GokurakuCho
 ◆ 生命のはなし (14) ◆

 (写真は極楽鳥の一種, 左♀ 右♂)



進化的恋愛論 (4) 孔雀の美しさのわけ

進化的恋愛論 (3) 恋愛の試練
> 結果として、生きることに有利な特徴に関連することを、
> たまたま好みの傾向として持つものは、世代ごとにその傾向を強め、
> 生き残り繁栄してゆく
「頭の固さを競う」「体色の赤いのが好き」 「歌のうまいのが好き」「踊りのうまいのが好き」など、 生命力の強さとは直接関係のなさそうな特徴 を好む場合はどうなっているのでしょうか?

例えば孔雀の雄は、広げた羽が美しく大きく、目玉模様の数が多いものほど 雌に好かれる傾向が強いことが観察されています。
派手な羽を持つ雄を「好き」と思ってしまう、それは、進化の結果として 獲得・定着された、雌の孔雀の性(さが)としか言いようがありません。

雄にしてみれば、美しく大きな羽を持つことによって、餌が多く とれるわけでも、敵から逃れやすいわけでもありません。 むしろ、体が重くなったり捕食者から見つけられやすいというリスクを 負うことになりそうです。

確かに、飛べなくなるほど羽が重くなったりしたら困ります。
つまりこれはバランスの問題です。自分の命が危うくならない範囲で、 できるだけ派手であれば、子孫(自分の遺伝子)をより多く残せます。

  羽模様: 地味 ←→ 派手
  生存率: 高い ←→ 低い ─┐
  子孫数: 少い ←→ 多い ─┴─(生存率と子孫数のトレードオフ)

孔雀という種の進化の過程では、美しさ(飾り羽の大きさや派手さ)に コストをかけ過ぎて絶滅した種もいるでしょうし、好みが地味になり、 別方向に向かって流れていった種もあったはずです。 そういうぎりぎりの境界(局所最大となる解)を見つけ、そこにとどまり 成立しているのが現在の孔雀の美しさなのでしょう。

鳥は、他の動物ができない「飛ぶ」という行為によって、捕食者から逃れ、 安全を確保できています。飛ぶことさえできれば比較的安全なので、 その分、身体の色を派手にする(つまり、他の個体との区別に体色の情報を 用いる)「余裕」があるわけです。
地上の動物は派手だとすぐに見つかって捕食されるため、地味で迷彩系の 体色のものが多く、鳥には派手な体色のものが多いのは、おそらく そういう理由です。
しかし逆に、「体を大きくする、重くする」などの、飛ぶことに障害となる 方向への特徴は、鳥は発達させることができません。


では、好みを持つこと、「羽の美しさ」と「生命力」の間には相関があるの でしょうか? 結論からいうと、ある”はず”です。 少なくとも、生命力を減少させる方向には働かない”はず”です。
ただし、ここでいう「生命力」とは、実は「次の世代に残せる子孫の数」 という意味になります。

『進化スピード』のこともあります。
進化の途上では、好みを持つことによって例えば「より美しいものへ」と いう方向に選択の圧力が強く働くため、その集団で進化の方向が揃い、 進化スピードが加速します。 他の種よりも早く優位な位置へ進化が到達し、その位置を占めてしまうことは、 その生物種の繁栄にとって有利に働きます。 あいている場所は先に到着したものたちによって占有され、遅れて 辿り着いたものはそこには入り込めません。

また別の効果として、『種の一貫性』が得られます。 孔雀という生物種がある時期に種の極大位置に到達し、確立したとすると、 その後、好みが変わらない限り、羽の美しさを指標として、その種を外れない ように(極大位置に留まるように)安定に世代を続けてゆくことができます。 つまり、遺伝子に仕込まれた「好み」によって種の一貫性が保たれるわけです。

ただし、逆の見方もあります。早い時期に種の極大位置に達してしまうと、 そこに留まってしまい、そこから先へと進化することが難しくなります。 「進化の袋小路」と呼ばれるものです。
例えば「より大きいものへ」といった単純な好みでは、袋小路に入り込むのも 早いようです。恐竜の巨大化も一つの例ですし、現代の象や鯨は 絶滅に向かっている種です。
こういう状態に陥った種は、環境の変化に対応しづらく、天変地異や、 新たな生物種の登場によって簡単に絶滅させられてしまいます。


1994/07/12 T.Minewaki
2000/02/27 last modified T.Minewaki

孔雀の恋の衝動
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