ネパールの環境情勢について

アジア研究所嘱託研究員 辻井清吾氏

2006年10月25日

ネパールはインド亜大陸がユーラシア大陸にぶつかって、ヒマラヤ山脈を押し上げているその造山帯にある。ヒマラヤ山脈の高峰がチベットとの自然の国境線を構成しているが、インドとの国境はネパール王国軍が独立戦争をしかけ英国軍を破った時のまま固定された人工的なものである。

首都のカトマンズの南側にハマハバラト山脈があるため、カトマンズは盆地の底にあるが、他の地域では国境線は亜熱帯ジャングルに覆われた低湿地帯を貫通している。そしてここはマラリアという風土病地帯であったため人々はマラリアのないポカラなどの山腹に生活するのが伝統的な生活スタイルであった。しかし最近この亜熱帯ジャングルも耕地化され、マラリアも薬剤の使用でコントロールできるようにな った。人々は山を降りタライ平地で暮らすようになり、人口もかっての500万人から2,000万人と4倍以上に増えたが貧民層も増している。

モンスーンがもたらす多量の雨は幾筋もの川となってヒマラヤ山脈の南斜面を流れ下り、国境を越えてインドの大平原を東のベンガル湾に向かって流れるガンジス川に流れ込んでいる。雨季には増水して谷川を流れ下りインド平原に洪水をもたらす。

最近は温暖化に伴い、氷河地帯に流水による氷河湖が自然に出来、数年毎に決壊する災害の発生が繰り返されるようになった。この時期には交通網が分断され特定地域が孤立して飢餓の発生が見られる。下流のインドとバングラデシュでは洪水の被害を定期的に受けることになる。

首都のカトマンズは盆地にあるため、中古車が排出する排煙で大気汚染が激しい。また都市ゴミの処理を伝統的な清掃カーストに依存していたため、処理能力が限界に達している。都市化による飲料水汚染と衛生の問題がある。

最貧国であるが、日本などの援助は橋本政権以後、暫時減少しており、隣国インドが最大の援助国である。


インド・中国などがダムを建設し発電事業を起そうとしているが、温暖化に伴う大洪水、氷河湖の決壊に耐えるダムが建設できるのか疑問だ。今後は自然の破壊力をやり過ごすための行政によるゾーニング等 の智慧が必要になるとの予感をもった。

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November 3, 2006


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