技報 January 1991号別冊 環境 途中下車欄原稿

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ガイア仮説

グリーンウッド

地球環境問題を総合的に論じた、ガイア仮説なるものが英国のジェームズ・ラブロックによって提唱されている。”ガイアの科学ー地球生命圏”とその続編”ガイアの時代”

ジェームズ・ラブロックはガスクロマトグラフの専門家で、NASAで火星探査機による火星での生物の有無を証明するための火星大気分析装置の開発を担当していた時、この構想を得たという。NASA退職後、ガスクロマトグラフのセンサーの特許収入をベースに英国の田園地方に引退し、地球環境問題の研究と著作活動をしている人である。

ガイア仮説は、地球の環境が生命にとって好ましい状態に持続されているのは、地球上の多数の生命がその住環境を好ましく保持できるように共進化してきた結果、大気圏、水圏、地圏などの無生物システムを包含する地球生命体とも呼べるものになっているためであるという説である。NHKの地球特集にも影響を与えたとおもわれる仮説である。しかし、この説は必ずしも学会で認知されたものではない。

小説家のウイリアム・ゴールディングがこの生命体に、ギリシア神話に登場する大地の女神ガイア(またの名をゲーとも言い、ジオロジーの語源)と命名したのでガイア仮説といわれるようにになった。このガイアは独自のホメオスタシーをもっているので、地球上の生命のほんの一翼をになう人間が多少のことをしても、困るのは人間だけで、生命ある地球はもっとタフである、というガイヤ中心の皮肉な見方をしている。

この見地が誤解されて産業界はこの仮説を良く引合に出すが、ラブロックがほんとうに言いたかったのは、ガイアからみれば、人間の存在はちっぽけなもので人間は自分を守るには自分で努力しなければならないということだと思う。

さてこのガイア仮説をパソコンのシミュレーション・モデルとしたものが米国で開発され市販されている。もちろんパソコン上でダイナミック・モデルを解くわけだからモデルはかなり単純化されている。それでも大気圏では太陽輻射、雲の発生率、雲や地表のアルベド、温室効果、大気圏ー水圏間の伝熱などがモデルに組み込まれている。地圏では地軸の傾斜、大陸移動速度、地熱、火山活動、隕石などがモデル化されている。生命圏では炭酸ガス固定速度、進化速度、増殖速度、紫外線感受性などがモデルとなっている。これらモデルのパラメーターを変えて炭酸ガス濃度、気温などの変化をグラフ上で見ることができる。

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本来カラー表示であるが、Mac OS7.6では当該オリジナルソフトが使えないので、かってMacSE30モノクロ・スクリーンイメージで保存しておいた画面を紹介する。

エネルギーの選択を変えることで温室効果がどうかわるかがよくわかる。タイム・スケールを長くすると、大陸が地球儀の上を移動して行く様がみえる。原核生物にはじまる生命の進化の過程でクジラが海の中に躍動するようになるのを見るのは喜びである。エネルギーのアロケーションに失敗し、地球上の高等生物を全滅させた夜などは平静な心で眠りにつくことは出来ない。なかなかリアルなシュミレーターである。

さらにこのシミュレーターにはジェームズ・ラブロックがガイア仮説を証明するために開発したヒナギクだけで構成されているデージー・ワールド・モデルが付録として添付されている。ヒナギクの種が多くなるほど、ネガティブ・フィードバックが錯綜し、ガイアの安定性が増すということがこのモデルをいじくっているうちに会得できる。

環境にかかわる人の感性を刺激するにはうってつけのソフトウエア・トイといえる。炭酸ガス問題はこのようなパソコンモデルではなく、スーパーコンピュータ上に詳細な地球モデルが構築されたときにはじめて冷静に論議されるようになるだろう。現時点においてはこのようなものが欠落しているために、大衆のエモーション主導の政治的問題化している。日本はこのようなサイエンスの世界でもっと世界に貢献することが今最もなすべきことではないだろうか。

January 1991


1991年に技報告に「スーパーコンピュータ上に詳細な地球モデルが構築されたときにはじめて冷静に論議されるようになるだろう」と書いたが、2004年についに400億円かけた世界最高速の地球シミュレータが完成した。今後の活躍を期待するものである。

2005年3月広島市在住の中国地域エネルギーフォーラムの方からこのシミュレーターの名前と販売元を知りたいとの問い合わせがとどいた。 手持ちの私のマッキントッシュのOSでは動かないので名前も思い出せない。苦労して調べたところ;

開発者:”シムシティー”(SimCity)というゲームソフトを書いたウィル・ライト(Will Wright)という人がジェームズ・ラブロックのガイア仮説を面白いと思い、ラブロック教授と専門家の人にも協力してもらって書いたもの。

ソフト名:”シムアース”(SimEarth)


販売元:日本向けに日本語化され、ハドソンからPCエンジン向けと任天堂のスーパーファミコン向けのソフトが市販されている。

米国ではあまりに専門的過ぎて一般のゲームマニアには面白くなかったと見えてMaxis社は販売中止。ただしWindows3.1用のソフト(915kb)が公的機関から無料でダウンロードできる。

http://www.the-underdogs.org/game.php?name=SimEarth

SimEarthの表示画面
 

Rev. March 11, 2005


80才を越えたジェームズ・ラブロック氏の本「ガイアの復讐」が2006年に発行された。

Rev. February 4, 2007


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