読書録
シリアル番号 |
1134 |
書名
|
西郷隆盛伝説
|
著者
|
佐高信
|
出版社
|
角川書店
|
ジャンル
|
伝記 |
発行日
|
2010/7/25
|
購入日
|
2013/02/27
|
評価
|
良 |
角川文庫
私の靖国神社論を読んだ友人のTが、靖国批判はおどろくことに右翼と思われている田中清玄がしていると教えてくれた。そしてこの本を読めと貸してくれたのである。
酒田生まれの佐高が庄内藩や会津藩が尊敬した西郷をたたえる西郷伝。当然長州には強い反発の精神がみなぎっている。田中清玄は会津藩家老の家系を継ぐ末
裔、戦前の共産党時代から右翼転向、岸信介や児玉誉士夫らとは敵対して全学連委員長・唐牛健太郎らに闘争資金提供、またその逃亡生活を支えた人物だとい
う。田中清玄は『靖国は長州藩の守り神にすぎない招魂社であった。長州藩士のためだけにあった。維新によって国家的招魂社に格上げされたが、基本的性格は
変わっていない。その証拠に、西郷隆盛と戊申戦争で落命した会津藩士が除かれていることで解る』という。そして田中清玄も伊東正義も会津人で靖国にいった
ことはないという。
二・二六事件のとき侍従長だった貫太郎が被弾し、倒れ伏し、、血の海に
なった八畳間に反乱軍指揮官安藤輝三が現れると、「中隊長殿、とどめを」と下士官の一人が促した。安藤が軍刀を抜くと、部屋の隅で兵士に押さえ込まれてい
た妻のたかが「おまちください!」と大声で叫び、「老人ですからとどめは止めてください。どうしても必要というならわたくしが致します」と気丈に言い放っ
た。安藤はうなずいて軍刀を収めると、「鈴木貫太郎閣下に敬礼する。気をつけ、捧げ銃(つつ)」と号令した。そしてたかの前に進み、「まことにお気の毒な
ことをいたしました。われわれは閣下に対しては何の恨みもありませんが、国家改造のためにやむを得ずこうした行動をとったのであります」と静かに語り、女
中にも自分は後に自決をする意を述べた後、兵士を引き連れて官邸を引き上げていったという。
反乱軍が去った後、貫太郎は自分で起き上がり「もう賊は逃げたかい」と尋ねたという。止血して日本医科大に運んだ。途
中失血多量で心停止になったが、かろうじて蘇生したという。安藤は以前に一般人と共に鈴木を訪ね時局について話を聞いており、面識があった。安藤は鈴木について「噂を
聞いているのと実際に会ってみるのでは全く違った。あの人(鈴木)は西郷隆盛のような人だ。懐の深い大人物だ」と言い、後に座右の銘にするからと書を鈴木
に希望し、鈴木もそれに応えて書を安藤に送っていたという。こうして終戦時には天皇に乞われて敗戦処理首相になるのである。