読書録

シリアル番号 1017

書名

クラウドソーシング みんなのパワーが世界を動かす

著者

ジェフ・ハウ

出版社

早川書房

ジャンル

コンピュータ

発行日

2009/5/25初版

購入日

2009/6/05

評価

原題:Crowdsourcing Why the Power of the Crowd is driving the Future of Business by Jeff Howe

クラウドとは群集のこと。「いちばん頭のいい人よりも集団のほうが賢い」という集団的知性をうまく利用するのがクラウドソーシング。クラウドソーシングで成功したプロジェクトはウィキペディアLINUXグーグルとアマゾンである。

1995年にカルフォルニア工科大のスコット・E・ペイジ教授が行ったコンピュータモデル「人工エージェント」の結果は意外性があった。多様性をもった中ぐらいな能力を持つ集団(茶色い靴下集団)と最も優秀でかつ聡明な集団(メンサ集団)のパーフォーマンスを比較した ところ、「茶色い靴下集団」が勝った。そうして「多様性は能力に勝る」という定理が作られた。

「メンサ集団」は日本のエリート官僚、エリート企業人を思わせる。 日本の脆弱性は「メンサ集団」に起因すると考えてもよいのではないか?米国の強さは、もしあるとすればだが、「茶色い靴下集団」であることにあるのではないか。

クラウドソーシングの根っこには平等主義的な原則、つまり知識なり才能なり人と変わったところを持っている人は別の人の役に立っているという認識を共有すること、違う二者を結びつけることが大切という原則がある。

グーグルの検索結果のランク付けはクラウドソーシングの一形態を利用している。人々が自主的にした判断の結果は適切にまとめれば管理不能と思える膨大な量の情報をきちんと分類できることを証明した。 ランク付けはリンクの本数で決まるが、これは1950年代にアメリカの言語学者ユージン・ガーフィールドが思いついた学術論文の引用数で論文の相対的な重要度をはかる方法と同じ。

LINUXはオープンソースでバグのないOS開発に成功した、エリック・S・レイモンドが「十分な数の目をもって見れば、どんなバグも底が浅いものとなる」といっていることがヒントとなる。これがクラウドソーシングの原理でもある。

アマゾンは協調フィルタリングという手法を使っている。「口コミのもつ力」である。

王立協会はベーコンの著作「ノヴム・オルガヌム」に刺激されたロバート・フック、サー・クリストファー・レン、ロバート・ボイルなどのアマチュア好事家がつくった「見えざる大学」が発展したものだが、インターネットのおかげで自己実現のためにプロの水準で仕事するアマチュアが増えた。この力を利用するのがクラウドソーシングである。

そしてプロに対する世間の信頼はかってなく低下している。

ヤフーの副社長ブラッドリー・ホロウィッツの「消費の行為そのものが創造の行為なのだ」 という言葉は意味深である。

「正しい群集を選ぶ」ということの意味は世界に10億人のインターネット接続人間がいるが、クラウドソーシング要員は全体の1%の1%の1%即ち5,000人でよい。ただ正しい人でなければ機能しない。

「正しい動機を与える」ということの意味は献身的に働こうという気にさせることである。隠された不順な動機に人々は敏感で、かならずしっぺ返しをする。

「ものいわぬ群集」と「慈悲深い独裁者」または「デジタル毛沢東主義」の意味は集団はかならず善意の人によって導かれている。LINUX開発におけるリーナス・トーヴァルズが果たした役割である。

その他、クラウドソーシングの例をこれでもかと実例を挙げている。「スタージョンの法則」、「マズローの五段階要求説」など興味深い概念が紹介されている。

GM、IBM、ウォルマートは米国最大の民間会社ではすでになく、アウトソーシングの受け皿になっているマンパワー・インコーポレーテッドが最大で440万人を雇用している。


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