Life Icon  ◆ 夢・宝くじの心理 ◆



確率的には稀(まれ)にしか起こらないものを、 リアルに想像する事ができる、という能力は不思議で、 時に素晴らしいものと思う。
「夢」がかなう、なんて言ったりする。
そういう心理はいったいどういう由来のものだろう?

統計を少し知っている人ならば、宝くじを 買うということがどれだけ見返り(期待値)の少ないものであるかは 分かっているはずだし、 経済的知識のある人ならば、宝くじで儲かるのは銀行(だけ) であることを想像できるはず。

莫大な数の人が少しだけ損をし、ほんの少数だけが 大きく得をする。

それでも、「3億円が手に入る」という瞬間を、 非常識なほど多数の人が夢見て、手を出さずにはいられない。
当たった瞬間の喜びだけを拡大する広告が流される。 (過去の当選者の当選瞬間再現映像などを放映すれば、売上げは 倍増することだろう。)



この「めったに起こらない事をリアルに想像できる」 というのは、宝くじや競馬のような、当たった時にうれしい事ばかりに ついてだけではなくて、悲しいこと、例えば事故とか 病気とかにも共通する人間心理に思える。

保険というビジネスはそういう仕組みで 成立していて、
事故が起こった瞬間を拡大する広告、
病気にかかった体験を拡大する広告、
を流す事によって、統計的実態よりも大きく不安を感じさせて、 保険の加入率を上げているのだろう。

不安をあおる、というのは実に簡単だ。
人がどれだけ「悪い事故」の想像に敏感で、不安を感じ易いかは、 例えば、映画やドラマに、大災害パニックものがどれだけ多いかを 思い起こしてみればいい。 それに対して、実際にそれと同規模の災害が起こった頻度は どれだけあるだろうか?
例えば巨大隕石が地球にぶつかる、という大作・パニック映画は 去年だけでも2本もあった。
 ・Armagedon (1998)
 ・Deep Impact (1998)
これほどの巨大隕石なんて、6500万年前に一度落ちたくらいのものなのにだ。



「恐怖」という感情については、
「事故に備えていなくてダメージをもろに受ける(死ぬ)」よりも、
「コストはかかっても、備えていて大丈夫」なほうが、
進化的に生き残り続くので、危険を過大に予測する (つまり恐怖を感じる)心理が発達したのだろうと思う。 昔々は、今よりずっと致命的事故が起こる確率が高い世界だったろうし。

かといって、起こりもしないことにまで備えてコストをかけると、 コストがかかり過ぎて生存率が下がってしまうよな。…ということは、 恐怖の感情が現在残っているということは、かつてはコストをかけるのに 見合った頻度で事故が起こっていたということだ。
現代は、その頃に比べて環境がずっと安全になったので、恐怖の感情が過剰に 危険を見積もっているように感じられるのだ。もちろん人によって恐怖への敏感さ (臆病さ)は異なるし、経験によっても違ってはくるだろうが。

たぶん恐怖の心理が先に発達したもので、「宝くじに当たる」などという 「嬉しい事故」についての過大な見積もりは、 それに引きずられているんじゃないだろうか。



話はもっと簡単で、(嬉しいことでも悲しいことでも、) 稀にしか起こらないものは(頻度以上に)強く印象に残り、 想起されやすい。というだけのことだろうか。 数が少ないほど、価値が高い(希少価値)という感じ方は、 これと同じ由来のものだろうか? (石ころよりも、ダイヤモンドの方が、もらって嬉しいし高価だ。)


1999/05/26 T.Minewaki
2000/07/21 last modified T.Minewaki

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