エネルギー工学連携研究センター(CEE)

第8回コプロワークショップ

エネルギーと物質の併産(コプロダクション)による革新的省エネルギーと次世代産業基盤の構築

2009年3月4日

東京大学生産技術研究所 コンベンションホール

 

堤敦司教授が中心のワークショップである。コプロダクションはもともとコジェネレーションをもじったネーミングのようだが外国ではトライ・ジェネレーション(熱+電気+クリーン燃料並産)またはポリ・ジェネレーション(熱+電気+複数のクリーン燃料並産)と呼ばれるものと同義であるという。 石炭をガス化して水素を製造し、LNG、LPG、メタノール、ジメチルエーテルなどの合成油、アンモニア燃料合成、還元製鉄、セメント製造プロセスで発生する廃熱を利用して発電するのもコプロダクションである。

日本の大学教授がNEDOの研究費欲しさに熱力学だけをよりどころに提案しているコジェネレーション研究のひとつだ。 確かに化石燃料をいきなり燃して動力を得るよりよりエクセルぎーの高い物に変換してそれを使用した後にそれを焼却して動力にしてもよい。物事を熱力学からだけからみて単純化 して考えるのは学者の宿命だが、現実世界は多次元世界だ。そのジャングルのなかからグローバル・オプティマムソリューションを出すのがエンジニアリングだろう。NEDOの研究目標として にぎやかに俎上に上がっている具体的事例をあげよう。

@エクセルギーの高い化学物質を燃焼するとエクセルギーの低い熱エネルギーになるため燃焼させないで反応の自由エネルギーの変化分-DGを仕事で取り出す燃料電池がまず上げられる。

私の反論は「その通り、しかし熱経由でなく、-DGを取り出すには触媒が必要となる。そして触媒は高価で寿命が短い。たとえばプロパンの熱分解より触媒接触分解の方がエクセルギーロスが小さいはずだが高温の廃熱はエクセルギー損失を少なくするように回収され、仕事として有効利用できる。一方触媒は確かに高温の廃熱はださないが、中途半端で仕事もたいして回収できず、触媒は劣化するので交換に金がかかる。こうして工業的には熱分解に軍配が上がっている。これが石油化学の中心プラントであるオレフィンプラントの設計思想だ。このような意味で燃料電池は経済的に成功しないだろう。フール・セルと呼ばれる所以だ。コンバインドサイクルの方が効率も高いし、大型化によるコストダウンが期待できる 」だ。

A少々の動力を投入することにより回収率が大幅に向上する。堤教授は潜熱を回収する場合、熱交換器のなかで発生する温度差がゼロになるピンチポイントを圧縮機によって避けることをヒートサーキュレーションと定義した。環境から熱をくみ上げるものをヒートポンプと呼ぶに対し、プロセス内部の熱循環を即す意味でヒート・サーキュレーションと命名した。これは面白い定義だ。若い頃、混合冷媒サイクルをフロントエンド・デメタナイザーに適用したオレフィンプラントのエチレンーエタン分離の試設計をしたとき、このヒートサーキュレーションを採用したことを思いだす。これはヒートインテグレーションは複雑すぎてスタートアップが困難だとされたし、たまたまエチレン過剰時代に開発したため結局買い手はつかずお蔵入りとなった。

混合冷媒サイクルをフロントエンド・デメタナイザーに適用したオレフィンプラント

B次に堤教授はヒート・サーキュレーションを使って一段のフラッシュ分離のシステムを何度も繰り返して混合物を分離するシステムを提案する。一段毎に圧縮=膨張機+熱交換器+分離の3点セットによる操作を繰り返すのだが連続システムは複雑になるため、この分離3点セットをモジュール化し、バッチで何回もつかいまわして複雑な繰り返しシステムを構築することを提案する。とてもユニークで綺麗な考え方で感銘をうけたが、これも使いまわすとはいえ中間貯蔵タンクがいくつも必要で生産物ガス体の場合は低温液化してたくわえなければならず、液化困難な水素があるようなデメタナイザーには使えない。理論的には可能だが、分離させる成分の量に大きな差はあると分離モジュールとタンクの利用効率が低く、タンクも動的に激変する使用環境に適応するものがつくれるにしてもそこでの温度変化分は損失となる。分離モジュールの熱効率はすぐれているにしても総合効率の低下は避けられず、コスト的には無理だろうという予感がした。

研究に関与している千代田化工の蛙石氏は「BTX分離のような常温・常圧で液体で分離されるものがほぼ等量あるようなシステムには使えるが、トッパーのような 広い成分を含み、高温分離ではそのような環境で使えるコンプレッサーはまだなく、これからの開発課題だ。そしてシールリングの開発に困難を伴う」と指摘していた。

アンモニア合成は触媒層でのワンスルー転換率が低いため未反応ガスを大量にリサイクルしている。ならば圧縮=膨張機+熱交換器+触媒層+分離の4点セットをモジュールにしてバッチで使いまわすというアイディアがボッと頭に浮かんだ。しかし100気圧に達する高圧・高温貯蔵タンクが必要となり、非常に高価になる、触媒も環境がバッチ毎に激変して寿命が短くなるのではないかとの懸念もある。

多目的バッチプロセスは食品加工や医薬品のように常温・常圧で液体で装置費が高価でない場合には経済性もあるが環境が厳しい化学プラントへの適用の経済性は低い。

特定目的に特化した連続システムは設備利用率が高いという最大のメリットを持っている。たとえば空調機は従来はオンオフ制御だったため、バッチオペレーションでコンプレッサーも熱交換器も稼働率は50%と低かった。インバーターの発明により、ようやく可変モーターがつかえるようになって連続運転が可能となった。そうすると同じ伝熱面積を常時つかえるため見かけ上は面積が2倍になったと同じである。結果として温度差が半分となり、COPが約2倍になった。通常経済性と熱効率は相反するので最適化が必要だが、特定目的に特化した連続システムは高い設備利用率を生み、経済的のみならず熱力学的にも優れていることの良い例だろう。

空調の理論成績係数COPと伝熱面積

さてここまで書いたところで、インヴェンシスの広浜氏からガスタービンの燃焼室にスチームリフォーマーのチューブを挿入して吸熱反応の熱を供給しつつ動力を発生させて後段のメタノール合成のための圧縮動力を供給する特許を1991年に共同で出願し、1999年に取得していたことを思い出させられた。堤敦司教授が提案していることに先行していたのではないかとフト思うのだ。これから化学プラントの省エネを一段と推し進めるためにこのコンセプトを見直す時期が到来したのかなと思う。

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March 9, 2009


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