要約”広葉樹発電”

 

グリーンウッド

なぜ広葉樹か?

スギ、ヒノキの植林は戦後はじめた国家的事業である。成長の遅い広葉樹林を皆伐して針葉樹を植林し、建材用に使うためで あった。針葉樹は伐採すると根から枯れてしまうため、植林が必要である。人件費が高騰してからは国際競争力を失い、植林地は放置されるようになった。国も ようやく2001年に森林・林業基本法を改正し、人工林への広葉樹導入による混交林化や複層状態への誘導および森林構成の多様化に取り組むことにし、分散 発電の燃料にするための補助金も用意しているが、長年国策にドップリと漬かってきた林業者は一部の覚醒した人をのぞきただウロウロするばかりで、現状を脱 出する知恵も気力もないようである。また分割・細分化された山林所有者は不在地主化してしまっている。こうして高齢化した山村は過疎化し、消え去りつつあ る。

日本では林業から忘れられたおもむきのある広葉樹は欧米ではハードウッドと呼ばれ、家具向けに好まれる用材であり、パル プ用にも評価されている。広葉樹は伐採すると発芽して二次林が自然に再生されるため、放置林として人件費を含め、管理費がかからない。森林機械の導入によ る省力化ともあいまってパルプ原料となる広葉樹のチップを9,300 円/m3で日本に輸出している。こうして日本のパルプ用チップの自給率は15%にまで落ち込んでいる。

森林機械の導入

欧米では切断位置を調節できるハーベスタという森林機械が広く使われている。市販の一般土木工事用油圧ショベル掘削機をベースマシーンとしてそのアーム先に ハーバスタ/ヘッドを装着するものである。百聞は一見にしかず。ハーベスタがどのように作動するのかAMF社のビデオで見てもらうのが一番であ る。十数秒間で伐採・枝払い、指定長さへの切断を完了する。

ベースマシーン自重(ton) ベースマシーンエンジン出力 (PS)

最大切断直径(cm)

13 87 50
22 135 60
36 235 70

エンジン、アーム、操作室の姿勢制御できる機種は斜度30度までで対応できそうである。これをそのまま日本の放置された 広葉樹林に導入すれば欧米並のローコスト林業が成立するのではないか。最大のハードルは日本の山林が急峻な山地にあることである。45度位までに対応する 伐採機を新規開発することも既存の技術の組み合わせで可能と思う。


Hexapod

 日本の急峻な山岳地帯で転倒なしに動き回れる森林機械のベースマシンは従来の無軌条キャタピラ方式ではなく、昆虫の足を模した油圧式移動機械 Hexapod の開発 が必用だろう。これは足に装備した油圧シリンダーをコンピュータ制御で動かすものである。




ビジネスモデル

本事業のビジネス・モデルは不在地主も含め、放置山林所有者からその固定資産税分だけ補償して山地を借り、自然に育つ広 葉樹を無償で伐採してチップまたは電力を市場で販売するというものである。

広葉樹林を伐採・集材・搬出・チップ化し、トラックでチップを輸送し、放置乾燥させたのちパルプチップとして販売するこ とも可能であるが、ここではガス化ガスタービン発電所で電力に変換する場合のコスト検討をしてみよう。山中の発電所なので熱併給も、冷却水も不要な単純ガ スタービンサイクルによる安価な発電所とする。電力は分散発電として地域に供給する。

本発電システムの検討基準は含水量20%の乾燥チップを毎時1.8dry ton/hを年間320日間供給するものとする。年間生チップ供給量は22,118green ton/yearとなる。森林のバイオマスから生チップの回収率を97.1%とすると年間伐採量は22,779green ton/yearとなる。(以後、含水量50wt.%の生材重をgreen ton、含水量20%の乾燥材重をdry tonと定義する)

本発電システムを恒久的に支える自然再生可能な広葉樹林面積の算出基準は3.2green ton/ha/yearとした。

伐採本数は40年サイクルの場合は平均胸高直径30cm、樹高15m、胸高係数0.761から1本の生材積を0.53 green tonとして計算した。20年サイクルの場合は平均胸高直径21cm、樹高15m、胸高係数0.761から1本の生材積を0.26green tonとして計算した。

以上のベースから山林所有者に支払う山林賃貸料や年間伐採面積・本数は下表のようになる。

項目 単位 40年サイクル 20年サイクル
年間伐採量 green ton/year 22,779 22,779
自然再生可能な山林面積:年間バイオマス成長量:3.2 green ton/ha/year ha 7,118 7,118
課税評価額(山地基準地価:300,000 yen/ha) million yen 2,136 2,136
山林賃貸料として支払う山林固定資産税(1.4%) million yen/year 29.9 29.9
伐採サイクル年数 years 40 20
森林密度 green ton/ha 128 64
年間伐採面積 ha 178 356
ヘクタール当たりの平均本数 stems/ha 241 246
年間作業日数 d/year 320 320
一日の伐採本数 stems 134 274

伐採・搬出・チップ化

森林機械は欧米で 使われている森林機械で紹介したT.P. McDonald et.al., USDA Forest Serviceの論文掲載の性能値を適用する。緩斜面でつかう機械の初期投資額は米国での1993年の価格の20%増しとし、急斜面のそれは2倍とした。 為替レートは110yen/$とした。集材・搬出は伐採地点からチップ化マシンのある数百メートルの範囲にある平地まで枝つきのまま引きずり降ろすという 前提である。森林機械関連すべてを含めた伐採・集材・搬出・チップ化コストを計算する。

森林機械の採用は皆伐が前提となる。伐採サイクル伝統的な20年サイクルと森林機械の利点がフルに発揮される40年サイ クルを比較したところ、40年サイクルは伐採・搬出機械が各1台ですむところ、20年サイクルは2倍必要となるので、40年サイクルをコスト検討のベース とした。

人件費は3人の操作員に対し、病気怪我などのための予備要員兼調整・指揮要員として1名加えた。山林賃貸料、林道の補修 費は地方自治体の担当として含めない。

山元チップ単価は山林賃貸料、伐採・集材・搬出・チップ化費含めて1,948yen/m3とな る。急斜面での伐採・集材・搬出機の転倒防止用に特製のテンダーを付加しても2,087yen/m3程度である。40kmのトラッ ク輸送費583yen/m3を加えても2,530-2,670 yen/m3程度である。広葉樹のパルプ用 チップの価格9,300 円/m3より大幅に低いので、パルプ向け広葉樹チップ生産は確実に採算に乗るということになる。また日本 の伝統的なチェーンソーによる針葉樹林のヘクタール当たりの伐採コスト1millon yen/haの33-37%で済んでいる。このように放置林業と機械化による省力化は大幅にローコスト化の可能性をもっていることが判る。

項目 単位 緩斜面 急斜面
森林機械の初期投資額 million yen 64.2 83.7
資本金、借入金、税、関連ネット・キャシュフロー(初期投資額の9.18%) million yen/year 5.9 7.7
固定資産税(初期投資額の1.4%) million yen/year 0.9 1.2
一般管理費(初期投資額の1%) million yen/year 0.7 0.8
人件費(4persons x 6million yen/year/person) million yen/year 24 24
燃料費 million yen/year 15.8 18.0
潤滑油代金 million yen/year 5.8 6
保険料 million yen/year 2.1 2.7
保全費 million yen/year 3.7 4.8
伐採・集材・搬出・チップ化費 million yen/year 58.8 65.2
山林賃貸料 million yen/year 29.9 29.9
山元チップ単価(比重0.5) yen/m3 1,948 2,087
伐採面積当たりの伐採・搬出・チップ化コスト(40年サイクル) million yen/ha 0.331 0.366

事業期間は30年とし、森林機械購入のために投じられた資本金にたいする配当、借入金返済、金利、所得税などのために必 要なネット・キャッシュフローを初期投資金の9.18%とすることは次ぎの算出基準で計算した。

項目 単位 数値
資本金/初期投資 % 40
ネット・キャッシフロー割引率(配当+内部留保) % 8
操業期間 years 30
法定償却期間 years 17
償却法 - 定額
法人税率 % 40
借入金年金利 % 4
返済期限 years 10
借入金返済方式 - 元利合計均等返済
残存価値/初期投資 % 0

チップのトラック輸送

チップのトラック輸送はアウトソースするとした。その単価は米国の3倍の30yen/km-tonと仮定した。

項目 単位 数値
チップ輸送量 green ton/year 22,118
輸送距離 km 40
年間輸送経費 million yen/year 27
チップ輸送単価 yen/m3 583

ガス化ガスタービン発電の方式と諸元

山林から運び出したチップは、チップ燃焼火力発電所で電力に変換する。発電所ではチップは屋外に山積みし、自然乾燥で含 水量50wt.%を20wt.%近くまで下げる。火力発電所は高コストのチップ炊きボイラー・タービン発電所ではなく、熱併給なしのガスタービンを採用す る。冷却水も不用で、安く、コンパクトに建設できる。ガス化炉のエネルギー転換効率は6気圧で運転するとして80.9%である。発電効率は燃焼圧6気圧、 タービン入口温度1,200度C、発電機効率98%として33.6%となる。1.8ton/hのチップから2.38MWの電力が得られる。世銀技術叢書 No.422を参考にすると建設費は2,900$/kWであるので発電所の初期投資額は7億3,000万円となる。

発電単価試算

試算のネット・キャッシュフローの前提はチップコストの試算と同じとする。発電は320日間フル操業を想定すると、前述 のチップコストでも売電可能な発電単価となる。運転は24時間連続とし、1直1名4直の4名に日勤2名加えて6名とする。

項目 単位 緩斜面 急傾斜
発電プラントの初期投資額 million yen 732 732
資本金、借入金、所得税関連ネット・キャシュフロー:初期投資額の9.18% million yen/year 67 67
固定資産税(初期投資額の1.4%) million yen/year 10 10
一般管理費(初期投資額の1%) million yen/year 7 7
保険料(初期投資額の0.5%) million yen/year 4 4
保守費(初期投資額の2%) million yen/year 15 15
潤滑油代 million yen/year 6 6
人件費(6operators x 6million yen/year/person) million yen/year 36 36
山林賃貸料 million yen/year 29.9 29.9
伐採・集材・搬出・チップ化費 million yen/year 58.8 65.2
チップ輸送経費 million yen/year 27 27
年間キャッシュフロー million yen/year 260.1 266.6
発電単価 yen/kWh 14.2 14.6

急斜面に対応する追加費用は0.4yen/kWhに過ぎない。

これは要約です。より詳しく内容を知りたい方はこちらをどうぞ。他の発電方式の単価は各種ソラーエネルギー発電比較を参照ねがいます。

February 2, 2004

Rev. September 20, 2018


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