元千代田化工常務、鳥取大学副学長、現文部科学省・学術審議会専門委員
久保田宏編 1987年 日刊工業新聞刊 「選択のエネルギー」(絶版)掲載のグラフ「動力源の歴史的変遷」をつかって現在人間が何人の奴隷を使っていることになるかの考察を開始した。
過去12,000年の間、人類は人力に代わる動力源を開発してきていまや我々は人力の7桁倍(1,000万倍)の動力源を手にしている。
1776年のジェームス・ワットの蒸気機関の発明はこれを加速したことがわかる。
奴隷の仕事率
人間1人が単位時間にする仕事、すなわち出力仕事率はフランス馬力で表現すれば0.145psである。1ps=735Wならびに860kcal=1kWh であるから
0.145ps=92kcal/h
これはたまたま人間が一日に消費する男女平均のエネルギー2,200kcal/d=92kcal/hに一致する。注1)
注1)人間の熱効率は10%程度だから0.145psでフルに6時間働いたら5,520kcalの食料を食べなければならない。 人間の限界だろう。
オリンピックの100m競争では人間は10m/sで走れる。このときの抗力は選手の体重70kgの20%程度だから14kgである。このときの 出力仕事率は10 x 14/75=1.87psとなる。10秒間なら馬並みの出力を出せる。
参考までにグリーンウッド氏の解析によれば
運動の種類 | 体重70kgの男性が8時間継続したときのエネルギー消費(kcal) | 人間の熱効率h(%) | 体重70kgの男性の出力仕事率(ps) |
平地ハイキング | 2,453 | 10.5 | 0.051 |
登山(登り) | 5,410 | 7.8 | 0.064 |
登山(下り) | 3,629 | 11.9 | 0.085 |
馬の馬力
そもそもジェームス・ワットは自分が発明した蒸気機関が馬の何倍の仕事ができるか表現したくて馬力を定義した。石臼を回転させるために長さ12ftの棒をつけこれを馬で引廻すとする。そのときの牽引力は180lb必要で、馬を1h働かせると144回臼をまわすことができた。これを1hpと定義したのである。
1hp=2 p x 12ft x 180lb x 144/h = 1953,362ft lb/h=550ft lb/s
フランスがこの英馬力をコンダミーヌが着想したメートル法に換算したとき
550ft lb/s=76.04mkg /s
のように端数がでるのでまるめて
75mkg /s=1ps
と再定義した。なぜかpsはドイツ語のPferdestärke(馬の力)の頭文字をとったものである。
馬1頭は奴隷7人に相当する。
注2)サラブレッドは人間の2倍の早さで走れる。それは20m/sである。このときの抗力は騎手50kgと馬体200kgの体量の20%程度だから50kgである。このときの馬力は20 x 50/75=13.3psとなる。短時間なら馬はこのくらいの出力を出せるのである。しかし馬を12時間働かせようとおもったら1psで我慢しなければならない。蒸気エンジンは24時間働いても燃料さえあれば疲労しない。
日本人一人当たりの一次エネルギーの消費
日本が使う一次エネルギーは石油換算で6億kl/yである。日本の人口1.25億人で割ると一人当たり4.8kl/yとなる。石油の発熱量は10,000kcal/kg、比重0.88として
4,800 x 0.88 x 10,000/(365 x 24) =4,821kcal/h
これは4,821/92=53人の奴隷に相当する。ネロ皇帝が使った奴隷はこの半分である。
奴隷を馬で代替すると
53人の奴隷を馬で代替するとすると53 x 0.145 = 7.7頭の馬を飼わねばならない。馬の餌は10kg/dとする。牧場の生産性は
5t/y ha
であるから馬1頭あたり5.62haの牧場が必要となる。日本の耕作可能地面積は5,000,000haである。ということは89万人しか養えないということになる。江戸時代3,000万人養えたのはエネルギー消費量が低かったからであることがわかる。ゆえに石油の代替をバイオでやろうという政策がいかに見当違いであるかわかる。
August 31, 2008