾ませるだけだだいぶ違うと思うのですが…。1960年代は、こういう一見端正なリズム表現が良しとされた時代だったのかもしれません。
ギャーリック・オールソン(Arabesque Recordings/1995)
全20曲を収録している点で非常に珍しく、貴重な録音です。リズムの扱いはかなり均等割りの三拍子になっていますが、左手の処理がうまいために絶妙な軽さが演出されています。オールソンらしいノーブルなテイストのなかにさまざまな表情が見えかくれする、粋な小品集に仕上がりました。特にBrillantesな曲は合っているようで、バリアントを取り入れながら楽しそうに弾いています。ヴィルトゥオジティの強調された華やかな曲においても常に気品が感じられますし(これがオールソンの最大の美点)、フォルティッシモをむやみに強打しないところもよくわきまえていると思います。一方で、Lyliquiesな曲ではやや感傷的すぎる面があり、もう少し客観性をもった表現をした方がオールソンのよさが生きるのではないかと思いました。
タチアナ・シェバノワ(CANYON/1990)
全19曲を収録しています(1〜17番はパデレフスキ版準拠、18〜19番はヘンレ版)。Brillantesな曲を絢爛豪華に弾いており、とても爽快です。深いタッチでしっかり打鍵するのが基本のピアニズムのようで、音色に厚みがあり、演奏からうけるイメージが明るく健康的なものになっています。Lyriquesな曲もメソメソせずしっとりとした情感で歌われていますが、アゴーギクに難がありやや平板で変化に乏しい演奏になっているように思います。過度に感傷的になるのを避けたかったようですが、Brillantesと比較すると音楽の密度が低くなってしまっているように感じられます。あと全体的にリズムの扱いがやや機械的な印象です。これも下手で機械的にしか弾けないのではなくて、意識的に抑制したような雰囲気があります。多数のピアニストが競演したショパン全集の一環ですが、もうすこし彼女らしい個性を前面に出してくれてほしかったです。
アレキサンダー・ブレイロフスキー(SONY/不明)
全14曲を収録しています。Brillantesな曲を軽めに弾いていて、華やかさよりも洒脱さの表現を目指した演奏です。ただ、三拍子の扱いに苦慮したようで、いまひとつ乗り切れないまま録音してしまったような曲もあり、惜しいと思います。また小犬のワルツなどは軽さが生きる曲なのですが、Op.42などは軽すぎでもう少し華やかさの表現も欲しいと感じます。あと、全体的にトリルの弾き方が妙です(ゆっくり弾きすぎ)。Lilyquesな曲はアゴーギクや歌いまわしがうまく、微妙な心情にまで踏み込んで表現していると思います。鬱々としたOp.34-2などは聴いているうちに気がめいりそうになりますが、それだけの感情表現がなされているということなんです。
アダム・ハラシェビッチ(DECCA/1966)
全19曲。Brillantesな曲はかなり速めのテンポで、明るく華やかに元気に弾いています。一方でLiriquesな曲はあまり感傷的にならないように気をつけているのか、純音楽的に弾いているようで、それほど深い感情移入は見られません。いずれにしてもハラシェビッチらしく、節度をもったアゴーギクで美しく旋律を歌うことを主眼に置いた演奏になっています。なので、3拍子もほとんど均等割りで、旋律の歌いまわしに合わせて伴奏の刻み方のスピードも一緒に変化していく感じです。明確に対位法になっているところや、左手に旋律が渡るところはきちんと歌えているのですが、それ以外のポリフォニーの表現がいまひとつ。例えば「ズンチャッチャ」の伴奏のバスの音ひとつをとっても、もう少し響かせて横の流れを聞かせることを意識すると演奏に深みが出るのではないかと思うのですが。この人はそういうディテールの扱いが淡白というかごく控えめです。おそらく、ディテールをあれこれ細工したり強調した演奏をしたくないという方針なのだと思いますが、ある程度は大げさに表現しないとリスナーに対するアピールにならないと思います。
ペーテル・ヤブロンスキー(DECCA/1995)
全19曲。全体的に上品でノーブルな品のよさを持った演奏です。むやみにアゴーギクを動かさない節度があるのですが、時に少々まじめすぎるようにも思え、もう少し洒脱な感覚が含まれたほうがよかったかもしれません。Brillantesな曲はあまりゴージャスな響きを出さずに、軽さと明るさを基本に弾いています。元気の良いパートにおいて、意識的にペダルを少なくしてピアノが響き過ぎないようにしているので、響きが軽やかになるようです。Walse Brillante=華やか!みたいな雰囲気で弾くピアニストが少なくない中で、こういった独特な軽さをもったヤブロンスキーの演奏は個性的で面白いと感じました。Lyriquesな曲は沈静したニュアンスを基調にしています。歌いまわしには節度があるので、過度にセンチメンタルではないけれども、曲に込められた複雑な感情が伝わってくるような、繊細な表現が多く見られます。スタジオ録音なのですが、かなり雑音(楽譜をめくる音や、ペダルを上下するのに伴う音、椅子がきしむ音)が入っています。気になる人は気になるかもしれません。
中村紘子(SONY/1985)
全14曲。短いスパンでアゴーギクを動かしすぎで、テンポが一定せず流れが悪い印象を与えます。左手の3拍子の取り方も、誰の影響かわかりませんが、ウィンナ・ワルツが崩れたような変なタイミングで打鍵することが多くて気持ち悪いのです。しかし旋律はよく歌っていて、特にBrillantesな曲において絶妙に可憐なニュアンスがあります。ややブリッコ的といってもいいかもしれない(笑)。おそらくはアルトゥール・ルービンシュタインの影響だと思いますが、左手で「バス+和声」、右手で「高音の旋律+ハモリの旋律」の計4要素を独立した要素として演奏しています。音色やアーティキュレーションなども声部ごとにしっかりに独立していて、平板な演奏になりがちな曲に独特な陰影を与えています。非常に凝った音色の使い分けをしているので、相当に入念な準備をしたことを伺わせます。しかし残念なことに、このような創意工夫が全体的な印象を良くする方向に働かず、小手先の演出のようにしか聞こえないのです。その原因は最初に述べたように、アゴーギクが一定しないことで首尾一貫した流れが表出されていないためと思います。ディテールにこだわるのはいいのですが、全体の流れや構成感の表現をもっと大切にして欲しいと思いました。
ドミトリ・アレクセーエフ(EMI/1984)
全19曲。素人かと思うほどのセンスの無い演奏表現の第1番で驚きます。とにかくアゴーギクが平坦で、ワルツのリズムが機械的で弾力性がありません。いろいろなCDを聞いてきましたが、ここまで酷い演奏はなかなかありません。楽譜に書かれた音は弾かれているのですが、音楽の形を成していない曲もあり、どういう経緯で録音・発売されたのか不思議になってしまいました。Brillantesなワルツはテンポが遅めで、いちおう旋律は歌えているのですが、フレージングも平坦なので聴いていて飽きます。Lyriquesな曲はそれなりの感情表現で弾いているような雰囲気もありますが、なにしろ左手のリズムが機械的でロボットみたいなサイバーっぽい変なニュアンスになってしまいます。個性的な演奏や下手な演奏でも聴くに耐えないCDってほとんどないのですが、このCDは耐えられないほどひどかったです。
アブデル・ラーマン・エル=バシャ(Forlabe/1996-2000)
全18曲。エル=バシャらしい純音楽的な解釈です。センチメンタルな曲でも感情移入は少なく、客観的とも思える弾き方になっていますが、その反面、旋律の歌い回しなどは十分にレガートされたロマンティックなものになっていて聞かせてくれます。ただ基本となる三拍子が見事なまでに均等割りで、もう少し工夫が欲しかったと思います。テクニック的な面では本当に欠点のないピアニストなのですが、あえて注文を付けるとリズム表現の弱さということになります。そのため、ワルツのようにリズムが重視される曲ではアピール力が乏しい演奏になりがちです。Brillantesな曲でもいまひとつ活発さが出せなかったり、微妙に堅いニュアンスになってしまいます。この人は長大でシリアスな作品を弾くことにかけては天才的ともいえる能力を発揮するのですが、小品を粋に仕上げるセンスは今ひとつです。真面目な性格や、生まれ育った環境が影響していると思います。
エドワード・アウアー(カメラータ/1999)
1番から順番に並べるのではない、独自の配列になっています。演奏者自身が「これが最も良い」と思う順番で並べたそうです。ジュリアード音楽院でロジーナ・レヴィンに師事したピアニストということですが、全体として落ち着いた雰囲気が支配する大人のワルツ集になっていると思います。しっとりしたニュアンスのタッチを主体にしているため、華やかな曲よりもメランコリックな曲調の方が波長が合っていると思いました。とはいうものの、短調かつメランコリックな曲はクドクド・メソメソ調に陥らないように節度とバランスを保って演奏されています。華やかな曲において、もうすこしリズムの扱いに工夫が欲しいと思いました。落ち着いた中にもきらりと光る要素があるとよいのですが。
ヴァレンティナ・イゴーシナ(Warner-Lantano/2007) <名盤>
全19曲で、やはり独自の配列で収録されています。芸術作品としてのワルツと捉えているようで、どの曲も構成やフレージングをしっかり意識して演奏を組み立てています。単なるエンターテイメント小品集を超えた内容になっており、名盤だと思います。まず、速いパッセージでのうねるようなフレージング感覚や、遅く憂鬱な曲でのしっとりした歌い方など、曲調に合わせた奏法の使い分けが適切です。三拍子は均等割りに近く、リズム面の表現が特にうまいというわけでもないのですが、アーティキュレーションの付け方やバスの重みなどを細かく調整して、曲調の違いをリズミックな質の違いとして演出しています。テンポ設定だけでなく、アーティキュレーションの違いで軽いワルツ、重いワルツといった弾き分けをしていると思います。そのため、Brilliantな曲もただ華やかなだけでなく軽さや勢いに違いを聞かせてくれますし、Liriquesなワルツも曲によってさまざまな表情を見せる、素晴らしい演奏になったと思います。アゴーギクやデュナーミクも特に個性的というわけではないのですが適切です。特に、曲想が転換するときにグッとテンポを落として、新しい展開に入るときに戻すタイミングやセンスがよく、リスナーが自然に流れに乗れるようになっています。
 

<改訂履歴>
2005/12/31 初稿掲載。
2006/01/09 ルービンシュタイン追加。
2006/03/18 ダン・タイ・ソン追加。
2006/04/16 リグット追加。
2006/07/08 ヴァーシャリー追加。
2006/09/23 サイモン追加。
2006/10/08 アニエヴァス追加。
2007/04/06 オールソン、シェバノワ追加
2007/07/21 ブレイロフスキーを追加
2007/12/23 ハラシェビッチを追加
2008/03/16 ヤブロンスキー、中村紘子、アレクセーエフ、エル=バシャを追加
2008/11/23 アウアーを追加
2009/02/01 イゴーシナを追加

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