生命をめぐる冒険 / 佐倉 統

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書 名:生命をめぐる冒険
     ── 進化・ミーム・コンピュータ ──
著 者:佐倉 統 (さくら おさむ)
発行所:河出書房新社 1998年2月12日 初版発行
定 価:1,600 円
ISBN4-309-25095-5 C0045 \1600E


(帯より)
生命を読み解く鍵
寄生生命体・SF・情報・人工生命
──生命とは? 人間とは?
知の境界を超えて生命と周縁の生命現象に迫るしなやかな思考


この本は、著者が 1992-1995 の時期にあちこちに書いた エッセイを集め、書き下ろしも加えて再編集したものです。
(佐倉統氏は、「NHK教育 サイエンスアイ」に時々コメンテータとして 出演している、優しそうなお兄さん(?)です。横浜国大 助教授。)

最初の章は書き下ろしで、僕も大好きな漫画、「寄生獣 / 岩明均」 について、かなりのページ数をさいて分析が行われています。
新一、ミギー、田村玲子、後藤などの登場人(?)物のシーンや 台詞について、さまざまな観点から考察し想像を広げ、生命の本質とは?  人間とは? アイデンティティとは?  などといった深いテーマに結び付けられていきます。
本職の科学研究者をもこれだけ夢中にさせてしまう、この漫画の深さには 改めて驚嘆します。

上記のようにこの本では、パラサイトは「ミームの具現形」ではないか、 という解釈がされています。「地球上から人間が少し減ったほうが いいのではないか」という、人間自身が作り出したミームが怪物として 具現化されたならば、それに対して人間はどのように立ち向かっていくのか? という物語ととらえても面白い。
僕は「 実在生物として矛盾を感じない存在 」と考えています。その辺、ご興味のある方は読み比べてみてください。

第4章、SF 小説について書かれた章はとても参考になった。
優れた SF 作家というのは本当に的確な未来予測をしていて、ここ数年の 人工生命研究の発展や、この先に来るはずのことに言及している。
SF は好きで映画は観るけど、小説は読むのが面倒だし選べないので 手を出しかねている僕にとっては、読むべきものをこれこれと示された ように感じている。読むぞ、スタニスワフ・レム。

複数の雑誌や新聞向けに書かれたこともあり、章ごとに話題が飛ぶような 印象ですが、それは著者の視点の広さを示すものであり、 結局は「生命と進化」が一貫しての興味の中心であることが感じられます。
それは僕の興味と重なるところが多いので(そりゃそうだ、彼等の研究を 追いかけて僕は人工生命なんかに足を突っ込んでるんだから)、 ふむふむなるほど感心しながらすらすらと読める本でした。
いつか機会があれば、気楽にじっくりとこの人と話し込んでみたいな、 と思わせるものがありました。
# ファンレターかよ、おい (^_^)

* この本は佐倉統氏から直接頂いたものです。感謝。


 目次
第 1 章 岩明均『寄生獣』をめぐって ── 寄生生命体の生命観
第 2 章 ディスプレイに棲み増殖する「生命」
第 3 章 生命へのアプローチ
第 4 章 フィクショナル・サイエンスの扉を開くもの
第 5 章 生命という情報の海
第 6 章 SALT の時代 ── 柔らかな知の共有


1998/04/24 T.Minewaki
1998/05/16 last modified T.Minewaki

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