フィールズ氏との往復書簡

日本は勝てる戦争になぜ負けたのか


グリーンウッドさん、

支那事変に始まり太平洋戦争に到る一連の出来事には興味が尽きません。太平洋戦争中の主だった戦闘の背景を含めてその内にじっくり調べてみたいと思っています。

それにしても、安倍みたいなのを総裁に担ぎ上げた自民党の馬鹿さ加減にはあきれ果てました。政治家とはその程度のもの、なんでしょうが、それに振り回される我々は救われませんね。これに関連して、森元首相が昨年、福田康夫に立候補を断念させる為に次のようなことを言った、と伝えられている(直接言ったかどうか疑問)。 ”来年夏の年参院選で負ければ総裁の進退問題になるだろう。さすれば、参院選に勝てるという確信がない限り、今回(2006年)の総裁選には出ない方が良い”。安倍では勝てないだろうがこの勢いでは行き着くところまで行かないと収まるまい、ということを森は当時から見通していた、というものだが、事実だとすれば、森の政治感覚は衰えていない。少し見直しました。

フィールズ

 

 

フィールズさん、

元千代田のMuraさんとかMizuさんがやっているNPOシニアエキスパートフォーラムが2ヶ月に1回開催しているサロンで11月28日に元日本セメントの工場長をやった杉本さんという方が「大東亜戦争の開戦責任」というテーマで大東亜戦争について「アメリカの戦争目的は何であったのか。その目的を達したのか。蒋介石は何故戦争を始めたのかそして何故敗れたか。蔭で笑ったのは誰か」と言う視点に立って大東亜戦争開戦の責任追及についてお話頂く予定ですとあったので申し込みました。

それに刺激をうけて先日フィールズさんと会ったとき駅で買った新野哲也の「日本は勝てる戦争になぜ負けたのか 本当に勝つ見込みのない戦争だったのか?」本を読破して最近こういうものの見方がはやっているのだと気がつきました。早々の降りてしまった安倍さんに危ういものを感じた人々が多いためかもしれません。

ジャーナリストが最近の見方を手際よくまとめて書きなぐった本でしたがそれなりに勉強して書評をかきましたのでご参考に。

グリーンウッド
 

 

 

グリーンウッドさん、

地震時に予想される原発制御棒挿入障害」 興味深く読ませて貰いました。M8以上の直下型地震があればチェルノブイリ事故以上の惨事はあり得るようですね。想像するだけでぞっとするが。新規原発に対しては設計基準の改訂で対処するでしょうが〈甘い?)、既存原発に対してどう対処するかが問題です。制御棒を挿入出来なくなることを想定し、地震時でも有効に働く反応停止システムを開発出来るかどうか。回覧されてくる電力業界新聞では、”柏崎原発での地震対策は有効に働いた” という論調一色。仲良しクラブ内で息巻いている感じだが、御用学者が ”よいしょ” しているのはいつものことながら滑稽至極。こういうのを観ていると、本気で適切な手を早急に打つ気があるのかどうか不安になってくる。

失敗の本質−日本軍の組織論的研究」(中央文庫出版)を読むと上述の件について更に悲観的になる。この本は、防衛大教授陣を中心とするグループがノモンハン事件及び第二次大戦中ターニングポイントになった五つの戦い(ミッドウ ェイ・ガダルカナル・インパール・レイテ・沖縄)における日本軍大敗の原因を分析結果をまとめたものです。これら六つの敗戦に共通するのは、どうやって終局するかを含めた大戦全体のマスタープランを持たず 「天佑神助」・「必勝の念」と言った神がかり的なやり方がまかり通り、一つ一つの負け戦を直視せずその敗因を分析しないままに(従って何も学ばず)突き進んだ為に、戦略・戦術共に改良がなされず負け戦を繰り返した、と著者達は言っている。戦争中の出来事が平時における出来事に当てはまるかどうかについての疑問は残るが、難局に際しての日本人の行動様式は案外同じかも知れない。このことは、同大戦中 米軍は初戦の負け戦から数多くのことを学ぶことにより次々と新たな戦略を打ち出し、これが武器改良と相俟って戦力を増大させた、という点からも言える。指導者が現実を直視せず、まともな意見を圧殺して変な方向に突き進んだ、というのは、そのままかつての千代田に当てはまる(?)

”第二次大戦はアメリカの圧倒的な物量にしてやられた”、と多くの人から教えられてきた。そこで、物量で勝る日本軍がミッドウエイ戦で負けたのは何故か、と長い間疑問に思ってきた。というのが掲題の本を読んだ動機。この本では次のように言っている:

(1) 不明瞭な戦略目的 (ミッドウェイ基地攻略と艦船攻撃が併記され、優先順序が不明。山本長官は艦船攻撃が主目的である、と口頭では指令していたそうだが、南雲司令官に徹底しなかった)、

(2) 情報収集軽視 (偵察機は飛ばしたが、そこからの情報を重視せず自らの信念(勘)に基づいて基地攻撃にきめた。偵察機が空母・艦船団を発見出来ないことから、敵艦隊がどこかに隠れているかも知れないと想像してしかるべきだった(少なくともなぜ基地周辺にいないのか、と疑問を抱くべきだった)、

(3) 不意打ちは日本軍のお家芸だが、不意打ちされた場合に対しての備え・訓練(艦隊陣形の変更・航空機帰艦/発着順序の決定 等)が出来ていなかった。後知恵ながらお粗末な限り。

10月半ばにダス島に居ます。

フィールズ

 

 

フィールズさん、

ウェブをサーチすると”よいしょ” している御用学者の名前がずらっとでてきます。東工大の衣笠善博教授などはその代表で、委員を辞任した反体制学者の石橋氏などがんがん名指しで批判しています。今の各種委員会の学者もいずれそうなるのでしょう。マスコミがだらしなくとも草の根ネットが見張っているという感じですね。 万一事故が発生したとき、こういう人の責任の追及(A級戦犯)が起こると思いますよ。法的には彼らはどう責任を回避するのでしょうね?巨大災害の責任者となる可能性のある原子力委員会の委員は賢い学者なら引き受けないでしょう。

教科書検定委員会の委員なら間違っても立往生するだけですが。

無誤謬の 教科書検定 立往生

日本は業界も官界も政界も学会も全て縦割の組織のなかで自分達の利益の最適化ばかりしています。国全体の利益を見て判断して適切な手を打つという人物がでてこないと安全性に不安のある原発が動き続けるということになるわけです。

太平洋戦争の負け戦もほとんどこれで説明できます。陸軍と海軍がばらばらに予算ブンだくり競争をして、予算ほしさにそれぞれが勝手に戦争をおっぱじめたというあほらしさです。文民統制などといいますが、外務官僚上がりの広田首相は暗殺におびえたように東条などの軍部の言いなりになりましたよね。

東条のとりまきだった瀬島龍三は自らの戦争責任を語ることなく、2007年に大往生しました。その彼が朝日の記者に「国威の進出は満州国までよかった。万里の長城の先へ行ったのが失敗でしたね。軍対政治、陸軍対海軍の対立が絡んで、戦略がなかった。永田鉄山がいれば調整できたかな。日本自身が日本を壊したんです」と語ったことは的を得ていると思います。その永田鉄山は陸軍統制派でした。ただかれは同じ統制派の東条より有能で柔軟性があったのでもしかしたら支那事変を避けえたかもしれないということのようです。しかし陸軍内部も皇道派と統制派に分かれて派閥争いしていて永田は皇道派をおさえる人事をして皇道派に惨殺されてしまいます。そして皇道派にそそのかされた青年将校が二・二六事件を起こすのですが、天皇の意思で制圧されて皇道派は消え去ります。こうして陸軍は秀才型軍人を中心とする統制派の天下となりますが、外交官出身の広田首相は永田鉄山や二・二六事件を見てますから、おびえたように軍部の言いなりになるのですね。こうして統制派のトップとなった東条は歯止めを失って支那事変にのめりこんでゆくわけです。

陸軍はナチとの戦線でいそがしかったロシアを叩くために北進すれば、英・米・ソを分断できて和平にもちこめた可能性は高かった。しかし1939年に辻参謀が指揮に失敗したにも関わらず勝利に近い引き分けであったノモンハンを内密に敗戦として処理し、日ソ中立条約を締結して支那主戦論、南進論に傾いてゆくのです。東条は支那を叩くためにドイツを利用しようと 1940年に日独伊三国軍事同盟を調印します。

しかし日露戦争で英国に助けられ、英国式の教育を受けている海軍の永野修身(おさみ)、米内光政、山本五十六、井上成美ら海軍のエリートはヒトラーと陸軍嫌いです。英国がインド洋経由で蒋介石に軍事物資を送っていたのだから三国軍事同盟を締結した以上、インド洋にでてアラビアで暴れているロンメル将軍指揮のナチス陸軍と共同する軍事行動をとうのが戦略の基本ですよね。しかしそれはしたくない。少なくとも陸軍に協力して南進して戦争に必要なインドネシアの石油を確保するだけで良いのに、なぜかハワイに向かってしまうのですね。もうバラバラ。

戦争は政治の一部ですから政治的にどこに落とし前をつくるかということなしの戦争をはじめるなど本末転倒。血が頭に上ったとしか考えられません。

この体質は今も全く変っていませんね。

ところでI社が赤字転落とは。千代田の時代を思い出します。まともな意見を圧殺して変な方向に突き進んだ、というのは、かつての千代田に当てはまるわけですが、トップが「行け行け」といっているときに反対意見をいうと、トップは「おぬしはやる気がないのだな、では代ってもらおう」ということになるので、「家族もあることだし」と思って言えないわけです。圧殺とは最も隠避な形で迫ってきます。広田首相の気持ちは分かります。この恐怖に打ち勝つ人物などは居ないし、たとえ居たとしても抹殺されるでしょうから、やはり次善の策として民主主義しかないのでしょうね。

グリーンウッド
 

 

 

グリーンウッドさん、

I社の決算赤字は当然の帰結。航空機パーツ生産でかなり利益が出ているらしいが、それでも隠し切れなかったのでしょうここでも日本軍の敗因と同じ現象 (現実を直視せず、改善の為のアクションなし)が見られる。石炭火力発電、セメント工場、LNG輸入基地などの海外プロジェクトの大部分が赤字。海外経験の浅い LNGタンク・基地はともかく、15年以上の海外経験を持つセメント工場も軒並み赤字。大赤字ダッタサウジ・セメント・プロジェクトのプロジェクトマネジャーの反省の弁を聞いたが、客先・主要機器ベンダーに対する非難に終始し、反省点としてプロジェクトマネジャーが挙げたのは彼らに押し切られた自分達のネゴ力の弱さ。これは全く的外れで、反省すべき点は、見積りのやり方・不合理な契約プロセス・発注条件の不備・弱体なプロジェクトマネジメント等々であり、もし数年前にこれら本当の原因を直視し適切な手を打っていればとっくに克服出来た筈のことばかり。

LNG基地プロジェクトの見積り作業に参加した際に、ベンダー引き合い及びサブコントラクターとの契約ネゴについて部長にアドバイスしたが、何ら改善は見られなかった。担当者の低い能力(赤字の直接の要因)並びに指導的立場にある人達の認識が甘いこと(改善されないことの主因)−この状態が何年も続いてきた訳だから、前社長が引責辞任するのは当然。が、彼の辞任で良くなるのか、という点については疑問符が付く。戦後 60年余にもなるというのに進歩しないものですね。

フィールズ

 

 

フィールズさん、

I社のことはうすうす原さんから聞いていたので、新聞記事をある感銘を持って読みました。

それから「失敗の本質」もM氏が良かったというので1985/10/15に買って感銘を受けたものです。これを読んでいたおかげで、会社の幹部候補生特別教育で高得点を得ることが出来て、役員に登用される一助にはなっていると自覚しています。

それほどの本ですのでわが読書録でも第3番目にリストしています。しかいいままでは面倒なのでそっけないことしか書いておりませんでした。原さんに刺激を受け、今日数時間で斜めに読みまとめてみました。

グリーンウッド

October 11, 2007

Rev. October 22, 2007


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