読書録

シリアル番号 866

書名

アメリカの鏡・日本 抄訳版

著者

ヘレン・ミアーズ

出版社

角川書店

ジャンル

歴史

発行日

2005/6/10初版

購入日

2007/7/3

評価

原題:Mirror for Americans: JAPAN by Helen Mears

注文しておいた別役氏の本を買いに書店に出向いた時、ふと目にして衝動的に買う。

GHQの一員であったヘレン・ミアーズが1948年に本書を出版。マッカーサーに占領が終わるまで日本語訳出版を禁じられ た。独立後、日本で翻訳出版されるがなぜか誰も興味をもたなかった。アメリカ人には心地よくないため本国では疎んじられた。

1854-4年の ペリーによる門戸解放からマッカーサーによる占領までの92年間、日本はヨーロッパ列強の帝国主義の常套手段である二枚舌=法的擬制(legal fiction )と権益確保を熱心に学習し、平和愛好民族から好戦的民族に変容をとげた。

日本はペリー後、列強と締結した租借権と治外法権などの不平等条約を対等にしてもらうために勉強において優等生だった。 ロシアが中国の属国だった韓国に触手を伸ばした1893年の青木・キンバリー条約ではじまる日英同盟は1921年アメリカの圧力で解消されるまで日本を不平等条約から抜け出て真の独立を達成させるための力となった。

1895年日本は日清戦争に勝利した。列強は中国に勝った日本を初めて対等と認め、特権を返上した。中国に勝った日本は欧米流の二枚舌=法的擬制 (legal fiction )と権益確保を駆使して韓国と不平等条約を締結した。英国は最恵国待遇でその利益に預かれるので日本を支持した。またロシアという共通の敵を持ったがゆえに英国は日本を支持してロシアを牽制するメリットをみつけたのである。

1904-5年の日露戦争はこの日英同盟の下で発生し、英国と米国は日本を支持した。

1910年、 日本は再度法的擬制を発揮して韓国皇帝の要請という擬制をとって韓国を併合し、英国と米国はこれを認めた。英国は日本をこの地域におけるロシアに対する番犬として利用価値を認めたためである。

こうして国際関係のルールとは暴力と貪欲を合法化したものと学んだ日本は1931年満州事変を引き起こし、韓国で成功した法的擬制で満州に傀儡政権をつくる。欧米列強はしかし韓国併合では無罪としたにもかかわらず、満州事変は有罪とした。その理由は侵略行為ではなく、中国と列強が締結した「九ヶ国条約」、米国の「門戸解放政策」、「パリ不戦条約」などの国際条約に認められた条約当事国の権利を侵したから有罪としたのである。

国際連盟も1932年のリットン報告をもって日本の満州の独立は認めず中国にとどまるべきという勧告をだす。その理由は列強は中国との不平等条約は満州王朝(清朝)との間に締結したのだから列強の特権は当然満州にも及ぶと解釈したのだ。1911年の中国革命で満州王朝は倒れたにもかかわらず、列強が法的擬制を駆使していることが分かる。日本は大変おどろき国際連盟を脱退。しかし列強は日本に軍事力があるため実力を行使して日本の行動を止めることはしなかった。

列強の抗議は形式的なもので日本は満州での実績をもとに大東亜共栄圏構想を展開する。日本は満州で租借地返還と治外法権を放棄したが、列強は放棄することはなかった。

こうして1937年の日華事変に至る。日華事変こそパールハーバーとシンガポールで火を噴く第二次大戦の導火線だった。

日本はソ連の脅威を避けるためドイツと反コミンテルン条約を締結するが、ドイツがソ連と不可侵条約を結んだのをみて大変驚く。日本は日華事変を集結させるため蒋介石に働きかけたが、米国と英国は蒋介石を支援して日本を疲弊させようとした。

1941年アメリカ、イギリス、オランダは各統治領の日本資産凍結し、貿易関係を中断するにおよび、日本は戦争を倫理的に正当化する法的擬制を「大東亜の解放」として第二次大戦に突入するのである。

以上から著者は列強が採用したパワーポリティックスは逆噴射すると主張する。現在、アフガニスタン、イラン、イラクで生じている事態はまさに著者の予言通りの展開となっ ているとみえる。


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