読書録

シリアル番号 623

書名

ワンダフル・ライフ バージェス頁岩と生物進化の物語

著者

スティーブン・ジェイ・グールド

出版社

早川書房

ジャンル

進化論

発行日

1993/4/15初版
1997/4/15第12版

購入日

2004/2/10

評価

原題:Wonderful Life The Burgess Shale and the Nature of History

子供には2種あって昆虫が大好きな子供と怖いと感ずる子供だ。私は後者だった。年をとって昆虫の写真集をみると、その多様さ(diversity)と美しさに感銘をうける。いま地球上で最も成功している動物は実は人間ではなく昆虫なわけであるが、この本によると今から6億年前のカンブリア紀には考えられる全ての設計プランを試したかのような異質な(disparity)動物が爆発的に発生し、バージェス頁岩にその記録をのこした。カンブリア紀の爆発といわれる生物の歴史でも珍奇な生物群である。なにせ足にエラが付いているとか、関節のない7本の足が付いている幼稚なロボット設計者がデザインしたとしか考えられないようなありとあらゆる設計がテストされていた時代である。(最近の研究では関節のない7本の足とされたものは実は背中のトゲで足は背中に一列の生えているように見えたイボだったとわかって、珍奇性は薄れた)このような珍奇な生物が海底を動き回っていたのだ。ある日突然崩れてきた泥水に閉じ込めれて細部のディテールをのこす化石となったのである。その生物を形つくっていた有機物の炭素がいまでも不明な化学反応によって珪酸アルミニウムや珪酸カルシウムに置換されて、輝くフィルム面として今でも観察することが出来る貴重なものだ。地圧で押しつぶされていても、針で薄いフィルムを一枚一枚はがして観察すればちょうどCTスキャンのイメージのように何枚もの断層写真もどきのイメージが得られる。これを合成すれば3次元構造がわかるというものである。

ここで発見された生物の90%以上はデシメイション(decimation、悲運多数死)で絶滅し、いまの昆虫など一見多様に見える生物は外見の多彩さにもかかわらず、実は狭いデザイン原則の範囲内にとじ込められている。すなわち生き残った少ない枝から進化してきたという。その後の進化は決して根元の分岐点にはもどらないのだ。バージェス頁岩の化石のなかに体長5センチのピカイア・グラキレンスというナメクジのような脊索動物がいた。我々人間が今地球上に存在しているのはこのピカイアまたはその仲間が悲運多数死を生きぬき、脊椎動物の先祖となったためかもしれないのだ。われわれが歴史から学べるのは、忍従の道ではなく、自分達自身が選ぶやり方で成功したり、失敗したりする自由が最大限に保証された道ということだとこの本を締めくくっている。

以前、「利己的遺伝子」を書いたリチャード・ドーキンスが「ブラインド・ウォッチメーカー」でジェイ・グールドの区切り平衡説をコテンパーに論破してた。というわけでいままでジェイ・グールドの本を手にすることはなかったのだが、暇になったもので鎌倉図書館から借りてきて読み始めた。この本の凄さはこのカンブリア紀の生き物の復元図で ある。あきれるほどの奇妙キテレツなデザインの動物が収録されていて、昆虫などの多彩さも実は退屈なものだと実際おもわされる。


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