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1464

自動運転技術
2015/04/30

Googleが自動走行車を開発した。Audiは2017年に 新型A8を発売予定だという。この自動運転車はLiDARからの3D画像認識を多分ニューラルネットワークに流し込み、ニューラルネットワークの出力と ECU(Engine Control Unit)等からクルマの走行状態を常時把握・分析し、3次元自動運転用マップを参照しながら、ぶつからない進路を決定し、その結果を人間を介在させるこ となく、直接CAN(Controller Area Network :CAN) 経由で車制御系システムに流し込む事でクルマを走らせる。これら制御は手続き言語でするという感じ。そして完全別系統のミリ波レーダーが危険を察知すれば 急ブレーキを作動させるという仕掛けなのだろう。このほか、カメラ、超音波等の多様なセンサー群を利用してクルマの周囲状況を監視する。超音波レーダーは特に車庫入れなどに使う。現在2020年 頃をターゲットとして欧米の各社が目指している自動運転は、概ねNHTSAの言うLevel 3の実現にあるが、この段階ではクルマが自動運転を”諦める”事が許されており、その場合、自動運転からドライバーに「十分余裕を持って運転を戻す」事が 条件付けられている。これだと普通人の運転より安全になり、保険会社も自動運転車割引なんて売り出すかもという感じ。問題はこの制御系の追加コストはパソ コンの数倍に収まらないと普及はしない。Audiが検討しているNvidiaのARM系のRISC系統合型プロセッサ2個搭載の並列処理によるニューラル ネットワークなら安くできそう。

●GPSは無論標準装備して内臓3次元自動運転用マップ上の現在地の確認と目的地までのルート計画を作成する。

●センサーの単眼光学レンズは自然光やヘッドライトの反射光から2Dの映像を時系列でみているだけだが、2眼なら2Dの映像をを見ることになる。赤外レーザー・レーダー(LiDAR)は1個で360度の視野を3D映像を時系列で見 ている。ただ色を判別できないので学習できる情報量は少ない。この生データをニュラルネットワークを使う人工知能(AI)に機械学習させるわけだから人間ができない芸当をしているわけ。グーグルが採用したLiDARはシリコンバレー に本拠を置くベロダイン(Velodyne)が米国防総省国防高等研究事業局(DARPA)主催の2007年の自動運転車の競技会「DARPAグランド チャレンジ」のために開発され、1個7万5000ドル(約900万円)以上もしたが、現在ではライダーのコストダウンが少しずつ進み、近い将来には100 ドル未満と劇的に安くなる可能性もあるという。ちなみに同じくシリコンバレーにあるクアナジー・システムズ(Quanergy Systems)は、回転など可動部の一切ない半導体方式のライダー開発を目的に2012年に創業したベンチャーである。すでにメルセデス・ベンツ、現代 自動車、ルノー・日産とパートナー契約を結んでいる。

●人工知能には1969年にジョン・マッカーシーとパトリック・ヘイズによって、Some Philosophical Problems from the Standpoint of Artificial Intelligenceの中で述べられたフレーム問題があるが、これは知能をブール代数に還元してアルゴリズムでトップ・ダウン式に定義することから生 じる問題だ。だから日本の第五世代コンピュータは失敗したのだ。これをみていた米国では「知能の本質は記憶にあり」 と喝破して人間の脳に模したニューラルネットワークに膨大な生データを与えて、機械学習させて覚えさせるという方向に向かったのである。しかし神経系を模 倣した多層ニューラルネットワークのような記号操作的でない知能に3Dの生映像を与えてディープ・ラーニングさせることにしたわけ。ディープの意味は多層 の各層の上位に上がることに抽象化がなされることを意味する。

●主制御系とは別系統の非常ブレーキ用のミリ波レーダーが車間距離を精密に監視している。LiDARは周囲の人の目に照射してしまっても影響のない強さのレーザーを使っている ために120m先までしか見えないが、車用ミリ波レーダーは250m先を見ることが可能。より重要な理由として、車用ミリ波レーダーはドップラー効果を用 いて対象物との相対速度を測定でき、早期の動体検出が可能だ。

●タイヤの回転を数える走行距離計:DMI(Distance Measuring Instrument)で、車がどれだけ進んだかを測定するセンサー(走行距離計)も持っている。

●慣性航法のための6軸加速度センサー:IMU(Inertial Measurement Unit)は慣性航法に使用されるセンサーだ。車がどのような挙動をしているのかを加速度と角速度の両面からとらえる。IMUは、現在でもカーナビゲー ションでよく用いられている。カーナビゲーションでの利用用途は、GPS衛星の電波が届かないトンネル内やビルの谷間などでも現在位置を推定するためだ が、Google Carでも同様の目的で用いる。

●上記車載センサー群では高々100m〜200mの把握可能距離であり、例えば時速100Kmで走行した場合200mは7.2秒に相当し、セン サー群による周囲状況の把握のみではドライバーに「十分余裕を持って運転を戻す」事は実質的に困難と言える。過去に走った多数のクルマから各種センサー データをデータセンターに集約し、ビッグデータ処理して提供も可能。こうした動きは、海外でIndustrie 4.0やCyber Physical System、Industrial Internet Consortium等といった枠組みで議論されている。

考察

自動運転可能な自動車、いわゆる自動運転車は有望な市場を創出すると期待 されており、自動車関連企業のみならず、IT企業をも巻き込んだ開発競争が 日本の自動車メーカーの世界シェアは国別で世界最大であり、自動車産業は日本を支える重要な柱だ。果たして、自動運転車時代が到来しても、日本は高い競争 力を誇っていることができる保証はない。

そもそもGoogleが自動走行車を開発したのもDARPAのコンテストがきっかけ。軍事目的ではかなり進んでいるようだ。2014年のDARPAのロボットコンテスト に優勝した日本のベンチャーはグーグルに買収されてしまった。2015年の東大チームは自律部分が少なく、すべてリモコンに頼ったため、妨害電波で混乱し て指令待ちで時間切れ。韓国に負ける始末であった。

これが官僚王国日本の実力だ。日銀がマイナス金利などのどんな奇策をろうしようとしても肝心の技術者が階層社会に組み入れられていては新しい発想は出てこない?アベノミックスといって日銀にいろいろさせてい るが、金融政策をいくらいじくりまわしたとて、技術開発に税金を投入したといっても、イノベーションせよと 叫んだところで、トップダウンで号令をかけても、肝心の開発者が階層組織に閉じ込められていては脳の中は上司の時代遅れのガラクタで脳の結線が固着されたままではなにもでてこない。アベノバブルで終わるのが落ちだ。

私がなぜ自動運転が気になるかと言えば、日本的に行政がしゃしゃり出てくる環境はかって通産が音頭をとったAI(実は弱いAI)のための第5世代コンピューター開発を思い 出させるからだ。東大卒の渕一博が所長としてリードした旧通産省の新世代コンピュータ技術開発機構(ICOT)が膨大な権力を与えられ、各社のエースを集め、コンピューターメーカーに 補助金をばらまいたが、所長がアルゴリズム方式にこだわり、自由な発想を抑圧したため巨大な税金の投入という利権(小保方・ 理研的な)のみになり、何も生まなかった。結果、ICOTは人工知能を完成させることができないばかりでなく、、1980年代初頭というコンピュータ産業の分岐点で、メインフレームを単に高度化する方向に 国内メーカーをミスリードし、IBM-PCに始まるダウンサイジングへの対応を10年以上遅らせた点で、大きな弊害をもたらした。また産業政策としても、 史上最大の浪費プロジェクトだった。この計画が放棄されたとき、世の 中はパソコンになっていて、日本製で使えるコンピュータはゼロという笑えない歴史だ。唯一の成果はICOTの失敗によって、脳はアルゴリズム型コンピュータではない ことが明らかになったことだけである。

これがトラウマとなって日本の学会や企業、特にコンピュータメーカーは考慮すべき要素の組み合わせ空間が有限でない限り、無限の可能性について考えざるを 得ないというフレーム問題など、アルゴリズム方式(弱いAI)のAIの欠点をあげつらうばかりで取り組む気力もない。形や米国は多層ニューラルネットワー クに多量のデータを与えそれぞれの階層のつながりの重みを創発的に会得させる方式(強いAI)でフレーム問題を克服しつつある。

政府の科学技術行政第五世代コンピュータについで地球シミュレータと称するスーパーコンピュータの開発でも大型コンピュータにこだわっておなじような失敗を繰り返している。いずれも工学的手法と組織が階層構造 で、権威主義的にトップダウンで行われるため、進化論的な組み換えと淘汰がおこなわれないためだ。これすなわち理系のマネジメントは文系的階層構造マネジ メントの下層に閉じ込められて自由度がないため、といういつもの私の結論になる。

突然経産省の文官がある日、目覚めて自動運転技術開発は今後の日本の将来を左右するとして税金を投入し始めると恐れていたが安倍首相が突然めざめ てすでに税金を500億円も自動運転車に貢いでいるという。車輪を2度発明するというやつ。私は、いまさらあわてて乗り出しても遅かりし内蔵助だと思う。 戦場の無人車は米国も国家が研究しているが、民生用は民間のGoogleにまかせているわけ。タクシー業界、宅配業者、給食会社など、どこで儲けるかのビ ジネスを描いてから技術開発するから成功する。政府がでてくるとビジネスに関心のない役人のメンツのための研究になり必ず失敗する。

国はシャープと昭シェルのPV部門を合併 させ、シャープの液晶をソニー・東芝・日立・パナソニックを統合したジャパンディスプレイに 吸収される方向だった。しかしジャパンディスプレイは先端の有機ディスプレイ開発の熱意は低く、合併は単なる失業対策で結局衰退しか待っていない。これは 主力銀行の三菱銀行はが安易に税金を利用しようとしたためらしいが、もう一つの主力銀行の「みずほ」は鴻海に軍配をあげたようだ。シャープの液晶を必要と している会社はアップル、そのアップルの製品を中国で受託製造しているのは台湾の鴻海だからいわば垂直統合。これに日本政府が関わってもうまくゆくはずが ない。収まるべきところに収まったと思う。日本の敗因はアップルのジョッブズに負けたことだ。シャープやソニーが自滅して覇権を握れなかったために部品メーカーに甘んじていたツケが回ったに過ぎない。

東芝もニッチもサッチも行かなくなっている。全ての分野で赤字である。結局WHを中国に渡したくないと日本政府は税金を東芝に投入するハメになるのでは?私なら不良債権であるWHを買いたと思っている中国に売り払 うべきと思うが、米国の核の傘に配慮するというのが日本政府のスタンスだから米国の圧力に負けるかも。「愚かという他ない」というのが私の感想。核では中 国に自由にさせればそのうちにしまったということになると思うのだが。

政府がすべきことはAI車認可条件などの法整備だろう。保険の基本料金は一般的には人間ドライバーのケースより安くなるだろうが、保険適用についての付帯 条件はAIの能力査定次第で大きく変わると推測される。刑事責任は第三者が意図的に外部操作したかどうかが問われる。製造者責任は認可条件通りに設計・製 造されていればメーカーに責任無し。ただ欠陥があれば当然メーカー責任。ただGoogleは製造物責任を回避するため に多分自分では自動車本体やAIドライバーを製造しないのではないか。メーカーにライセンスし、見返りはローヤルティーか。またはAIドライバーは Googleの地図、ルート・サービスしか使えなくして、これを有料化して収入を図るのかもしれない。

原発と自動運転とは損害規模で圧倒的なちがいがある。原発は損失が巨額すぎ保険でカバーできない。しかし自動運転車の事故のスケールは小さい。人口減の社 会で貴重な人材をタクシーの運転手にしておくほうが国家的損失となる。この人的無駄使いと事故の損失を天秤にかけたら結論はあきらか。にもかかわらず自動運転車でも米国や中国の後塵を拝することになるような予感がする。

トヨタは賢くもカルフォルニアに開発拠点をもったが、それでも失敗すると思う。なぜならトヨタが国の方針にそって先のないFCVをマーケットに出 すようなピントはずれをしたのを見ればわかる。日本流の硬直した階層人事では一流の人間があつまらず、人材の墓場になる宿命を負っている。

Rev. February 13, 2016


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