読書録

シリアル番号 1243

書名

「いつものパン」があなたを殺す

著者

デイビッド・パールマター

出版社

三笠書房

ジャンル

医学

発行日

2015/1/30第1刷
2015/3/20第9刷

購入日

2015/08/23

評価



原題:Grain Brain The Surprising Truth about Wheat, Carbs, and Sugar-Your Brain's Silent Killers by David Permutter, MD

家人の蔵書

2014年に空腹時血糖値が基準値99mg/dLをこえてU型糖尿病の入口に達した。空腹時血糖値を抑える為に、炭化水素の摂取量を減らし、野菜を毎食毎に、それも多量に、そして炭化水素の摂取前にとるようになって血糖値は制限値内になった。

細胞は膵臓から分泌されるインスリンをつかって血中のグルコースを取り込む。最近の食品の多く含まれる糖により血中のグルコースが増えると細胞が細胞膜表 面にあるインスリン受容体の数を減らして順応する。これをインスリン抵抗性という。インスリン抵抗性がますと細胞がグルコースをとりこめなくなるので膵臓 はますますインスリン分泌をする。こうして空腹時インスリンが増える。私も2014年には基準値の2.2-12.4μU/mLを超えていた。

人 類の進化の過程でいつもグルコース飢餓にさらされてきた。この環境の進化圧力の下で、我々の体はグルコースを蓄え、グルコース以外のアミノ酸をグルコー スに転換する方法「糖新生」を持つようにすらなった。人類が獲得したもう一つのグルコースバイパスルートは脂肪から「ケトン体」すなわちβヒドロキシ酪酸 を製造する能力 だ。ケトン体は水溶性で細胞膜や血液脳関門を容易に通過し、骨格筋や心臓や腎臓や脳など多くの臓器に運ばれ、これらの細胞のミトコンドリアで代謝されてブ ドウ糖に代わるエネルギー源として利用される。特に脳にとってはブドウ糖が枯渇したときの最後のエネルギー源となる。ネアンデルタール人が絶滅したのはこ のルートを開発できなかったのではといわれている。βヒドロキシ酪酸は中鎖脂肪酸(MCT)であるココナツオイルからもっとも効率よく作れる。このサイクルを活性化するには糖分摂取を控えるのが最も有効。

この本はアルツハイマー病も脳の糖尿病であるとする。アルツハイマー病は発症してしまったら手遅れ。これを防止するためには糖の摂取制限だけでは不十分で小麦粉アレルギーの人はグルテンの摂取をひかえなければいけないとする新説だというので読み始めた。

そもそも、私は1970年代に英国とアラビア湾での長期滞在でパン食が大好きなって(グルテン中毒)以来毎日、毎日、1食はパン食である。最近はトランス脂肪酸の害が米国で指摘されるようになって、市販のパンをやめてバターと全粒粉で自分で焼き上げていた。

しかしこの本を読むと、小麦粉に入っているグルテンのうち、特にグリアジンというたんぱく質が免疫反応を引き起こし、抗グリアジン抗体をつくる可能性があることを 指摘している。抗グリアジン抗体ができてしまうと免疫細胞内で特定の遺伝子が発現し、炎症性サイトカインが腸とか、脳を攻撃し、機能障害や疾患になりやすくなる という。アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、筋委縮性側索硬化症(ALS、ルー・ゲーリック病)がそれであるとする。

人類史でなぜ今までグルテンが有害ではなかったというと、グルテンリッチの小麦は最近の品種改良で作られたものだからだ。今後が危ない。グルテンリッチ食品は胃 で分解されるとエクソルフィンというポリペプチド混合物となり、血液脳関門を通り抜けて脳に入り込む。そうすると脳のオピオイド受容体と結合しモルヒネ様 の成分が生じ恍惚状態を生み出す。これはアヘンと同じ仕組みだ。食品メーカーには沢山のグルテンを詰め込む魅力が生ずる。というわけでグルテンフリー食品 が健康上重要となる。

コレステロールは細胞膜の材料であり、抗酸化物質として働くビタミンDの前駆体ともなり、重要な脳の栄養素である。それどころか脳の25%はコレステロー ルで細胞膜や神経索を構成しているのだ。抗酸化物質とは電子対が切れて電子不足になっている物質に電子を与えることができ物質でビタミンCなどの物質。し かるにコレステロールは冠動脈疾患の犯人だとされてスタチンを処方する間違った医療が過去10年間行われてきた。このコレステロールを運ぶ低比重のリポタ ンパク質(LDL:low density lipoprotein)を悪玉と呼ぶ始末。コレステロール値と冠動脈疾患には相関がないのだ。むしろグリコヘモグロビン(HbA1c)との関連がつよい。冠動脈疾患の真犯人はじつは糖質だったのである。

不飽和脂肪酸の二重結合の位置 も大切。狩猟採集民だったころの先祖はオメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸の摂取比率は1:1だった。魚に多いオメガ3脂肪酸は脳に必須脂肪酸だというのに現 在はオメガ6脂肪酸は当時の10-25倍である。オメガ6脂肪酸が奨励されたのは飽和脂肪酸が多い、動物性脂質が冠動脈疾患の原因だと誤って認識されたか らである。

Rev. October 1, 2015


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