ショパン ポロネーズ CD聴きくらべ 

アルトゥール・ルービンシュタイン(RCA/1964)
ポロネーズを得意としていたルービンシュタインらしい1枚。男性的で骨太な解釈が貫かれていて聴きごたえがあります。また演奏表現にほどよい節度があって、ストイックな上品さを感じさせてくれます。特別に個性的な解釈や演奏をしているわけではなく、楽譜を素直に弾いているだけなのですが、力強さと上品さがここまで高いレベルで融合するピアニストは非常に少ないです。録音当時75歳すぎているのに、これだけ強力な英雄ポロネーズ&幻想ポロネーズを弾いてしまう体力と精神力には脱帽でございます。ポロネーズのCDを選ぶのはなかなか難しいのですが、これはおすすめできます。
エリザベス・レオンスカヤ(TELDEC/1995)
リズムの扱いが絶妙にうまいです。重すぎず洒脱な雰囲気にまとめられています。ショパンのポロネーズは密集した和音を連打する場面が多くいため、ピアノの響きのコントロールが難しく、音色が濁ってしまうことも多いのですが、彼女の演奏は響きがとてもクリアです。和音の構成音を考慮して音量を制御しながら弾いているためで、強い指を持っていないとできない技術です。女性らしい柔和な雰囲気と美しい音色が印象に残りますが、しっかりとロシアン・ピアニズムの特徴が反映されているのでした。
アルフレート・ブレンデル(Vanguard Classics/1968)
ブレンデルの珍しいショパン録音です。第4番〜第7番、アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズが収録されています。この録音はかなり苦労したようで、「ショパンは一生かけて取り組まなくちゃ弾けないと思う。でもそんなことはできないので、もう弾かない。」とショパン封印宣言まで飛び出してしまいました。そんなにひどい演奏とも思えないのですが、確かにポロネーズのリズムの扱いそのものに難渋している様子がときおり聴かれます(笑)。一方、アンダンテ・スピアナートと・・・の序奏部や主部の軽いリズムの扱いは大変すばらしいです。まあ、あの太〜い指でショパンを弾くのはさぞ辛いだろうことはわかります。自分はこの人のワルツを聴きたいです。ベートーヴェンのディアベリ変奏曲できちんとワルツしてるのは、ブレンデルだけなのですよ。重厚な印象を抱かれているブレンデルですが、三拍子系のリズム表現がとても上手なピアニストです。
シューラ・チェルカスキー(DG/1969)
67〜8歳での録音なんですけど、どう聴いてもそうは思えないパワフルさです。今になって思うに、明治生まれのおじいちゃんピアニストたちは歳を取っても本当に元気です(笑)。というわけでこの演奏ですが、非常に自然体で作為的なところがありません。これはチェルカスキーの個性と言えますが、リズムの切れの良さよりもピアノを歌わせることに重点を置いています。単にロマンティックに歌うだけだとナヨナヨしやすいのですが、力強さと繊細さが良いバランスで同居しているので、女々しい印象もありません。
マウリツィオ・ポリーニ(DG/1975)
近年のポリーニのショパンは何でもかんでもオンビートで突き進む印象がありますが、このCDはルバートなどを含めたメロディの歌い回しが非常に上手いです。ポロネーズ部はポリーニらしい勢いがあって良いのですが、リズムに対するアクセントがかなり強引で煩い箇所が多です。リズムやアーティキュレーション変化に対する表現が希薄になってしまうのがポリーニの欠点ですが、それが露呈している感じです。またトリオになると音楽的密度そのものが低下してしまう感じです。第1番〜第5番が顕著ですが、ポロネーズ部に比較するとトリオの構築がやや平面的なので聴いていて飽きます。第6番、第7番は曲のスケール感とポリーニ自身の演奏方針がうまく一致した感じです。全体的にペダルを多用して豊かに響かせているので、ゴージャズな演奏になっています。
ロジャー・ムラーロ(ACCORD/1996)
第1番〜第7番にアンダンテ・スピアナートと華麗なるポロネーズまで収録。ライヴ録音のようですが、全くミスがありませんし聴衆のノイズとか入っていないので、多少は編集していると思います。長調のポロネーズを軽めに、華やかに弾いているのが特徴です。軍隊や英雄も和音の頂点だけ強調して、内声を極力薄く弾いて響きを軽くしていますので、若干違和感があります。しかし、短調のポロネーズを異様にシリアスに弾きこんでしまっているので、長調の作品を軽く弾かないとバランス的に悪すぎます。ポロネーズ全曲を連続演奏するという観点でよく構成が練られていると思います。ところどころで妙に恣意的な表現が見られ、曲の流れを阻害しているのが惜しいと思いました。
ウラディーミル・アシュケナージ(DECCA)
遺作を含めた全曲を録音していて、その点はとても珍しいのですが、例によって嬰ヘ短調の第5番などはかなり弾きにくそうです。近年になってアシュケナージは「私はショパンはあまり得意ではない」と白状しているのですが、それを裏付けてしまう1枚です。
ヤヌシュ・オレイニチャク(BeArTon/1997) <おすすめ>
エキエル編ナショナル・エディションに基づく録音ですが、演奏解釈はとても個性的です。舞踏リズムを用いた絶対音楽として表面的に演奏されることが多かったポロネーズを、バラードと同じようなストーリーや幻想性をもった作品として解釈した演奏だと思いました。軍隊や英雄といった曲でも男性的な演奏効果は追わず、徹底して内面的な要素を表現することに注力しています。また、ポロネーズのリズムの扱いは軽めになっており、軽快な舞踏性を感じさせてくれます。音色に透明感があって美しいので、それを生かすような形を考えているようです。初期の曲(Op.44以前)についても深みや幻想性を感じさせてくれる場面が多いのですが、それは音色の使い方によるところが大きいと思います。またOp.44は中間部のマズルカを含め文句のない名演奏で、この曲をここまでの説得力をもって弾いた人はいなかったのではないかと思います。
サンソン・フランソワ(EMI Classics/1968-69)
ポロネーズ1番〜7番と、アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズを収録しています。デュナーミクの振幅と音楽の重さがよく一致した演奏です。かなり激しい表現も見られますが、全体としてみた場合ショパンの独白のように聞こえる、ちょっと珍しい世界を作り上げていると思います。冗長になりがちな初期の曲のトリオのまとめ方がうまいです。民族的な主部と、少しソフィストケートされたトリオを対比しています。また軍隊、英雄はとても勇壮な解釈になっていて、フランソワの荒々しい一面を見る思いがします。
ギャーリック・オールソン(Araebsque Recordeings/1993) <おすすめ。でも入手困難。>
ポロネーズ1番〜7番と、遺作の全16曲を収録した2枚組です。曲想に対して過度に没入しないオールソンらしい演奏で、気高い雰囲気があります。民族意識を結晶化したポロネーズにおいてはこの気高さが非常に大切だと思います。ポロネーズのリズムそのものは特にポーランド風というわけではないのですが、ペダルを離すタイミングが良く考慮されており、独特な躍動感を生んでいます。長調の勇壮な曲をただ重厚長大に演奏するのではなく、どこか足取りの軽さを感じさせるリズム表現になっていて、なかなか見事なバランス感覚だと思いました。その一方で、2番、4番のような曲における陰影の表現の上手さもあり、明るい音と暗い音の使い分けなどを含め、しっかりとした演奏設計がなされています。遺作まで含まれている上に演奏密度が高いおすすめの録音なのですが、非常に入手困難なようです(わたしはアメリカのamazonに発注しました)。
ダン・タイ・ソン(Victor/1997-1997) <決定盤>
ポロネーズ1番〜7番と、遺作の全16曲、アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズを収録した2枚組です。美しい音色とロマンティックな感性はそのままに、男性的な力強さや構成力を見せる演奏です。男性的といってもフォルテでドカ弾きするのではなくて、決然としたフレージングや朗々とした歌などに力強さを感じるのです。楽譜どおり弾いただけではなかなか見えてこないショパンの本心をじっくりと掘り下げ、くみ取った上で演奏表現しているような深い解釈に共感を覚えます。軍隊、英雄ポロネーズなどは優美さすら漂うリズムの取り方になっていて非常に意表をついているのですが、実はサロン的な気取った感性の裏に民族的な気高さを秘めたような解釈になっています。また4・5・7番も瞑想的な雰囲気だけでなく、曲調を把握した上で語り始める姿勢が素晴らしいです。特に5番トリオのマズルカの優美さは他のピアニストではありえないレベルに到達しています。オレイニチャクがやや変化球的な名盤とすると、こちらは「ショパンはこういう風に弾いていたんのではないか」と思わせる説得力があり、正統派の名演奏だと感じたので、これをポロネーズの決定盤にしました。
原田弘之(Live Notes/1997)
恣意的な表現に満ちていて、特にアゴーギクは凄まじいまでに改変されています。全体としてはかなり遅めな上に、1番、2番、4番あたりはテンポが一定するところがほとんどありません。よく言えば自由度が高いのですが、ポロネーズのリズムが感じられない曲も多く、いくらなんでも好き勝手にやりすぎだと思います。ただ、このような表現に至ったのは、「ショパンのポロネーズはすでに舞曲としてのリズムを失った、ショパンの心の中の叫びが秘められた曲」と捉えたためのようです。したがって、幻想的な雰囲気が支配している演奏になっています。音色の種類も多彩で、曲調の変化に合わせてさまざまなニュアンスの音を使い分けていることも幻想性を強調するのに一役買っている感じです。また、曲そのものが幻想的な5番や7番では解釈と内容が見事に一致していると思います。特に5番中間部のマズルカでの絶妙な浮遊感を思わせる表現は見事だと思いました。
アレキサンダー・ブレイロフスキー(SONY/1961 or 62)
録音年月はジャケットには1962年2月、解説書には1961年2月と記述されており、どちらが正しいのかわかりません。1番〜6番と、初期作品が収録されています(幻想ポロネーズが入っていない)。力強いタッチで弾かれる重厚壮大系、男性的で骨太なポロネーズになっています。音質があまりよくないせいもありますが、フォルテのニュアンスが非常に剛直で息苦しく感じます。軍隊などは大半がフォルテ〜フォルティッシモで弾かれるので、もう暑苦しくてたまりません。この人は弱音がとてもニュアンス豊富で、しっとりしたOp.40-2などははっとするような美しさを覚えるのですが、すぐに轟音フォルテが打ち消してしまったりします。あまり自分の魅力をわかっていないピアニストかもしれません(笑)。英雄は予想通りの爆演です。リズムの扱いも柔軟性がなく、「ダンダカダッダッ!」と打ち鳴しつづける様子はデリカシーが感じされません。ガンガン弾いてるポロネーズが聴きたい人には勧められます。あと、なぜか遺作の小品ポロネーズは非常に優美に弾いています。
ヤノシュ・オレイニチャク(OPUS111/1991)
ナショナル・エディション版CDより前に録音されたもので、1、3、4、5、6番+遺作の9曲。演奏解釈はまだそれほど凝っておらず普通に弾いている感じはするものの、やはり5番などはずば抜けて素晴らしく、しょっぱなから引き込まれてしまう凄みがあります。この人もポロネーズのリズムの扱いに独特な弾力と推進力があります。1拍目で粘るのだけれども直後に加速するためスピード感が生まれているようです。軍隊ポロネーズの弾き方でだいたい傾向が見えるのですが、1拍目だけペダルを踏んであとの和音は軽くスタカートで付け加えるなどして重厚になり過ぎないようにして、少し気取った雰囲気も感じさせつつ演奏の雰囲気を作り上げています。当然のことながら曲調に合わせてリズムの弾み具合も微妙に変えています。「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」はより明るく軽やかな足取りですし、英雄ポロネーズは多少の重さを感じさせるように1拍目を重めにしています。また、4番は沈静した雰囲気を重視するため極力跳ねたり溜めず拍子に対する重みを均等化する、というような具合です。
中村紘子(SONY/1991-1992)
全集物が少ない中村さんにしては珍しく、遺作に加え「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」まで含めた全曲収録の2枚組みです。さぞかしガツガツ弾いているだろうと思いきや、全体に抑制とコントロールの行き届いた丁寧な演奏です。ただ、旋律を自分の歌いたいように好き勝手に弾く傾向があり、ポロネーズ本来のリズムや拍子が失われるほどのテンポ変化や溜めがしばしば見られるので、好みが分かれそうな解釈だとは思います。特に5番、7番のような複雑な曲ではディテールを思い切り自由に弾いているので、形式感や構成感といったものがスポイルされています。例えば、作曲上やや冗長な5番のトリオをとても楽しそうに、いろいろなテクニックを盛り込んで弾いているのですが、あまりにも自由度が高すぎる表現なので、初めて聴く人にとっては理解に苦しむ世界になっているとか、そういう点が問題です。ただ、「自己中心的な演奏」と切って捨てるにはあまりにも丁寧ですし、解釈もよく検討されていると思います。解釈の方向性がかなり個性的ということですね。
アダム・ハラシェビッチ(DECCA/1968, 1972)
ショパン録音全集より。遺作と「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」まで含んでいます。気高いというか、品のよい演奏。長調のポロネーズを華やかに軽やかに弾いているのが大きな特徴で、よくある重厚長大な演奏解釈とは全く異なります。短調のポロネーズも必要以上に重く弾かず、むしろ速めのテンポですっきりまとめています。ポロネーズのリズムの扱いがとても上手いのもポイントで、1拍目の付点音符をけっこう溜めているのですが、裏拍の16分音符が絶妙に軽いのでズルズルしたリズムにならず、独特な弾力や軽さが表現できています。ポロネーズ5番や幻想ポロネーズのような曲でも、高貴さと幻想性を併せ持った演奏になるのはこのリズム表現のうまさによるところが大きいと思います。あとこれはポロネーズに限らないハラシェビッチの特徴ですが、全体に控えめなアゴーギクで大きなテンポ操作はほとんどなく、終止部のリタルダンドもあっさりした感じなので、スタイリッシュではあるけれど少し情感不足に聞こえることがあります。ポロネーズ集に関しては5〜7番は感情移入しながら弾いているようで(盛大に鼻歌が録音されてます。)演奏内容も情熱的でよいと思いました。
アブデル・ラーマン・エル=バシャ(Forlane/1996-2000
ポロネーズ1番〜7番と、遺作の全16曲、アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズを収録しています。遺作も1〜7番も区別せず、どちらも同じように弾いているのが特徴です。遺作は少年時代の作品ということもあり音符の少ないシンプルな曲調が多いのですが、エル=バシャは特に手を加えるようなことをせず、楽譜に書かれたままシンプルに弾いている感じです。それが端正な雰囲気をもたらしていて、なかなか良いと思いました。1番以降はシリアスな曲はかなりシリアスに弾く一方で、軍隊ポロネーズは快速な演奏でむやみに重厚にしないように工夫しています。ただし、5番以降はもうちょっと創意工夫を盛り込んでほしかったと思います。非常に鮮やかですっきりわかりやすい演奏なのですが、5番中間部のマズルカなどをかなり即物的に弾いており、幻想性が表出されてきません。英雄は軍隊と同様に快速インテンポ演奏で、サクサク弾いてます。幻想ポロネーズも非常に構築的な演奏で、ピアニズムとしては申し分ないのですが、インテンポでどんどん弾きすすめていくので、ちょっと健康的すぎなのです。この曲は、どこか後ろ髪を引かれるようなニュアンスが欲しいです。
  

<改訂履歴>
2004/11/07 初稿掲載。
2006/08/20 オレイニチャク追加。
2006/10/08 フランソワを追加。
2007/01/20 オールソンを追加。
2007/04/07 ダン・タイ・ソンを追加。
2007/05/06 原田弘之を追加。
2007/07/21 ブレイロフスキーを追加。
2007/12/23 オレイニチャク(1991)、中村紘子、ハラシェビッチを追加。
2008/04/29 エル=バシャを追加。

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