読書録

シリアル番号 984

書名

天才と分裂病の進化論

著者

ディヴィッド・ホロビン

出版社

新潮社

ジャンル

進化論

発行日

2002/7/30発行
2006/2/15第4刷

購入日

2008/9/18

評価

原題:The Madness of Adam & Eve-How Schizophrenia Shaped Humanity by David Horrobin 2001

山木会参加のため東京に出 たとき丸善書店本店で購入し、一気に読破。

神経細胞間の情報伝達をする樹状突起、軸索は神経細胞膜と同じリン脂質でできている。大脳は物質的には脂質の塊といっていい。 ここで著者はスペインの組織学者ラモン・イ・カハルが世界で始めてニューロンの分岐構造を見せる。

人類に先行するネアンデルタール人など先行人類は濃縮能力の低い腎臓のためと発汗で体温調節するために常時水を飲まねばならなかった。そのため川辺、湖水 のほとりに住んだ境界型生物である。

これら先行人類14-8万年前に脳の体積は同じままで突然、象徴的文化、技術を持ち、常に変化を希求する現生人類に変貌をとげた。その契機となったのは脂 肪酸結合タンパク質、脂肪酸運搬タンパク質、アポリボタンパク質、リポプロティンリパーゼ、アシル化刺激タンパク質のどれかを作るDNAに突然変異が発生 したためである。

こうして脂肪を効率的に摂取できるようになった人類は皮下脂肪を溜め込み、飢餓に耐え、脂肪のおかげで体毛も不要となった。また体毛も失ったもうひとつの 理由は水辺で生活するために水でぬれてもこまらぬためである。脂肪摂取効率の向上の最大の効用は脳のシナプスを複雑化させることができたことである。この ため脳は記憶ができるようになり、情報を整理できるようになった。こうして人類は賢くなり、他の愚かではあるが平和的な先行人類を絶滅させながら地球の隅 々まで拡散することができたのである。

特に脳が必要とした必須脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)エイコサペンタエン酸(EHA)等はアフリカの大地溝帯の食物連鎖の最下層にある海草や 苔や肉微小藻類であった。

このように人間を人間たらしめる遺伝子の突然変異変異はしかし循環型気質、双極性障害、分裂病(統合失調症)、読字障害、サイコパスもしばしば引き起こ す。これはホスホリパーゼA2サイクルに関係した遺伝子の変異である。我々の神経反応を亢進し、変化に適応できるシステムを提供す る。

こうして人類は均一から多様化へ、安定から変化へとむかい、芸術や宗教、そしてサイコパスの指導者にみられるように平等主義からより一層の差別化を望み始 めた。

この傾向はますます強まり、より生産的になると同時により破壊的になった。農業革命がおき、余剰生産物のおかげて都市ができ、人類は水辺の狩猟採集生活で 確保できていた食物連鎖から取り返しのつかないほどはるかに遠ざかってしまった。そして産業革命がおき、飽和脂肪酸の消費量が劇的に増加する。加工してい ない生の食材からの必須脂肪酸の摂取は種類も量も減ってしまう。他の微量栄養素も同様であった。そして現在の正気を失ったような創造的で破壊的な社会がう まれたのである。

狂気と天才は紙一重といわれるが、この人間のすぐれた特性はまた分裂病などの精神病と表裏一体というか同根である。分裂病は人種や地域に関係なく世界中で ほぼ100人に一人の一定の確率で発生する。しかし偉大な業績を上げた個人の家系には平均より高い確率で発生する。たとえば、ジェイムズ・ジョイスの娘、 アルバート・アインシュタインの息子、カールグスタフ・ユングの母、バートランド・ラッセルの家系 、ジェームス・ワトソンの息子である。

自身が分裂病か分裂気質である偉大な人はノーベル賞受賞者ではジョン・ナッシュ他である。音楽家ではドニゼッティ、シューマン、ベートーベン、ベルリオー ズ、シューバルト、ワグナーである。作家ではボードレール、スウィフト、シェリー、ポー、ジョイス、ゴーゴリ、ハイネ、テニソン、カフカ、プルースト、ハ クスレイである。哲学者ではカント、ウィトゲンシュタイン、パスカルである。科学者・発明家ではアインシュタイン、ニュートン、ファラディ、コペルニク ス、リンネ、アンペール、エジソン、メンデル、ダーウィンである。

循環型気質、双極性障害の作家・詩人はバイロン、ブラウニング、ヘミングウェイ、コンラッド、シラー、バルザック、ディケンズである。画家・芸術家ではラ ファエロ、ミケランジェロ、ヴァン・ゴッホ。音楽家ではヘンデル、ロシッシーニ、チャイコフスキー、ショパンである。

読字障害者としてはレオナルド・ダビンチ、アルバート・アインシュタイン、トマス・エジソン、アレクサンダー・グラハム・ベル、ウォルト・ディズニー、ハ ンス・クリスチャン・アンデルセン、ウィンストン・チャーチルである。

これらの事実から関連する遺伝子は数個ありその重なりかたと環境、必須脂肪酸の摂取量で発症したり気質で終わることもある。

人類が食物から直接必須脂肪酸の摂取していたころは問題なかったのだが、飽和脂肪酸ばかり摂取する近代社会になって変調は激しく発症するようになり、多く の人が精神障害へと陥った。現在ドコサヘキサエン酸(DHA)エイコサペンタエン酸(EHA)摂取による治療は始まったばかりである。

Rev. December 10, 2009


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