読書録

シリアル番号 995

書名

地球に未来はあるか 地球温暖化・森林伐採・人口過密

著者

G・R・テイラー

出版社

みすず書房

ジャンル

環境

発行日

1971/2/5初版第1刷
1998/3/23新装第1刷

購入日

2008/12/15

評価

原題:The Doomsday(最後の審判) Book by Gordon Rattray Taylor

鎌倉図書館蔵

巻頭のヨハネ黙示録7、8、9章の引用で始まる。

40年前に書かれたものであるが大部分は予想通りである。

原子力が排出する放射性廃棄物に関しては、10.756年の半減期をもつクリプトン85と12.32年の半減期をもつトリチウム(三重水素)がある。

ハイデルベルク大のオットー・ハクセル教授は2060年までに何らかの処置を講じないと50マイクロキューリー/m3(186Bq/m3)となると予測している。しかるにジョン・コッククロフト卿によれば人間にとっての安全基準は0.6マイクロキューリー/m32.1Bq/m3)という。しかしこれは心配のしすぎて米国のEPAが定めたラドンの実内濃度の安全レベルは150Bq/m3というのでまだ問題はないだろう。

また半減期6,000年の炭素14もでてくるという。天然ガス中にも炭素14はあるが、これが有機炭素となって生殖細胞に取り込まれれば突然変異の子孫が生まれる可能性もある。

チェルノブイリで主要汚染源となったのは甲状腺にとりこまれる半減期14日のヨウ素131、カルシウムと間違えて骨に取り込まれる半減期28年のストロンチウム90、柔らかい組織に取り込まれる半減期33年のセシウム137である。

Rev. January 30, 2009


本著の2060年までに何らかの処置を講じないと50マイクロキューリー/m3となるというオットー・ハクセル教授の予想は正しいのだろうか?最近話題にならないのはどういうことか?

日本でモニタリングポストはなぜか放射性希ガスは測定対象としていない。気象研究所では、人工放射性核種の地球化学的トレーサーとしての利用を目的に、85Krの大気中濃度の観測を継続してきた。

大気試料は気象研究所屋上において1995年5月から採取を始めた。採取期間は1週間で約10m3を採取し、当初は全球に観測網を展開しているドイツ大気放射能研究所(BfS-IAR)に試料を送付し、BfS-IARにおいて分析が行われてきた。2000年からはBfS-IAR方式に基づく85Kr測定装置を気象研究所においても整備し、つくばにおいて採取された試料をBfS-IARと気象研究所双方で測定できる体制を確立した。実試料による比較試験により、ほぼ6%以内で双方の分析値が一致することを確認している。つくばにおける観測は、2006年3月で終了した。

1995年からのつくばで観測した大気中85Kr濃度をFig. 1に示す。1997年3月〜2000年6月を除いて、一時的に通常よりも1桁近くも高い大気中85Kr濃度が観測された。これらは気象研究所の北東約60kmに位置する東海村核燃料再処理施設稼働日と一致しており、再処理施設からの放出された85Krの影響によるものと判断される。一方、東海村再処理施設が休止していた1997年3月〜2000年6月にあってもイギリスやフランスにおける再処理施設は稼働していたにもかかわらずつくば市においてはその影響が顕著に現れることはなく、観測された85Kr濃度は他の北半球中緯度(北緯30〜40°N)地点での観測値(およそ1.3Bq/m3)と同程度であった。また、1999年9月末のJCO臨界事故の際には緊急モニタリングを行ったが、つくばでは、有意な濃度上昇は認められなかった。

東海村施設からの影響のない期間のデータを、つくばにおける大気中85Krのバックグラウンド濃度とすると、バックグラウンド濃度は夏に低く、冬に高いという季節変動を示した。これは、つくば市上空をおおう気団中の85Kr濃度の差異を反映したものであろう。すなわち冬季の大陸性気団では85Kr濃度は高く、また夏季の海洋性気団では85Kr濃度が低いことを示している。バックグラウンド濃度は季節変動を伴いながら年々増加する傾向にあることがわかった。急激な濃度増加の見られた1995-1996年間を除けば、1996-2004年間では0.03Bq/m3/年の速度でほぼ直線的に増加を続けており、核燃料再処理施設からの放出により、全球的な85Kr濃度の上昇が依然として続いていることが示された。つくばにおける大気中85Krのバックグラウンド濃度は2004年の時点で約1.4Bq/m3にまで達したという。

この結果を外挿すれば2060年には3.08Bq/m3となる。1キュリーは3.7×1010Bqであるから オットー・ハクセル教授の予測の50マイクロキューリーは186Bq/m3となる。ジョン・コッククロフト卿の安全基準の0.5マイクロキューリーは2.1Bq/m3となる。このように オットー・ハクセル教授の予想は原爆実験の中止などによって外れたが、現時点においてジョン・コッククロフト卿の安全基準は越えていることになる。


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