フィールズ氏との往復書簡

知的所有権に関して

グリーンウッドさん、

昨夕のNHK番組「変革の世紀」を観ましたか? Disney が 1928年に取得した Copywrightが未だに Patent Law で保護されているのには驚きました。アメリカの独善性の一面。これに対して、「95年もの長きに亘って所有権を保護する法律は憲法違反」と提訴した人々、これを却下せずに取り上 げた Supreme Court の判断 −これまたアメリカの良識。良識派が勝ち、法律の保護下で高利益を享受してきた守旧派企業が ”Innovative Enterprise” に変身することを祈るのみ。
さて、今日は田中長野県知事の決断期限。 議会解散か辞職か?

フィールズ

 


フィールズさん、

見ました。1980年代日本に追われていた米国が逃げ切りの切り札として戦略的に知的所有権の保護に乗り出し、それが功をそうして1990年代のぶっちぎりが生じたわけです。今、中国に追われる日本がかっての米国のとった戦略をとらざるをえなくなったのはけだし歴史の必然とおもいます。しかし知的所有権の保護に悪乗りして著作権の期間を95年にしたのは行き過ぎでしょう。マンガを描いていたDisney がはつらつとしていたのに比し、著作権でDisneyという会社を守ろうというCEOはなぜか醜くみえました。長すぎると感ずる人々が立ち上がるところも米国らしい。良識派が勝ってほしいと思います。

田中知事の失職会見の実況放送を見ました。彼らしいイジワルな対決のしかたで、議会がなぜいらだったのかわかりました。有権者が、どういう回答をだすか。長野県県民の民度が問われるようで長野県出身者としてははらはらしてます。

グリーンウッド

 

グリーンウッドさん、

US Patent Law に関する論争を見ていると、Law Maker (政治家)と法の庇護下で利益を享受する企業との利権構造が浮かび上がって来ます。 日本における土建政治家とゼネコンの関係と同根。 日本では、田中角栄・金丸信・竹下登とボスを排除しつつも根本的な構造にメスを入れないで後継者を作って来た。 鈴木宗男はかなり小粒だがやはりこの系統に属し、前田中康夫長野県知事に反対する勢力もこれら”土建勢力”の流れをくむ連中。 この一派は「時代遅れ」と烙印を押されながらも未だに生き長らえている。そのしぶとさには感心させられるが、彼らが未だに力を持っているのも事実。 練金構造を支えている中央/地方の官僚システム健在なり、ということですかね。”民活プロジェクト”の象徴として実現した関西空港が未だに自立出来ず、国の援助を当てにした拡張計画を立てている。世界一高い空港使用料のせいで発着便数が伸びない。便数が少ないから利用客数が増えない。 アジアにおける”Hub Airport” を標榜して建設したのに、その後に出来たクアラルンプール・香港新空港・インチョン空港に比べて設備・サービスは格段に悪く、Landing Charge ははるかに高い。 当然の結果として発着便数の少ない ”Local Airport”になり下がってしまった。 ちなみに、関空の敷地面積はシンガポール・クアラルンプール空港の1/10〜1/20なのに、土地代を含めた総投資額はシンガポール・クアラルンプール・香港・インチョン空港の約4〜5倍。これで競争に勝てる訳がない。 関空と同じ「埋め立て地」構想で新中部国際空港を建設しているが、利用客の当てがない分、この空港の将来は関空より暗い。 こういった政・官・財の利権勢力が創り出す壮大な無駄に対してTax Payer としてはそろそろ本気で怒りを表明すべきでしょうね。 どうやって?   こうした面からも、田中康夫氏には是非勝って欲しいものです。

フィールズ

 

フィールズさん、

おっしゃるとおり。

田中元知事がなぜ議会を解散しなかったか熟慮してわかりました。県民が総論では田中の理念に賛同しても県議投票では個別の利害関係から同じ人が当選する可能性が高い。このリスクをさけて、田中は県民に信認されたというお墨付きを得て正面突破しようとしているのでしょう。県民の意識次第です。

政治家にしても官僚にしても民のために働くために一定の権力を付与されているわけですが、民が黙っていれば人間の弱さがでて、私服をこやしたり、それほどワルでなくとも、怠けて思慮のたりない政策を平気で実施してしまいます。これを防止するのは民の監視しかない。説明責任というやつを政治家や官僚に課さなければかれらはかならず腐敗する。長野県の騒動も説明責任を果たさせる意味で有効だったと思います。

政治と官僚の問題は日本だけでなく、人類共通の問題だと最近痛切に感じてます。というのもジョセフ・スティングリッツというノーベル経済学賞を受賞した学者の書いた本「世界を不幸にしたグローバリズムの正体」(徳間書店刊)という本を読んだからです。

この人は世銀のチーフエコノミストを務めた実務経験豊かな人です。この人がIMFと米国財務省の官僚が繰り出す政策がアジアの経済危機、ロシアの自由化失敗、中南米、アフリカの混迷に直接責任があるとはげしく告発している。世銀でのインサイダー情報を駆使し、最新の経済理論を駆使してIMF,米国財務省が信じて実施している経済理論は間違っていると説明する。IMFに従わなかった、マハティールのマレーシア、中国、韓国が好調なのに、IMFに従順だった、メキシコ、ブラジル、アルゼンチン、インドネシア、タイ、旧ソ連邦、アフリカ諸国の経済は破壊さて、貧富の差も大きい。世界の経済を救うためとケインズが提唱して作った世銀とIMFという2つの官僚機構のうち、IMFがなぜおかしくなったかは説明責任をもっていない官僚組織は独善に陥るためだといってます。米国財務省はむろん米国民に説明責任をもつが、この巨大な官僚機構はその米国民への説明責任を果たさず、ウォール街の利益を代表していると告発している。すなわち米国財務省がクローニーキャピタリズムに堕落していると。商務省もダンピング査定を乱発する不公正な公正取引法を引っさげて生産性でおとる国内産業を保護して米国民の利益を損ねていると告発してます。日本企業特に鉄鋼業が未だになやまされているアレです。これを読んでいると米国の財務省、商務省、また国際官僚組織であるIMFがおかしくなって行く様が活写されてます。日本の政治家と官僚と全く同じ。

ところで、この本では当然日本についてはふれていないが、小泉改革は危険ではないか?我々もIMF流のあやまてるというより金融界の利益を代弁する者のレトリックにはまってしまっているのではないかという疑念がフツフツと湧いてきます。

グリーンウッド

 

 

グリーンウッドさん、

前長野県知事が辞職を選択した理由について、小生も同じような見方をしています。つまり、田中前知事は次のように考えた、と推測します。

(1)   自分が県知事に再戦されることには自信がある。不信任案可決後の世論調査で、県民の60%が知事を支持。
(2)   従って、議会解散かもしくは知事辞職かの選択は、選挙後の県政はどちらがやり易いか、という観点からなされねばならない。
(3)  議会解散-議員選挙を通じて自分が正しかったことを証明するためには、自分に賛同する議員の当選が過半数を越すことが必要。つまり、20名以上の現職議員を入れ替えねばならない。 これを実現することは至難だし、そのための組織作りも出来ていない。
(4)  自分が知事に再戦されれば、”知事不信任という県議会の決定”が県民によって否決されたことになり、不信任案に賛成した議員の力を殺ぐ効果がある。

少なくとも、今回の長野県知事選挙戦は全国の注目を集め、非常に活気あるものになるだろうと思います。無党派層は勿論、政治に無関心な人達の何割かは選挙に行くかも知れません。投票率がどの位 up するか興味ありますね。

「世界を不幸にしたグローバリズムの正体」という本は読んでいません。 こういう本や論調に触れる時にいつも疑問に思うことは、”特定の誰かがグロ-バリズムなるものを意図的に世界に押し付けているのだろうか?” ということです。 ASEAN 各国に起きた通貨危機は行過ぎた貿易・金融自由化の結果であり、確かに米政府が強く主張し、IMF・World Bank はこれを支持したことは事実だが、ASEAN各国が予測された危機を楽観して十分な Safety Net を設けなかった為に、結果として被害を大きくしたことも事実。多くの日本の銀行は米政府方針の尻馬に乗って貸し出しを増やし、その大半が不良債権化して回収不能になってしまった。日本の大蔵省も彼らの動きに歯止めを掛けなかた。 IMF・World Bank・欧米市中銀行は Financial Advisor として音頭取ったが、これに沿って踊り狂ったのは日本の銀行、というお粗末さ。 事後に IMF が各国に押し付けた危機混乱の回復策は当時から異論があった。 ご指摘の通り、IMF勧告を拒否して”通貨管理”という非常手段を採用したマレーシアは成功したが、タイ・インドネシア・フィリピンは失敗した。 これはIMF の所為、というよりも、夫々の国の政治・経済の総合力の差、という Factor の方が 大きい。 IMF の間違いは、各国政治・経済事情についての知識が浅く、問題の質および社会背景についての分析が甘く、有効な処方箋を出すことが出来なかったに拘らず、これを認めようとはせず自分達の古典的な手法を押し付けたことにある。この強引さは当然非難されるべき。 中国は当時も今も通貨管理しているし、通貨危機の被害はあまり受けなかった。韓国は IMF勧告に沿って経済回復に努めたので、著者のコメントは当たらない。

ロシア・アルゼンチンについてのコメントはその通り。が、他に適当な方法があったか、という疑問は残る。 IMF・World Bank・ADB が アメリカ経済界の代理人のごとく振舞う、というのは半ば常識化しています。

小生は当時米国の某エンジ企業 の Business Development Manager として、アジア通貨危機によるプロジェクトの中止・延期といったマーケットの混乱の被害を最小にし、経済回復の見通しおよび個々のプロジェクト動向にについての議論を重ねていた。 日本の某エンジ企業 が今も不良債権で苦労している Indonesia の TPPI Project に参加しないように社内で警鐘を鳴らしていた。 かように当時 アジア通貨危機の渦中にいましたので、掲題の本の著者の意見にコメントさせて貰いました。

フィールズ

 

 

フィールズさん、

田中知事の考えに関する考察は私も同じ理解です。

わたしのスティングリッツの本の紹介が舌足らずで誤解を与えたようですが、スティングリッツはいわゆる陰謀史観を採用はしてません。またグローバル化を非難してもいません。IMF批判はアジア通貨危機発生前の役割もさることながら、危機発生後IMFが要求したインフレ防止という不要な名目の緊縮財政によって最悪の事態になったことをはげしく批判しているのです。また法規制の準備が出来ていない発展途上国で金融自由化を強制してはいけないとも言ってます。日本だって金融自由化は最後にやってます。金融自由化を発展途上国に押し付けるいわゆるワシントンコンセンサスは財務省が中心です。IMF、財務省で成功した人例えばロバート・ルービン財務長官はシティーグループの会長に、IMFの副専務理事のスタンリー・フィッシャーは副会長になったように金融界のトップに迎えられるので、自ずと共通の利害が生じやすいということ。日本でもよく聞く話です。あと原さんのアジア通貨危機にかんする見方はスティングリッツと同じです。わたしは笑われるかもしれませんがIMFはその創設のいきさつから無誤謬だと思っていたところあり、この本で目がさめました。

グリーンウッド

July 19, 2002


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