2016.9.9 jpn

鎌倉高校における“たたら製鉄”の研究

2016/9/9 

根鎌倉高校 副校長 石川雅之 木浪信行

湘南高校出身の石原元東京都知事が高校の小学区制は悪平等で、若者の才能を伸ばすことができない。だから東京都は大学区制にもどす と宣言して成功。神奈川県も反省し、同じように大学区制に戻し、湘南高校のレベルは昔にもどった。鎌倉高校はもともと女子高だったが、教員達の努力でレベルも 上がり、横須賀高校や小田原高校のレベルまで上がりつつある。西は箱根から箱根登山鉄道で通学している子もいる。

最近はアニメ「スラ ム・ダンク」のおかげで海外にまで有名になり、観光客がバスケットコートのある屋内体育館を目指して殺到し、教員はこれへの対応で忙しい。でも生 徒たちの励みになっていることは確かである。

さて当校には6年前に発足した部員16人の科学研究会がある。彼らの興味を引く研究はないかと考えた。鎌倉産の名刀「正宗」の材料は稲村ケ崎の浜に産する砂鉄を「たたら製鉄」で精錬したものと伝え られているが、本当にそうなのかで実験してみようということになった。京大で「たたら製鉄」の研究 をしている先生をたよって京大にでかけ、毎年そこで炉を作り実験している。問題は旅費を含む研究費で寄付で賄っている。

そもそもたたら製鉄は自然風により木炭を燃すのでふいごを使用する後の製鉄とことなり、鉄の融点より低い1,200℃程度で酸化鉄を木炭で還元す る方法である。固体の還元鉄と溶融状態の不純物スラグを層分離するという低温精製により、ふいご式よりも純度の高い鉄が得られる。こうして鍛造に適した鉄 がえられたため、刀剣素材として使われた。名刀「正宗」の誕生である。

実験したたたら製鉄は粘土製ではなく、白金熱電対を埋め込んだレンガ製の炉とした。この中に木炭を入れ、点火後は鞴(ふいご)で風を炉内に送りながら木炭と砂鉄を交 互に上から加え続けた。炉内の高温と一酸化炭素の還元力により、砂鉄から酸素を奪って鉄にする。時々炉底に穴を開け、そこから溶解した不純物(ノロ)を排出す る。ノロはシリカを含むスラグで溶融している。ケラは還元された鉄の小 塊からなる礫状の塊。固体のケラは液状のノロの中で育つため、ノロの排出量は多すぎても少なすぎてもいけないとされる。高温で焼かれた炉壁はノロとなって消耗し、再使用すること無く、解体し、炉内の灰にまぎれた金属塊である「ケラ」が得られる。 ケラは打ち砕かれると良質だが少量の「玉鋼」と多量の「ズク」(銑鉄)及び不均質鋼などが最終的に得られる。このように多段階の反応と目視におよる選別により精製純度をあげる 。

島根県で取れる「真砂(まさ)砂鉄」と鎌倉の「赤目(あごめ)砂鉄」を比 較したところ、「真砂」より「赤目」の方がカルシウムとチタン含有のため、鉄の融点 が低いことが分かった。高温で不純物のみを液状にして取り除く島根県の製鉄法だと、不純物と鉄の融点が近い「赤目」は分離が難しいと推論した。これが鎌倉 でたたら製鉄が室町時代に衰退した原因だろうと推定された。いずれにせよ、たたらは手間がかかり、生産性は低いので明治以降西洋式の溶融状態で還元する製鉄法にとってかわられ た。もし鎌倉の旧家で古い鍛造釘がでてきたらぜひサンプルをとらしていただければ幸いである。

September 9, 2016


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