◆ 進化論で解く 人はなぜ病気になるのか ◆

R. M. ネッセ(ミシガン大)、G. C. ウィリアムズ(UCLA)
日経サイエンス 1999年2月号
人間は長い長い進化の末に存在している生物であるから、その体や 精神の仕組みには全て進化的意味があるはずである。 そうとらえ直すことによって、病気や障害に対する意識も違ったものと なっていくだろう。これは比較的新しい考え方であり、 進化と関連づけて医学的問題を研究する「ダーウィン医学」という分野が 始まっている。

一般に病気と思われている症状、「発熱」「咳」「痛み」「下痢」「嘔吐」 などは、もともとは体内に異物が入り込んだことに対する防御反応であり、 欠陥ではない。症状が現れることによって、体を守ろうとしているのである。 熱を下げたり、咳を止めたり、下痢を止めることはかえって状態を 悪くしてしまうことさえある。
妊娠時の「つわり」は胎児に影響を与えそうな毒素に対して敏感になることによる 症状である。「不安」「恐怖」は起こりそうな危機に対して回避行動をとるための 警報である。
これまでは、不快な症状が現れればそれを抑える処置をすることに 医学は重点を置いてきたが、前記のような進化的解釈をすれば、なにが異常で、 なにを治療するべきか、という考え方が変わってくる。

進化してきたということは「完全」に向かって進んで来たということではない。 進化は「繁殖成功度を最大にする」ような方向に働くのであり、僕達が考える 完全性(絶対病気しないとか長寿とか)とは異なる。 例えば、若い時期の繁殖率を高めるために、老いてからの障害を負ってしまう ことがあり、そこにはトレードオフがある。 また、遺伝子は個体が置かれた環境に対して選択・淘汰され、 環境は場所ごとに異なるのだから、どこにでも適応したただひとつの 完全なヒトゲノムというものも存在しない。

進化はゆっくり進む。人間は長い間、現在とは大きく異なる野生環境にいて その環境に合うように進化した。急激に環境が変えられてしまった現代では、 体の仕組みが環境に合わずにさまざまな不具合を起こすのも当然だ。
高脂肪の食料が潤沢に供給され、運動量は減っている。 濃縮された化学物質(ドラッグ、ニコチン、アルコール)が容易に手に入る。 それに対し人間は食欲や精神作用物質に対する欲望が昔通りに存在するので、 これらの過剰摂取により肥満、心臓病、その他疾患が増えたのである。

この他にも沢山の例をあげて、ダーウィン医学についての紹介が載せられている。

* 本 Web ページの記述は MINEW による解釈を含んでいるので、 正確には原記事を参照してください。


「抑うつは適応か?」 Randolf M. Nesse 講演 / HBESJ / 2000/10/04
Randolph M. Nesse URL: http://www-personal.umich.edu/~nesse/
Randolph M. Nesse 著書: Why We Get Sick: The New Science of Darwinian Medicine (1994)


2000/10/13 T.Minewaki
2000/10/14 modified T.Minewaki

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