トゥヴィン・スクールのその後 
清水 満

 拙著『生のための学校』の第一章に紹介されているトゥヴィン・スクール(Tvind school)は、いわば歴史的な事実としてとらえるべきであり、2002年2月19日に草創期のリーダー、アムディ・ペーダーセン(Amdi Pedersen)が脱税の疑いで合衆国のロサンゼルスで逮捕されるなど、社会的に問題を抱えた集団としてデンマーク国内では批判の目にさらされています。本書を読んでトゥヴィン・スクールのどれかに留学したいという方は、別のホイスコーレなどに行くことをお勧めします。

 1970年代から80年代にかけて、トゥヴィン・スクールは風力発電や発展途上国への旅するフォルケホイスコーレなどの斬新な社会的な活動で耳目を集めました。同時期に発展途上国への支援組織UFFなどをつくり、世界各国に同様の様々なNGOや企業を組織して、80年代後半になると、たんなるオルタナティヴな学校集団というよりも、毛沢東主義に立つ政治集団としての活動が目立つようになり、自己の社会的活動のために、デンマークの自由な制度、オルタナティヴ学校への支援のしくみをを利用しているという批判もあがるようになりました。

 教師集団の閉鎖性もあって、学校への補助金が政治活動に利用されているなどの財務状況の不透明さなどが指摘され、1988年には、教員養成学校への補助金が停止になり、1996年には拙著でも報告しているとおり、デンマーク全部で32校あるトゥヴィン・スクール系列の学校への補助金を中止する特別法が可決されました。最高裁判所ではこれは憲法違反であるとの判決が1999年に出されましたが、現在も補助はなされてはいません。そして上に述べたカリスマ的リーダー、アムディ・ペーダーセンが逮捕されるに及んで、トゥヴィン・スクールは政治的カルト集団の烙印をマスメディアから押され、社会的にマイナスのイメージが国民に強く抱かれるようになっています。

 友人のデンマーク人教師は、デンマークの今日に大きな影響を与えた風力発電の建設、多くの学校で試みられている「旅するホイスコーレ」のアイディアそのものが間違っているわけではないと語っています。トゥヴィン・スクールがホイスコーレ運動の歴史において果たした役割は大いに評価したいと思います。

 しかし、それは歴史的事実であって、現在においては様々な不明朗な問題を抱える集団になっていることもまたかなりの程度明らかであり、ここで学びたいという方にはお勧めできる学校ではないと判断しています。私たちとしては、歴史的な事実とアイディアに学び、それを独自に発展していくことが大事であると考えます。心あるデンマークのホイスコーレ教員たちもおなじように考えている人が多いことも付記しておきます。