シリアル番号 | 869 |
書名 |
新 原子炉 お節介学入門 |
著者 |
柴田俊一 |
出版社 |
株式会社一宮事務所 |
ジャンル |
技術 |
発行日 |
2005/3/25第1刷 |
購入日 |
2007/7/28 |
評価 |
良 |
鎌倉図書館蔵
最近原子炉の事故がおおいので、一つ自ら大学の研究用原子炉を自作した元軍用機設計技術者出身の京大教授の肩の凝らないざっくばらんな思い出話を読んでみるつもりになった。
結論を言ってしまえば、原子炉も化学プラントも原理原則は同じ。人間は間違うものだが、複雑な回路も必ず誤動作するから最後は人間が介在しなければならないという教訓など、逸話てんこ盛りのお話。
電力会社のように米国で設計されたものを買って動かすだけというのと違い、一つ一つ原理から設計して仕上げているので地に足がついた考えかたがいい。硬直した教条的なところがなく 、読んで納得がゆく。
まだ燃料棒を装填していない段階で制御回路が雑音を拾って暴走し、突然制御棒上げを始めるところなど、ゾーとする場面などが紹介されている。
ムツ号の放射能漏れ事故は放射能漏れではないので、それこそ応急的にホウ酸入りご飯を炊いて原子炉カバーの上に乗せるだけで応急的に処置できる問題だったのに現場に原子炉に詳しい人材が居なかったため政治主導で14年間も技術的対策を棚上げにされるような不幸な構図はここにはない。
自身が作った放射化しにくいアルミ製の原子炉の腐食検査のために自ら放射能がのこる原子炉の底に下りて点検する位の計算された献身があってこその安全確保なのだ。
商用原子炉はステンレスを使うが、放射化すると厄介な不純物のコバルトが少ないものを使うらしい。空気中のアルゴンは放射化するので一次冷却水にふれさせてはならない。
使用済み燃料プールの中の水は水中の光速より速い荷電粒子をあびて青白いチェレンコフ光を発する 。米国ではスイミングプールに設置した小型燃料集合体の炉心を水面上より除ける構造にし、小学生にも見せているという。今回の中越沖地震では東電が報道陣に柏崎原発の燃料プールを公開したときはプラスチックシートで覆って見えないようにしていた。これはかえって逆効果で国民に無用な不安を生じさせる。
国の安全審査は技術の本質とは関係のない形式に流れ、無駄な浪費が多いという。特に六ヶ所村の施設には大いなる疑問符をつけている。コンクリートなどは100年と持たないのだから地上で動的な管理をすればよいのに地下コンクリートに埋め込むという無謀なことをしている。技術的に意味がなく、土建的な工事利権がうごめく感じである。
「すべてのことは、世界で最も優れた官僚の指揮の下、故障、破損などのトラブルや、それに続く事故などは起こらない、もしくはおこさない、という前提ですすめられてきたが、ここにきてそうはいかないことが明らかになった。現場のことを知らない者ばかりが指揮権を持ち、失敗すると(辻参謀のように)前線の責任にする、ということでは安全を保てるわけはない」という彼の言葉に同意する。
2011/4/18の福島事故はまさに著者の予言の通り進行したし、今後も期待できない。