読書録

シリアル番号 922

書名

二十世紀

著者

海野弘

出版社

文藝春秋

ジャンル

歴史

発行日

2007/5/30第1刷

購入日

2007/12/08

評価

友人のT氏の推薦本。3,300円はちょっと高かったけれど買った。

この本の内容はすでに皆知っていることだけれど、要領よくまとめてあるので資料として買った。通読することはないと思ったがT氏のすすめで通読するとなかなかよくまとめてある。ノスタルジックに効率よく思い起こすには格好の読み物だ。 なにせ厚い本だ、時々少しずつ読んでいる。

芸術界の動きを政治にからめて解説していることには学ぶものがあった。なるほどと今更ながら納得することも多々あった。

大東亜戦争に関する新野哲也の「日本は勝てる戦争になぜ負けたのか 本当に勝つ見込みのない戦争だったのか?」とかNPO法人シニアエキスパートフォーラム(SEF)が隔月に開催する講演会で聞いた杉本幹夫「大東亜戦争の開戦責任」に関わることを拾い読みしたが、参考文献がほとんど海外のものを引用しているためか、日本が第二次世界大戦になぜどのように参戦したかに関しては完全に記憶喪失で、いきなり原爆が落ちてGIがやってきたとしか書いてない 。

現代日本人の意識をそのまま反映した本で困ったものだ。ただ販売目的では一般読者には受け入れられ易いので成功なのだろうと思いながら読み進めると、A.J.P.ティラーの「第二次大戦の起源」を紹介している。そこで「あらゆること の原因をヒトラーに還元し続けるかぎり、何も発見できないであろう」とか「彼は機会主義者で、それぞれの場合に合わせて判断したのであり、一貫した計画はなかった」というティラーの言葉を紹介している。そして太平洋戦争については 「ヒトラーがいない。A級戦犯はヒトラーの代わりにならない。その場合、戦争責任をどう問うべきなのか、自然災害とでもいうのだろうか」と軽くいなしている。

考えてみればA級戦犯達も状況にあわせて判断したので同じだったとも言える。そもそも「人間の脳の中では様々な情報が行き交い最終的にそれらの情報のなにかが引き金になって行動がはじまる。意思決定の過程で意識できることは一部しかなく、行動の引き金になった本当の原因はよくわからない。人はまず意思があって行動がそれに従うと錯覚しているが事実はまったく異なる」という脳生理学上の説があるが、そういうものであろうか?そうだとすれば国家の意思決定過程が問われることになる。最終的には国民の民度の高さということになるのか?はたまた民度と関係なく意思決定の仕組みにあるのか?

戦後の米国の赤化防止のマッカーシズム旋風もありきたりのジャーナリスティックな触れ方で、コミンテルンの陰謀説には全くふれず、奥にある深い意味にまでは触れていない。

日本を太平洋戦争にのめりこむように策動したという三田村武夫著「大東亜戦争とスターリンの謀略」自由選書自由社の説を読んだ後に岸信介が「この私まで含めてシナ事変から大東亜戦争を指導した我々は、言うなればスターリンと尾崎に踊らされた操り人形だったということになる」 と嘆いたと最近知った。

スターリンのコミンテルンが日米中にどのように工作したかは歴史的定説が固まっていないため、避けたのかと思って読み進めると中国共産党はコミンテルンの指揮下にあった事実を認めている。更にコミンテルンから送り込まれたオットー・ブラウンというドイツ人の指揮官の無能にあきれた周恩来らが次第に毛沢東の指揮を受け入れていく過程すらかなり詳しくふれている。かってエドガースノーの「中国の赤い星」を読んだがそのような記述はなかったと記憶している。新鮮な気持ちで読んだ。 ウッディーマイヤー回顧録に出てくる1944年よりの中国戦線の米軍司令官ジョゼフ・スティルウェルや その幕僚の共産党軍への入れ込みについて言及している。ジョージ・ケナンがモスクワから毛沢東はモスクワの指示には従っていないと報告したにも関わらず、米政府中枢はこれを無視して蒋介石に肩入れして中国を失い、何のために日本と戦ったか分からなくなった。

第一次大戦でのトルコとの戦いでアラビアのロレンスについて言及あるも「砂漠の女王イラク建国の母ガートルート・ベルの生涯」への言及はない。

今年の10大事件を読むような気分で軽く読破したが、まだ腹が減っているような飢餓感が残った。


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