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シリアル番号 表題 日付

1105

原子炉制御棒引抜による臨界事故

2007/03/18

北陸電力滋賀原発1号機 出力:540MW 炉形式:BWR

発生日時:1999年6月18日午前2時の定期検査中

制御棒:89本、長さ4.5m、幅20-30cmの板を十文字に組み合わせ制御棒断面は四体の燃料集合体の間に挟まるような四つのブレードを持つ十字形を しており、運転サイクル中の原子炉の反応度変化に追随して細かな調整が行える様に、制御棒上部と下部では材質が変えられている。ハフニウム製、炉下部から 挿入。

制御棒駆動機構: 原子炉内で直接蒸気を発生させるBWRでは、その水蒸気から水気を取り除くための大きな湿分分離器が炉心上部に置かれている。そのため、制御棒は下側から 炉心に挿入されている。したがって重力が制御棒を原子炉から抜こうとする方向に作用する。それを防止するために「水圧ロッキングピストン式制御棒駆動機 構」とよばれる機構が採用されている。この機構は原子炉圧力容器と一体となっているので、制御棒に接続する可動部で高圧水をシールする必要はない。

添付図は原子力発電便覧より引用 (制御棒駆動水管を加筆) →は引抜時のもの

制御棒を挿入ないし引抜するためにピストンを押し上げるための制御棒挿入用駆動水入口と、ピストンを下げるための制御棒引抜用駆動水入口の2つの入口が駆 動機構下部に設けられている。そして原子炉圧力に負けない高圧水をそれらの入口から送り込むことのできる制御棒駆動系水圧ユニットがそれに接続している。 制御棒駆動水の圧力は原子炉圧力と同程度に維持されている。制御棒を緊急挿入しなければならない時には、窒素ガスで予め加圧している水圧制御ユニットア キュムレータ中の水をスクラム弁を介して制御棒挿入用駆動水入口側から注入し、制御棒を緊急挿入することになっている。 このとき制御棒が挿入されることにより駆動ピストンから排出される水は、制御棒引抜用駆動水スクラム弁を通じてスクラム排出容器に排出される。

臨界事故の概要:耐圧容器の蓋を外し、緊急停止装置を停止、蓄圧タンクのガス圧ゼロ、引抜駆動水のスクラム弁を閉、制御棒挿入駆動水入口弁全部閉、そして 制御棒引抜用駆動水入口弁を順次閉じていったところ逃げ場をうしなった作動流体が制御棒3本を押し下げるように作用した。

制御棒には15cm間隔で25段、3.6m分、重力による落下防止にスプリング力で重力による落下を止めるコレットフィンガーがついているが、 引抜作動水圧が発生したため、制御棒ピストンを押し下げるとともにコレットピストンも押しあがり、コレットフィンガーが設計の目論見通り外れて落下防止には役に立たなかった。60cm-1.5m下がったところで臨界に達した。

関連報道:

日立が作成した試験手順書の間違いが原因

BWRの蓋を開けて大気圧にしての制御棒の定期検査中の 一連の引き抜き事故は 原子炉内圧を挿入駆動力に使えない時に制御棒挿入駆動水入口弁と引抜駆動水のスクラム弁を閉としたという操作によるものである。 原子炉の常圧検査時の駆動装置の試験は制御棒の挿入駆動力が存在しないという脆弱性をはらんでいるため、作業員のミスで事故が頻発することになる。PWRは試験時でも重力をバックアップに使えるので、脆弱性は少ない。

以上 2007/3/17朝日

北陸電力滋賀原発 2号機は改良型ABWRであったが2006年のタービンブレード故障で運転停止中。改良型は水圧に加え電動駆動も併用している。

北陸電力志賀原発1号機(石川県志賀町)の臨界事故隠しで、問題の制御棒挿入試験を担当したのは経験のない同社電気保修課だった。経験不足が事故の一因に なった可能性もある。定期検査での制御棒挿入試験は1号機が93年に運転を開始してから99年6月に事故が起きるまで計4回行われた。いずれも、内規で機 械系統の補修作業にあたる機械保修課が担当してきた。事故当時も、機械保修課が従来通りの手順で挿入試験を行ったが、これとは別に緊急用に新たな制御系統 を追加する工事をしたため、新たな制御系統を使って電気保修課が初めて挿入試験も担当した。

北陸電力志賀原子力発電所1号機の臨界事故隠しで、問題発覚の発端は、当時働いていた1人の社員の内部告発によるものだった。「不適切な取り扱いな どはないか」など技術系の社員ら数百人を対象にしたアンケートが行われた。この中で1999年6月の事故発生当時に同原発で働いていた1人の社員が「臨界 事故を隠しているようだ」などと指摘した。点検委員会は、さらに内部告発者を含めて、当時の関係者から聞き取り調査を行い、3月13日に「ほぼ間違いな い」と事実を確認し、15日になって発表した。

以上読売

制御棒関連事故一覧

他原発でも圧力容器の蓋は外しての試験中または運転中に制御棒の誤動作事故が発生していたという。

日時 場所と炉形式 制御棒 脱落理由

1973

バーモント、ヤンキー 誤引抜き、臨界 誤操作

1976

ミルストーン 誤引抜き、臨界 誤操作
1978/11/2 福島第一3号機、東芝、BWR 5本誤引抜き、臨界 弁の誤操作
1979/2/12 福島第一5号機、東芝、BWR 1本誤引抜き、非臨界 弁の誤操作
1980/6 米国のブラウンズ・フエリー原子力発電所3号炉、1,098MW、BWR 手動操作により制御棒の全挿入を図ったが,全制御棒の約1/3が部分挿入の位置に止まり,全挿入されないという事態が起こった スクラム排出へッダとスクラム排出容器を細い管で連結する構造となっていたため
1980/9/10 福島第一2号機、東芝、BWR 1本誤引抜き、非臨界 弁の誤操作
1983/2 米国のセイラム原子力発電所1号炉、1,135MW、PWR 自動停止信号で挿入できず 電磁石の電流を切る遮断器の作動不良
1987 スエーデン、オスカーシャム3号機、BWR 誤引抜き、臨界 誤操作
1988/7/9 女川1号機、東芝、524MW、BWR、制御棒89本 2本誤引抜き、非臨界 弁の誤操作
1991/5/31 浜岡3号機、東芝、1,100MW、BWR、制御棒185本 3本誤引抜き、非臨界 弁の誤操作
1993/6/15 福島第二3号機、東芝、BWR 2本誤引抜き、非臨界 弁の誤操作
1998 福島第一4号機、東芝、784MW、BWR、制御棒137本 34本10数センチ誤引抜き、非臨界 圧力容器の圧力を抜くための安全弁が開いたのが原因
1999/6/18 滋賀1号機、日立、540MW、BWR、制御棒89本 3本誤引抜き、即発臨界* 弁の誤操作
2000/4/7 柏崎刈羽1号機、東芝、BWR 2本誤引抜き、非臨界 弁の誤操作
不明 柏崎刈羽6号機、東芝、ABWR 4本誤引抜き、非臨界 電気的操作ミス

即発臨界とは核分裂反応が温度上昇にともなって減少せず、一気にすすむ現象である。チェルノブイリ事故で生じた現象で燃料の温度が3,300度Cになれば、核燃料が破損したり 、水蒸気爆発が発生する。滋賀1号機の場合は局所的だったため、燃料の温度は1,500度C程度であったと推定される。ー2007/4/11日本原子力技術協会発表

この他に誤挿入は6件あり。

BWR炉の導入実績

東通1基、女川3基、福島第一6基、福島第二4基、東海第二1基、浜岡4基+改良型1基、柏崎刈羽5基+改良型2基、滋賀1基+改良型1基、敦賀1基、島根2基、計32基である。

以上2007/3/19-30朝日

グリーンウッド氏の危惧

原子炉圧力容器は鋼製だが、制御棒駆動機構も制御棒挿入用または引抜用駆動水配管も18-8ステンレス製である。ステンレスは塩害に弱い。福島第一 原発3号機の制御棒挿入用または引抜用駆動水配管に塩害によるクラックが発生し、配管の交換を行っている。800MW級で137本x2の配管がある。 300本近い細い配管がスパゲティーのように制御棒駆動機構の隙間を這い回っているのだ。

運転中に制御棒挿入用駆動水配管またはその元管が破断することを想定して制御棒は4つの群に分けてそれぞれに独立の元管を用意してあるため、3/4の制御 棒は破断と関係なく挿入できる。そして挿入できなかった残る1/4の制御棒群は駆動機構内のボール逆止弁が原子炉圧力容器内の冷却水が破断した制御棒挿入 用駆動水配管から流出することを防止するとともに原子炉水が挿入駆動側に入り込んで制御棒の引抜を防止する構造であるとされている。駆動機構断面図ではど のような経路で原子炉水が連結しているのか明らかではないが、断面図に描かれていない経路で連結しているのだろう。(添付図中に緑色両矢印で示 した)このような構造のとき、制御棒引抜用駆動水元管についているスクラム弁を開けて制御棒引抜用駆動水をスクラム弁からスクラム排出容器に抜けば原子炉水が駆動水となって制御棒を挿入できる。このように二重の安全策が用意されている。

PWRの場合は制御棒は圧力容器上部の電動制御棒駆動装置によって上部から燃料集合体の中の案内管(燃料ペレットの入っていない管)の中に挿 入される構造になっている。制御棒はBWRのように独立ではなく、一括して制御されるため、制御棒クラスターと呼ばれている。一基の制御棒駆動装置には四 体の燃料集合体に制御棒クラスターがまとめて接続されている。制御棒クラスターは電磁石によって保持されており、停止させる場合は、停止信号を受げて原子 炉トリップ遮断器といわれる装置が作動して電磁石の電流を切り、制御棒クラスターは制御棒駆動装置から切り離されて、重力により炉心内に全挿入される。制 御棒断面は燃料棒と同じ円形をしている。切り離し機構も作動しないという 二重故障がない限り原子炉を安全に停止できるとされている。ブラウンズ・フエリー原子力発電所3号炉でスイッチの作動不良で電磁石の電流を切れないという事故が発生したが手動で電動制御棒駆動装置を作動させて制御棒を挿入できた。

BWRにせよ、PWRにせよ、制御棒駆動機構には二重の対策が採られている。バックアップが電磁石とボール逆止弁の差があるだけである。その信頼性に関し ては運転中に関しては優劣つけがたいが、試験中の事故に関してはPWRに軍配があがった感じである。セラミック絶縁耐熱コイルを用いたBWR原子炉圧力容 器内臓型制御棒駆動機構が研究されているが古いBWRは廃炉にしないかぎり採用はできない。

以上の二重保護に加えるにBWRもPWRもホウ酸水注入系が用意されていて三重の安全策となっている。

加えるにバーナブルポイズンの使用や燃料棒の温度上昇による「ドップラー効果」、気泡発生による「ボイド反応度効果」で運転中の制御棒の引抜きで暴走することはない。ただ停止できないだけた。

地球温暖化対策で有効な原子力を安心して使い続けるために炉心の構成要素及びその形状等から定まる固有の特性により制御棒や何とかポンプのような動 的機器に依存せず静的機器のみで安全性が確保される固有安全炉を採用すれば良いと思う。しかし固有安全炉が採用されないのは高価であることと、固有安全炉 の研究が複雑化の方向に行ってしまっていること、住民の反対があるため型式を変えた炉でも新設がむずかしいということのようだ。

高価なことは安全と電力価格とのトレードオフで住民が真に理解すればむしろ導入してくれと言うのではないか。

今日本で研究されている一体型モジュラー軽水炉(IMR)な どのようなものを固有安全炉というとするならば、たしかに複雑化しすぎていてどうかという気がする。これはBWRとPWRのハイブリッド型 で一次冷却水に自然循環の沸騰水を使い、二次冷却水と原子炉圧力容器内に設置する多管式熱交換器で熱交換し、制御棒は上から挿入し、水圧式と電気モーター 式の二重になった制御棒駆動機構も原子炉の中に設置するものである。しかし制御棒を使うという本質的脆弱性を抱えているのだ。

固有安全炉が採用されない最大の問題は旧式炉を廃炉にするにしても汚染された廃材を処分するところがなくどうにもならないということの方が最大のネックなのだろうと推察する。

いずれ重大事故が生じてはじめて電力業界も住民も覚醒することになるのだろうか?でもその結末は許される限度を越えると思うのだが。

電力業界の秘匿体質は役所がそれを育てた面がある。彼らは、安全性にまったく問題のない軽微な事象に対しても、絶対権力で立ちはだかる。多くの電力会社が トラブルの秘匿をしたのもやむをえないところもあるのだ。しかしこれが惰性となって重大なことまで秘匿するようになったということであろう。規制側は無意 味な規制は緩和し、重要なところを強化するということにしなければ根本的な解決にはならないだろう。

原子力へ

Rev. April 19, 2007


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