技報 March 1992 時評欄掲載論文

炭酸ガス排出量削減に関する

世界シミュレーション

グリーンウッド

1.はじめに

地球の温暖化は温暖化ガスによるグリーン・ハウス効果であるとの認識が沢山の科学的データの裏付けにより広く受け入れられている。温暖化防止をするためにはグリーン・ハウス効果ガス、なかんずく炭酸ガスの排出量を削減しなければならないという考え方が出てくる。しかしながら、排出された炭酸ガスが海洋を含む地球上でどのような平衡になるかの予測もデータ不足で仮説の域を出ない。

最近、デンマークの気象学者が温暖化はグリーン・ハウス効果によるものより、太陽の輝度変化によるものの方が大きいという説を発表した。1)フリスクリステンセン氏らは太陽黒点の発生頻度のピークからピークへの周期(小周期)が9年から12年の間で変化し、この小周期の経時変化も一定の周期(大周期で80年から90年)を持っているという事実に着目し、小周期の経時変化パターンと地球の平均気温の経時変化パターンがピッタリ一致することを発見したと言うのである。今から100年前の1890年には小周期は12年で、平均気温も最低であった。1990年には小周期は9年で、平均気温は約0.8度上昇している。このデータは著者自身の50有余年の記憶とも良く一致する。少なくとも、過去100年間の温暖化の第一の原因は太陽の輝度変化であるといえるのではないか。もちろん、炭酸ガスの排出量も増加したので、平均気温上昇がより一層加速されたことも事実であろう。もしこの仮説が正しいのなら、そろそろ小周期も長めに回帰しはじめ、平均気温も下がりはじめる頃である。今後の平均気温の動向が注目される。

このように温暖化には複数の原因があって炭酸ガスだけで論ずることは出来ない。ただ後悔のない政策が必要との認識が欧米を中心にでてきて1972年ストックホルムで開催された国連人間環境会議で提案され「持続性のある発展」(Sustainable Development)という概念が提起された。これは世間に注目されることなく忘れられていたが、1987年プルントラント報告でその実施が勧告され先進国サミットや国連で承認されている。

「持続可能な開発」の概念が提出された1972年はローマ・クラブの「成長の限界」が発表された年である。表面に出る前に相互影響のあったことをうかがわせる出来事である。

国連が主催する地球サミット(UNCED)が、今年の6月ブラジルのリオデジャネイロで開催される。「持続性のある発展」のために炭酸ガス排出量を削減するための気候変動枠組み条約の締結、「アジェンダ21」という行動計画、発展途上国への資金援助、技術移転の仕組みを合意しようというわけである。しかし規制値にしても、資金援助や技術移転にしても先進国と発展途上国の間の利害の対立があり、合意は危ぶまれている。先進国の間でもECと米国間で意見の不一致がみられるほどである。

「持続性のある発展」という概念自体、国家間の公平と共に世代間の公平をも目的とする。世代間の公平とは化石燃料消費を節約し次世代に貴重な資源を残すという概念である。

炭酸ガス排出量削減を市場原理下で達成するためには、熱効率向上、省エネルギー、新エネルギー関係などの追加コストの内部化が必要となる。この内部化の方法ととして排出目標設定又は何らかの税が検討されている。これは先進国にとっては可能であるが。発展途上国にとっては、これから経済の発展を促進したいわけで、国家間の公平という観点からは省エネルギーをしてくれというのは先進国の驕慢さといわれてもやむをえないだろう。このような倫理上の問題はしばらく置くとしても、発展途上国の人口増加は貧しさに起因していることに着目する必要がある。先進国で証明されているように、豊かになれば人口は減少傾向になる。2)発展途上国としては早急に国を豊かにして人口抑制をしたいところである。ところが、省エネルギーなどしていたら国を豊かにすることすらおぼつかない。発展途上国の経済成長の阻害を防止するためのOECD諸国のODA(GNPの0.7%から0.35%)は充分ではないし、OECD諸国に現在の生活水準を下げてでも援助額を増額することを理解してもらうことも至難の技である。だいたい、自助努力のない援助資金ほど、経済の自立を妨げるものもない。決して好ましい解決方法ではないだろう。

安価な非化石エネルギーの開発などの技術革新がなければ、発展途上国の経済成長は影響を受けざるをえない。発展途上国の経済成長が制限され、長期にわたり貧しさが解消されない場合、人口増加が継続する。数世紀という長期的視野で見た場合、人口が増えてしまってから豊かになった場合、かえって炭酸ガス放出量が増えるのではないかとも考えられる。先進国に適用される政策は発展途上国にはあてはまらないのではないかと考えた。常識に反したことであるが、どのような条件のときにそのようなことが生じるのか疑問を持った。もしこの直感が正しいのなら、一時的に環境に負荷をかけてでも、発展途上国の経済成長を阻害させず、早期に人口の安定化を計ったほうが、結果として長期的な意味での温暖化は少なくてすむのではないかとも考えた。たまたま担当した化学工学会誌の巻頭言にもそのように述べた。3)

これを裏付ける文献も見つからなかったので、炭酸ガス排出量削減に関する世界モデルを自ら作り、シミュレーションを行ってみた。思考過程と結果をここに発表し、諸氏のご批判を受けたい。

本シミュレーションを行っているとき、地球サミットの国連事務当局が「アジェンダ21」案を発表した。4)これによると先進国から発展途上国への援助は現在の2倍の毎年平均1,274億ドルとなっている。これは表1-1の先進国のGDPの0.6%に相当する金額である。ソ連、東欧、NIESを除く主要先進国当りでは0.76%に達する。先進国の防衛費はGNPの5から6%で、これを削れば不可能ではないが、日本のように防衛費が1%前後の国はその余裕もなく、石油税などは世界に先駆けて徴収中であり、実現は容易ではないと予想される。この数値がどのような意味を持つのか、出来上がったモデルで検証してみたので合わせて報告したい。

 

2.炭酸ガス排出量に関する世界モデル

まえがきにも述べたように、炭酸ガス排出量に関する世界モデルは人口増加モデル、経済成長モデル、炭酸ガス排出モデル、炭酸ガス排出量削減モデルおよびODAモデルが相互に影響しあうように構成する必要がある。ただ国家や機関が政策立案の参考にするためにする複雑な巨大モデルである必要はなく、個人が数日で完成できるモデルでなければならない。そこで産業関連分析などは対象外となる。また産業関連分析は静的なものである。今行おうとしているのは数世紀にわたる動的なシミュレーションである。

世界は多数の国家で構成されているが、国別に取り扱うほど暇はない。世界を単一で平均的な世界として扱うのもあまりに単純化しすぎる。炭酸ガス問題は先進国と発展途上国間の利害が対立するという構図が浮きあがるシステムなので、世界を人口が増加が停止した先進国と、増え続ける発展途上国とに二分してモデル化することにした。初期に平均的単一世界モデルを作ってみたが、シミュレーションの後半は発展途上国の重みが増すため二分モデルと似た挙動を示すことがわかっている。中進国を独立的にあつかう三分モデルも検討したが、本質的でないのでやめた。

さて二分モデルといっても、先進国と発展途上国は同じ歴史的発展経路をたどると仮定した。実際には発展途上国は遅れているが故に先進国の技術的進歩の成果を取り入れ、より効率的に発展するものだが、そのファクターはこのモデルには組み込んではいない。

逆に先進国と発展途上国は世界的に分業関係にあり、全ての発展途上国が先進国がそうであったように農業など資源立国から重化学工業化を経てハイテク工業製品製造工業に進むわけにはいかないという事実にも目をつぶることにした。日本国などはこれをうまくやってしまったため、GNP(Gross National Products)成長率も特異的に高いのであるが、発展途上国は先進国の技術的進歩の成果を取り入れ先進国より効率的に発展するという特性と打ち消し合い、平均すれば過去の先進国の発展経路をたどると仮定して良いと考えた。それぞれの歴史的発展段階は国民一人当りのGDP(Gross Domestic Products)で代表することにした。むろん各国間の平均値で処理する。GNPは世界モデルでは一部重複するためGDPを採用した。

シミュレーション期間は初めは1990年から100年間としたが、変化が緩やかで全ての変化の結果が見られないため200年間に変更した。

 

3.人口モデル

そもそも、私がこのシミュレーションをはじめる動機付けとなったのが1991年8月ブエノスアイレスで開催された世界石油会議でのシェル社会長のL.C.van Wachem氏のスピーチである。氏はそこで先進国の歴史的事実として豊かになれば出生率が低下することを指摘し、発展途上国の経済発展の重要性を述べられた。1991年12月横浜で開催された環境関連国際シンポジウムでインドの代表の方が「産児制限運動をどう進めてもうまくいかないのは社会保証の無い国では生活保証は子供の労働力による」という事実のためであると紹介されたことも印象深い。女性教育うんぬんという説もあるが、農業などのファミリー・ビジネスで生計をたてている人々にとっては子供を作ることは企業がリクルートを行うと同じ経済活動であることを肝に命じなくてはならない。中国のように法律で強制的に制限しても法の裏の世界が出来てしまって、未登記の人口が増えている。理想は良いのだが結果として米国の禁酒法のようなものとなる。やはり経済発展が人口抑制の基本であろう。

1991年12月の朝日新聞の人口問題特集で妊娠回数と個人年収の相関図を見てシミュレーションをしてみようという決心をした次第である。5)この相関図は実際の数値が国毎にプロットされていたが、それを強引に線図にすると図3-1のようになる。一人当りの年間収入(per capita Income)が2,000ドル/年以下では、女性の一生の平均妊娠回数は2回以上で人口増加の要因となる。一人当りの年間収入が6,000ドル/年以上では6,000ドル/年のレベルを維持するものとした。

fig0301.gif (6464 バイト)

一人当りの年間収入がわかれば、一生の平均妊娠回数がわかり、誕生数は下記の式で表記出来る。ここで2は生物学的数である。また妊娠回数は出産回数と同じと仮定した。

 

誕生数= 人口 X 一生の平均妊娠回数/平均寿命/2

 

ここで、一人当りの年間収入は雇用者所得と同じとした。雇用者所得とGDPとの間には下記の関係がある。6)

 

労働分配率=雇用者所得/国民所得

 

国民所得/GNP=(GNP - 資本財の原価償却分 - 間接税 - 利子 - 企業の所得、利潤)/GNP

 

労働分配率は一律70%とした。GDPはほぼGNPと同じであるとし、国民所得/GDP=80%とした。

従って労働収入率=一人当りの年間収入/一人当りのGDP=56%となる。

人口は毎年誕生する人数と死亡する人数の差を積分したものである。死亡数は幼児死亡率を含む平均寿命のデータから下式により計算できる。

 

死亡数=人口/平均寿命

 

平均寿命は1人当りGDPとの相関として図3-2のような関係を仮定した。平均寿命は最低50才から収入とともに増加し、80才に達したらそれ以上増加しないとした。

人口モデルは先進国、発展途上国の区別なく、一人当りGDPにより同じ挙動をするとしている。

人口は200億人位までは技術の進歩で解決できるとし、人口モデルには上限を設けないことにした。

 

4.経済成長モデル

GDP成長はGDP成長率を使った複利計算と同じ複合計算でシミュレートする。GDP成長率は人口増加によるものと、人口に独立な自然増加率を考慮し下記の式を採用した。

 

GDP成長率=自然増加率+人口増加率 X 人口ファクタ

 

人口増加率は人口の微分値を採用する。労働収入率が56%で炭酸ガスの削減をしないとき、世界人口のピークが国連による2050年の人口予測の100億人になるように自然増加率を3.3%/年、人口ファクタを1.0と設定した。7)この式によるGDP成長率は表1-1および表4-1の実際の値とも良く一致している。自然増加率は人口以外の経済発展に寄与する部分、すなわち開発のための投資という意味をもっている。従って先進国のように人口増加が止った、あるいは減少気味の国でも自然増加率から人口減少率だけ減じた経済成長は続くという意味を含んでいる。

 

5.炭酸ガス排出モデル

年間の炭酸ガス排出量は排出量増加率を使った複合計算でシミュレートする。排出量増加率はGDP成長率とエネルギーのGDP弾性率との積である。日本の一次エネルギーのGNP弾性率の1885年から1990年の長期にわたる移動平均が2から0.2である。8)古い技術時代も含む長期間のデータでこのまま発展途上国にも適用できると仮定すると約100年で化石燃料の究極埋蔵量まで消費しつくすということになり、おかしい。

1980年代のアジア地域の発展途上国の弾性値は0.5から1.8で平均1.0である。9)これから図5-1のような現時点における弾性値を1.0とするエネルギーのGDP弾性率と一人当りGDPの相関図を作成した。

fig0501.gif (6071 バイト)

この図の意味することは経済の成長とともに、エネルギー依存度が減少するということである。また技術の進歩も含んでいる。例えば、省エネ技術など従来の技術発展の延長線上の連続的技術発展は歴史的弾性値に組み込まれている。しかし、炭酸ガス固定、炭素埋葬などの新技術、将来の化石燃料以外の新エネルギー開発成功などの技術の不連続なブレークスルーの可能性を考慮していない。当然そのようなブレークスルーの可能性はまだあると信じて良いし、これなくして人類の将来はないだろう。

石油、天然ガス、石炭などの化石燃料の炭素換算の可採埋蔵量は約2兆トン、究極埋蔵量は約11兆トンといわれている。これにオイルサンド、オイルシェールの原始埋蔵量1兆トンを加えても12兆トンである。累積炭素量が化石燃料の埋蔵量の天井に達すれば、化石燃料のコストが上昇し、非化石燃料への転換も自然に生じるので、想定した化石燃料のGDP弾性値より低い値になると考えられる。しかし、現時点における弾性値を1.0とするシュミレーションでは炭素排出量は200年間に確認可採埋蔵量を越える程度であり、究極埋蔵量を越えることはなく、確認可採埋蔵量は今後も増加する可能性があるため、炭酸ガス排出モデルには化石燃料の埋蔵量の天井は組み込まないこととした。

 

6.炭酸ガス排出量削減モデル

炭酸ガス排出量削減コストの内部化として例えば炭素税が提案されている。米国で行われた炭素税の効果に関する試算によれば、仮に炭素1トン当り135ドルの炭素税を実施すれば、2000年時点で排出量を約10%削減できるとしている。同時に米国経済にも大きな影響が出て、2000年時点でGNPは1.2%押し下げられるとしている。10)経済成長へ与える排出量削減の弾力性を仮に経済成長の削減弾性値と定義すれば、米国の試算による経済成長の削減弾性値は0.12となる。オイルショック後の経験からすれば経済成長に与える影響を過小評価しているのではないかとも思える。米国議会予算局による別の試算によれば、炭酸ガス排出量を2000年で1988年水準で安定化させるためには、課税により、毎年炭素トン当り10ドルづつ価格上昇させ、2000年に炭素当り100ドルの課税が必要としている。これにより石炭は2.5倍、石油・天然ガスは1.5倍となり、GNPは2%/年低下するとしている。経済成長率を2%/年とすれば、経済成長の削減弾性値は1.0となる。産業構造審議会地球環境部会基本問題小委員会のまとめた試算によれば、日本が2000年におおむね1990年レベルで安定化するためには、炭素トン当り30ドルから40ドルの増税が必要としている。その結果、石油価格は1.5から2.5倍となり、GNPは0.4%/年から2%/年低下すると予測している。この期間の経済成長率を4%/年とすれば、経済成長の削減弾性値は0.1から0.5となる。このように経済成長の削減弾性値は推算する機関により一桁もの違いがありどれが正しいかわからない。

またこれは先進国の値であり、発展途上国の値は不明である。一人当りGDPが少ない時は経済成長の削減弾性値は大きくなるはずである。やむを得ないため、米国や日本の試算値を固定点としてシナリオ1から3を設定し、感度分析を行うこととした。図6-1はこのようにして作成された各シナリオの経済成長の削減弾性値と一人当りGDPの相関図である。

fig0601.gif (9204 バイト)

シナリオの定義は下記の通り。

 

シナリオー0:炭酸ガス排出量削減対策を行わない

シナリオー1:削減率は1%/年、経済成長の削減弾性値は1.4から0.8

シナリオー2:削減率は1%/年、経済成長の削減弾性値は0.7から0.4

シナリオー3:削減率は1%/年、経済成長の削減弾性値は0.2から0.1

 

ここで、シナリオー1は米国議会予算局の見方を代表し、シナリオー2と3は日本の産業構造審議会の見方を代表している。

炭酸ガス排出量削減対策を含む排出量増加率は下記の式で表現される。

 

排出量増加率=GDP成長率 X エネルギーのGDP弾性率 - 排出量の削減率

 

7.先進国資金援助モデル

先進国の発展途上国への資金援助がある場合のモデルは先進国のGDPからGDPの0.6%/年を減じ、発展途上国のGDPに上乗せするというモデルとした。援助金の一部は先進国に還流し、必ずしも100%が有効とはならないが、ここでは100%有効と仮定した。

経済成長の削減弾力性とODAを加味した先進国のGDPの減少は下記の式で表現した。

 

先進国のGDPの減少=先進国のGDP X 排出量の削減率 X 経済成長の削減弾性率 - ODA

 

同じく、発展途上国のGDPの増加は下記の式で表現できる。

 

発展途上国のGDPの増加=発展途上国のGDP X GDP成長率 + ODA

 

8.全体モデル構成

人口増加は豊かさに支配され、豊かさは経済成長と人口とにより決まる。また経済成長は人口増加率と炭酸ガス排出量削減政策の影響を受ける。炭酸ガス排出量は経済成長率と豊かさと炭酸ガス排出量削減政策の影響を受ける。本世界モデルはこのような複雑なリサイクル系を記述しなければならない。

ローマ・クラブが世界シミュレーションを行った時代はこの因果関係をチャートにし、これに基づきプログラマがプログラミングをおこない、メーンフレームで計算をおこなった。筆者はローマ・クラブが使ったといわれるストックとフローで微分方程式を記述する方式をパソコン上で実現した市販ソフトを使った。11)チャートを完成させれば、連立微分方程式は自動生成できる。計算結果の作図も自動化されている。200年分のシュミレーション計算もマッキントッシSE/30で約1分である。昔にくらべて便利になったものである。

 

9.モデルの初期値

さてシミュレーションには初期値が必要である。初期値としては1990年の値をとることにした。世界の人口、GDPは世銀、IMF等の資料より作成した。12)

人口増加が停止する環境としての個人収入が2,000ドル/年以上(1人当りGDPが約4000ドル/年以上)の先進国群はOECD諸国、ソ連、東欧等かっての計画経済国家とNIESが該当する。この先進国群の人口とGDPは表1-1の通りである。

表1-1先進国の人口、GDP、GDP成長率および1人当りGDP

地域名

人口

GDP

GDP成長率(%/y)

1人当りGDP

 

(億人)

(兆ドル/年)

1990 1991

(ドル/人)

米国

3.59

6.18

1.0

- 0.3

17,200

EC

3.77

7.00

2.8

1.4

18,600

日本

1.24

2.94

 5.6

4.5

23,700

ソ連、東欧

3.84

3.20

- 3.6

- 10.0

8,330

大洋州

0.21

0.34

-

16,200

NIES

0.72

0.50

6.7

6.3

6,940

先進国合計

13.37

20.16

-

15,000

人口が増え続ける環境として個人収入が2,000ドル/年以下の発展途上国の人口とGDPは表4-1の通りである。一人当りの平均GDPは770ドル/年である。

      表4-1発展途上国の人口、GDP、GDP成長率および1人当りGDP

地域名

人口

GDP

GDP成長率(%/y)

1人当りGDP

  (億人) (兆ドル/年)

1990

1991

(ドル/人)

中国

11.43

0.39

5.2

4.5

341

南アジア

10.64

0.36

4.6

4.4

338

ASEAN

3.17

0.29

7.7

6.3

915

中東

1.82

0.58

0.7

- 4.0

3,190

中南米

3.47

0.82

- 0.3

1.2

2,360

アフリカ

6.29

0.38

-

604

発展途上国合計

36.82

2.82

-

-

770

化石燃料消費量は表9-1と表9-2の通り一人当りエネルギー消費量(石油換算)から推算した。13)炭素換算は石油の85%の重量とした。累積炭素はシュミレーション開始時点でゼロとした。

       表9-1先進国の人口、一人当りエネルギー消費、年間消費量

地域名

人口

(億人)

一人当りエネルギー消費量

(OE トン/人)

年間消費量

(億トン/年)

米国

3.59

7.1

25.5

EC

3.77

6.9

26.0

日本

1.24

5.8

7.2

ソ連、東欧

3.84

3.0

11.5

大洋州

0.21

6.0

1.3

NIES

0.72

3.5

2.5

先進国合計

13.37

5.53

74.0

 

       表9-2発展途上国の人口、一人当りエネルギー消費、年間消費量

地域名

人口

(億人)

一人当りエネルギー消費量

(OE トン/人)

年間消費量

(億トン/年)

中国

11.43

0.7

8.0

南アジア

10.64

0.16

1.7

ASEAN

3.17

0.33

1.0

中東

1.82

2.0

3.6

中南米

3.47

1.1

3.8

アフリカ

6.29

0.14

0.9

発展途上国合計

36.82

0.52

19.0

 

10.シミュレーション結果

シミュレーション結果は図10-1の通りである。

何の対策もしないシナリオー0の場合、人口は約100億人でおさまるが、排出量は伸び率に鈍化のきざしが見えつつも際限無く増加し続け、80年で確認可採埋蔵量を使い尽くすという結果が出た。200年後には究極埋蔵量に近い約8兆トンに達する。現時点の消費量で数百年の確認可採埋蔵量があったはずであるが、増加する消費量により、このような結果が出たものと考えられる。炭酸ガスによる温暖化よりもこちらのほうが重大な問題としてクローズアップされる。「持続的開発」の概念がでてきた背景となっていると考えられる。

fig1001.gif (10954 バイト)

シナリオー1の場合は発展途上国の経済成長の削減弾性値が大きく、削減策は特に発展途上国の経済成長に悪い影響を与え、人口は増加し、かえって逆効果であることがわかる。直感で危惧した事態はこのような条件で生じることがわかる。経済の状態は何もしないシナリオー0に比べ、数分の一という惨めさである。世界総人口のピークは180億人に達する。炭酸ガス排出量も110年後からは何もしないシナリオー0よりかえって増加する事態となる。炭酸ガス排出量はようやく150年後にピークに達し下がり始めるという事態である。200年後の累積炭素量はシナリオー0と同じ約8兆トンである。米国は少なくともこのように見ているらしい。米国が環境サミットに消極的な理由の一つであろう。

日本の見方を代表するシナリオー2から3になると、経済成長の削減弾性値が小さいため、排出量削減対策は有効となる。経済状態もシナリオー0に近づき、人口も110から140億人に押さえることができ、排出量がピークに達する時期も100から130年と早くなる。しかしシナリオー3でも、125年で確認可採埋蔵量を使い尽くすという結果である。依然として資源枯渇のほうが次世代にとって地球温暖化よりも深刻な問題として残る。有限の資源を次世代に残すという「持続性のある開発」という理念の重要性を地球温暖化とは別の面から再確認した結果となった。

参考までに各シナリオに対応する先進国および発展途上国の炭酸ガス排出量を図10-2に示した。何も対策をしないシナリオー0では先進国でも排出量の増加がみられるが、対策を行うシナリオでは始めの10年間は横這いでその後、漸減する。したがって、炭酸ガス排出量増加に寄与するのはほとんど発展途上国といってよい。発展途上国の排出総量が先進国のそれを凌駕する時期は約30年後である。

fig1002.gif (7277 バイト)

資金援助の効果は図10-3に示した。シナリオー1のケースのとき、表1-1の先進国平均0.6%のODAをするケースの結果をシナリオー0と1と対比して表示してある。意外なことに、ODAの効果は絶大で、経済成長の削減弾性値が大きいシナリオー1のようなケースでも人口増加はピークで80億人に止り、排出量も80年でピークを越える。累積炭素量も200年でようやく確認可採埋蔵量に達するという結果となった。国連の事務当局がなぜこの数値をだしたのかようやく理解出来た次第である。

fig1003.gif (9792 バイト)

11. 結論

コストの内部経済化だけで炭酸ガス排出削減を行おうとすれば、発展途上国の人口爆発は続行し、排出削減が達成されないとともに有限な資源を使い尽してしまうことが明らかとなった。これを防止するにはコストの内部化に加え、発展途上国への資金援助が必要である。資金援助は二国間のODA、各国の制度金融、世界銀行、NGOの支援、そして環境サミットで検討されている国連の新しい機関経由の支援などいろいろルートが考えられるが、やはり先進国から発展途上国への純粋のビジネス・ベースの投資が自由貿易、自由な資金の移動という歴史が証明してきた事実からして中心となるべきものであろう。

当社のビジネスは第一に石油に関連しているがゆえに熱効率向上、省エネルギー、燃料転換、新エネルギー開発で最も貢献できる立場にいる。この一層の促進のために、その追加コストの内部経済化がいずれ実現するであろうから、技術面でおおいに活躍のチャンスがある。当社の活躍は地球環境のために良いばかりでなく、次世代に貴重な資源を温存するという「持続性のある開発」のもう一つの目的にも貢献することになる。

次に、当社のビジネスの過半数を占める海外向けプラント輸出はその技術移転とともに、発展途上国を豊かにし、人々の自立を促進し、女性の地位向上に役立ち、抑圧された人々を開放し、究極的には人口増加に歯止めをかけ、環境問題解決策の王道であると思える。海外プラント建設は使命感に燃えて取り組んで良いものであるとの確信が得られた。以上2点がこのシミュレーションの最大の成果である。

当社を越えた視点からは新エネルギー開発には長期的展望にたった教育、基礎研究への投資の必要性を強く認識した次第である。

 

参考文献

1)Science and Technology, Global Warming "The Economist" November,30th 1991 86page

2)Challenges and opportunities for the petroleum industry L.C.van Wachem 第14回世界石油会議

3)化学工学、1992年2月

4)朝日新聞1992年2月14日

5)収入と妊娠回数の相関図、人口問題特集、朝日新聞1991年12月

6)労働配分率、日本経済新聞、1992年2月2日

7)国連IPPC第三作業部会報告

8)大川一司他「長期経済統計」東洋経済新報社

9)アジア開発銀行資料

10)地球環境問題と国際的な対応の動向II、ー地球温暖化問題を中心にしてー(財)日本エネルギー研究所1991年11月25日

11)High Performance System社のダイナミック・シミュレーション・ソフト「i Think」

12)新年特集、朝日新聞1992年1月6日

13)T. Kanoh, Effective Utilization of Energy and Electrification in the Pacific Region, Parallel Session 3-3, The Second Symposium on Pacific Energy Cooporation March 1987

 

付録

以上が千代田技報に掲載した論文であるが、モデル全方程式を付録としてここに添付する。

上記方程式を自動生成させるためのモデルはHigh Performance Systems社が開発したiThink(Stella)の書式で表示したものを添付する。

logic.gif (26620 バイト)


トップページへ