◆ 生命のはなし (12) ◆



進化的恋愛論 (2) 恋愛のはじまり

有性生殖が始まった初期、単純な生物や植物では、その精子と卵子の 組み合わせは受動的、偶然の出会いに頼っていました。風や虫によって 運ばれる花粉、海水中に放出される精子と卵子(ゴカイ、珊瑚、ヒトデ、貝) などなど。

やがて、より複雑な生物になると、オス、メスのパートナーを 「選択」するようになります。これが 恋愛 と呼ばれるものの 始まりです。

 ◆恋愛の定義: 生殖の相手を複数の異性個体中から 能動的に選択すること

と僕は定義します。生物学的には「性選択」とも言います。

個体の遺伝子空間はさらに広大に、逆に有効範囲はさらに狭くなっています。 その上、環境はどんどん変化するし、新しく優れた種類の生物が どんどん進化してきますから、モタモタしてもいられません。 なにかうまい方法をとらなくては生き残りません。
そういう要求にうまく働いたのが恋愛という行動なのでしょう。

では、どうやって「選ぶ」のがよいのでしょうか? 実際の生物がどのようにしてやっているかをいくつか例をあげて見ると、 次のようなものがあります。

これらはほんの一例ですが、実にさまざまなやり方やがあるものです。 いつごろ、どうしてこのようなやり方がはじまったのでしょうか? それはわかりません、が、次のように想像できます。

相手の選択に気を使わない程度の生物から、神経細胞が少し発達し、 (同種生物の異性であることを識別できた上で)異性個体間の差異の 識別ができる程度に進化すると、相手を「選ぶ」ことができるように なります。

このときまだ識別能力は低いですから、特徴として大きく目立つ点 によってのみ比較評価が可能です。識別するための器官は、その時点で 生きるために最も発達している器官が最も感度が良いはずですから、 それを用いて行われるのが成り行きでしょう。
眼(色、形、サイズ、大きさ)や、鼻(匂い)や、耳(音)や、 触角(大きさ、匂い)などがそれらにあたります。

そうして知覚されるものは、たとえば体色が全体的に派手だとか、 体が大きいとか、体の形が違うとか、強く匂うとか、そういったことでしょう。 また、生物として単純ですから行動も簡単なことしかできません。 大きな声、高い声を出すとか、体全体をつかったダンスとか。

それぞれの生物の性質ごとに、いろんな好みで相手を選ぶものが生まれた ことでしょう。もう、とにかく何でもありです。

明るい色を好むもの、赤を好むもの、青を好むもの、派手なのを好むもの、 点滅の早いのを好むもの、星形の模様を好むもの、しましまの模様を好むもの、 高い周波数の声を好むもの、低い周波数を好むもの、長い音を好むもの、 ある特定のメロディを好むもの、 甘い匂いを好むもの、酸っぱい匂いを好むもの、臭い匂いを好むもの、ある 特定の匂いを好むもの、 体の大きいのを好むもの、小さいものを好むもの、首の長いのを好むもの、 尻尾の長いのを好むもの、角の長いのを好むもの、牙の長いのを好むもの、 鼻の長いのを好むもの、口の大きいのを好むもの、手の大きいのを好むもの、 毛の長いのを好むもの、頭の固いのを好むもの、 動きの素早いものを好むもの、ある特定の踊りを好むもの、 などなど、………

いずれにしろ、さまざまな「好み」があり、いろいろな選択の仕方があったの でしょう。遺伝子の組み合わせや変異は自由です。いろいろあってなにも 悪いことはない。
そうした好みのもとでペアは組まれ、子供が作られます。子供は親の遺伝子を 受け継ぎますから、親と似た性質、親と似た好みを持っています。

こうして「好み」と「特徴」は進化の中に一本の道を刻み始めます。


1994/06/15 T.Minewaki
2000/02/27 last modified T.Minewaki

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生命のよもやま話
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