漁業と農業の環境問題

2006年12月8日、運輸省港湾局長、関西国際空港初代社長を歴任した竹内良夫氏はこの14年間、土木コンサルタント会社である株式会社竹内良夫事務所 を経営されてきた。この開設14周年記念としてアイビーホール青学会館で「講演と報告の会」が開催された。

この会で独立行政法人水産総合研究センター理事の小松正之農学博士が「海は食料不足を解決できるか」という特別講話をした。ここで漁業と農業の環境問題が 指摘された。重要な内容を含むと思うので以下に簡単に紹介する。なお2007/9/3の朝日新聞のインタービュー記事も参考にしてその後、加筆した。

 

日本の沿岸漁業の喪失

日本の沿岸域は栄養塩が流入し、生産性の高い干潟や藻場が多かったが、いずれも工業用地として埋め立てられたため失われた。こうして資源量が減った魚種に 関しては資源回復のための保護が必要である。

 

深層水・涌流水・鉄イオン

海洋深層水や涌流水 の人為的利用も試みられているが鉄イオンも必要で大規模でないと意味が無い。

大規模な涌流水のある南氷洋のオキアミ(資源3-300億トン、漁獲15万トン)とコオリウオの資源量は膨大だが未利用 である。米国はこれに着目して戦略的利用を検討している。

 

温暖化の影響

温暖化により寒流のニシンなどの魚は減り、暖流のサンマ(資源800万トン)、ハダカイワシ(資源1,000万トン)、アカイカなどの資源量は増えたが、 食習慣上需要が小さく、漁業者は 売れるだけしか漁獲していない。

乱獲と温暖化があいまって2048年には海から魚が居なくなると米とカナダの研究チームが2006/11のサイエンティフィック・アメリカンに発表してい ます。

 

時代遅れの法体系

日本では新規漁業者の参入を法律で禁じているため、日本の漁業者の平均年齢は60才以上で平均船齢も25年で老朽化している。法律の改正が必要だが既得権 に守られて動きは鈍い。

行政が縦割りのため、港に溜まる河砂を浚渫しても捨て場がな く港の中に積み上げてある。

1994年に国連海洋条約が発効し、各国は調査をもとに魚種ごとに漁獲の上限(TAC)を設けるこ とが義務つけられている。しかし水産庁はマイワシ、サンマなど7種類の魚の漁獲高の上限を定めるだけで、人気のある魚種には上限を設けず、先を争ってとる オリンピック方式を採用している。 このため、たとえばキンキの漁獲量は乱獲のため1/10となってしまった。一方、水産庁はサンマの資源量は400万トン以上と多いにもかかわらず値崩れを 心配する漁業者には配慮して上限を30万トン*とおさえて無駄にしている。もっと捕獲し、養殖用の抗酸化剤のエトキシン含有の輸入のマグロの代わり食べる べきである。

欧米各国は資源量を調べ、魚種毎、漁業者毎に漁獲量を割り当てている。そして魚にエ コラベルをつけている。 ノルウェー、アイスランド、ニュージーランド、米国は乱獲でニシンやタラが激減した時、禁漁として、直接補償で減船し、その後、漁獲量を船毎に割り当てて 漁価をコントロールしている。

そのためにはまず漁業法改正し、水産資源を国民の共有財産とし、資源の持続的利用を明記する。そして広範な魚種に対し科学的な調査に基づいて漁獲量の上限 を定める。一方減船には手厚い保護を行う。

 

マグロ資源枯渇と食の安全

日本の遠洋漁業が衰退しても日本人のマグロなどの食欲(需要50万トン)は旺盛のため、30万トンは輸入している。 高級マグロとされるクロマグロ消費量は2008年には4.8万トン(内大西洋産は2万トン)であるが、モナコが大西洋クロマグロをワシントン条約の付属書 1(絶滅危惧種)に加えるべきと提案するという。

外国の漁船が最新の装備でメバチマグロ、キハダマグロ、サケ、マスなどを日本市場向けに”まき網漁法”で乱獲して日本に輸出するため、資源の枯渇が生じ 、国際的な漁獲規制が必要と認識されるようになった。

これら外国漁業者は日本への輸出前に小魚を与えて太らせるためダイオキシン類が蓄積し 、近海物の60倍になっている。

 

流通経路の問題

大量流通をあつかうスーパーなどがコストに見合わないと少量捕獲されるうまくて種類の多い地場魚は流通経路がないため漁業者により直接海にすてている。イ タリアでは様様な魚を混ぜてフライにして売っているが日本のスーパーには輸入品のマグロ、エビ、サケの3点セットしかない。

 

食料の地場生産、地場消費

穀物を輸入して国産肉を生産するスキームは老廃物が日本の国土にとどまり、環境汚染を引き起こす。 逆説的だが、肉は肉として輸入するか、国産牛は国産の草と国産穀物でそだてなければいけないということになる。

また穀物などの食料の輸入も窒素循環の観点から日本に窒素が蓄積され続けて世界的な物質循環のバランスが大きく崩れる。 すなわち生産国は地味の枯渇、日本は過剰窒素による生産性の減少が発生するのだ。

食料の地場生産、地場消費が重要だという認識を国民に知ってもらうための啓蒙が必要となる。

 

国際政治

クジラは絶滅危惧種以外は資源量も多く、漁獲してコントロールすべきだが、世界の政治情勢はそれをゆるさない。

December 14, 2006

Rev. August 12, 2009


*腰の重かった水産庁がようやく2008年TACを45万5,000と増やしたが、保護されていた小型棒受け網漁船が値 崩れのため魚価の値下がりに悲鳴をあげている。大型船にシフトするなどのソフトランディングが必要なのだろう。

August 25, 2008


2015/8/7のNHK特集によると、台湾は1000トンクラスに漁船を80隻建造して、 公海上で回遊魚であるイワシ、サバ、イカなおをを集光器とかぶせ網で一網打尽にし、冷凍保存して中国などに販売するようになった。結果として日本の排他的 水域に回遊してくるイワシの量が減ってきた。同じように排他的水域で領をしていたロシアも困っている。両国が共同で水揚げ規制をよびかけているが、前途多 難。

中国も台湾にならって民間業者が1,000トンクラスの大型漁船を建造中なので、時間の問 題。

September 7, 2015


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