読書録

シリアル番号 1303

書名

Burn Out
End Game for Fossil Fuel

著者

Dieter Helm

出版社

Yale University Press.

ジャンル

経済学

発行日

2017

購入日

2017/6/19

評価



著者はオックスフォード大のエネルギー経済の学者。フォイルで20ポンドで購入。

気候変動対策としての原発政策や再生可能エネルギー開発は化石燃料は有限で、必ず価格があがると信じ込んだための対策として立てられた。化石燃料枯渇の恐 怖は事実誤認だったことは確実だ。私は2017年5月7日の森永先生の会で、化石燃料無機原説が正しいように見えると言ったのだが、さすが経済の先生の Dieter Helmはそこまでは言わない。しかし結論は同じ。エネルギーの交代は資源の枯渇ではなく、新技術が生まれてくることで生じる。有限とおもっていた化石燃 料は技術の進歩で無いと思ったものが底知れぬほどあると判明 したのもフラクチャリングという専門家が考えもしなかった技術である。とはいえ、再生可能エネルギーという新技術が化石燃料より安くなれば化石燃料は薪や 炭のように忘れ去られる運命にある。

この本には石油メジャーの予想が紹介されている。石油(LPG含む)の生産がピークアウトするのは2040年以降、ガスは2040年以降も増え続ける。石炭は2025年ころピークアウトするという予想と 以降も増えると予想する2つに分かれる。これに基づき、2017/5/7に学士会館で開催された第15回自由人のエネルギー勉強会の「エネルギー問題の現状」の予想部分を改訂する必要はあるが、見方は一致している。

原発もバッテリーとコンビを組む再生可能エネルギも化石燃料と比較 され、安くなければ消え去る運命にある。一方、化石燃料も垂直統合されている電力業が融通がきかないため、再生可能エネルギーの本質である分散発電に垂直統合を壊され、買い手を失う可能性もある。垂直統合されている電力事業の生き残り策としてロシアと領 土問題を解決してロシアの天然ガスをパイプラインで持ってくるか、電力にして直流送電で連結するという手もある。これは中国との経済、軍事競争 の基盤となる。ただそうしても、結局、技術革新のおかげで再生エネルギーのバッテリー・パリティーが達成されれば、分散発電で高価な配電網を維持している垂直統合型の電力事業は崩壊するかもしれない。

米国のブッシュ大統領は石油が有限だとおもったからイラクを侵略した。サウジ、ひいてはアラブの若者が石油収入で教育を受けたが、技術革新で石油がだぶついて価格がさがり、職場がないため、ヨーロッパへと民族移動が発生しているとTHE STRANGE DEATH OF EUROPEは観ている。こうしてヨーロッパは移民の波に飲み込まれる可能性がある。米国は安泰かというと製造業が海外に流出したため国民の収入は第三世界のレベルに収斂しつつあり、殆ど第三世界に沈没する恐れがある。

中国、東南アジアの勃興は人口ボーナスによって得られた一過性の現象で二度とある物ではない。ということで案外、やり方次第では日本は漁夫の利を得るかもしれないが、権威主義的政府と従順・卑屈で覇気を失った国民性のために第4次産業革命に乗り遅れるかもしれない。

July 13, 2017


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