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1482

鬼怒川の決壊

2005/10/23


最近は気候変動に関しては二酸化炭素排出削減政策しか政策でてこない。この政策は国際的圧力をかわすためという風情で自主的なものではない。気候変動への 漠然としたおそれを利用した発展途上国牽制の意味合いがあって、日本にとっては切迫したものではない。むしろ気候変動にたいする適応策が喫緊の問題なの に、政府は他人事のような顔をしている。大男総身に血が通わない風情である。

2015年には史上最大のエルニーニョが発生しており、なぜか偏西風も蛇行して日本では南の 小笠原に行ってしまった。結果、小笠原の南方海上で発生した台風18号がまっすぐ北上し、2015/9/10名 古屋を突っ切って日本海へぬけた。このとき、三浦半島と房総半島からまっすぐ北に延びる雲が長時間動かずに居座って線状降雨帯を形成し栃木、茨木に集中豪 雨を降らせ、鬼怒川が増水し た。道谷原 発電所と鬼怒川温泉滝にある鬼怒川発電所の2水力発電所が水没した。大正時代に建設されたダムのない流下式水力発電は川の増水で発電機が水没して使えなくな る構造だ。

<鬼怒川の若宮戸での自然堤防の越流>

鬼怒川の常総市若宮戸には人工土手はなく、近くの十一面観音にちなんだ十一面山(若宮戸山) という自然土手だったが、増水時、ここで越流した。下流域は水没した。Google写真 に写っているのは自然土手の外側の河川敷にソーラーエナジーインヴェストメント株式会社が設置した出力50kW弱の低圧連系の太陽光発電所である。太陽光 パネルは、ソーラーフロンティア製である。河川敷きなのでほとんど置基礎から流失した。

この右手住宅の間の空き地にはGoogleMap撮影後の2015/3に本 格的1.8MWのメガソーラーメガソーラーが設置された。いずれも自然堤防が私有地のままで、国土交通省 河川局の管理下にないため役所は自然土手を削ることを黙認していたという。ソーラー発電の業者も「建物を建てる訳ではないので申請は不要」と市に掘削許可 をとらずに工事をした (法令的にはOK)。 2015/9/12の新聞報道による とこの自然土手の150mの頂部を2m掘削したのは危険だと住民が市側に訴え、市議会が取り上げて討議。国土交通省 の河 川事務所が危険を認め、削られた部分に土嚢を積み上げていたという。これは人災の可能性があり、補償を含め今後問題になろう。

建 設会社の社長は2013年末に土地を購入した際の重要事項説明書にも「自然堤防」という記載はなく、「見た目でもいわゆる砂の丘で、川の氾濫を食い止めら れる堤防には見えなかった」と振り返った。高さについても当初から「中央部分は2メートルもなかった」と話した。社長や地元住民によると、「自然堤防」一 帯には1964年の東京五輪前、もう少し高い丘だったという。社長は「東京五輪の(環境整備の)ために、その砂を売ったと聞いた。その後たまたま残ったの が、あの部分に残ったみたいです」と話した。メガソーラー設置のため、2014年1月から工事を開始。同年3月ごろに地域住民から砂丘掘削工事に対する反 対の声が上がり、同市と国交省下館河川事務所の担当者と協議した。河川事務所側からは、住民の不安を払拭(ふっしょく)す るために土のうを積ませてほしいと頼まれ「快く許諾した」という。

このメガソーラーの少し下流の土手の上には鬼怒川砂丘慰霊塔という立派な施設がある。太平洋 戦争のさなかビルマで命を落とした弓歩兵だった株式会社稲葉燃料社長稲葉茂氏が戦友の鎮魂のために建てた慰霊塔であるという。その下流には稲葉燃料の畜舎 がある。

<三坂町での越流破堤>

更に下流の三坂町では石下大橋の下流1.5km、美妻橋の 上流5kmの地点で決壊し8000戸が水没して多くの人が一時不明となった。77年ぶりのことだという。この部分の土手は弱いので2015年 11月から改 修する予定だったという。この決壊前の航空写真の撮影時期は不明だが(Googleは知っている)河床に溝状に掘削していたことが見て取れる。川 底を均一に削るのは天井川にしないために必要だが、川底を溝状に深さ数m掘っている。深さは西日の作った段差の影でそう推察できる。砂利・砂採取が目的で はないか。その証拠に採取した砂 利・砂 を今回決壊した近辺を越えてダンプ で運び出したように見える。土手の斜面下部に鉄板を敷き、頂部は勾配が少ないので鉄板は敷いてないため、砂利運搬ダンプが土手の上で180度方向転換する 轍の跡が鮮明に見える。またダンプにより土手斜面の植生が損傷していた可能性もある。土手頂部のアスファルト舗装ははがされたように見えるし、平坦になっ ているように見える。増水したとき、 越流する地点は川面より土手の上端が一番早く低くなった地点ということになる。今回は上流の若宮戸で2番目がここであった。流れが早ければ川の水はトレン チになった掘削部に流れ込み、土手に向かって角度を以て接近する。掘削部が終わるところで堰き止められ、上昇流に転ずる。川面は波 打って盛り上がる。この盛り上がりは速度頭にほぼ等しく、流速の2乗だ。しかしこの部分の川幅は広いので流速の影響は低く、川面の盛り上がりは無視できた だろう。したがって土手の上面が頻繁なダンプの通過で低くなっていたことがここで越流が始まった原因と推論できる。越流水が始まると草もはげ、砂を盛り上 げただけの土手は簡単に決壊 する。典型的越水破堤だ。

わたしはGoogleの航空写真からなぜここが2番目の越流点になったのか推論したが、その エビデンスとなる掘削堀は水没していたのだが、10月12日の朝日新聞の野津賢治撮影の動画に河床の溝状に掘削した跡が姿を現した。この証拠は川底に残っていたのだが、ルネ・クレマ ンの「太陽がいっぱい」のように川が干上がって露わになった。

い やしくも一級河川がこんなことでよいのか?これは人災ではないのか。マスコミは報じていないが砂採取場の後始末不十分に加え、土手が砂で作った安普請とい うことで国土交通省の河川局の責任は免れ得ないとおもう。

河 川局はこの近辺の土手が弱いので、ここが破堤したときのシミュレーションをし、常総市役所まで水没 するという予想をしていたが、常総市役所は若宮戸での越流に気を取られ、意識の高い中三坂町だけには避難命令を出しているという事前準備不足が垣 間見える。結果として決壊した上三坂町には警報は出さなかったことになる。

常総市は河川局のシミュレーション結果をベースにハザードマップを作成して住人に知らせてはいるが、霞が関文学の「特別警報」とか「避難判断水位」が何を 意味するかを人々は理解できない事を理解していない。どうも日本の行政は中央も地方も住民が理解できないことを至上の価値としてあいまいな用語をつかって 責任を回避している。住民も住民で自分で考えて決めるという文化をもたないので「避難勧告を知っても周りの人が避難しない以上、私も避難できない」という メンタリティーだから救いようがない。自業自得といえる。水没した家屋を見ると住民は裕福のようだ。隣の筑波学園都市の波及効果がおおきいのだろうか?

住民だけでなく、このハザードマップで最も水深の深くなる常総市市役所を災害指令センターにしている。1階部分が水没。 非常食は数キロ離れた高台に保管してあり、市職員が取りに行けなかった。 1.5mの高さに電気設備があったため庁舎が停電。この庁舎は東日本大震災後、立て直したというが福島第一の事故からなにも学んでいない。 市役所の固定電話が不通になり、市民からの問い合わせへの対応などに支障 。と洪水というものを分かっていない。そもそも若宮 戸で越水した水につかった豊田城は典型的箱物行政の結果だ。昔あったといわれる天守閣のない時代の城あった豊田地区に天守閣を作っているのだ。このような 様子を見ると同情心がわかない。自業自得、同情心もわかない。

写真には激流に飲まれて流失した家の主(坂井正雄氏)が救出されるまでつかまっていた電柱もしっかり映っているし、その近くで屋根に人を乗せて流れてきた 家をとめた白いヘーベル・ハウスも映っている。

<学ぶべきこと>

決壊箇所の水の流れ方 をみていると水位が下がったときで河床が自然土手に向かってせりあがった部分に阻まれて越流は辛うじてとまったが、空からみると鬼怒川が天井川になってい ることが分かる。川床が周辺の 水田(昔は沢山あった鬼怒川の一部)より高 いのである。これは全国のどの河川でも同様。特に江戸川が典型的。1日遅れで宮城県大崎市の渋井川の土手も決壊したが川底が周辺の水田より高いのが分か る。これでは 土手の嵩上げだけでは長い間にイタチごっこになると予 想される。河床のドレッジングが必要になるのではと思う。(Googleの航空写真のように一部だけ掘り下げるのではないやり方で)

ドレッジングも、遊水地も、スーパー堤防も金と時間がかかる。今取り掛かるべきは、取りあえ ず土手の表面を何らかのシートで覆って越流破堤しないようにすることだろう。

いずれにせよ安全な河川にするには莫大な国費を投じなければならない。これから財政は厳しく なる。だから安全な河川は多分できない。したがって住民は国に頼らず質の低い河川 より低い地帯に家を建てないとか、仮に建てる時は下駄を履くいうことで自衛するしかない。


よく洪水は二酸化炭素による温暖化が原因だからまずそこから手をつけるべきだという学者がいるが、因果関係が明らかでな い分野での研究費確保ねらいの似非学者だと思って間違いない。問題解決のかく乱意見といっていい。砂の土手を放置してなけなしの国費を浪費している輩とで も言えようか。

2014年の冬に東電のどこかの水力発電所の発電機室の屋根が積雪の重みで崩落した。いずれもダムのない流下式のマイナーな発電所だ。古い様式のため、想 定水量より水量が多いと発電機が水没するということがみえてきた。古い想定値はもうつかえないことが判明した。大体、原発にしても工場にしても発電機を地 下に設置すればこういうことになる。

長野県安曇野の大町ダムはその上流の七倉ダムとセットになって原発のための揚水発電所となっている。七倉ダムは ロックフィルダムだが下の大町ダムはコンク リート製の重力式だ。(現在の水位は98%)このダムが地震などで崩壊すれば10万人規模で犠牲になる。補償金一人当たり1億円とすれば総額10兆円とな る。世界のダム事故の確率から原発のもつリスク額が推算できる。

September 15, 2015


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