総合知学会

大気の炭素収支モデル

グリーンウッド

 

イントロダクション

2009年10月26日、IPCCの予言に反し、COP15が開催されたヨーロッパと北米では寒波に凍りつき英国のイーストアングリア大学の気候研究所(CRU)で、世界の 気温観測データに恣意的な処理がほどこされていたことが、ネット上での情報流出によって暴露されるクライメートゲート事件があった。

大気中の二酸化炭素濃度と関係なく、太陽活動など自然要因で気温は大きく振れるので驚くにあたらないがIDLメディアラボ鳥木晃氏がIPCCの炭素バランス計算に誤りがあり、炭素は大気中に殆ど蓄積しないという驚くべき報告をおこなった。

私は非常におどろき、急遽行った検証を紹介する。

 

鳥木晃氏の大気中へのCO2の蓄積シミュレーション

鳥木晃氏はキーリングがハワイで行った大気中のCO2濃度測定データは事実と認める。

氏はIEAの化石燃料消費データから2,000年のCO2排出量257億トン/y(炭素換算排出量70億トン/y)は濃度換算で5.9ppmv/yとしている。

次にIPCCのCO2は産業革命後100年間毎年1ppmv/y蓄積し、2000年に380ppmvになった。今後毎年5-6ppmv/yで排出し続けることも事実としてみとめる。

例えば5ppmv/y排出したとするとバックグラウンドの380ppmvと混ざって化石燃料分の比率は

5/(380+5)=0.013

毎年の増加分が1ppmvだから残留分は

1 x 5/(380+5)=0.013

と引き算でなく比例配分で求まる。したがって残留係数Kは残留分を排出量で割って

K=(1x 5/(380+5))/5=0.003

このKを使って蓄積計算をする。初年度を1930年にとるとC0=280ppmvである。排出量B=6ppmv/yと 一定とすると

C1=C0+BK1

初年からn年までの式は以下のようになる。

C1=280+BK1

C2=280+(2B+C1)K2

C3=280+(3B+C2)K3

・・・・

Cn=280+(nB+Cn-1)Kn

級数展開した結果

C=280/(1-Kn)+BKn(1-Kn)/(1-Kn)

排出量は1930年から70年間で0から6ppmv/yまで増えたからn年間では

B=((6-0)/70) x n

故に

C=280/(1-Kn)+0.085 n Kn(1-Kn)/(1-Kn)

100年後の2030年の大気中のCO2は初年度1930年の大気中のCO2濃度は280ppmvでB=0.085 n=100年後のKn=0.0035とすると

2,030年の大気中のCO2= 280/(1-0.0035)+0.085x100x0.0035(1-0.0035100)/(1-0.0035)=281.01ppmv

で殆ど増えないとしている。

 

私の疑問

鳥木氏のモデルの計算結果は2,030年の大気中のCO2は281.01ppmvとなる。2009年のキーリングの測定データ は385ppmに達しているので現実を説明できない。

鳥木氏はKを

K=残留量/(C0+B) /B

として定義し

C1=C0+BK1

を導いた。二つの式をまとめると

C1=C0+残留量/(C0+B)

となる。C0>BだからBを無視しても大差ない。従って残留係数Kは

K=残留量/(C0)

となる。すると基本式は

C1=C0(1+K)

この式をn年に渡って級数展開すれば

C=C0(1+K)n

となる。銀行の残高計算式とまったく同じ。残留量=1ppmv/y、C0=280ppmvのとき

K=1/(280)=0.0036  y-1

100年後の大気中のCO2=280(1+0.0036)100=401ppmv

とすれば測定値とほぼ合致する。したがって鳥木氏の一定の比率で残留するというモデルが現実を表現していないといえる。膨大な量のCO2がバックグラウンドという虚の空間に消え去ったことにするモデルだ。ためにする屁理屈である。大気中濃度の実測定データを説明できない仮説は意味がない。 化石燃料から放出されたCO2は地球上という実空間にとどまり海洋に海洋に吸収されるか、はたまた岩石を風化させた量の差が大気中に蓄積するというモデルがより説得力がある。

さてKは一定ではないので苦労して級数展開しても報われない。年度毎に炭素 の出入収支をとらねばならないので級数展開は放棄し、年度毎に収支計算をすることにした。スプレッドシートという文明の利器を使えば簡単。

 

私の炭素収支モデル

私もキーリングがハワイで行った大気中のCO2濃度測定データは事実と認める。

鳥木氏はIEAの化石燃料消費データから2,000年のCO2排出量257億トン/y(炭素換算排出量70億トン/y)は濃度換算で5.9ppmv/yとしている。

地球の表面積は5.1x1014m2、大気圧は104kg/m2、 対流圏は大気圏全体の質量の75%、大気の平均分子量28.8kg/molであるから5.9ppmv/yの炭酸ガスは0.78x1012mol/yとなる。炭素の原子量は12kg/molだから炭素量にして0.936x1010トン/yすなわち94億トン/yとなる。70億トン/yとはぴったり一致しないがよしとしよう。

次に炭素収支モデルだが大気への排出量から海洋への溶解と海洋生物による固定、花崗岩のようなケイ酸塩岩石の風化による固定量を差し引いた残りが大気に残留すると考える。残念ながらこの 溶解量と固定量は直接測定できない。従って過去の大気中濃度測定結果からn年の排出量からn年の残留量を引き算して求めトレンドを見る。 未来はこのトレンドを外挿するしか手はない。そうすると炭素収支式は

n+1年の大気濃度はn年の大気濃度にn年の残留量を加算したものである。

n+1年の大気濃度 = n年の大気濃度 + n年の残留量

そしてn年の残留量はn年の排出量からn年の吸収量を引き算したものである。

n年の残留量 = n年の排出量 - n年の吸収量

二酸化炭素の吸収の主役は光合成、海洋吸収、ケイ酸塩岩石の風化により炭酸カルシウムとして固定される。この式で排出量も吸収量も簡便のため鳥木晃氏とおなじく濃度表現するが、あくまで物質収支式として扱う。

さてキーリングの大気中濃度の測定データを見ると毎年一定のサイクルで振動している。これは植物の光合成とその燃焼によるもので振幅は変化ないため一定とする。

開始年としてキーリングが観測を開始した1960年の大気濃度316ppmvを採用した。それ以前は逆算した。

さてn年の排出量は私がグローバル・ヒーティングの黙示録」ですでに行っている一次エネルギー予測の値を使うことにした。それは図-1 化石燃料消費予想のベージュ色の曲線である。

図-1 化石燃料消費予想

開始年とした1960年の図-1の化石燃料のインデックスは20、炭素排出量は25億トン/y、2ppmv/y相当である。従ってppmv/y表示の年間CO2排出量は図-2の紺色の曲線となる。

図-2 炭素排出量と吸収量

大気中蓄積量がキーリングの1960年から2009年までの過去の観測値に一致する吸収量を逆算すると図-2のピンク色と黄色の吸収曲線が得られる。年々単調増加させないとキーリングの観測観測値に一致しない。この勾配は何を意味するか。大気中の濃度が高まればヘンリーの法則で海表面に溶ける量も増えるだろうし、ケイ酸塩岩石の風化も増えるということか?2010年以降は大気濃度の観測値がないので 同一の勾配を2,100年まで外挿しただけのものがピンク色の最大吸収曲線。2,100年以後は大気濃度も頭打ちとなるので吸収量も頭打ちとした。 勾配を半分にしたのが最小吸収曲線で黄色で示した。

IPCCの原文を徹底的に閲覧してみても、一般解説書を読んでも吸収量についての定性的な説明はあるが具体的な数値は公表されていない。結果としての大気濃度しか公表されていないのはIPCCの推論に疑問を抱かせる原因となっている。

全域にわたって計算すると図-3大気中のCO2濃度の経時変化が得られる。

図-3 大気中のCO2濃度変化(CO2蓄積量 )

2,020年ころ最大吸収ケースで850ppmvとなりピークを過ぎる。最小吸収ケースで900ppmvだ。特に抑制策を講じなくとも、現在の化石燃料の確認埋蔵量の2倍程度消費すれば化石燃料コストが再生可能エネルギーとのコスト競争に負けるので1,000ppmvは越えないという意味をもつ。

Ken Caldeira and Michael E. WickettらがNature 425, 365(25 September 2003)に発表した図-4の予想は1,000ppmvを越え2,000ppmに達するかもしれないという予想であったがそれよりは低い。

図-4 Ken Caldeira and Michael E. Wickettの予想

いずれにせよ、IPCCの炭素蓄積予想に大きな間違いはないというのが私の検証結果である。

鳥木晃氏が指摘されるように気候変動には化石燃料利用によるCO2排出によるグリーンハウス効果に加え、太陽黒点や地軸変動という自然現象も加わるのでCO2量だけでは論ぜられない。炭素が増えても気温がさがることもある。

削減の国際合意もできず、あまつさえクライトメード・ゲート事件も発生し、ノーベル平和賞をもらったゴア氏も所有するウラン鉱山で利益を得たいからだという憶測も生まれている。

20年まえから吸収量を知りたいと思っていた。鳥木さんに刺激を受けて自分なりの整合性ある吸収量を含めた炭素収支を計算することに挑戦させていただきました。感謝しております。

 

鳥木晃氏の反論

グリーンウッドさんはおそらくIPCCと同じ誤解をされています。失礼ですがIPCCは間違っています。これは他の物理学者の見解と同じです。

この反論も掲載してくださることを希望します。

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December 30, 2009

Rev. July 8, 2011


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