読書録

シリアル番号 1230

書名

量子コンピュータが本当にすごい Google、NASAで実用が始まった”夢”の計算機

著者

竹内薫、丸山篤史

出版社

PHP研究所

ジャンル

コンピュータ

発行日

2015/6/1第1版第1刷

購入日

2015/05/28

評価



著者は東大物理学化卒のサイエンス作家

たまたま散歩中平置きの本のD Waveの一語をみて衝動買い。

著者はサイエンスライターのため、最後の市販量子コンピュータに行き着くまでにたっぷり増量剤を仕込んである。ほとんど知っているのでイライラさせられた が、記憶の整理として、また数々の逸話をちりばめていて楽しませてくれる。一般向けの解説書の書き方として参考になった。

フォンノイマン型にはじまり暗号解読の歴史もある。バベッジやチューリングもでてくる。アトバシュ、シーザー暗号、スキュタレー暗号、ポリビュオス暗号、 ヴィジュネル暗号などが紹介される。ヴィジュネル暗号を解読したのがバベッジ。エニグマを解読したのがチューリング。チューリングは2014年の映画「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の 秘密」になった。

暗号の一つに平文を他の文のなかに織り込むというステガノグラフィーがある。日本の掛詞や折句(おりく)がそれである。なかでもつれずれ草の吉田兼好と歌人頓阿(とんあ)が交換した沓冠(くつかぶり)が秀逸である。

吉田兼好:

も涼 寝覚ざめ)めの仮庵(かり 手枕まくら) 袖も秋 だてなき風(か

頓阿:

も憂(う) 妬たく我が背子(せ 果ては来 ほざりにだ 暫ば)し訪(と)ひま

初めの1字(赤)を前から、最後の一字(青)を後ろかfら読むと隠された意味が読み取れる。

さていよいよD Wave量子コンピュータだが1998年に量子アニーリングを初めて提案した論文の著者である西森 秀稔の解説記事「量子アニーリングとD-Wave」がよい。

量子アニーリングは,組み合わせ最適化問題を量子力学的な効果を利用して解くための汎用の解法である。確率的な探索法の一種であるシミュレーテッド・ア ニーリング(模擬焼きなまし法)における確率的探索を量子力学的な並列処理で置き換えたものであり、シミュレーテッド・アニーリングに比べて効率の向上が 見られることが知られている。カナダのベンチャー企業 D-Wave 社が開発してすでに発売・稼働している D-Wave Two は量子アニーリングをハードウェアレベルで実現した装置であり、初の商用量子計算機というキャッチフレーズにより注目を集めている。本稿では,量子アニー リングの基礎理論を概説したあと、D-Wave Two がそれをどうやってハード的に実現しているかを紹介している。

Googleは車の自動運転システム開発において画像認識につかうニューラルネットワークにディープラーニングさせる必要がある。そのツールとして使おうというようだ。

日立製作所は、量子コンピュータに匹敵する性能で「組み合わせ最適化問題」と呼ばれる数学上の問題を解けるとするIsing chipを試作した。室温で動作するCMOSチップを使えるため、チップを極低温に冷やす必要がある量子コンピュータと比べ、コンピュータを大幅に小型 化・省電力化できるという。

「非ノイマン型のアーキテクチャーでケタ違いの省電力化を目指す」という発想は、「脳の構造を模したチップ」として米IBMが開発中のニューロモーフィッ クチップに通じるものがある。ムーアの法則による半導体チップの省電力化・高速化が限界を迎えつつある中、常識を超えた新型コンピュータを探求する試みに 引き続き注目が集まりそうだ。


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