グルーバー講演会資料
ドイツにおけるエネルギー事情と緑の党のエネルギー政策

 ドイツは16の州が連邦を構成している国家で、州政府と連邦政府がそれぞれに役割を分担している。原子力に関する規制は日本と比べてかなり複雑である。

●原子力施設の設置や運転についての許認可権限は、連邦ではなく州にある。
●原子炉設置については日本のように一括して許可がなされるのではなく、段階ごとに部分許可がなされる。
●部分許可のそれぞれにおいて住民への情報公開がなされ、住民からの異議申立て、訴訟など、住民参加の保証がなされている。

 現在、ドイツで運転申の原発は19基。必要8カの約3割を原子力で賄っています。ドイツも日本と同じように使用済み核燃料を再処理にプルトニウムを利用するという核燃料サイクル路線を取っていましたが、1989年にバッカーズドルフ再処理工場が隣国オーストリアも巻き込んだ強い反対運動にあい、建設中止に遣い込まれ、自国での再処理を断念しました。約2080億円が投入された再処理工場は中止され、その工場跡は、自動車メーカーのBMW社の車体工場や台所用品工場、トラクター工場などの誘致により工業団地に変貌しています。     </P>

 また、94年5月には、すべての使用済み核燃料の再処理を業務づけていた「原子力法」も改正し、再処理の国務をなくしました。ドイツは、70年代からフランス核燃公社、及ぴイギリス核燃料公社と再処理契約を結び、海外に再処理を委託していましたが、国内での再処理を断念したことにより、追加の再処理契約を締結。2005年までに取り出される使用済み燃料のうち、約8割をフランス、約2割をイギリスとの間で再契約しました。(シュレーダー連立政権は、新たに原子力法を改正して、この契約を破棄することを提案した)

高速増殖炉・SNR300も廃炉に

 SNR300は、ドイツのノルトライン・ウェストファーレン州カルカー市にある高速増殖炉でした。熱出力76・2万KW、電気出力32・7万KWの原型炉で日本の「もんじゅ」とほぼ同格です。建設は終了しましたが、1991年3月、燃料を搬入しないまま廃炉となりました。現在は、ホテル、プール、ディスコ、映画館などを備えたリゾートパークに変身中です。これにより、ドイツは高速増殖炉計画を断念しています。

MOX燃料加工も廃止

 MOX燃料とはウラン・プルトニウム混合燃料のことで、日本でも既存の原発でウランにプルトニウムを混ぜたMOX燃料を使おうと計画されています。ドイツではハーナウにおいてMOX燃料工場が稼動中でしたが、設備が古くなったため危険であると、1994年4月に閉鎖が決定されました。また、建設中の新工場は地元のヘッセン州政府が運転許可証を発給しなかったため、95年7月には創業停止が決定。この結果、ドイツでのMOX燃料の加工は終了しました。

 ドイツは、まず再処理を断念し、次いで高遠増殖炉も放棄しました。つまりプルトニウム利用政策を放棄したことになります。その原因は、大きな反対運動があったこともありますが、経済的な理由も大きなものがあります。再処理・プルトニウム利用という政策には膨大な費用がかかり、日本のように政府から強力な補助のないドイツの電力会社には耐えられないものになったのです。連邦政府の基本的考え「どのような産業でも市場で競争できるようになるまでの一定期間は政府の援助を必要とするが、一定期間後は自立し、政府の援助がなくともやっていけるようにすぺきである。もしそれができないなら、産業として成り立たなくなっても仕方がない。」という経済合理性的考えがある

ドイツにおける再生可能エネルギーの現状と特質

■再生可能エネルギーは、導入当初は、エネルギー密度が低く、供給が不安定で、生産量が少ないので、投資コストがかかり、既存のエネルギー源と単純に比較すれば市場性を獲得することは困難である。しかし、地球規模で進行している温暖化の原因となっている既存のエネルギー源から脱却するためには、環境への負加の少ない再生可能エネルギーの導入実用化が早急に図られなければならない。

・1974年以降、連邦は約40億マルクを再生可能エネルギーに支出している。96年は2健3000万マルクである。核エネルギーに関する研究のための96年度予真は8000万マルクで、それも新しい原子炉の開発には全く利用されず、廃業物処理と安全性確保のために使用される。

再生可能エネルギー発電電力の公共電力網への供給法
(仮訳、財団法人新エネルギー財団「デンマーク、ドイツ、スイス、ECの新エネルギー一政策に閥する調査報告書」1991年6月)

1990年12月7日連邦議会は次の法律を可決した。

第1条:適用範囲本法は、専ら水力、風力、太陽エネルギー、バイオガス、農林業産物、生物の排泄物、および廃棄物から発電される電力の買取りと補償について規定する。ただし、次に示す電力は含まれない。
1、5,000KW超規模の水力およびバイオガス発電施設
2、旧西ドイツ連邦政府の出資比率が25パーセント以上の電気事業者又は株式会社法第15条に基づいて協定した発電施設

第2条:買取り義務電気事業者は、その供給領域内において再生可能エネルギーから発電された電力を、第3条にもとづいて補償された価格で買取る義務を有する。

第3条:補償価格
(1) 水力、バイオガス、農林業産物、生物の排泄物、および廃棄物から発電される電力については最終消費者に対する販売価格(KW当たりの平均販売価格)の少なくとも75パーセントが補償される。但し500KWを超える部分については65パーセントとする(500KWの判断については、月毎の最大有効電力を基礎に、年間平均値を算出する)。
(2) 風力、太陽エネルギーからの電力は、前節に云う平均販売価格の少なくとも90パーセントが補償される。
(3) 第1節、第2節の基礎となる平均販売価格は、旧西ドイツの公的統計による2年前の平均値とする。但し、この値には第3次電力供給法に基づく石炭調整税と付加価値税は含まれない。補償料金の値は、小数点以下2桁までを有効とする。

第4条:苛酷な条件の緩和措置(省略)

第5条:この法律は、1991年1月1日から発効する。

■電力買取法
1990年12月7日、電力買取法を制定し、電力会社に再生可能エネルギー発電による電力の一定価格以上による買取義務を課しました。これにより、太陽光と風力からの発電による電力は販売価格の90パーセントで、その他の再生可能エネルギー(水力、廃棄物など)は販売価格の75パーセントで買い取ることを義務付けました。
・太陽光と風力からの発電による電力の買い取り価格は、約17ペニヒ/キロワット時となり、風力発電は経済的に成り立つことになります。
・さらにボン市やアーヘン市では、太陽光発露による電力を2マルク/キロワット時で買い取ることにしています。上乗せ分は消責香全体に負担が分配され、政府の負担はありません。

■政府の補助政策
・1000ルーフトッププランこのプログラムは、住宅用屋根に2.5キロワット太陽光発電設備(ルーフトップ)の設置を促進するプログラムで、1991年1月から実施されています。政府が設置費用の50パーセント、州が20パーセントを援助し、残りの30パーセントのほとんどが免税対象となっています。これまでに2100以上のルーフトップが設置されています。
・25万キロワットウィンドプログラムこのプログラムは、風力発露設備の運転費用補助金か設備費用補助金を出すプログラムで。1989年に開始され、3億5000万マルクが投資された。当初は10万キロワットプログラムであったが、瞬く間に達成され、25万キロワットに修正されるほど反響があった。

 

ドイツ「緑の党」の政策方針

 連邦政府と社会民主党の多くは、経済危機があり、エコロジーを保護しなければならないという認識のもとに取り組みを進めている。限りある自然の資源を経済が回復するまで略奪することは無責任な態度である。方向転換すれば、生命システムを守るだけではなく経済的な基盤を強化することにもなるだろう。

 長期的には、持続可能で、未来志向型の生産工程や製品、サービスのみが市場で力をもつのだ。現行の政治的路線を継続すれば、2005年までにC02排出を25パーセント削減するとしたリオでの責務を果たせなくなるだろう。

エコロジカルな改革を通じた新たな雇用
 新たな雇用創出の基礎となる未来志向型のエコロジカルな市場のための活発な活動を我々は支持する。緑の考えは赤から黒を作り出し、新しい分野の産業や新しいタイプの雇用を生む力となる。過去20年の発展は、環境保全技術が何千、何百もの雇用を創出したことを示している。
 こうした潮流を強めるに、我々はエコロジカルな社会的税制改革を行う必要がある。エコロジー的基礎をもつビジネスが成長すれば、環境ハイテク企業や熟練を要する職業に利益がもたらされるだろう。低燃費モデルの需要は自動車産業の売り上げを伸ばすだろう。これは3リットルカーの継続的生産のために必要なインセンティブである。エコロジカルな社会的税制改革の導入によって、実際すべての産業部門で望ましい革新がもたらされるだろう。
 エコロジカルな社会的税制改革は、資源節約的な工程と製品の開発のための市場経済的インセンティブとなり、経済的諸力と消費を再生素材やリサイクル方法へと向かわせる。

環境保護と雇用促進のための税制改革
 私たちは環境に優しい行動が報いられ、雇用が促進されることを願っている。労働はもっと安くなり、エネルギーはもっと高くならなければならない。エネルギーコストを上げるにともなって労働コストを下げることは省エネ投資のための要求を高め、コスト効果的な供給をつくり出す。環境税の収入によって、長期的社会保障対策費を削減することを我々は考えている。
 このためには2002年までに社会保障分担を粗収入のおおよそ40パーセント以下に削減すべきである。その結果、純益が生み出され、産業の競争力が上がる。これが雇用促進の方法である。
 環境税制改革の各段階は経済的な困難を予防するように設計されている。社会保障費削減は高い純賃金、つまりより高い年金と失業保険を意味する。よりよい住宅給付金や奨学金や、必要性のある基礎的な恩恵を導入することは社会福祉手当受給者や学生や経済的弱者の条件を好転させるだろう。エコロジカルな社会的税制改革は国家予算の赤字を埋めるための道具でははない。新税はそれ相応の税負担の軽減なしには導入しない。計画されている環境税パッケージの中心的要素は国家的なエネルギー税や重量車両交通税の導入であり、それと同時に環境破壊的な補助金を段階的に廃止する。


 持続可能な交通機関の新システム私たちは環境に優しく、経済効率の良い交通システムを必要としている。特に地方におけるパスや鉄道の整備をするつもりである。魅力ある、便利な鉄道網を国の全土に張り巡らしたい。これは、ローカル線、地力鉄道、長距離鉄道を連携させて、国中に張り巡らせる必要がある。現在の連邦の輸送計画は、エコロジカルで経済的な合理性のある輸送システムに取って代わらなければならない。
 自動車税は廃止され、代わりに石油税の一部に組み込まれるだろう。私たちは航空輸送も減らしたい。国内線の短距離空路を鉄道へと移行するつもりである。私たちはヨーロッパ全土に石油税を導入するよう働きかける。

 新しいエネルギー資源、リオでの約束私たちはエネルギーを倹約して、合理的に使用することに賛成する。
 原子力の利用は無責任である。化石燃料を基盤とする大規模な発電によるエネルギー供給には未来はない。風や太陽のような再生可能なエネルギー資源を利用する大規模な技術開発を支援する。
 私たちは省エネのために可能性のある方法を最大限開発するよう働きかける。このような取り組みは気候を守り、研究や生産、産業で新しい仕事を生みだす。

 私たちはエネルギー供給産業が新しい分散型組織になることを信じている。エネルギーの独占を廃止し、従来のエネルギー供給システムである、発電・送電・配電が分かれていることに終止符を打ちたいと考える。原子力にNOを!緑の党は無条件に原子力にNOを表明している。私たちは早急に原子力利用からの撤退を後援するために、実行可能な政治的、経済的、法的な方法(これには反核運動も含む)を用いるつもりである。私たちはすぐにでも原子力から撤退するという基本的合意を望んでいる。核の再処理とプルトニウム産業は止めなくてはいけない。従って、私たちは核廃棄物の輸送を阻止する。私たちはキャスターコンテナによる核廃棄物の鉄道輸送を阻止し、モールスベン、ゴールベン、シャツチコンランドに計画している全ての最終貯蔵計画を閉鎖するつもりである。

 廃棄物の削減と高水準のリサイクルのためにリサイクル廃棄物法は、廃棄物の削減を最優先し、高水準のリサイクルを目指す法改正が必要である。私たちは反復使用ができるシステムを守り、更に促進するために、包装容器法を改正することにも賛成する。

 地方での新しい仕事と消費者保護の強化のために私たちは環境に優しい農業や特定の種の動物保護やドイツでの農業の品質を保証するような地域農業を支援したい。

 私たちは農業と食品加工分野でのバイオテクノロジーの利用を拒否する。食品の素材を明確に表示するシステムを導入して、透明性や消費者の安全性と信頼性を高めたい。

 自然と地域社会を保護する土地利用私たちは将来の土地利用が自然と景観を調和させるように、新しい自然保護運動を展開したい。西ドイツの農業従事者は国有地が民営化される時、土地の取得に均等な機会が与えられなければならない。自然保護地域と指定された地区は公共の財産として存続させるべきである。

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